Text by 宮崎真一 2006年1月6日
Intelは2006年1月6日,新型CPU「Core」(コア)と,Core用チップセット「Mobile Intel 945 Express」を発表した。デスクトップやノート用CPUの製品名として,1995年の秋以降,「Pentium」を使い続けてきたIntelにとっては,約12年ぶりの製品名変更となる。
果たして,このCoreと呼ばれるCPUは,いったい何なのだろう? ゲーマーにとって,どういう意味があるのだろうか。本稿では,それを少し考えてみたいと思う。また同時に,2005年終盤からその名をちらほら見かけるようになってきた「Viiv」,また,Coreの登場によってその将来が気になるPentiumシリーズの最新製品についても,ここでまとめて整理しておきたい。
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上のCPUロゴで気づいた人もいると思うが,今回,Intelはコーポレートロゴも変更してきた。「e」が下付き文字になっていたのが,そうでなくなったのが最も大きな変更点か。また「さあ,その先へ。」(英語では「Leap Ahead」)メッセージも加わった |
ノートPC向けCPUもデュアルコアに
本誌読者の中には,ノートPCでゲームをプレイする人も少なくないと思う。ここ1〜2年内に,ゲームを十分プレイできるノートPCを購入した場合,たいていはノート向けCPUであるPentium Mを搭載しているはずだ。
Pentium Mは,Pentium 4と比べて動作クロックが低い割に,浮動小数点演算(FPU)性能が高く,FPU性能が重要なゲーム用途では良好なパフォーマンスを発揮する。さらに,店頭ではPentium Mに対応したデスクトップ向けマザーボードも発売され,ゲーム用PCを実現するCPUとして,ゲーマーを中心に一定の人気を保っている。
Coreは,このPentium Mの後継に位置づけられるCPUだ。開発コードネーム「Yonah」と呼ばれていたCoreには,「Core Duo」「Core Solo」という2種類があり,前者はノートPC用CPUとして初めて,Pentium Dなどと同じように,デュアルコアを採用しているのが特徴だ。Intelはとくに,これが何語かについて言及していないが,音楽用語っぽい語感はある。Duo(デュオ)=2で,デュアルコアというわけである。なので,Core Solo(ソロ)は1コア。今後Intelはマルチコア(もしくはメニイコア)路線へ進むはずなので,「Core Quartet」のような製品がいずれ出てくる可能性もあるだろう。
では,なぜ同じデュアルコアでありながら,Intelは製品名を変更したのだろうか。
Pentium Dにおけるデュアルコアでは,一つのCPUパッケージに2個のPentium 4コアを押し込んだだけに過ぎなかった。これに対してCoreでは,AMDのAthlon 64 X2と同じように,はじめからデュアルコアを前提に設計されており,とくに2個のコアが一つのL2キャッシュを共有する点が,Pentium Dとは大きく異なる。Pentium Dなどに比べると,よりデュアルコアでの恩恵が得やすいCPUになっているわけだ。
一新されたCentrinoモバイル・テクノロジのロゴ。Core Duoを搭載するCentrino Duoモバイル・テクノロジのロゴには,デュアルコアを示す「Duo」の文字が刻まれる
もっとも,理由はそれだけではない。Intelは多くを語っていないが,デュアルコアの「コア」と同じ名前にしたほうが,コアの数が分かりやすい,というのはある。また,Core Duoに合わせて,ノートのプラットフォームPCブランド「Centrino モバイル・テクノロジ」に「Centrino Duo モバイル・テクノロジ」が加わったように,IntelはCPU単体ではなく,プラットフォーム(=PC)全体のブランドを重視するようになっている。このため,CPU単体として知名度のあるPentiumをあえてやめる策に出たとも取れそうだ。もちろん,Smithfield/Prescottコア以降のPentium D/4が持つ,大きな発熱のマイナスイメージ払拭というのも,理由としては少なからずあると思われる。
Coreでは,新しいプロセッサナンバーとして「アルファベット1文字+4桁の数字」が導入されることになった。例えば動作クロック1.83GHzのCore Duoだと,Core Duo T2400と表記されることになる。Coreシリーズの詳細な仕様は表1を,製品ラインナップは表2を参考にしてほしいと思う。店頭にCPU単体が並ぶのは,「T」で始まるプロセッサナンバーの製品で,低電圧版に当たる「L」シリーズは,ノートPCメーカーにのみ出荷される。また,表2を見ると分かるように,4桁の数字の先頭はコアの数を示す。逆に分かりづらいのは下3桁で,TシリーズとLシリーズでは,同じ「400」でも動作クロックが異なるので注意したい。
Core Duoのデュアルコアでは,CPU負荷に合わせて,自動的に片側のコアをアクティブにしたり,アイドル状態にしたりするなど,ユーザーはデュアルコアCPUであることをとくに気にする必要がない。
インテル SMGテクニカルオペレーション インテル・アーキテクチャ技術本部 スペシャリスト マネージャ 土岐英秋氏
さらに,SMGテクニカルオペレーション インテル・アーキテクチャ技術本部 スペシャリスト マネージャである土岐英秋氏は「CoreではシングルコアのCore Soloでも同周波数のPentium Mよりパフォーマンスが高くなります」という。Core Duoでは,Pentium Mより性能向上を果たしたコアを二つ搭載するので,そのパフォーマンスにはかなり期待できるというわけだ。
気になるのは,デュアルコア化による消費電力の増大である。コアが増えた分,消費電力が増えてしまうのは仕方がないことかもしれないが,ノートPC向けCPUで消費電力が増大すれば,バッテリー持続時間に関してデメリットになってしまう。
Core世代のCentrinoモバイル・テクノロジでは,プラットフォームとしての消費電力が下がるとしたスライド(出典:Intel)。スライドにあるNapa,Sonomaはいずれも開発コードネームで,前者がCore世代,後者がPentium M世代を指す
土岐氏はこの点について「アベレージパワーが減っているので問題はありません」と述べる。「確かに熱設計電力(TDP)は31Wで,Pentium Mの27Wに比べて上昇しており,設計のハードルが上がっているのは事実です。しかし,プラットフォーム全体での平均消費電力はPentium M時代よりも1.2W減少した3Wになっており,むしろCoreではバッテリー持続時間が伸びるでしょう」とのことだ。Core側では,負荷が軽い場合に片方のコアをアイドル状態にできるほか,より消費電力の低いL2キャッシュを搭載しているという。
高いスペックを誇る対応チップセット
ゲームには別途グラフィックスチップが必要
このCore用チップセットとして,同時に発表されたのがMobile Intel 945GM Express(以下Intel 945GM),Intel 945GMから内蔵グラフィックスコアを省いたMobile Intel 945PM Express(以下Intel 945PM),だ。Intel 945GM/PMは,Pentium 4用として知られるIntel 945G/P EpxressのノートPC用といえるチップセット。サウスブリッジに当たるICHにはICH7-Mを採用し,さらに,Intel 945GMではノースブリッジに当たるGMCHにMPEG-2のハードウェア再生支援機能が盛り込まれた。また,Intel 945GMではGMCHおよびICH7Mにおいて,動作していない部分をアイドル状態に移行させる「クロックゲーティング」が,従来よりも細かく行われるようになったという。土岐氏によれば,この細かなクロックゲーティングが消費電力の低減につながり,先のアベレージパワーの減少にも一役買っているとのことだ。
詳細については表3にまとめたので,参考にしてほしい。
もっとも,内蔵グラフィックスコア「Intel Graphics Media Accelerator 950」(以下GMA 950)は,Pentium M時代から劇的なパフォーマンス向上を果たしたわけではない。最新の3Dゲームをプレイするには,残念ながら力不足だ。ForceWareやCatalystのように,デュアルコア最適化ドライバがあれば,若干のパフォーマンス向上も期待できるが,現時点でGMA 950用ドライバがデュアルコアに最適化されるかどうかは未定となっている。
インテル 第三営業本部 シニア プログラム マネージャ 森田徹治氏
この点について,インテルの第三営業本部 シニア プログラム マネージャの森田徹治氏は,ドライバのデュアルコア適応は必須としながらも「ゲームなどのソフトウェア側のマルチスレッド対応が必要です」と語る。Intelは,こういったマルチスレッド化に対する啓蒙活動も行なっており,メジャータイトルに関してはIntelの技術者が出向し,マルチスレッド対応を指南しているということだ。
CoreおよびIntel 945GM/PMを搭載したノートPCは,近々発売される予定となっている。ATI TechnologiesやNVIDIA製グラフィックスチップを搭載していなければ,3Dゲームを快適にプレイするのは難しいが,逆にいえば,グラフィックスチップをはじめとした,ほかのスペックが同じであれば,Core搭載製品を選択するほうが,ゲームはより快適にプレイできるはずだ。
また,Core対応マザーボードの開発を行なっているメーカーもある。そういった製品が登場すれば,デスクトップPCでもCoreを活用できるようになるだろう。
Viivテクノロジとゲームの関係
冒頭でも述べたが,最近になって「Viiv」(ヴィーブ)というマークや文字をよく見かけるようになってきた。これは,デジタルエンターテインメントの用途に合致したデスクトップPC向けのプラットフォームブランド「Viivテクノロジ」のロゴだ。ノートPC向けブランドであるCentrino Duo/Centrinoモバイル・テクノロジ対応を名乗るのには一定の条件が必要だが,これと同じように,表4に示す条件を満たしたPCは,Viivテクノロジ対応PCを名乗れるようになる。
重要なことは,この「デジタルエンターテインメント」の中に,ゲームも含まれるということだ。今後は,Viiv対応PCだけが利用できる専用コンテンツが提供される予定だが,そこには映像や音楽だけでなく,ゲームも含まれるという。
では,Viivテクノロジ対応ゲームとは何だろうか。前出の森田氏は「現時点で,メーカーがViivテクノロジ専用ゲームを作ることは,対応プラットフォームの数といったマーケット戦略上考えづらい。Viiv“にも”対応したゲームがリリースされることになるでしょう」と述べる。「Viivロゴの付いたPCを購入しておけば,少なくともViiv対応ゲームはプレイできる」というわけで,ゲームをプレイするためにPCを購入したいと考える初心者には大きなメリットとなるかもしれない。
また森田氏によれば,「Windows XP Media Center Edition 2005のリモコンでゲームの起動や終了を操作でき,家電に近い感覚でゲームを扱えるようになる」とのこと。居間に置いてあるViivテクノロジ対応PCから,さくっとゲームを起動したり,飽きたらテレビに切り替えたりといったことが,将来的には可能になると思われる。
国内で,Viivテクノロジへの対応を早々に表明したコンテンツホルダー一覧。ゲームの欄に,カプコンとスクウェア・エニックスの名が挙がっている
ただ,これが4Gamer読者のようなゲーマーにとって魅力的かといえば,現時点では微妙だ。国内ではカプコンとスクウェア・エニックスがViivテクノロジへの対応を早々に表明しているが,森田氏のいうとおりにことが展開するなら,積極的にViivテクノロジ搭載PCを選ぶ必要はない。
Windows XP Home Editionよりも高価なWindows XP Media Center Editionを採用している必要があるという,価格面でのデメリットも見逃せない。また,ゲームでのパフォーマンス向上を狙って,例えば「Sound Blaster X-Fi」のような「Viivテクノロジ非対応」デバイスを利用すると,そのPCはViivテクノロジの恩恵を受けられなくなるといった制限もある。
将来的に,Viivテクノロジ対応デバイスを拡大していく可能性そのものについてIntelは否定していない。とはいえ,各社の「ゲーマー向けPC」が,2006年早々にViivロゴを付けて出てくることはまずないだろう。
将来的に,OSとリモコンがもっとこなれて,対応アプリケーションが増えれば,ViivはデスクトップPCの使い方を大きく変えるかもしれない。その意味で,無視していいものではないが,2006年が始まったばかりの現時点では,ゲーマーはViivを様子見に留めてよさそうだ。
“最後のPentium”に価値はあまりない
さて,CoreはノートPC用のCPUで,Viivテクノロジはプラットフォームのブランドだとすると,デスクトップはどうなるのか。この疑問に答えるのが,従来の90nmに対して,65nmプロセスで製造されるPentium DとPentium 4である。
順に開発コードネームPresler(プレスラー),Cedermill(シーダーミル)と呼ばれていた新型Pentium DとPentium 4は,いずれも「NetBurst」と呼ばれる,Pentium 4系アーキテクチャ最後のCPUになると予想されている。要するに,PreslerコアとCedermillコアが,ブランドの最後を飾るPentiumになる見込みだ。
CPU-Zを利用して,Pentium Extreme Editionの詳細なスペックを確認してみた
では,Pentiumブランドの締めくくりとなる製品は,どれほどの実力を示すだろうか。今回は,Preslerコアの最上位モデルとなるPentium Extreme Edition 955/3.46GHz(以下Pentium XE 955)を利用して,ゲームにおけるポテンシャルを見てみることにした。
Pentium XE 955の仕様は表5,テスト環境は表6を参照してほしい。Pentium XE 955では,FSBクロックが従来のPentium Extreme Edition 840/3.20GHzの800MHzから1066GHzに引き上げられ,さらに1コア当たりのL2キャッシュ容量も1MBから2MBに引き上げられている。
なお,Pentium XE 955以外のPentium D/4だと,FSBクロックは従来同様800MHzだ。L2キャッシュ容量はいずれも1コア当たり2MB(Pentium 4は1コアのみ)である。
「3DMark05 Build 1.2.0」のテスト結果はグラフ1,「The Longest Day」というマップで,7名によるデスマッチを行ったリプレイを利用し,Timedemoから平均フレームレートを計測した「Quake 4」のスコアはグラフ2にまとめてみた。比較対照用として用意したのは,本誌の標準テスト環境であるAthlon 64 4000+/2.4GHzシステムだが,ほぼ互角といっていいスコアに落ち着いてしまっている。もちろん,連載「ソフトにハードの物語」第3回で触れたように,ムービーファイルのエンコードなどをすれば話は別だが,ゲームプレイにおいては,Athlon 64 4000+とほぼ互角ということは,覚えておいたほうがいいだろう。
しかも,Pentium XE 955の予想実売価格は13万円前後だ。Athlon 64 4000+なら2006年1月上旬時点で実勢価格は4万4000円前後なので,ゲーマーにとって,どちらが魅力的なCPUであるかは一目瞭然。今回はCedermillコアのPentium 4を試していないので,あくまでPentium XE 955についての言及となるが,ゲームをプレイするためのCPUという意味で,“最後のPentium”をわざわざ選ぶ理由はあまりない,というのが正直なところである。
Intelは2006年中に,Yonahのバージョンアップ版CPUを,今度はノートPCだけでなくデスクトップPC向けにも投入し,その“デスクトップPC向けCore”で,Pentium D/4を置き換えると予想されている。現在,Pentium D/4搭載PCなどを所有していて,Intel製CPUを採用するゲーム用デスクトップPCの購入を考えているなら,もうしばらく待つのが得策だ。
※初出時にPentiumの登場を約10年前と記載していましたが,これは手元の資料の誤りでした。正しくは本文のとおり約12年前となります。 |
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