ATI,ノートPC向け高性能チップMobility Radeon X1600を発表
12月7日,東京都内のホテルにてATI Technologies(以下,ATI)は,高性能ノートPC向けグラフィックスチップ,「Mobility Radeon X1600」を発表した。 Mobility Radeon X1600は,デスクトップPC向け製品のRadeon X1600シリーズのコアをノートPC(モバイル向け)に転用したもので,グラフィックスチップとしてのポテンシャルは基本的にデスクトップのものと同一となっている。
プロセスルールも当然のごとくデスクトップ向けRadeon X1600と同じ90nmが採用され,同クラスで先代にあたるMobility Radeon X700(0.11μmプロセス)と比べると,コア面積にして48%にまで小サイズ化に成功したとしている。ダイサイズ小さくできるということは,歩留まりを上げることにもつながり,低価格化も期待できる。 なお,NVIDIAの同クラスのノートPC向けGPU,GeForce Go 6600系は0.11μmプロセスであるため,現時点では,ノートPC向けグラフィックスチップとしては,Mobility Radeon X1600が唯一の90nmプロセスによる製品ということになる。 90nmルール採用の利点は,ダイサイズの縮小だけでなく,低電圧で高クロック動作を可能にするところにもあり,ノートPCとしては重要な「ワットあたりのパフォーマンス」の向上にも繋がるとしている。
左:ATIテクノロジーズジャパン代表取締役 森下正敏氏
中:ATIテクノロジーズジャパン,マーケティング部,部長,信垣育司氏
右:ATI Technologies,上級副社長,リック・バーグマン氏
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■Mobility Radeon X1600の基本性能はデスクトップ版Radeon X1600と同等
Mobility Radeon X1600のブロックダイアグラム。動作クロックが異なるだけで,機能面においてはまったくデスクトップ版と同じ
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Mobility Radeon X1600のスペックは表1のとおり。 総トランジスタ数は1億5700万個。これはデスクトップPC版Radeon X1600と同じである。 最大動作クロックは475MHzとなる。これは搭載するノートPCの熱設計容量によって変わってくるため,採用するメーカーによっては,これより低い動作クロックを設定してくる場合もあるだろう。 組み合わされるビデオメモリはGDDR3 SDRAM。動作クロックも,やはりノートPCメーカーによって変わってくるが,だいたい900MHzから1GHzあたりになる。 プログラマブル頂点シェーダ(Programable Vertex Shader)は5基,プログラマブルピクセルシェーダ(Programable Pixel Shader)は12基。ピクセルシェーダはテクスチャアクセスのたびに処理対象ピクセルブロックを切り換える「Ultra Threaded Architecture」を採用している。なお,具体的には,最大内部スレッド数は128スレッドまで,となっている。 ピクセルシェーダは12基あるのだが,テクスチャユニットは4基,実際のビデオメモリ書き出しを担当するレンダーバックエンド(ROPユニット)も4基。この若干,アンバランスに見える構成もデスクトップ版Radeon X1600と同じだ。高品位な映像表示と動画像のエンコード支援,デコード支援までをサポートするというATIの最新ビデオテクノロジーであるAvivo Technology(詳細は解説記事を参照のこと)も当然搭載される。
表1:グラフィックスチップのメインストリームモデル
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| Radeon X1600XT (デスクトップ版) | Mobility Radeon X1600 | GeForce Go 6600
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プロセスルール | 90nm | 90nm | 0.11μm
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トランジスタ数 | 1億5700万 | 1億5700万 | 1億4600万
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コアクロック | 590MHz | 475MHz | 375MHz
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メモリクロック | 1.38GHz | 950MHz | 600MHz
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ビデオメモリタイプ | GDDR3 SDRAM | GDDR3 SDRAM | DDR1 SDRAM
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メモリバス幅 | 128bit | 128bit | 128bit
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メモリバンド幅 | 22.08GB/sec | 15.2GB/sec | 9.6GB/sec
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ネイティブインターフェース | PCI-Express X16 | PCI-Express X16 | PCI-Express x16
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頂点シェーダーバージョン | 3.0 | 3.0 | 3.0
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頂点パイプライン(=頂点シェーダ数) | 5本 | 5本 | 3本
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ピクセルシェーダー バージョン | 3.0 | 3.0 | 3.0
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ピクセルパイプライン(=ピクセルシェーダ数) | 12本 | 12本 | 8本
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ROPユニット数 | 4基 | 4基 | 8基
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頂点性能 | 7億3750万頂点/秒 | 5億9375万頂点/秒 | 2億8125万頂点/秒
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フィルレート | 23億6000万テクセル/秒(※2) | 19億テクセル/秒(※2) | 30億テクセル/秒
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(※1)カードベンダーによって変わる (※2)ROPユニットが4基しかないため
GeForce 7シリーズに搭載されていない,浮動小数点バッファに対するアンチエイリアス処理も,Radeon X1000シリーズなので,当然のごとく対応する。中央は,GeForce Go 6600とMobility Radeon X1600とのパフォーマンス比較とするスライドだ
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■バックバイアスをはじめとした最新省電力設計
PowerPlay6.0の有無がデスクトップ版とモバイル版の最大の相違点だ
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Mobility Radeon X1600ならではの機能は,省電力設計に集中している。 接続バスとしてPCI Express x16を採用するMobility Radeon X1600だが,この接続レーン数を,負荷に応じてx1からx16の間で動的に切り換えて使用電力を節約する「Dynamic Lane Count Swithcing」(DLCS)機能,グラフィックスチップ内の未使用ブロックに対して動的にクロック供給を制限する「Clock Gating」機能,グラフィックスチップの負荷に応じて電圧と動作クロックを動的に切り換える「Power-On-Demand」機能といったものが,その代表格となる。 ATI製グラフィックスチップが持つ,こうした省電力性能向上技術は「PowerPlay」というテクノロジー名称で呼ばれているわけだが,今回のMobility Radeon X1600では,バージョン番号が更新され「PowerPlay 6.0」となった。
PowerPlay 6.0での最大の特徴は,新搭載の「バック・バイアス テクノロジ」だ。 CPUでもそうだが,微細化されたチップで問題となってくるのはリーク電流だ。これは,簡単にいうと,チップ内の半導体回路がロジック動作に関係ない電気を消費してしまう(スイッチがオフになっているゲートに電流が流れてしまう)現象だ。これが増えると消費電力が増え,プロセス微細化で得られる恩恵が半減してしまうことになる。バック・バイアス テクノロジはこれを低減させるための技術であり,これがグラフィックスチップとしては,Mobility Radeon X1600に初めて搭載されたわけである。
いきなりリーク電流といわれても,ゲーマーにはあまり馴染みのない概念かもしれないので簡単に説明しておこう。 プロセス微細化によってトランジスタが小型化されると,その電極にあたるソースとドレインの位置関係が近くなるわけで,ソースとドレイン間で電子が漏れやすくなり,これがリーク電流となってしまうのだ。これを防ぐためにはさまざまな方法が考案されているが,そのうちの一つがバック・バイアス テクノロジということになる。これは,電子回路の裏側から(電流の流れにくい方向で)基板自体に負圧をかけることによってトランジスタのゲート部分でのリーク電流を減らそうというものだ(逆に電圧をかけるフォワードバイアスという技術もある)。
図を見るとおおよその仕組みが分かるだろう。縦軸はゲート部分を通過する電流量,横軸はゲート部分の電圧である。通常時は,電圧ゼロの状態でもグラフは高い位置でY軸と交差している。この電圧ゼロでの電流量がすなわちリーク電流だ。バックバイアスをかけることにより,全体に電圧をかけても流れる電流量が少なくなり,電圧ゼロの時点での電流量(リーク電流)も下がっていることが分かるだろう。ATIはこのバック・バイアス テクノロジにより,約20%の節電に成功したとしている。
ただ,スイッチングに必要な電流量を実現するための電圧(これをスレッショルド電圧という)も上昇しており,スイッチングのためにはより多くの電圧変化が必要になったことも分かる。電圧を上げるために,より多くの時間が必要なので,スイッチング速度をあまり上げることができない(=クロックを上げにくい)という副作用も出ている。 ATIは,最大性能が要求されるハイエンドグラフィックスチップではともかく,ワットあたりのパフォーマンスが重要視されるメインストリームのノートPC向けグラフィックスチップなら,この点について妥協できると判断して,この技術を盛り込んだという。逆にいえば,今後登場してくる最大性能重視のノートPC向けハイエンドクラスGPUには,このバック・バイアス テクノロジが組み合わされる可能性は少ないということだ。
■薄型ノートPCでもSM3.0ゲームがプレイできるように
ASUSTeK A7Gの基本スペック
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発表会の最後には,このMobility Radeon X1600を搭載したノートPCの製品試作機が公開された。 製品はASUS製の「A7G」というもので,日本での発売予定は現時点ではないとのこと。
ただし,Mobility Radeon X1600は,大手日本メーカー製ノートPCにも採用が決まっているとのことで,追って各メーカーから製品が発表されてくる見込みだ。
デスクトップPCをそのままノートPC化したような超高機能DTR(DeskTop Replacement)ノートではなく,薄型の高性能中堅ノートPCでも,Shader Model 3.0世代のPCゲームがサクサクと動くようになることの意義は大きい。 同時に今後の,NVIDIAの反撃にも注目していきたい。2005年12月現時点では,NVIDIAはノートPCはおろか,デスクトップPCでも最新のGeForce 7世代のシリーズ展開が完成していないからだ。当然ながら開発は進めているはずだが,プロセス微細化ではATIに後れを取っているのも事実。モバイル分野における両社の展開に期待しよう。(トライゼット西川善司)
左:ASUS A7Gの実機
右:ASUS A7Gの実機を持つリック・バーグマン氏と(右)と,ATIジャパンの美人広報,金井さん(左)
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