― 連載 ―

奥谷海人

 目移りするような大作,秀作,良作が,2004年末にかけて次々とリリースされる。発売の遅延にムッとしたゲーマーも多かったことだろうが,これからは遊びたくても遊びきれないほどのPCゲームを楽しめそうだ。

「DOOM 3」の発売日には,深夜0時の先行発売で小売店に行列が作られた。全世界のメディアから平均90%以上のレビュー採点を獲得しているが,期待されていた分だけゲームの短調さには批判的な声も出ている。2004年のPCゲーム市場の起爆剤になり得ただろうか?
 PCゲーム市場が,俄然騒がしくなってきた。

 クリスマス商戦を迎え,この2004年9月だけでも「The Sims 2」「Star Wars:Battlefront」「Rome:Total War」など,4Gamerでも何度も取り上げてきた大作が目白押しの状態だ。その後も「Half-Life 2」(正規版)はもちろん,「Man of Valor」「Tribes:Vengeance」「RollerCoaster Tycoon 3」「Vampire:The Masquerade - Bloodlines」「Sid Meier's Pirates!」「The Lord of The Rings:The Battle for Middle-Earth」「Battlefield 2」といった魅力的な作品が次々と投入される予定になっている。
 ここしばらく大作がキャンセルされて寂しかったMMORPGも,「EverQuest:Omens of War」や「Star Wars Galaxies:Jump to Lightspeed」のような拡張パックが控えており,続いて「The Matrix Online」,さらには「EverQuest 2」と「World of Warcraft」の"期待のMMORPGの双璧"も,2004年中のリリースに照準が絞られている。コンシューマ機をメインにした作品に目を向けても,「Tom Clancy's Splinter Cell 3」「Need for Speed:Underground 2」「Prince of Persia 2」など,PCゲーマーでも触手を伸ばしたくなる作品が少なくない。


 ここ数年,PCゲーム業界は悶々とした時を過ごしていた。2001年末のXbox登場に合わせるかのように始まったPCゲーム市場のスランプは,30年間に渡って右肩上がりで成長を続けてきた年間ソフトウェアの売り上げ総額を直撃。それが史上初めての下落だっただけでなく,5%近くもダイビングするという大ピンチに見舞われたのだ。多くの期待作の発売が延期された2003年も大きな動きはなく,コンシューマゲームソフトを含めた総額が70億ドルに達する一方で,PCゲームはわずか12億ドルに留まった(※1)。
 その理由はさまざまあるだろう。Xboxに乗り換えたプロジェクトや開発会社も多かったし,MMOゲームやMODの台頭により一つのソフトで長時間楽しめるようになったことで,"その他の作品"の購買意欲が失われた。また,ここ数年は新しいジャンルや革命的なテクノロジがほとんど登場しておらず,開発面ではシェーディング・プログラムのような新技術の取得や,人件費など割高になった制作コストといった要素がマイナス効果を生み出しているだろう。


(※1)伸び悩むPCゲーム市場

  2000年 2003年
エンターテインメントソフト全体 60億ドル 70億ドル
PCゲームソフトのみ 15.6億ドル 12億ドル
PCゲームの市場の占有率 26.0% 17.1%

(Entertainment Software Association)

 今のところ,この現状がすぐに解決するとは思えないが,とにもかくにも2004年度末のラインナップは頼もしい限りである。上記の作品以外にも,試してみたい期待作は一つや二つどころではない。大きなプロジェクトもあるかと思えば,東欧あたりでコツコツと開発されているいぶし銀のような作品も目立つ。販売総額が上昇に転じるかは見物だが,"The Simsシリーズ"の独占が続くセールスランキングに,大きな変化が起こるのは十分に予想できる。
 来年の下半期にもなれば,WGF(Windows Graphics Foundation)と呼ばれる新しいアーキテクチャを搭載した新世代のWindows"ロングホーン"が登場することで,PCゲーム市場もさらに活気づいてくるに違いないだろう。「死に行く市場」などと言われながらも,3Dグラフィックスやネットワークを先取りしては我々を魅了してきたPCゲームは,今は「Innovation within Innovation - 改革の中での改革」が行われているのだ。

 そんな楽観的な視点で市場を眺めつつ,アメリカを中心とした世界のゲーム業界のトレンドや裏話,さらには時事ネタから過去の出来事までを,毎週このコーナーでお伝えしていきたい。



次回のテーマは,「業界再編」。今,ゲーム業界にどのような動きがあるのか,詳しくお伝えしよう。



■■奥谷海人(ライター)■■
渡米して約16年,つまり人生の半分近くをアメリカで過ごしている"ほぼアメリカ人"なゲームライター。たまに日本に戻ってくると,地下鉄の乗り方さえ分からずに困ってしまうとか。そのくせ,日本の事件や災害の情報はマメにチェックしていて,ふいに「●×の放火事件,恐いですねぇ。そういえば渋谷の●●が火事で焼けちゃいましたね。いい店だったのに」なんて言い出して,4Gamerスタッフを驚かせている。最近は,キトラ古墳の修復工事に注目しているらしい。



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