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[AOGC#8]コーエー松原氏,「アジア市場への進出に必要な要素」
2005/03/02 23:40
コーエー執行役員の松原健二氏
 2月28日,3月1日と二日にわたって開催されたAOGC(アジア オンラインゲーム カンファレンス)。その二日め,コーエーでネットワークゲーム担当執行役員を務める松原健二氏によるセッション「Japan発Onlineゲームを成功させる戦略」が開かれたので,その模様をお伝えしよう。

 コーエーの松原氏といえば,「信長の野望 Online」(以下,信On)のプロデューサーを務めたのち,コーエーが携わるオンランゲーム全般の責任者として執行役員のポストに就いた人である。また氏は同社のゲームに現場として関わるだけでなく,ブロードバンド推進協議会主催の「オンラインゲーム専門部会」やIGDA主催の「テクノロジー研究会」などの活動にも積極的に参加している。ここのところ,オンラインゲーム業界にまつわるイベントで最もよく見かけるゲームメーカー関係者である。

 この日のセッションでは,アジアをはじめ自社のタイトルをグローバルに展開すべく活動を行っている松原氏らしく,アジア市場の注目すべき点と長所/短所についての考察が語られた。
 AOGCがアジアのオンラインゲームをテーマにしているため,"アジア市場の特徴"は多くのセッションで語られてきた。ただこのセッションは,実際に中国や台湾などへの進出を間近に控えたコーエーの松原氏。一般論だけで終わるはずはないと,発言に注目が集まるのは当然の話だ。セッション会場はもちろん満員,立ち見の受講者が部屋の周りをぐるっと囲むような状況で,講演が行われた。

■グローバルで成功した最初のタイトル「World of Warcraft」
 「今日はノドが痛いんです。この理由はあとで説明します(※)」という松原氏の不思議な言葉で始まった,本セッション。
 まず氏が取り挙げたのは,意外にもBlizzard EntertainmentのMMORPG「World of Warcraft」(以下,WoW)だった。WoWは,世界的にヒットしたRTS「Warcraft」の世界観を継承したMMORPGである。氏もセッションで語っていたが,WoWの圧倒的なパワーはその"グローバル性"にある。WoWの韓国でのヒットには,MMORPGである点,またベースとなったWarcraftが同国で親しまれている点など,さまざまな成功条件がうまく重なったという背景もあるが,アジアと欧米の両方で成功したという極めて特異なタイトルであることは確かだ。

 松原氏がいきなりWoWを引き合いに出すのは,同社の信Onや「大航海時代 Online」などが狙っているマーケットが,日本,中国,台湾,韓国といったアジア圏だからである。ただアジア市場に受け入れられた国産のMMORPGは少なく,現状では(他メーカーだが)スクウェア・エニックスの「クロスゲート」が,中国/台湾市場において唯一といっていい成功タイトルとなっている。

 そこで,スクウェア・エニックスのオンラインゲームの売り上げ高が提示されるわけだが,このデータがまた興味深い。
 データによると同社の年間売り上げ高は140億となっているが,これを各サービス圏に分けて比較すると,中期の決算で,アジア圏は同社の売り上げの3%しか占めていないことが分かる。携帯コンテンツなどを含めても,せいぜい5%程度だ。
 ここで同時に,中国のオンラインゲーム市場が1.6億USドルであるとデータが示される。つまり日本に比べて中国の市場が圧倒的に巨大にも関わらず,スクウェア・エニックスの売り上げの大半は,日本市場に依存しているということ。つまり「市場規模の比率=売り上げの比率」という関係が成り立っていないのだ。

(※)「大航海時代 Online」プレオープンサービス直後にハードウェアのトラブルが発生。徹夜で障害に対応したときに,風邪をひいてノドをやられたとか。



■アジア市場進出の問題点
 こうやってアジア市場と売り上げの関係を見ると,日本のゲームがアジア市場にいかに浸透していないかが分かると松原氏は語る。氏は「なぜ浸透しないか,なぜ進出が難しいか」という問いに対して,ユーザー単価の違い販売管理費の違い,そしてゲーム性やビジュアルの嗜好(しこう)の違いという3点を挙げている。

 まずユーザー単価については,これはもう単純に,"日本の半分"にまで落ち込んでしまうというもの。

 次に販売管理費。これは中国が極端にゲームのプロモーションに力を入れるという,同国の文化が影響している。オンラインゲームイベントに遠方からプレイヤーを招くために,高い旅費を負担するなど,日本では考えられないプロモーションが行われているとか。
 またプリペイドカード,そして従量制というのが中国オンラインゲーム運営の定石である一方,日本や韓国ではクレジットカードやWebMoneyでの決済が主流。この違いが,流通コストの面で大きな負担となるという。

 また根本的な問題として,アジア圏ではゲーム性やビジュアルへの評価が小さく,ゲームそのものよりもオフラインイベントなどのコミュニティ要素を重視するため,国産のゲームのクオリティが,直接的なアドバンテージにならないという。松原氏は「これは中国や韓国の傾向かもしれない」としているが,PC-BANGなどのコミュニティで目的意識を生む道具としてオンラインゲームが発展したという,これらアジア圏の文化的背景が生んだ結果なのだろう。

■アジア市場進出の長所/短所,展開の方針
 しかしそれでも,アジア市場が魅力的であるのは変わりないと松原氏は言う。松原氏の主張で面白いのが,アジア市場に進出した場合の長所として,ゲーム性やビジュアルで同社のゲームと競合するパブリッシャが少なく,差別化が図りやすいという見解を示していることだ。これは"日本のゲームの特徴を特徴としない"アジア圏の傾向を逆手にとったものである。現地のパートナーとの提携,低コスト流通チャネルの確立,そして土地柄にあったプロモーションを行えば,その特徴が武器に変わるというのだ。
 また展開の足がかりとして"現地開発"(子会社による運営と営業,子会社による新作タイトル開発)も重要だとしている。ここでは2月28日に中国での子会社設立を発表したスクウェア・エニックスを引き合いに出し,国内メーカーが同じ認識であることを強調して,論を裏付けている。

 結論として松原氏は,
 ・企業,タイトルブランドの確立
 ・グローバル展開を見越したゲームデザイン
 ・自社運営の足がかりとしての,パートナーシップ

がグローバル展開には重要だと述べた。

 日本のゲームはプロセスよりも結果を重視するタイプが多く,キャラクター育成要素をはじめ"人と競い合う"というプレイスタイルになりがちという部分を,氏は問題視している。アジア市場の展開には,"人と競う"よりも,"人と楽しむ"というコンセプトをもったゲームデザインが必要だと締めくくった。

 現在,コーエーは最新MMORPG「大航海時代」のプレオープンサービス(オープンβテスト相当)を実施中(記事は「こちら」)。同タイトルの交易を中心としたゲーム性,また「信長の野望 Online 〜飛龍の章〜」に追加された"屋敷"(持ち家)要素などは,氏のいうグローバル性を反映したものである。
 またコーエーは,2月15日にシンガポールにオンラインゲーム開発スタジオKoei Entertainment Singaporeを設立するなど,アジア市場進出のため着実に歩を進めている。氏曰く「一番のターゲットは中国市場」。直近では,アジアを見据えてデザインされている「大航海時代 Online」の動向に注目していきたいところだ。
(Gueed / Photo by kiki)


「信長の野望 Online」
 →公式サイトは「こちら」
 →紹介ページは「こちら」

「信長の野望 Online 〜飛龍の章〜」
 →公式サイトは「こちら」
 →紹介ページは「こちら」

「大航海時代 Online」
 →公式サイトは「こちら」
 →紹介ページは「こちら」


【上段】「信長の野望 Online 〜飛龍の章〜」【下段】「大航海時代 Online」
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http://www.4gamer.net/news/history/2005.03/20050302234017detail.html