MMORPGでは,アイテム収集やイベント参加,そして他人と協力してモンスターや敵対するギルドと戦うのも面白いが,違った角度から見ると,非常に奥が深いのに気づくはず。シングルプレイヤー専用ゲームではなかなか難しいオンラインコミュニティが形成され,これらの中から"総合エンターテイメント"としてとんでもないアイデアが生まれてくることもある。今回は,紹介する三つの事例から,MMOゲームが持つ無限の可能性を見出してもらいたい。
「Ultima Online:The Second Age」(邦題 ウルティマ オンライン ザ・セカンドエイジ)が北米で発売されたばかりの頃の話。当時使っていたキャラクターのFishingスキルをMAXにしようと釣り糸を垂らしていた筆者は,ある女性キャラクターと知り合った。同じ生産者系のキャラクターとして意気投合し,数日後に彼女の小屋に誘われることになった。
訪ねてみると,こじんまりとしたアットホームな小屋。やがて,会話はなぜか彼女の身の上話へと発展し,彼女はアメリカ北部の田舎町に住む既婚者であることが判明した。さらに,夫は軍隊に属しており,今はドイツに赴任中であることなどを聞かされた。この小屋も,週に1回だけ余暇を利用して接続してくる夫と過ごすために,「愛の巣」としてコツコツお金を溜めて手に入れたものなのである。
下心があったとまでは言わないものの,女性に誘われてウキウキしながら訪問した筆者は,己の邪心を恥じると同時に,このあまりコンピュータには詳しくなさそうな二人の"ゲームの遊び方"に驚かされた。MMORPGを単なるゲームではなく,単身赴任中の夫との面会場にしていたというのは,キャラクターのスキル上げだけに躍起になっていた筆者にとって,非常に衝撃的な利用法だったのだ。
MMO(Massively Multi-player Online)ゲームは,誕生してまだ10年も経たない若い分野だが,既存のゲーム的感覚を逸脱した大きな存在へと成長してきているようだ。とくに,開発者や運営側が意図しない遊び方が,プレイヤーの手によって編み出される事例が多い。ここ最近のMMORPGの"使われ方"を見ていると,新しいサブカルチャーが派生しつつあるようにさえ思える。
毎晩のように,Reet's RetreatなどでGSPのパーティが催される「Anarchy Online」。ネットの向こう側では,ホンモノのDJ達がターンテーブルを操ってライブ放送しているのだ |
「Anarchy Online」は,ノルウェーをベースにするFun Com社のタイトルで,ヨーロッパ初のMMORPGとして2001年にサービスが開始された。当初は,サーバーの不具合などが頻繁に発生して多くのプレイヤーに嫌われたが,諦めることなく続けられた地道なチューンナップが功を奏して定着し,これまでに三つの拡張パックがリリースされている。
この世界の中で活躍する集団,GSPというギルドを紹介しよう。正式名称はGridStream Productionsという企業のようなネーミングだが,Anarchy Onlineの中でダンスパーティを主催するに留まらず,実社会ではNPO法人として登録されている。
主催者であるアメリカ人の"Tarryk"ことLan Kozar氏を始め,計15人程度というこぢんまりとした規模のこのグループ,ほとんどが実生活でもプロのDJとして活躍する人達で,毎晩Anarchy Onlineのルビ−カと呼ばれる世界のクラブに現れては,ライブ音楽を提供している。
特定のキャラクターの近辺にいる人達には全員に音声データを聞かせられる"GridCasting"というゲームシステムを利用し,実際に自宅にあるミキサーにつなげて配信。プレイヤー達は,その音楽を聞きながらチャットしたりくつろいだりできるのである。もちろんその日の担当DJによって選曲は異なるし,複数のDJが競演することもある。グループでのダンスに専念するほかのギルドと共同で,大きなイベントを開いたりもする。今では,Anarchy Onlineになくてはならない余興となっているのだ。
「Second Life」の講義風景。学生達のキャラクターの位置はバラバラだが,こういった距離や方角などがなんの不都合にもならないのがバーチャル世界というもの。その分,討論も自由で活発になるようだ |
アメリカでサービスインされている「Second Life」での事例も面白い。
日本では馴染みのないMMORPGだが,本作は「The Sims 2」(邦題 ザ・シムズ2)を連想させる3Dのバーチャルワールドで,さまざまな遊びを楽しめるのだ。自分で武器を作って,特設のアリーナで銃撃戦を行ったりもできるが,その神髄は建物の設計やインテリアデザイン,キャラクターのルックスやアニメーションに至るまで,すべてプレイヤーの好みにカスタマイズできること。これらは,ゲーム内で知的財産として認証されることも可能なのだ。空手,スノーボーディング,ディナーパーティに至るまで,考え付くことはすべてできるようなシステムである。
アメリカでもSecond Lifeはそれほど大きな話題とはなっていないものの,年齢の高いインテリ層を中心にコミュニティが出来上がっており,ゲームに接続してみると,誰もが親切に接してくれることに驚く。最近ではSecond Lifeの開発元であるLinden Labs社が教育機関にも積極的に働きかけており,建築,コミュニケーション,社会学,コンピュータサイエンス,ゲーム開発といったさまざまな分野で,大学や専門学校による特別講義を,ゲーム内で開催できるようにしているのだ。
その学術的利用はプレイヤー達の口コミによって加速度的に広まっており,最近ではスタンフォード大学などが主催するparc(Palo Alto Research Center:パロアルト研)のPlayOnプロジェクトの会合が,Second Lifeの仮想世界の中で定期的に開かれるようになった。また,「EverQuest」(邦題 エバークエスト)のGNP試算などで話題になった経済学者エドワード・カストロノヴァ(Edward Castronova)氏らも定期的にパネルを開いたり,ゲーム開発を志す学生達が"Thiefシリーズ"でお馴染みのゲームデザイナー,ハーヴィー・スミス(Harvey Smith)氏を迎えての公聴会を行うなどしている。
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アメリカの各リサーチ会社が想定する,2004年度のオンラインゲーム市場規模(※2003年度は約10億ドル)
―Source:Los Angeles Times誌
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思えば,NapsterやWinny,2ちゃんねる,Blog,さらにはPCゲームのMOD制作に至るまで,これらは元々コアになるプログラムを制作した仕掛け人の発想を,はるかに超えるアイデアでもってユーザーが利用してきたからこそ,大きく発展したと考えられる。商業的な思惑とは離れたところで,ユーザー達の「自分達で作り上げてきた」という自信が,このようなサブカルチャーを生み出しているのではないだろうか。
Ultima Onlineでの逢瀬,Anarchy OnlineのDJ,Second Lifeの学術会議に,同じような社会現象を感じ取れるのである。
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