[AOGC#5]エンターブレイン浜村氏,オンラインゲームの展望を語る
エンターブレインの代表取締役社長,浜村弘一氏
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AOGCの二日めとなる本日(3月1日),朝1番のセッションとして,エンターブレインの代表取締役社長,浜村弘一氏の基調講演が行われた。 「ゲーム業界の人だと,まだ寝ている時間ですね。まぁおはようございます」と軽い語り口で話し出した浜村氏。本日の趣旨は,雑誌を中心に多くのメディアを抱える同社がこれまでに集積してきたデータ,またCESAの公開データを例に挙げ,それらの数値はどのように分析されて生まれたものなのか,また本当に信用してよいものなのか,を考えようというものだ。
■古い計算方法の大きな落とし穴
まず浜村氏が提示したのは右のグラフ。1本のグラフをハードウェアとソフトウェアの市場規模を合わせたもので表現した,金額ベースの日本国内市場規模推移図である。グラフから読み取れるのは,ハードウェアは発売後徐々に規模が小さくなる一方,ソフトウェアはハード発売後も現状維持,あるいは徐々に規模が大きくなるという点。また2003年以降のゲーム業界を占うグラフでよく目にする傾向だが,2003年にググッと規模が落ち込み,2004年は停滞。その後2005年,2006年と,新ハードウェアの発売が想定されてグラフが上向きになる,という点だ。
図を前に浜村氏は,このグラフに"オンラインゲーム"の要素が入っていないのが大きな問題点だと言う。氏はこう話している。 「例えばファイナルファンタジー XI(以下,FFXI)などは,日本で20万人のアクティブプレイヤーを獲得していると言われています。ちなみにFFXIは発売当初,"開発に60億という膨大なコストを掛けた割には30万本しか売れなかった。失敗だ"とよく言われていました。しかしスクウェア・エニックスの業績推移を見ると,FFXIの発売後の2002年から2004年にかけてオンライン系の事業がグンと業績を伸ばしているのが分かります。ここでいうオンライン系とは,オンラインゲームおよび携帯などのモバイルコンテンツをひとまとめにしていますが,先ほど示した市場規模推移図には,この要素がすっぽりと抜け落ちている。FFXIはオンラインゲームなのに,パッケージの販売本数だけが見られている状況なんですよ」 また氏は「オンラインゲームの収益モデルは,ディズニーランドと同じ。ディズニーランドが年間パスポートの利用者を増やそうとするように,オンラインゲームは継続することで利益を生む構造なのです」と述べ,こういった従来の市場規模の計算方法が,現在のゲーム市場を語るうえで大きな誤解を生む可能性があると警鐘を鳴らした。
■ニンテンドーDSとPSPのネットワーク機能に見る「ゲームの未来」
次に浜村氏は,DS(ニンテンドーDS)とPSP(プレイステーション・ポータブル)を引き合いに出して,ネットワーク機能の重要性を説いた。 氏は,日本国内において年末までにPSPの普及台数が270〜300万台に達すると予想している。また"任天堂のハードウェアは,ソフトの良し悪しが普及に大きく影響するのが特徴"としたうえで,もしポケモンシリーズが発売されたなら,DSは大化けする可能性があると語った。その場合,DSは450万台以上が出荷され,年末にはDSとPSP合わせて800万台の携帯ゲームが普及。もしかしたらネットワーク機能を持ったハードが1000万台以上出回ることになるとした。日本のゲーム産業にとってこの先1〜2年は,"ゲーム"を定義する基礎のテクノロジが一挙にシフトする可能性がある,激動の時期になるかもしれないのだ。
さらに氏は,「PlayStation 3」,Xboxの後継機「Xenon」,ボタンに捉われない新インタフェースを特徴とする「ゲームキューブ レボリューション」といった新世代のゲームハードも,当たり前のようにネットワーク機能を有している点に注目している。 これは余談だが,任天堂の宮本 茂氏は最近,山内相談役に「いつまでゲーム作っているの?」などとコゴトを言われているらしい。これは"いつまで既存の枠に捉われたゲームを作っているの?"の意であり,現在任天堂もネットワーク,そしてコミュニケーションを主軸においた"ゲームでないゲーム"を模索しているのが分かる。
■キーワードは無線LAN 携帯ゲーム黎明期の今は,ファミコンの時代に似ている
今回のAOGCのテーマはネットワークやオンラインコミュニティだが,浜村氏の講演も最終的には"すべてがネットワークへ向かう"という論に落ち着く。
氏の意見として面白かったのは,今後「無線LAN」が重要なキーワードになる,というもの。かつてファミコンが普及したのは"その手軽さ"が最も大きな要因だったと仮定すると,無線LANによってコードの取り回しや複雑な設定に煩わされることなくゲームを楽しめるというのは,今後ネットワークインフラが整っても重要であるというのだ。 つまりこれは前日スクウェア・エニックスの和田社長がPlayOnlineについて語ったのと同じように,プレイヤーがコンテンツにあらゆる手段で透過的に,かつダイレクトに接触できるのが望ましいと言っているのだろう。 ただ氏は,そういった時期が訪れるのは早くとも2008年以降だという。そしてその"間"を埋めるのが,実は携帯電話なのではないかと予想している。 その理由として浜村氏は,昨今の携帯ゲームが単なる"無料ゲーム集"や"レトロゲーム集"から脱して,家庭用ゲームのレベルに近づいてきている点を挙げている。さらに「携帯電話でニンテンドーDSレベルのゲームができる日も遠くない」と携帯電話のハードウェア,ソフトウェアの進化に期待感を顕(あらわ)にした。 また携帯電話などで利用する小さなネットワークコンテンツは,3〜4人という人員,数百万円程度という低コストで制作できるとして,これはファミコン時代を彷彿とさせるものがあるという。最近のクリエイターと話をすると,まるで20年前のスクウェアやコナミの人と話しているようだ,というのが浜村氏の印象である。
まとめとして浜村氏は,冒頭のグラフにオンラインゲームの要素を加えたものを取り出し,こう締めくくっている。 「オンラインゲームや携帯ゲームなどの要素をキチンと"ゲーム市場"として加えると,未来のゲーム市場は現在の予想よりも1000億円ぐらい増える計算になります。新しいハードウェアが登場と消費を続けていくと,最初に提示したグラフは徐々に右肩下がりになると思いますが,ここにオンラインゲーム分を合算すると,最終的には右肩上がりになるはずです。現在のパッケージタイトルの売り上げを見ると,リメイクタイトルが上位を占める傾向が強く,非リメイク,非タイアップのゲームは100本のうち3〜4本しかないのが現状です。これは決して健全とはいえないでしょう。オンラインゲームはこういった現状の打破にも大きく寄与するはずです」
本セッションは,現時点でゲーム業界を牽引しているポジションにある氏らしい,総じてプラス思考の講演であった。 ただ一つだけ心残りなのは,氏の最後の言葉にある「新しいハードウェアが登場と消費を続けていくと,市場規模のグラフは徐々に右肩下がりになる」という部分への言及がなかったことだ。"オンラインゲーム分を合算すると右肩上がりに〜"という論理は,裏を返すと,現状維持のまま,つまりオンラインゲームが停滞した場合,パッケージゲームは衰退の一途を辿るということでもある。揚げ足を取るようではあるが,問題点を明確にする意味でも,業界の抱える"マイナス面"に氏の立場から切り込んでほしかったというのが,正直な感想だ。
(Gueed / Photo by kiki)
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