2004/09/08 19:33 |
■政府の規制と不景気がPCオンラインゲーム大国を作った
CEDEC 2004二日め(2004年9月7日)の最後に行われた「韓国人気オンラインゲームクリエータ達のゲーム設計思想研究報告」は,クリエイターへのインタビューを基礎としつつ,ヒット作を生み出すのに必要な考え方を整理しようというもの。講演者は本サイトでもおなじみのKim Dong Wookだ。
講演の説き起こしは韓国ゲーム界の歴史から。1980年代末に日本製ゲームのコピーが出回ったのに続き,1990年代初頭には韓国オリジナルの作品が現れると同時に,メガドライブを始めとする日本製コンシューマゲーム機がヒットする。だが,ここで立ちはだかるのが当時の韓国政府による規制で,コンシューマタイトルのビジネスに見切りをつけたゲームクリエイター達はPCゲームの開発に向かう。
だが,この時期PCゲームの市場頒布を担ったのはゲーム雑誌であり,6大雑誌による熾烈な生存競争の結果,多くのPCゲームが雑誌の付録として世に出る特異な流通形態が定着する。パッケージソフトへの執着が弱い韓国市場には,こうした前史があるらしい。
さて,韓国そのものを揺さぶった1997年のIMF通貨危機と,それに続く深刻な不況はゲーム業界にも影を落とさずにはいなかった。職を失った多くの人が目をつけることにより,PC BANG(PC房。いわゆるインターネットカフェ)が隆盛を迎え,PCゲームビジネスの重要な舞台となっていく。2004年6月時点でPC BANGの総数は約2万1000店,PCゲームのトレンドはここで育まれる。 講演者はPC BANGを舞台としたPCゲームの流行を,三つの時期に分けて捉える。1997年から1999年までの第1期は「COMMMAND&CONQER」「Age of Empires」「Starcraft」などRTSの時代だ。2000年から2002年までの第2期,「Lineage」に代表されるMMORPGの流行を経て,以降はボードゲームなど多様なジャンルをカバーし,国民的な遊戯スペースへと脱皮していく。 例えば韓国では花札をアレンジした遊戯"Go Stop"が普及しているが,これがオンラインゲームとして提供されることで,20〜60代と広い年齢層がPC BANGに集まるようになった。また,プロゲーマーによるStarcraftの対戦競技"E-Sports"も,幅広いファンを集めている。
■集団心理と戦闘志向が強い韓国ゲーマー像
では,そのような歴史を持つ韓国のゲーマーとは,どういった人達なのか? Kim Dong Wookのプロファイリングによれば"こだわり"が強いと総括できる韓国ゲーマーの特徴は以下のとおりだ。
●PK(Player Killing)が社会問題化するほど戦闘好き ●ゲーム内でどこまでも自分の強さや派手さを追及する権力志向 ●熱しやすく冷めやすい群集心理 ●アイテムに執着しプレイ時間の対価を強く求める ●無料プレイ好き ●マナーが悪い
これらの特徴はさまざまな軋轢を引き起こしつつも,オンラインゲーム発展のエネルギーになってきた。講演者はときにユーモアを交えつつ,豊富なエピソードとともに解説していく。いわく,暴力団員がPKに対する仕返しとして相手を襲う事件すら起きたが,PK熱への着目が大規模PvPである"攻城戦"を生んだ。誰かがWeb上であるゲームの悪口をいうと,プレイしてもいない人まで同調する群集心理は困ったものだが,例えば"学校別ランキング"の盛り上がりは群集心理と表裏一体である,という風に。 面白いのは韓国における"レーティング"の考え方で,むしろマナーの低いプレイヤーが多い低年齢層を遠ざける意味で,12歳以上,15歳以上,18歳以上といった枠組みに注目が集まっているそうだ。また,ゲームアイテム/キャラクターなどをお金で売買するRMT(Real Money Trade)の市場規模は,オンラインゲームの全市場規模7000億ウォン(700億円)を上回るという。
こうした,独特のプレイヤー集団を擁する韓国市場では,他国でヒットしたゲームタイトルに対する反応も自ずから違ったものになる。例えば「Ultima Online」や「EverQuest」の不振はパッケージ販売になじみが薄いことが原因だったし,「Dark Age of Camelot」「Asheron's Call2」「Shadowbane」は,緊密なチームプレイが受け入れられなかったために成功しなかったと分析する。一方,アクション戦闘とアイテムの追加購入がウリの日本製ゲーム「ゲットアンプド」は,小学生の口コミを発火点にして,むしろ韓国で大きくヒットしたという。
■韓国クリエイターの制作アプローチは?
以上のような特性を持つ韓国市場に,トップクリエイター達はどのような方針で臨んでいるのか。数々のインタビューをとおして明らかになった思考方法が,この講演の結論部分となる。
まず作品のアイデア段階,基本設計にあたってクリアすべき関門は,
●従来作品と異なる分かりやすい特徴で人目を引く ●新しいトレンドを創出する革新的なシステム ●適切なターゲット設定とモチベーション維持による収益極大化
の3点であるらしい。新しいが複雑,分かりやすいが長期間プレイしてもらえない,といった作品ではダメなのだ。
そして具体的な企画を考えるにあたっては,
●愛情を注ぐ対象としてのキャラクター ●プレイの時間,努力,費用に対する確実な見返り ●没入し中毒になれるストーリー
を作り上げることが大きな目標になる。レベルの低いプレイヤーでもプレイ方法次第でハイプレイヤーを倒せるといった"実力"要素も含めて,いずれもプレイヤーの執着心に訴えかける手法だ。例えば明確なシナリオが作れないオンラインゲームであっても,背景世界やストーリーが作り込まれることでプレイヤーの思い入れは違ってくる。そして,プレイヤーに常に新たな目標を提示し続けることが重要だという。
こうして回りだしたゲーム世界を,全プレイヤーで構成される"コミュニティ"が維持し,自ら発展させていくのが理想の展開だ。インスタントメッセンジャーやblogツールといったコミュニケーション手段の提供や,口コミ"ネットワーク"の活用も重要な手段であるらしい。
結論までの理路整然とした展開もさることながら,「LineageもRagnarok Onlineも漫画が先にあった。韓国のクリエイターは"ドラゴンボール"や"スラムダンク"のゲームを作りたがっている」「RMTはPC BANGの裏稼業でもある」「オンラインゲーム会社には鉄の扉と警備員が必須」といった,脇道的なエピソードや韓国ゲーム界の豆知識が楽しい講演であった。(Guevarista)
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