[GDC#16]ウィル・ライト氏の新作「Spore」がついに公開!
■出来合いでなくプレイヤーが作る物語こそ有意義
GDCのレクチャーは,実際に出席してみないと面白いのか面白くないのか分からない。最近では,参加者を飽きさせないようビジュアルやサウンドを利用した講義も増えてきたが,ことウィル・ライト(Will Wright)氏の講演に関しては,そんな心配はまったくない。いつも抱腹絶倒のうちに時間が過ぎていくのが氏のプレゼンテーションのうまさであり,とくに,最初は何の関係があるのか分からないようなネタで笑いを取りながら,本題で見事にまとめる話術は芸術の域にさえ達している。 今回のライト氏のヴィジョントラック最終講演は,「The Future of Content」(コンテンツの未来)というタイトルだ。序盤はオーソドックスに「プレイヤーが求める価値は,"質" "量" "オーナーシップ"の立体的なバランスによるもの」と説明し,「The Sims」(邦題:シムピープル)の成功は,プレイヤーが自由にコンテンツ(家具やキャラクター)を制作でき,オンラインでトレードできるような仕組みになっていたためであることを例に挙げた。そして,「オーナーシップは,制作者側が用意するストーリーよりも,もっと意味のある物語を生み出す」という力説が,後段につながっていく。
さらに,「ゲーム産業の創草期には,データとコードの比率が1対1くらいだったのが, CD-ROMの登場によって,今では100対1といった妙な状態になっている」と説明し,肥大したメディア(記憶媒体)の容量はアートやサウンドなどデータばかりを増やし,アルゴリズムよりも重要になってしまったとライト氏は嘆く。そのうえで,ドイツやオランダを中心とした地域で「64KBという制限の中で,どれだけのデータを詰め込めるか」という20年前と同じ条件でのプログラミングに熱中する,奇妙なアマチュア開発者集団「The Demo Scene」を紹介した。 ウィル・ライト氏の最新作は,このThe Demo Sceneの活動に触発され,強力なプロシージャル(手続き生成型)モデリング機能を駆使して制作されているという。その作品というのが,「4Gamer magazine」(2001年冬号)のインタビューで,筆者に初めてその存在を示唆してくれた「Spore」である。 Sporeを1語で説明するなら,"進化シミュレーションゲーム"となる。しかし,今回のデモンストレーションに際してライト氏は,「Sporeは,なんとなく"ワリオウェア"に似ています。私の好きなゲームを参考に,さまざまなタイプのゲームを詰め込みました」と語っていた。もちろん名作をそのまま真似たというようなものではなく,それぞれのゲームシステムの良い部分20%ずつを抽出して,100%のゲームを作り出したのだという。もっとも,このSporeには実際には六つの"フェーズ"があるので,ライト氏は"120%"のエンターテイメントソフトであることを彼独特のウィットで示唆しているのかも知れない。 Sporeの内容をフェーズごとに説明していこう。
■六つのフェーズで微生物から銀河の覇者へと進化
■Tidepoolフェーズ プレイヤーは,まずアメーバのような単細胞生物からプレイを始め,薄い黄緑色の液体の中を動き回りながら,球状の物体(核?)を攻撃して糧とする。この球状の物体は一方向に流れており,それを破壊すれば音が出て破裂する。なんとなく音ゲーのようにも感じたが,そのコアになっているゲームは「パックマン」であるという。ゲーム画面も,縦横にしか移動できない平面だ。 しばらくプレイを進めていると,この生物が多細胞生物へと変異する。プレイヤーは,「パレット」と呼ばれる左側の編集ツールを開いて,そこにアイコン形式で表示されている「突起」「ヒレ」「尾」などのライブラリから好みのパーツを選んで自分の生物に取り付け,より攻撃性や移動能力の高い複雑な構造にするのである。
■Evolutionフェーズ プレイヤー操る生物の進化と並行して地球環境もずいぶんと変化したらしく,このフェーズでは魚や海草などの原初形態で溢れる原始の海の中を,ライト氏がコントロールするトカゲと魚を掛け合せたような生物が泳いでいる。色もカラフルで,Tidepool時代と比べて着実に進化の過程を踏んできたのが分かる。 このフェーズは,Tidepoolフェーズから一転して完全3Dの世界となっており,プレイヤーは泳ぎ回りながら弱い生物を捕食する。ただし,今度は相手も反撃してくるので,ある程度の戦略性が必要だ。戦闘をとおして自分の能力を強化できるという部分は,「Diablo」のようなアクションRPGのゲーム性に近いといえる。 このフェーズのパレットは,さらに生物を複雑/高度に進化させる内容。骨格や皮膚のテクスチャ,目玉,アンテナ,腕などが細部まで調節でき,尾びれは尾となり,ヒレは手足に変化する。 手足が発達すると,もはや海中での生活は困難になり,プレイヤーの生物は陸地へ上がってくる。陸地に上がれば,恐竜時代のような裸子植物が茂っており,さまざまな生物が茂みで動き回っている。これらの弱小生物を狩れば,地面には赤い血溜まりが出来る。さらにデモでは,口に動物の死体をくわえたまま引きずるというような,いかにも動物的な行動もシミュレートされていた。
■Tribalフェーズ
さて,しばらく活動した後に,ライト氏の操る生物は「メイティング・コール」によって,同種だが異性の生物を探し当てていた。彼が制作していたのは3本足で尾を使って攻撃する奇妙な動物だが,メイティング・コールのキーを押すことで,自分と同種のモデルがマップ上のどこかに生成されるようだ。メス(?)の生物はすでに巣の中に座っており,何かの合図を繰り返して承認されれば,晴れてメイティングが始まる。 ここでライト氏は,「すべての進化はメイティングによって行われる」と打ち明けた。つまり,多細胞生物となった後の進化は,フェーズに関係なくすべてメイティングの後に行われるということだ。ここで氏が言う"進化"とは,パレットで生物の調整をする機会のことだろう。 この時期はTribalフェーズと呼ばれており,このメイティングの後には同種の生物が誕生する。ネイティブアメリカンのテントのような建物が建設できるなど,パレットのオプションは増えている。どうやら脳も大きく発達したようで,槍を与えてやれば振り回す仕草を始め,ドラムを与えれば叩き始める。その複数の概念が交わると,ドラムの音に合わせて槍を突き上げながら焚き火の周りで踊り始める。まるで「Populous」のようだ。
■Cityフェーズ デモンストレーションはフェーズごとに細かく区切られたものであったため,あるフェーズから次フェーズにどうやって切り替わっていくのかは判断できなかったが,このCityフェーズまでにはプレイヤーのツールが大幅に増えており,都市建設シミュレーションの簡略版のような様相になっている。紛れもなくライト氏自身の「Sim City」である。 町の建物は,すべてプレイヤーによってデザインされる。自然と調和した曲線の多い建物も作れるし,さらに進化すると近代的な工場やビル建てられる。これらの「プレイヤーコンテンツ」は,The Simsと同様にプレイヤーがアップロードできるようになっていて,プレイヤー同士で自由にトレードできる。プレイヤーのクリエイティビティも,かなり刺激されるのではないだろうか。 このフェーズ以後,ライト氏が生物を進化させることはなかったが,進化パレットが都市建設パレットへと交代するのだろうか?
■Civilizationフェーズ
自分達の生活圏(都市)が出来ると,やがてその外の世界を探索したくなってくるのが文明人(生物)の常というもの。カメラ視点をズームアウトすれば,大気圏を突き破って惑星全体を見られるようになる。都市をクローズアップしている時点でも地平線は歪んで見えたのだが,そもそも惑星はかなりデフォルメされていて,都市と比較しても極端に小さくまとめられている。 スクロールして惑星を回転させると,そこには幾つかの都市が建設されているのが分かったし,近所の都市国家はプレイヤーの都市を破壊するために戦車を送り出していた。この惑星ではすでにプレイヤーと同型の生物が繁栄していたのか,惑星内の都市であれば皆同じ姿をしている。しかし,その文化や"民族"の性格はかなり違う。 この時期は,ボードゲームの「Risk」や「Civilization」のような戦略性の高いゲームに近く, Civilizationフェーズと呼ばれている。ただし戦闘はリアルタイムだ。攻め寄せてくる戦車に対して,ライト氏も蜂のような形状をした飛行機で応戦しようとしていたが,まだAIができていないのでそのまま飛び去ってしまった。
■Galacticフェーズ 自分の住む惑星の覇権を確立したら,今度は宇宙へと目を向けるのが文明人(生物)。視点をさらにズームアウトさせて,太陽系全体を表示し,ここからはGalacticフェーズに入る。UFOのような宇宙船が登場して別の惑星へと移動を開始,うまく何もない状態の惑星を見つけるが,ここにはそもそも大気もないので,まず「バイオドーム」を設置しないことには生活できない。 しかし,ライト氏らしいのがこの後の処置で,惑星に向けて強力なミサイルを撃ち込み,その衝撃で地表に火山を作り出した。そこから噴出する火山ガスが大気を作り,見る見るうちに灰色の惑星が緑に覆われた大地へと変貌していくのだった。 こうやって太陽系を手中に収めたら,次は別の恒星系へと進出する。太陽系と別の星系の間には,爆発直前の星など危険地帯が存在し,360度自由に動き回れる宇宙空間ながら絶妙なマップになっているのに気づく。宇宙船をナビゲートしながら到着した未知の星系には,すでにまったく種類の違う生物が都市を築いており,少々近寄りがたい感じになっていた。 そのため,ライト氏は宇宙船を都市の上空に停泊させ,映画「未知との遭遇」のようなパイプオルガン風の音を出して交信を試みた。ところが意思疎通はできず,プレイヤーの宇宙船めがけてミサイルが飛来する。たまらず宇宙へ逃げ出したと見えたライト氏だが,実は平和的な交渉が決裂したため,彼はほどなく惑星そのものを超強力な砲撃で抹殺してしまったのである。 会場の拍手と笑いが収まらないうちに,ライト氏はさらにカメラをズームアウトさせて,銀河系の全体図を表示させた。この銀河を制覇するには,一体どれくらいの時間がかかるのだろう? 単細胞から宇宙の支配者へ……。Sporeの可能性は無限大に広がっている気がした。
■プレイヤーの創造性を生かす生起型のゲームデザイン
Sporeの編集ツールは,使いやすい大きめのアイコンで統一されている。カーソルで引っ張って球体を卵型に変形させたり,尾や足の長さを自在に調節したりできる。ここで,注目すべきは,生物のデザインやアニメーションパターンがすべてプロシージャルに生成されることにある。その生物が3本足であろうが8本足であろうが,専用のアニメーションが用意されているわけではなく,特殊なアルゴリズムで自動的に調節されているのだという。結果,プレイヤーのクリエイティビティに柔軟に対応し,通常なら数MBほど必要になるデータ容量も,1KBほどに抑えられるとのこと。 この,プレイヤーのクリエイティビティやイマジネーションを開花させるゲームソフトというのが,Sporeの基本的なコンセプトだと思われる。生命の壮大な進化を楽しみ,自分が制作した生物について,プレイヤーが自分なりの解釈でストーリーを導き出す。さらに,ツールを使ってさまざまなデザインを生み出し,それをオンラインでほかのプレイヤーと交換することでコミュニティを形成し,総合的なゲーム体験に厚みを持たせるわけである。
ウィル・ライト氏は,筆者の質問に答えて「寄り道せずに最短距離でゲームを進めれば,1時間ごとにメイティングのチャンスが訪れて新しい生物を生み出せるが,ウロウロしたりツールでデザインを試したりする時間もあるだろうから,プレイヤーによって進行ペースは大きく違ってくるはず」と話す。また,「今年のE3で公開し,来年のE3でも見せることになるかな」と,具体的ではないにせよ,リリース時期は2006年後半であることを匂わせた。 ライト氏特有のユーモアが満載で,大人から子供まで,男性も女性も関係なく楽しめるソフト。壮大で一貫したテーマながら,さまざまな要素が詰まった多様なゲームプレイ。プレイヤーの創造力(クリエイティビティ)と想像力(イマジネーション)を刺激するグラフィックスやインタフェース……。会場でギュウギュウ詰めになりながら見守っていた開発者達も,素直に遊んでみたいというのが感想だったのではないだろうか。彼は,「昔持っていたアイデアを,もう1度引っ張り出して練ってみるのも悪くないと思いますよ。開発技術は,知らないうちに我々の想像を追いかけてくれているものです」とセミナーを締めくくった。(奥谷海人)
「GDC 2005」 →記事一覧は「こちら」 →公式サイトは「こちら」
|
|
|