[GDC#11]「Unreal Engine 3」は次世代主力エンジンとなれるか
1997年に登場以来,「Tom Clancy's Splinter Cell」「Lineage II」「Harry Potter:The Chamber of Secrets」など50本以上の作品にライセンス供与されてきた,Epic Games社の"Unrealエンジン"。 最近では「UnrealEd」関連のツールセットも整い,ミドルウェアとして次世代ゲーム機市場への参入を試みている。もちろん日本の開発者達への働きかけも行われており,事業開発副社長のジェイ・ウィルバー(Jay Wilbur)氏によると,すでに4社がライセンスを受けることが決定しており,近いうちにインタフェースのローカライズもされる予定だというから驚く。
GDC 2005では,Unrealエンジンのメインプログラマであるティム・スウィーニー(Tim Sweeney)氏の講演「Game Technology and Content for the Next Generation」があるなど,Epic Games社の存在感が増してきているのが分かる。これまでは毎年エキスポ内にクローズド形式のブースを構えていたが,今年はレクチャーを聞きに往来する人が多いホール脇に移動して,誰の目にも付きやすいのが特徴だ。 スウィーニー氏は,「Unreal III」のリリースを2006年初頭と発表しており,同社プロデューサーのクリフ・ブレゼンスキー(Cliff Blezenski)氏は,「近い将来,Unrealシリーズとはまったく関係のないフランチャイズを発表することになっている」と話す。
5月のE3 2005前後から,「Unreal Engine 3」に関するさらに詳しい情報が出てくることだろうが,今回も新しい情報が出なかったわけではない。とくに,今回のデモはボヤけたプロジェクタの映像ではなく,PCモニターを通して拝めたことに意義があった。 まず,以前から公開されていた大聖堂の廃墟シーンで,4人のマリーンが戦闘する場面が紹介される。これは,Unreal Engine 3で動作しているプレイアブルデモとしては初めてのものである。テクスチャの美しさや建物の高さ,照明効果の見事な様子に見入っている暇もなく,廃墟の中から突然発砲してきた敵のグループ。ここで,このデモがリアルタイムでキャラクターを動かしていることに気づく。 プレイヤーと仲間は,ところどころに残る壁を盾にして応戦することとなり,このレベルを通してマリーンキャラクターの肩越しから見た三人称視点カメラでプレイされていた。陰に隠れた敵はよく見えないものの,銃口から発せられる光や弾丸の跳ね返りなど,臨戦状態であることが十分に表現されている。カメラの持ち込みが禁止だったのでうまくお伝えできないが,これは近々発表される次期新作そのものであるともいうウワサもある。
プレイアブルデモの後半は,廃墟の中をバギーで走り回るというもので,これは都市マップの大きさを証明し,MMORPGなどのゲーム制作者に完全にシームレスな世界を見せつけた。どこまで行っても「Half-Life 2」のようにローディングが始まることはなく,遠方のオブジェクトはLOD(Level of Detail)技術によってオンフライ(On The Fly)でミニマム化されていることが説明された。もちろん,ハードウェアの性能に合わせてLODが自動的に調節されることになる。 バギーから降りたあとは,カメラが序々に引き上げられて街の全体像が映し出されるが,Half-Life 2のような東欧風の町並みが,イスタンブールのようにエスニックに味付けされたような雰囲気だ。何千ポリゴンという手前の建物と,遠方にあるLODでポリゴン数が低められた建物との違いはほとんど認識できず,ただただ世界の広さを感じさせる内容であった。
このデモのあとは,昨年とほぼ同じテクスチャ関連の技術デモとなり,スペキュラー,ディスプレイスメント,ソフトシャドウ,Glow(発光),Fluid(水流),ビデオなど,さまざまなシェーダ/マッピング効果を施したキュービックは,すでに公開されている画面写真などでもお馴染みだろう。 そして奥の部屋に入ると,背中にロケットを取り付けた,「指輪物語」のケイブトロールのような巨大なモンスターが佇んでいる。7万ポリゴンで制作したキャラクターモデルのテクスチャをキャプチャし,5000ポリゴン程度に落としたうえで再度ノーマルマッピングを貼り付ける。こうすることで,ポリゴン数を抑えながらも筋肉やチェーンなど細かい部分の表現も残せるわけである。 さらに,物理エンジンのデモが行われた。Epic Games社は,Unreal Engine 3のために,これまで提携してきたHavokエンジンではなく,Ageia社の「NovodeX」という物理エンジンツールの採用を決めている。このNovodeXは,Ubisoft社やセガ社も正式採用を決定している新興の物理エンジン。人体ダイナミクスや水流ダイナミクス,衣服のシミュレーション,ユニバーサル・コリジョン・ディテクションなどを効率的に処理する。今回のUnreal Engine 3で初公開となった,岩雪崩や重力操作などのデモも, NovodeXの恩恵を受けたものだと推測できる。
Unrealエンジンの編集ツールとなる「UnrealEd」は,WYSIWYG(What You See Is What You Get)を課題に制作されたもので,プログラミングの知識がないデザイナーやアーティストでも,AIパス,照明源,オブジェクトなどの配置調整をリアルタイムで手軽に行える。3ds maxやMayaのプラグインも完備し,モデリングの変更もツール内でできる。シェーダのパターンをマネージメントする「Visual Material Editor」や,スクリプティングシステム「Kismit」などの機能も取り揃えており,総合的なミドルウェアパッケージへと進化しているのだ。 詳しくは,Unrealエンジンの公式サイト「こちら」を見てみれば分かるが,ライセンス料は35万ドル(約3600万円)ほどに設定されており,これにプラットフォームごとのロイヤリティなどが加算される。これだけのエンジンをゼロから開発するには,何人ものプログラマが数年にわたって従事せねばならず,とくに開発コストがうなぎ上りの昨今では,エンジンライセンスは非常に合理的だと考えられる。Epic Games社は,次世代ゲーム機の時代を,どのように乗り切っていくだろうか。(奥谷海人)
「Unreal III」 →紹介ページは「こちら」
「GDC 2005」 →公式サイトは「こちら」 →紹介ページは「こちら」
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