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ATI,ゲームや動画に有効な高画質化技術「Avivo」発表
2005/09/20 19:00
 ATI Technologies(以下ATI)は2005年9月20日,「Avivo Technology」(アヴィヴォ テクノロジー,以下Avivo)という名の新技術を発表した。これは一言でいうと,ビデオ素材の入力からディスプレイへの最終出力をハードウェア支援するもの。「こちら」の記事で紹介した,登場が噂されるATIの次世代グラフィックスチップや,同社の次世代ビデオ信号処理チップに搭載される予定だ。
 ATIは発表に先だって,プレス向けの事前発表会を行った。会場ではATIのデスクトップディスクリートグラフィックスマーケティング部 プロダクトマーケティングマネージャ Vijay Sharma(ヴィジェー・シャーマ)氏によるプレゼンテーションが行われたので,その内容を中心に,Avivoの概要をお伝えしたいと思う。



Vijay Sharma氏
 ATIには,デジタルテレビやセットトップボックス向けのSystem On Chip「Xilleon」という製品がある。コンシューマ向けのチップではないから,知らない人も多いと思うが,AvivoはこのXilleonをベースとしたハードウェアによって実現されるという。映像のデコードからディスプレイ出力まで「出力系」は次世代Radeon,映像の入力からエンコードまでの「入力系」は同社のビデオプロセッサであるTheaterの次世代チップに搭載される予定だ。このため,このハードウェアを搭載していない既存のRadeonだと,Avivoはサポートされない

左:"future"(将来)のATI製品でAvivoがサポートされることを告げるスライド
右:入力(Capture)から出力(Display)まで,すべてのイメージ処理系でAvivoが有効になるとするスライド。上から2段目はNVIDIA,3段目はIntelのグラフィックス機能について言及したもので,他社製品ではほとんどがソフトウェア処理になると指摘する


■ゲーム画面の品質向上が期待できるAvivo
 さて,ここまでの話からは,NVIDIAの「PureVideo」に似ているという印象を持つかもしれない。ビデオ関連技術なら,ゲーマーには関係ないと思う人もいるだろう。だが,実はそうではない。PureVideoが動画再生支援であるのに対し,Avivoは前述したとおり,ディスプレイへの最終出力までサポートする。つまり,Avivoでは,ゲーム画面表示品質の改善につながることが期待できるというわけである。

 Avivoでは,ディスプレイへの出力信号生成が10ビット処理される
 デジタル/アナログや,アナログ/デジタル変換においては,量子化ビット数を大きく取ることで,より高精度な変換が可能だ。一般的なグラフィックスカードでは,8ビット処理されるが,Avivoではガンマ補正,カラー補正,スケーリング,ディザリングといった,ディスプレイの最終表示段階すべてが10ビット処理される。ATIによれば,この結果として,ビデオだけではなく,静止画や3Dグラフィックスにおいても,より鮮やかな発色やスムースな階調表現,エッジ表現が可能になるという。
 例えば,1600×1200ドットの液晶ディスプレイにいっぱいに,1024×768ドットのゲーム画面を出力するというのは起こりえる。このとき,1024×768ドットのゲーム画面は1600×1200ドットに"引き伸ばされて"出力される。この引き伸ばし(スケーリング)処理が高品位になれば,確かにゲーム画面の表示においても,Avivoの効果は感じられそうだ。

左:静止画を用いた,Avivoによるカラー補正のデモ。少々角度がついているので,カラー補正が行われていない右のディスプレイの色がこちらの意図以上に沈んでいるのは申し訳ないが,いずれにせよ,誰の目にも分かるレベルの差だったのは確かだ
右:こちらはデモではないが,スケーリングの品質が高くなることを謳うスライド


 Avivoでは,出力インタフェースの汎用性の高さもウリになっている。著作権保護されたHD映像をHDCPやHDMIからそのまま表示できるだけでなく,大型テレビへの正確な表示なども特徴だ。
 最近のグラフィックスカードはコンポーネント/D端子を持つものが増え,大画面テレビとの接続は容易になっている。だから「なぜ今さら?」と思う人もいるだろう。だが,実際に試してみると分かるが,これらの出力では,表示内容の外周部が欠けてしまう,いわゆるオーバースキャン表示しかできない場合も多い。この意味で,PCと大画面テレビをつないでゲームを楽しみたいといったユーザーは,Avivoに期待していいかもしれない。

■Avivoの基本的な特徴
 とはいえ,Avivoの基本的なターゲットはやはり動画であり,動画周りを抜きにしては語れない。ここからは参考までに,動画周辺仕様についても説明しておこう。

 Avivoは,MPEG-2だけでなく,次世代DVDで採用される「H.264」「VC-1(WMV9)」や,「MPEG-4」コーデックのデコードをハードウェアで支援する。2005年9月時点においてソフトウェア(=CPUパワー)だけでは再生不可能とされる,H.264でエンコードされた動画ファイルであっても,Avivo採用の次世代Radeonを搭載したメインストリーム市場向けPCなら,まったく問題なく再生できるとのことだ。Sharma氏は実際に,3.6GHz駆動のPentium 4をベースとしたPCを使って,CPU使用率30%前後でスムースな再生のデモを行い,Avivoの有効性を強調してみせた。

H.264のフルHD動画ファイル(ATIの社員が撮影したハイビジョンDV形式から変換)を,アップルコンピュータの30インチ型シネマディスプレイに出力するデモ。再生時の負荷は33〜37%くらいで安定していた


 デコードと最終出力の間では,「動き適応型プログレッシブ化」が注目の機能だ。デジタル放送も含めた多くのテレビ放送は,「インターレス方式」と呼ばれる,奇数ライン,偶数ラインのみで構成されたフレームを交互に送出する方法で映像が送信されている。これはアナログテレビ時代から引き継がれている方式だが,「前後するフレームを合成すると1枚の完全な静止画が完成する」仕様のため,1フレームごとに完全な静止画を表示するためには「プログレッシブ化」と呼ばれる処理が必要になるのだ。

 インターレス方式で送信されてくるデータは,実際には奇数ラインと偶数ラインで時間差があるため,プログレッシブ化の精度が低いと,動きの激しい部分では上下のラインでズレが生じ,ぼやけたような表示になってしまう。この点Avivoでは,前後するフレームを参照して映像内のオブジェクトの動きを予測。空いているラインを的確に補間することによって,動きの激しい部分に対応し,結果としてボケのない表示を行えるとのこと。ここまでが,次世代Radeonでサポートされることになる。

 続いて,次世代の「All-In-Wonder」に採用されるであろうTheaterチップが搭載する入力系についても簡単に紹介しておこう。
 Theaterチップでは動画ファイルのハードウェアエンコードが可能になり,前出のMPEG-2やH.264,VC-1(WMV9),MPEG-4のほかにも,WMV9 PMC,DivXのハードウェアエンコードが可能になるようだ。H.264やWMV9のハードウェアエンコードを実現するコンシューマ向け製品は皆無だけに,これも期待できそう。

 もっとも,ATIは「TV Wonder」の存在こそ事前説明会で公言した一方,Theaterチップ搭載の次世代All-in-Wonder Radeonについては何も言及していない。これについては続報を待つ必要がある。

 このほか入力系では「オートゲインコントロール」「3D Y/C分離」「12ビットA/Dコンバート」「ハードウェアノイズリダクション」「デジタルマルチパスキャンセル(ゴーストリダクション)」といった高画質化技術が導入される。高画質指向の強い国内メーカー製のテレビチューナーカードなどでは導入済の機能も多いが,ハードウェアエンコード機能とセットで1チップに統合されればコストメリットは大きいはず。やはりアナウンス待ちにはなってしまうが,拡張スロットが少ないキューブPCやMedia Center PCなどで,テレビ機能の大幅な向上が期待できるかもしれない。

■PureVideoはPoorVideo?
 事前発表会のあと,20分程度と短いながらも,Sharma氏に話を聞くことができた。最後に,一問一答形式でその模様をお伝えしたい。

4Gamer編集部(以下4Gamer):
 Avivoは次世代Radeonからの導入になるとのことですが,下位モデルは機能が制限される,といったことはあるのでしょうか?

Vijay Sharma氏(以下Sharma氏):
 次世代Radeonでは,一斉に導入します。例えば「Radeon X300の後継モデルではH.264のサポートがない」などといった制限はありませんよ。次世代Radeonの標準機能と考えてください。

4Gamer:
 チップセット内蔵グラフィックスはどうでしょう?

Sharma氏:
 同じです。次世代Radeonベースのグラフィックスを内蔵するチップセットからは標準機能になります。

4Gamer:
 Xilleonそのものでないとはいえ,Avivoをハードウェアベースで実装すれば,トランジスタ数が増えてコスト面の問題が出てくると思いますが?

Sharma氏:
 次世代Radeonは90nmプロセスで製造しますが,これによってダイサイズは小さく抑えられます。コスト面での不安はありません。

4Gamer:
 次世代DVDなど,HD映像の再生は今後PCでも必要不可欠になると思います。実際どのクラスのCPUであれば,次世代Radeonと組み合わせたときに問題なく再生できるでしょうか?

Sharma氏:
 デモでもお見せしたとおり,H.264のHD映像の再生で,3.6GHz駆動のPentium 4と組み合わせたときのCPU使用率は30%程度です。つまり,これよりずっと処理能力の低いCPUでも問題ないというわけですね。具体的に「○○の△GHz以上」とは答えられませんが,次世代Radeonの投入時点で,メインストリーム市場向けに投入されているCPUなら問題ないと思います。現行のPentium 4やAthlon 64ならローエンドクラスでもOKでしょう。

4Gamer:
 ユーザーから見ると,どれだけ手軽に効果を得られるか,という点も重要だと思います。例えば接続したディスプレイ機器によっては設定の変更が必要と思いますが,この点の配慮はいかがですか。

Sharma氏:
 いくつかのプリセットプロファイルは提供する予定です。多くのユーザーはプロファイルの使い分けで一定の望む効果が得られるのではと考えています。

4Gamer:
 説明会やここまでお答えいただいた以外で,現行Radeonに対する次世代Radeonのメリットは何かありますか?

Sharma氏:
 マルチディスプレイ接続時にプライマリ,セカンダリ接続の制限がなくなり,さらにオーバーレイを2個同時に使えるようになりました。したがって,今まで以上にグラフィックスチップのハードウェア支援機能を有効に使えます。複数のディスプレイの配置に配慮する必要がほとんどなくなるはずです。

4Gamer:
 失礼を承知で伺いますが,いつもの御社の新技術発表なら,もっとPureVideoとの比較を前面に押し出していたと思います。今回,PureVideoとの画面比較が一切行われなかったのはなぜですか?

Sharma氏:
 PureVideoはPoor(貧弱)で,比較にならないから(笑)。いやそれはともかく,これは繰り返しになりますが,映像の入力から出力まで,すべてのプロセスで改善が図られている。さらに,最終出力段がすべて10ビット処理。これらのメリットに関して,ATIは絶対的な自信を持っています。例えば単にH.264のHD映像を再生するだけでも,現時点で最強のCPUとNVIDIAやIntel製グラフィックスチップの組み合わせでは不可能だと思いますよ。

4Gamer:
 古くからのPCユーザーは,3Dパフォーマンスというより,むしろディスプレイ出力品質の高さからATI製グラフィックスチップを選んでいたように記憶しています。ここ数年はそういった印象が若干薄くなっていた気もするのですが,Avivoはある意味ATIの原点回帰と取ってもいいのでしょうか。

Sharma氏:
 そうですね,改めてビデオのATIへ,という意識は確かにあります。Avivo導入のきっかけは本格化するHD時代への対応ですが,今後はディスプレイ表示品質にもさらにこだわった製品を投入していきたいと考えています。


 Sharma氏は,出力段のごく一部にサポートが限定されたPureVideoよりも,入力から最終出力のすべてをサポートするAvivoの優位性を強調する。PureVideoと違って,専用デコードソフトを必要としないのは,導入のハードルという意味で確かに魅力的。もちろん,品質面でどこまで意味があるのかはこれからの検証を待つ必要があるものの,ゲーム画面品質が向上する可能性があるというのも見逃せないところだ。

 次世代グラフィックスチップの発表よりも先に,周辺技術だけを発表することには,「なぜ?」という疑問がなくもない。しかし,より綺麗な画面でゲームがプレイできるようになり,動画でも有効というATIの主張どおりの結果がAvivoによってもたらされるとすれば,それは素直に歓迎すべきだろう。(坪山博貴)

※用語注釈
ガンマ補正:一般に色信号の輝度は電圧に変換されてディスプレイに伝送される。だが,例えば電圧を半分にしたところで,ディスプレイ側も輝度が半分になるとは限らない。これが色の誤差を生むが,この補正を行うのがガンマ補正である

カラー補正:すべての色の元になる赤緑青3原色の強弱を調整して,正しい色調を得たり好みの色調に調整するもの

スケーリング:オリジナルの画像に対し,縮小,拡大を行う機能。グラフィックスカードではハードウェアの機能として実装されることが多い,より高度な補完を行えば,斜めのエッジや曲線を,より滑らかに表現できるようになる

ディザリング:表示可能な色を組み合せることで擬似的に中間色を表現する機能。解像度は落ちるが,微妙な階調表現が可能になるほか,静止画の減色などでも利用される。



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http://www.4gamer.net/news/history/2005.09/20050920190000detail.html