[TGS2004#52]同社の事業展開プランが聞けた,NCsoftのCEO T.J.Kim氏インタビュー
2004/09/26 08:41
 毎年,E3や東京ゲームショウには必ず姿を見せる NCsoftのCEO Kim Tack Jin氏(以下,Kim氏)。今年の東京ゲームショウ2004にもきっちりと訪日し,初日の9月24日に行われたプレスカンファレンスで,日本でまもなく実装される「リネージュ II クロニクル2 Age of Splendor」の紹介をしていた。そのカンファレンスの前に,インタビューの時間を割いてもらうことができたので掲載しよう。
 NCsoftエヌ・シー・ジャパンのブースでは,ムービー出展のみだが,City of HeroesGuild WarsAlter Lifeの3タイトルが用意されていて,それらは既存のNCのオンラインゲームとは異なるオーラを発している。機会があるごとにインタビューを行っており,毎年3回くらい会ってるんじゃないかという気もするのだが,今回はこのあたりを中心にした質問を投げかけてみた。

4Gamer.net(以下,4G):
 本日はよろしくお願いいたします。

Kim Tack Jin氏:(以下,Kim氏)
 いつもながら,こちらこそよろしく。

4G:
 さて,今回は大々的にブース内でMMORPGタイトルを出展されていますけど,TGS全体でもMMORPGタイトル数は多くなっているようです。しかしながら,日本のMMORPG市場は,まだ発展途上にあるといえますよね。それを広げるには,何が必要でどのような戦略が最適と思っていますか?

Kim氏:
 最も簡単に言ってしまうと,日本のユーザーが望んでいるものをサービスしていければ市場は自然と増えていくでしょう。でもそんなことはみんな分かってて,このために何をすればよいのかというのが問題となります。
 現在,日本では,リネージュ IIとリネージュ クロスランカーの2タイトルをサービスしていますが,そのサービスの中で常にユーザーの意見や行動,プレイスタイルなどを把握しておき,それを分析して得られるものを自分たちでうまく消化していけばいいと思います。これはまだ計画段階なのですが,リネージュ IIの3番めのアップデートとなるクロニクル3や,その後のアップデートのクロニクル4あたりでは,日本のユーザーがいままでに寄せてきたような意見が反映されていくようにします。

4G:
 TGS2004で出展されているタイトルは,リネージュ II,City of Heroes,Guild Wars,Alter Lifeの4種ですが,これらで日本のゲーマー層のすべてをカバーできるでしょうか? というより,日本展開を見据えての出展ですか?

Kim氏:
 今回TGS2004に出展している4タイトル以外にも,Tabula RasaというSFチックなMMORPGを開発中ですし……ってもちろん知ってますよね。これ以外にも,未発表ながらゲームワールドとのインタラクション(相互作用)重視するタイトルと東洋的なアジア的な雰囲気をもつタイトルも開発中です。日本市場だけを見ているわけではないのですが,ほとんどのゲーマーにリーチできると思います。

今回映像のみ出展された3タイトル,左から「City of Heroes」「Guild Wars」「Alter Life」


■日本独自仕様も可能な設計だった!

4G:
 先ほど,クロニクル3や4で日本のプレイヤーの意見が取り入れられると話されてましたが,サービスしているそれぞれの国でゲームの仕様が変わってくるのでしょうか。

Kim氏:
 いいえ,そうではなく,基本的には一つのタイトルの仕様はすべて同じです。MMORPGは追加で,いろいろな要素を詰め込んでいくことができるので,韓国のプレイヤーと日本のプレイヤーの両方が楽しめる要素を取り入れていくということです。ただし,開発過程で,ローカライズバージョンごとにカスタマイズできるようなシステムにしてあります,細かな応用は利くようになっています。

4G:
 なるほど。ということは,日本だけの要素というのもやろうと思えばできるということですか?

Kim氏:
 そうです。一応は可能ですよ。

4G:
 おぉ,そういうシステムになってたんですね。じゃあこの先の展開に期待することにします。ところで話は変わりますが,韓国ではすでにクロニクル2が実装されていますが,これによってユーザーの動向になにか変化がありましたか?

Kim氏:
 クロニクル2では,ボスRaid,モンスターレースなど,リネージュIIの根本的なゲームシステムに関わる部分以外のコンテンツもたくさん盛り込まれました。今,韓国で人気があるのは,武器アップグレードクエストで,みんな一生懸命になってアップグレードしていますよ。

4G:
 その武器アップグレードクエストは,日本でも流行りそうですか?

Kim氏:
 ええ。まだ日本では実装されていないクロニクル2ですが,熱心なユーザーは韓国の最新情報を積極的に集めているようです。そのような日本のユーザーからの意見も寄せられているのですが,その中に「クロニクル2には日本人が好みそうな要素が入ってますね」というのがありました。

4G:
 それは楽しみです。そういえば,先日タイに進出をしてリネージュ IIの正式サービスを開始されましたが,タイのゲーマーというのは,韓国や日本と比べてどんな感じですか?

Kim氏:
 タイは韓国同様に,急速にブロードバンド環境が普及しています。去年,バンコクに急速に増えつつあるネットカフェ(結構な店舗数があるとのこと)に足を運んで,どのようなゲームが遊ばれているか,どのようなゲームが好まれているかというトレンドをマーケットリサーチをしました。その結果,リネージュ2がタイの人に受け入れられやすいのではないかという結論に達したので,進出を決めたというわけです。
 タイではまだオンラインゲームは新しいものとして認識されていて,オンラインゲームとはなんなのか,という部分から入る人も多くいます。そこでオンラインゲームはこんなに楽しいものなんだ,オンラインゲームで楽しくなれるよと,いうのをマーケティングポイントとして事業展開していく予定です。

4G:
 急速なブロードバンド環境の成長というのが韓国と同様のものだとすると,タイのユーザーは,韓国のユーザーに近いという感じですか?

Kim氏:
 いいえ,韓国のゲーマーにも日本のゲーマーにも似ていないって感じですね(笑)。

4G:
 あれ,そうなんですか。一言でいうとどんな感じですか?

Kim氏:
 マーケットリサーチをしたときに,タイではカウンターストライクが流行っている傍ら,かわいいスタイルのゲームも好まれてましたし,対戦ゲームもスムースに受け入れてプレイしているようでした。つまり,今までオンラインゲームというものがなかった分,いろいろなジャンルに対しての適応力があるんだと思います。

4G:
 これからタイは,急速に発展していくマーケットとなりそうですね。そうすると,Guild WarsやCity of Heroesなどもタイでサービスを開始することになりますか?

Kim氏:
 ええ。NCSoftが開発しているタイトルは,開始のタイミングなどの要因はありますが,進出している国ですべてサービスを行うことを前提としています。

4G:
 何気なくそれ重要な発言ですね……。

「リネージュII:クロニクル2 Age of Splendor」


■新しいジャンルの開拓をする試みの段階

4G:
 先日シューティングゲームの「Toy Strikers」が発表されましたが,Alter Lifeなどと併せるとカジュアル系のタイトルの充実をしているように見えます。最終的なサービスのビジョンはどのようになっていますか?

Kim氏:
 今年はいくつかのタイトル発表していますが,カジュアルゲームに進んでいるというのではありません。いろんなジャンルの開拓をするための"試み"をしているというのが実際のところです。
 Toy Strikersなども,パッと見はカジュアルゲームに見えるかもしれませんが,そうではありません。何百人も集まるシューティングゲームとなっていて,このようなタイトルはいままでにありませんでした。これも新しい試み,実験的なプロジェクトなのです。最終的なビジョンは,新しいジャンルを開拓をし,またユーザーにオンラインゲームのいろいろな楽しみを提供していくために色んなタイトルを開発して,総合的なサービスを行っていくことでしょうか。現在は,このような形で進んでいこうと思っています。

4G:
 なるほど,総合的なサービスですね。City of HeroesやTabula Rasaは,既存のハック&スラッシュタイプや本格派タイプでもなく,それらの中間に位置するMMORPGのようなゲームシステムですが,これもその一環と見てもいいでしょうか?

Kim氏:
 ええ,いろいろな味をだすための過程の一つですよ。

4G:
 今,個人的に北米でサービスされているCity of Heroesをプレイしているのですが,結構ハマっちゃっいまして……。日本でのサービス予定はありますか?

Kim氏:
 ええ,すでに韓国と日本を合わせたアジア圏でのサービスを行うプロジェクトは立ち上がっています。2005年には日本で正式サービスを開始できると思いますよ。しかし,City of Heroesはアメコミヒーローが多いので,現在は,アジアの人にも馴染めるような"アジアンヒーロー"の選出をしているところです。もう少ししたら,なにか情報を出せると思いますよ。

4G:
 え? アジアンヒーローですか……,それはCity of Villain(編注:リリースが予定されている拡張パック)とも異なる拡張パックですか?

Kim氏:
 いやいや。追加パックではなくアップデートで追加(編注:City of Heroesは大型アップデートをExpansion Issueと呼び,2か月ごとに行われている)して,どこのローカライズバージョンでも同じようにプレイできるようにします。

4G:
 おお,それは嬉しい限りです。そのCity of Heroesのゲームシステムは,長時間拘束されるという今までのMMORPGの常識を覆すように気軽にプレイできます。これは,日本で受け入れられやすいゲームシステムだと思いますがどうでしょうか?

Kim氏:
 ええ,そうですね。キャラクターカスタマイズで個性を出していけるし,長時間拘束させないようになっています。プレイヤーのスキルや戦略を重視したゲームシステムとなっているので,短い時間でプレイできるという部分で新しいジャンルを開拓したかなと思っています。
 あと,Guild Warsも同じようなシステムを一部採用していますので,日本のユーザーに受け入れられやすいと思いますよ。

4G:
 Guild Warsは,対戦に主眼が置かれていると思いますが,それがFPSジャンルを席巻するようになると思いますか?

Kim氏:
 Guild Warsは,ミッション遂行でプレイヤー同士が協力したり,ギルド同士で対戦をするというゲームシステムとなっていて,戦略に重点を置いているという意味で対戦に特化しているということはありません。つまり,対戦ゲームとしてカウンターストライクを巻き返すかというと単純な比較は難しいですが,人気やプレイ時間で巻き返すという意味ならば,十分できると思っています。
 Guild Warsは,チーム(パーティ)の戦略や勝敗が要なので,いままでになかったエッセンスが入っているという面で,人気が出ると思いますよ。

4G:
 では,いずれはe-Sportsの一つとして大会なども……?

Kim氏:
 ええ。そうなればいいと思っています。



写真上段:「City of Heroes」
写真下段:「Guild Wars」


■メーカーとユーザーの距離を近くするための具体策とは?

4G:
 日本でゲームをする女性は,コミュニケーションツールの一部として利用することが多いようです。Alter Lifeも女性をターゲットしていますが,どのようなシステムとなっているのでしょうか?

Kim氏:
 まだAlter Lifeは開発途中ということもあり,はっきりとはいえない部分も多いのですが,現在はいろいろなアイデアを取り入れながらテストを行っています。
 Alter Lifeにはいままでのようなオンラインゲームのように,競争や戦闘の要素はなく,プレイヤーのリレーションシップを重要としています。つまり,どのようにほかのプレイヤーとコミュニケーションをとっていくかが重要だということになるわけです。また,コミュニケーションもただ馴れ合いというのではなく,ストーリー性を持ったゲーム的な要素を楽しみつつ,相手との関係を築き上げていき,自分を育て上げるというゲームシステムになっています。

4G:
 あまり既存の"オンラインゲーム層"とは重ならない感じですね。

Kim氏:
 そうですね。4Gamerさんのネタにはならないかもしれません(笑)。今はAlter Lifeの背景(マップ)となる場所の取材をしています。アジア各国を巡って,東南アジアのスラム街や日本の東京のような見事な街並みを取材して,ゲームに取り入れていっています。Alter Lifeは,人と人との出会いではなくて,空間的な出会いともいえるのではないでしょうか。'60年代のノスタルジックな町並みや21世紀の未来的な空間,世界中の風景など,自分が行ったことのない場所をゲームの中で体験できます。プレイしてナビゲーションするだけで,その中での人との出会いが感動を与えるという感じですね。

4G:
 結構斬新なシステムですね。以前のインタビュー(「こちら」)で,中高生の意見を吸い上げて開発を進めているというのをお聞きしましたが,いまでも?

Kim氏:
 女子高生に限らず,会社の外からゲームに対して客観的なアイデアや意見をくれる人たちとの繋がりは今でも広げている途中です。

4G:
 そのユーザーとメーカーの距離を短くしていくという具体的な策の一つにFGT(Focus Group Test)があると思うのですが,これを韓国以外でも行っていく予定はあるのでしょうか?

Kim氏:
 ええ,海外のグループ会社にそのような能力をつけてほしいので,サポート体制などの部分に投資を行っているところです。ゲームの開発プロジェクトの企画段階から各国の意見を取り入れて,まとまってから開発していくのが望ましいと思っています。

4G:
 最後にちょっと話戻しちゃいますけど,リネージュ IIの料金についてです。韓国と日本はほかの国と比べて少し高額な設定となっていますが,それは何に基づいて決定しているのでしょうか。

Kim氏:
 料金設定はいろいろな要素を加味しながら決めているのですが,基本的にはその国の経済水準によるところが大きくなっていますね。日本や韓国は,アジア各国と比べてGDP(国内総生産)が高めというのも理由の一つです。またその国を意識して投じた開発費も大きく影響していますし,日本のユーザーを獲得するためにかなりの費用がかかったので,すこし高めの設定にしました。

4G:
 その料金設定がほかのMMORPGタイトルとかけ離れていても……?

Kim氏:
 今後,クロニクルがどんどん追加されていって,リネージュ2が発展していくと,完成度や内容でほかのMMORPGタイトルと比較したくないという自信はあります。完成度の低いゲーム,クォリティの低いゲームに安い料金を払うのはいいとおもいますが,クォリティの高いゲームに対しては,アップデートの期待を含めて適正な水準にする必要があると思います。

4G:
 本日はありがとうございました。


「Alter Life」



 今回のインタビューでは,TGS2004に出展していた各タイトルの情報に加えて,NCsoftが目指す方向性というのが分かったという大きな収穫があった。メーカーとユーザーが一体となってよりよいタイトルを開発していければ,さらなる市場の発展に繋がっていくだろうし,"正しい"拡大となるだろう。斬新なアイデアが実装された各タイトルにも期待は高まるが,総合的な同社のサービス/運営の今後にも期待できそうだ。(Seal)

「リネージュII」の記事一覧は「こちら」
「リネージュII:クロニクル2 Age of Splendor」のスクリーンショット集は,「こちら」「リネージュII」クロニクル2の韓国版での情報は「こちら」

「City of Heroes」の記事一覧は,「こちら」
「Guild Wars」の記事一覧は,「こちら」
「東京ゲームショウ2004」の記事一覧は「こちら」

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