2004/09/07 23:50 |
■優れたゲームが流行らないのはなぜ? ユーザーの"依存性"に注目
オンラインゲーム関連の講義が多く見受けられた今回のCEDECだが,オンラインゲームの事情に詳しいソウル中央大学(韓国)経営学科助教授の魏 晶玄(ウィ・ジョヒン)氏も招かれ,本日(2004年9月7日),氏による「日韓中のオンラインゲームユーザーの特性比較・分析」という講義が行われた。講義は,各国のユーザーの動向を比較したグラフを交えながら,その数値に対するウィ氏の分析が披露されるという,非常に分かりやすい内容。具体的な"数値"をベースにしながら,ゲームに対する理解の深い氏ならではとも言える,ユーザーの視点と企業戦略の視点,双方からの考察を聞くことができた。
ウィ氏はまず,国や地域ごとにユーザーの趣向が明確に異なる傾向があることを説明。例えば同じ中国でも,娯楽と平均収入が少ない北方地域にはヘビーユーザーが多いなど,マクロな視点での分析を披露し,オンラインゲーム市場参入時には,各国の市場毎に異なったゲーム開発,マーケティングが必要だと解説した。 ただゲームには,そのゲーム独特の「コアな面白さ」があることも重要だとして,すべての要素に変更を加える必要はなく,事前のマーケット分析によって,各国で共通するユーザー属性と,逆にそれぞれで異なる属性の見極めが必要であるとした。
またウィ氏は,現在のオンラインゲームは人気シリーズの寡占化が進行しており,それが企業にとっては大きな参入障壁になっていることを報告し,この現象をある種の「依存」だとする見解も発表した。ウィ氏は,中国で大人気となっている「ミルの伝説」の話を例に挙げ,例え良い方向への変更であっても,ユーザーは"以前と違うこと自体"に拒否反応を示す傾向があることを説明。なんでも最新作となる「ミルの伝説3」では,インタフェースの改良を行ったときに,ユーザーの「なんで前作と違うのか?」という猛烈な反対にあったのだという。要するに,客観的にはどう見ても「改善」といえる変更だったのに,それを遊んでいるユーザーにとっては使い慣れたインタフェースこそが最善であった,という話だ。 ウィ氏によれば,これはゲーム性などにも言える部分で,欧米や日本の先進的かつ作り込まれたゲームが流行らないのもここに大きな原因があるのではないか? とのこと。つまりは,自分達が遊んでいるゲームと違うものは,なかなか受け付けられないということだ。なるほど確かに,このあたりには大きな因果関係が存在しそうな雰囲気である。
■新しいスタイルのオンラインゲームが模索されている韓国事情
続いてウィ氏は,オンラインゲームの正否の要ともいえるコミュニティについての分析を披露した。ウィ氏は,日韓の「リネージュ」ユーザーを対象にしたアンケート結果を持ち出し,その結果,日本のユーザーの方がコミュニティ指向が高い傾向があることを報告した。 氏の分析によると,この結果は「日本では,手軽にゲームを楽しみたいビデオ(シングル)ゲームユーザーと,オンラインゲームを楽しみたいユーザーの切り分けが出来ているため」だという。かみ砕いて説明すると,日本の場合,手軽にゲームを遊びたい人(シングル指向)はそのままコンシューマーゲームを遊ぶだろうから,結果的に,現在の日本のオンラインゲーム市場には「オンラインゲームを遊びたい人だけが集まっている」というわけだ。これはもっともな話で,続く解説によると「韓国のオンラインゲーム市場には,"本来はシングル指向であったユーザー"も,ほかに選択肢がない故にオンラインゲームを遊んでいる側面がある」とのことであった。 ウィ氏は,「リネージュ2」が本来はパーティプレイ前提のシステムにしようとしたところ,ユーザーの反発にあってシングルプレイが可能なバランスに戻した経緯などを説明しながら,各国のユーザーの趣向の違いを改めて強調。例えばアイテム一つにしても,中国や韓国ではレベルアップに役立つものが好まれ(実用性重視),日本では実用性がなくても友達に自慢できるようなアイテムが好まれるなど,マーケティング分析と開発の有機的な連携は欠かせない要素だと説明した。 講義の最後には,現在の韓国ゲーム市場の動向に関する話題を取り挙げ,韓国市場のトレンドとして,新しいジャンルのオンラインゲームが多数登場し,その中のいくつかのタイトルが大きな反響を呼んでいると報告。ユーザーが既存スタイルのMMORPGに飽き始めている傾向が見られ,韓国市場も次なる大きな変化を迎えようとしてる局面であるとしながら,講義は終了した。
さて最後に,ちょっとだけ筆者の補足を入れておきたい。というのも,昨今韓国のオンラインゲーム市場で新規性の高いゲームが多数登場してきているのは確かな事実である。ただそれは,同時に新しいビジネスモデルの模索も兼ね備えた取り組みだということを見逃してはならないだろう。とどのつまり,一部のメーカー以外は既存のビジネスモデル(ゲームスタイル)で行き詰まり,暗中模索しているのが今の状況だといえるのだ。 現在,韓国のゲーム市場がウィ氏の言う「大きな変化」の前触れ段階にあるのは間違いない。しかし同時に,これが「韓国ゲーム産業の一つの正念場」なのではないか,という雰囲気も感じるところなのである。何にしても,今後の動向が気になるところだ。(TAITAI)
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