「Granado Espada」

■Kim, Hakkyu氏プロフィール■
1973年,韓国ソウル生まれ。1992年からアマチュアとしてゲーム制作を行い,1998年に西江大学校 数学科を中退してGravity Softを設立。2000年には投資を受けて株式会社化し,同年12月にRPG「Arcturus」(邦題「アークトゥルス」)を発売する。そして2002年には同社で世界的な人気を誇るMMORPG「Ragnarok Online」(邦題「ラグナロクオンライン」)の正式サービスを開始するも,翌年には退社して,新たにIMC Gamesを創立。現在同社で新MMORPG「Granado Espada」を開発中。

"ラグナロクオンラインの父"が作る,
ありそうでなかった究極のMMORPG

【概要編】

 韓国のPCゲーム業界の関係者達と話をすると,必ず「今後の期待作は何か?」という話題が出る。そしてこういうときは,あまりMMORPGの名前は挙がらない。みんな,同じようなものばかりのMMORPGには,飽き飽きしているのだ。
 MMORPGで名前が挙がるとしたら,せいぜい2〜3タイトル。「Granado Espada」は,そのうちの一つだ。ここで注意してほしいのが,このGranado Espadaは,2004年7月時点では韓国でもほとんど情報が出ていない,未知数だらけのタイトルだということ。それなのに,なぜか多くの業界関係者達を惹きつけている。
 近々本作に関する正式発表があるという話も聞こえてくる中,一足早く,本作がどのようなタイトルになるのか,探ってきた。

 話を聞いたのは,Granado Espadaのプロデューサー,Kim, Hakkyu(Kim Hak Gyu)氏。あの「ラグナロクオンライン」の開発者として,世界的に有名な人物だ。以前「こちら」で紹介したようにすでにGravity社を退職しており,現在では新たに創立した会社IMC GamesのCEOを務めている。

 大の親日家であるKim Hakkyu氏は,開口一番「いつも4Gamerを見てますよ」と話してくれた。以前インタビューしたとき(「こちら」)とは違い,"忙しい毎日"を送っているだけあって,非常にイキイキと元気そうに見える。そんな彼に,世界中が注目しているGranado Espadaについて,かなり細かく聞いてみた。
 出てきた話は,どれもこれも初耳&気になるネタばかり。韓国にいて初耳の話なのだから,日本初情報なのは間違いないし,おそらくは世界初だろう。この世界的に貴重なインタビューを,とくとご覧あれ。

 

そもそも「Granado Espada」って
どんなゲームなのか?
〜"政治"というものに対するエネルギーを表現できるゲームを作ろうと思ったんです〜

Kim, Dong Wook(以下,4G):
 こんにちは,ご無沙汰してます。前に話を聞いてから,1年半くらい経ちましたね。その間に新作タイトルも発表されて,安心しています。ただその新作の情報が,なかなか出てこないんですよね……。

Kim, Hakkyu(以下,Kim):
 実はこの8月中にも大々的に発表会を行おうと思ってまして,まだ言えないことも多いんですよ。パブリッシングを担当するHanbit Soft社との契約もありますしね。とはいえ今日は,出来る限りお答えするつもりなので,なんでも聞いてください。

4G:
 ええ,遠慮なく(笑)。ではまず,このGranado Espadaという謎めいたゲームについて,ザックリと話してください。この韓国でも,これまでに4Gamer.netで紹介した(記事一覧は「こちら」)以上の情報ってほとんどないので,僕自身がGranado Espadaについてまだよく分かってないんですよ。

Kim:
 ではまず,企画意図からお話ししましょうか。2002年の夏に,韓国で大統領選挙がありましたよね。そのときテレビやラジオ,Webを問わず,いろいろなメディアでいろいろな人が,いろいろな観点で意見を言い,論争を行っていました。まぁこういう国家的なイベントがあるときは,いつもですよね。
 こういうのを見ていて,「政治には,人々を動かす目に見えない巨大なエネルギーがあるなぁ」と思ったんです。つまりMMORPGというジャンルで,政治などの持つエネルギーを表現できるゲームを作ろうと思ったんです。

4G:
 そういうゲームだったんですか,初めて知りました。しかしそのエネルギーをどうゲームに取り込むんですか?

Kim:
 一般的なオンラインゲームの運営者は,ゲーム内でトラブルが発生しないように,例えば行いの悪いプレイヤーに注意したり,喧嘩の仲裁をしたりしますよね。本作の場合は,違います。プレイヤー達がそれぞれ論争して,どうすればいいのか決めていくんです。
 現実の世界で大統領選について論争するように,セカンドライフ(ゲーム内)でもゲーム世界のさまざまな勢力やルールについて論争できる,それが目標の一つです。

4G:
 なるほど。……徐々に分かってきました。

Kim:
 一般的なMMORPGでは,プレイ開始1か月後も,1年後も,結局同じことをしていますよね。モンスターハンティングや,まぁほぼイコールですがレベル上げです。このモンスターハンティングなどをいくら面白くしたところで,1,2か月で飽きてしまいます。しかしMMORPGの収益モデルを考えると,1年で飽きられてはペイできない。
 1年以上プレイさせなければいけないという意味で,ちょっと違う観点からMMORPGを考えてみたところ,この政治というアイデアになりました。始めはほかのMMORPGと同様に気楽に遊んでいるうちに,だんだんとゲーム内の政治的なことが面白くなるはずです。
 実際の選挙でも,ときどき変な人が立候補するじゃないですか(笑)。そういうのを面白く表現したいですね。

4G:
 政治についてもっと突っ込んだ話も聞きたいのですが,まだ本作について"全体像"が分かっていない状況ですので,ジワジワと外堀から埋めていきますね。
 本作の舞台は,17〜18世紀のヨーロッパということですが,これはどういう理由からでしょうか?

Kim:
 正確には,17〜18世紀頃の,ヨーロッパの激動期をモチーフとした"仮想世界"が舞台になります。この舞台設定を選択した理由は,先ほど話したような政治システムを生かすために,"激動期を表現したい"と思ったことが一つ。またビジュアル的にも,一般的なファンタジー世界に近く,美しく見慣れたものにできるというのも理由の一つです。

4G:
 なるほど。実際にフランス革命などのイベントが史実どおりに発生するわけではないんですね。

Kim:
 ええ,あくまでも仮想の世界です。世の中がどのように動いていくかは,すべてプレイヤー達次第といえますね。
 ちなみにこの舞台設計を考えた当初はフランス革命をイメージしていたのですが,いろいろと考えているうちにどんどん時代がさかのぼって,今では大航海時代あたりの設定もずいぶん含んでいます。

4G:
 あくまで仮想の世界ということは,ファンタジーの要素もあると考えていいんですよね?

Kim:
 もちろんファンタジーの要素はありますよ。ただ,一般的な"剣と魔法の世界"というものではない,もっと違う独特のファンタジーを作りたいですね。
 ほら,「ロード・オブ・ザ・リング」や「ハリー・ポッター」が大ヒットして,それ以来,ファンタジーのイメージが一般層にまで定着してしまった感があるじゃないですか。しかしファンタジーとは,言ってしまえば"想像の中の世界"。つまり仮定の組み合わせだと思っていますので,これまでのファンタジーの文法にあえて従わず,自由に作っていますよ。

4G:
 でもそれって,凄く難しいことですよね。

Kim:
 いや,そうでもないですよ。例えば先日も,アステカやインカに関するテレビ番組を見ていたのですが,これらの文明がもしスペインに滅ぼされなかったら,世界はどうなっていたんだろう? ……と考えるのも,一つのファンタジーのアイデアです。世界はずいぶんと面白くなっていたかもしれませんよね。
 こういった,大きな歴史上の事件を,「もうこうなっていたら?」と考えることで,いろいろなアイデアを得ています。

4G:
 もう少し具体的に教えてもらえますか?

Kim:
 そうですね,例えばいきなり,どのような病気でもたちどころに治してしまう薬が出てきたら,世界はどうなってしまうだろうか? 昔のイエス・キリストのように奇蹟を起こす人が実際に現れたら,人々はどのように反応するだろう? 誰でも精神を集中するだけで炎を出せたら,みんなどうするか? ……私には,こういう仮定がすべてファンタジーなんです。

 

同時に3人のキャラクターを操作する
MCCシステムを搭載!
〜一人で複数のキャラクターを操作することなんて,特徴とはいえない,
本来当たり前のことなんです〜

4G:
 システムについても教えてください。

Kim:
 影響を受けたのは,実は「StarCraft」などのRTSですね。

4G:
 これまた,まったく違うジャンルじゃないですか。どういう意味で影響を受けたのですか?

Kim:
 まぁ,順番に話しましょう。
 そもそもゲームって,プレイヤー達は"制作側の意図"なんか関係なく,それぞれ好き勝手に遊びますよね。バグを利用した裏技を駆使してハイスコアを狙ったりとか。その最たる例が,チート行為です。
 私は,そういった行為がプレイヤーにとって面白いのであれば,それを禁止するのではなくて,ゲームのルールに取り込んでしまおうと考えました。サッカー中にボールを手に持って走ったことからラグビーが生まれた……みたいなものですかね(笑)。

4G:
 サッカーといえば,韓国の軍隊では,ボールを五つ使ってサッカーしますよね。これはこれで面白い(笑)。で,MMORPGでも同じことがいえるってことですか?

Kim:
 そうです。これまでのMMORPGはどれも,一人のプレイヤーが一つのキャラクターを操作するシステムになっています。ところがPC房(PCゲームに特化したインターネットカフェ)に行くと,チートプログラムを使うことで,1台のPCで画面を切り替えて,同時に二つ以上のキャラクターを育てている人がいたりします。この人は,今の常識だと"いけないこと"をしているわけですが,でもこれって,本当に悪いことなんでしょうか?
 例えば,一時期ゲームセンターで「ビートマニア」の対戦モードを一人でプレイしている人がいましたよね。これはこれで,ゲームの遊び方の一つだと思います。
 こういったことを考えてみれば,MMORPGで一つのキャラクターしか操作できないのは,不思議じゃないですか? 昔のRPGを思い出してみてください。「ウィザードリィ」も「ウルティマ」も,「ドラゴンクエスト」だって一人のプレイヤーが複数のキャラクターを操作するのが普通でしたよね。

4G:
 ええ,その通りです。

Kim:
 ただドラゴンクエストや「ファイナルファンタジー」が登場したころは,インタフェースに限界があったので,複数のキャラクターをリアルタイムで自由に動かすのは不可能でした。ところが今や,RTSなら,一人で200ものユニットを同時に操作したり
しますよね。
 そこでMMORPGでも,一人で3人程度のキャラクターなら同時に操作できるのではないか? と思ったわけです。

4G:
 なるほど,これまでもMCC(Multi Character Control)システムとして発表されているシステムですね。ここでRTSが出てくるわけでしたか。

Kim:
 そうです。私は,一人で多数のキャラクターを操作することを,本作のシステムの根底に置くことにしました。
 既存のMMORPGで同時に複数のキャラを操っている人は,RPG本来の遊び方をしているだけなのに,不正なプログラムを使う必要があったり,ほかのプレイヤーのIDを借りなければならなかったりするのは,ちょっと話にならないんじゃないの? と思っています。

4G:
 なるほど,聞いてみると実に合理的なシステムですね。なぜこれまでなかったのかが不思議なくらい……。

Kim:
 そうなんですよ。一人で複数のキャラクターを操作することなんて,特徴とはいえない,本来当たり前のことなんです。ところがほかのMMORPGではどこもやっていないので,……まぁ早い者勝ちですね(笑)。
 キャラクターを3人操作することで,対人戦もグッと奥深くなるはずです。ここまでをまとめると,最初はグラフィックスの美しい新作MMORPGとして遊び,2〜3か月経てば複数のキャラクターを操作しての対人戦を楽しみ,ゆくゆくは政治的な活動に面白さを感じてもらう。そのようなゲームなんです。

4G:
 なるほど。ようやく本作の全体像がつかめました。いやはや,なんとも壮大なスケールを持った作品なんですね。では,それぞれのポイントについて,もっと詳しく伺っていきます。

「Granado Espada」の情報一覧は,「こちら」でどうぞ。

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