[GDC#15]MMORPGの開発者達がゲーム世界の作り方で大論戦
活発な議論を繰り広げる有名MMORPGの開発者達。左から,スター・ロン氏,ラフ・コスター氏,ジャック・エマート氏,マーク・ジャコブズ氏、そしてアンソニー・カストロ氏
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MMORPG開発者の間では,ゲームの世界をプレイヤーに分け隔てなく供給するか,それとも即時的に小さく区切られた世界を作り出して遊ばせるのかは,オンラインゲームのデザインを決定していくうえで重要なポイントの一つである。 前者は,「Ultima Online」以来主流を占めてきた"パーシステント・ワールド”(Persistent World / 恒久的世界),後者は「Anarchy Online」以降ポピュラーになりつつある,サーバーの一区画を切りとってミッション専用の小さな世界を作り出し,ほかのプレイヤーに邪魔されずに仲間だけで遊べる場所(いわゆるPrivate Area)にする"インスタンシエイテッド・ワールド"(Instantiated World / 即時的世界)と呼ばれている。
GDC最終日に,「Persistent vs. Instantiated Spaces:The Great Online Game Debate」(恒久的なスペースか,即時的なスペースか:オンラインゲームについての重要な討論)と題して行われたパネルディスカッションでは,この問題について有名開発者達が白熱した議論を繰り広げていた。 元Origin Systems社で現在はNC Soft社のスター・ロン(Starr Long)氏がモデレータを務めるこのパネルディスカッションの参加者は,「Star Wars Galaxies」を仕掛けたSony Online Entertainment社の制作責任者ラフ・コスター(Raph Koster)氏,「City of Heroes」のCyptic Studios社ディレクターであるジャック・エマート(Jack Emmert)氏,「Dark Age of Camerot」のMythic Entertainment社マーク・ジャコブズ(Mark Jacobs)社長,そしてVerant Intaractive社で「Star Wars Galaxies」の開発に携わり,現在はElectronic Arts社で「Ultima Online」のLive Teamプロデューサーを務めるアンソニー・カストロ(Anthony Castoro)氏という豪華なメンバーだった。
このディスカッションでは,最初こそパーシステント・ワールドとインスタンシエイテッド・ワールドの良い部分,悪い部分が一般論的に語られていたが,次第にそれぞれの立場をハッキリさせた形で討論が行われるようになっていった(おそらく彼らが携わっているプロジェクトなどの背景も立脚点に影響を及ぼしているのだろう)。GDCで行われるパネルディスカッションには,遠慮などもあってかみ合った討論にならないことが多いものの,狭いMMORPG市場にあって気心の知れた同業者同士ということもあるのだろう。非常に実のある討論になっていた。 ほかのプレイヤーを妨害したりゲーム世界を破壊したりして,ほかのプレイヤーが嫌がる様子を楽しむグリーファー(Griefer)がいなくならなければ,インスタンシングの流れは変わらないのではないかという質問に対しては,Ultima Online以降のデザイナー達がグリーファーに対して有効な手立てを考えていないのではないかというストレートな意見や,「それでもパーシステントな世界はMMORPGの未来である」という理想などが語られた。 確かに,インスタンシングは他人に邪魔されることなく仲間だけでミッションに専念できる分,その世界で与えられたストーリーを満喫できるという利点がある。実際,NC Soft社から近々リリースされる予定の「Guild Wars」のように,まるで「Diablo」に回帰してしまったかのような完全にインスタンシエイテッド・ワールドのゲームもある。Guild Warsが今後,プレイヤー達からどのように評価されるのかは要注目だが,一方でパーシステントな状況でまったく知らないプレイヤー達と気楽に会話し,行動することこそが,MMORPG本来の遊び方だという意見にも同調できる。
パーシステント・ワールド対インスタンシエイテッド・ワールドという問題は,グリーファーの存在やヒロイックな体験,ほかのプレイヤーとの交流などという,ゲームデザインの企画時に緻密に計算するのが困難な前提をいくつも含んでいる。だが,少なくとも今回の討論からは,開発者達が皆,面白いMMORPGを作るための試行錯誤と努力を絶やしていないことがうかがえた。(奥谷海人)
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