[韓国ゲーム事情#481]「Blizzard Worldwide Invitational 2006」リポート
Kimの韓国最新PCゲーム事情#481
「Blizzard Worldwide Invitational 2006」リポート(2006/2/7)
Text by Kim Dong Wook特派員
2月3日から2月5日までの間,ソウルのCOEX大西洋ホールで開催されたイベント「Blizzard Worldwide Invitational 2006」(以下,BWWI 2006)には,3日間で7万人以上もの人が来場,盛況のうちに幕を閉じた。 先日「こちら」でもお伝えしたように,「World of Warcraft」(以下,WoW)の拡張パックとして開発中の「World of Warcraft: The Burning Crusade」が世界で初めて公開されただけでなく,韓国内の300万人に上る“WOWSER”(「WoW」と「User」の合成語で,本作のプレイヤーを指す)に対する感謝の意味を込めて,さまざまなイベントが催された。 「StarCraft」や「Diablo II」などのタイトルが爆発的なヒットを記録した韓国は,Blizzard Entertainmentのビジネスにとってきわめて重要な国だ。だからこそ,今回のようなイベントを通じて,国内のファンに対して感謝の気持ちを伝えようとする同社のスタンスは,とてもよく理解できる。 この3日間,韓国のゲーム業界において話題を独占した,BWWI 2006について詳細にリポートしよう。
■300日分以上の料金を支払ったプレイヤーを“VIP”として優遇
BWWI 2006の開場時間は午前11時30分だったが,多数の熱心なファンが早朝から駆けつけ,列を作っていた。開催直前の数日間のうちに,急激に気温が下がったこともあり,来場者は少なくなるのではないかとの主催者側の心配をよそに,開幕前には長蛇の列ができた。 会場の入り口は,VIP向けと一般向けに分けられていた。ここでいう「VIP」とは,これまでに合計300日分以上WoWの利用料金を支払ったプレイヤーのことを指す。支払った料金が300日分に満たなかったプレイヤーと,BWWI 2006の会場で会員登録を行った人は,一般向けの入り口から入場していた。 Blizzard Koreaの関係者は,早朝から長蛇の列ができたことについて,「期間中毎日,先着2000人のVIPプレイヤーに対して,ゲーム内のレアアイテムである“パンダの子供”というペットをプレゼントしたのが,非常に受けた」と説明した。
会場内には七つのイベントスペースがあり,それぞれの場所で「クエスト」と称したミニイベントが行われていた。ちなみに,すべてのクエストをクリアした人には,抽選でさまざまな賞品がプレゼントされた。どのイベントスペースにもVIPプレイヤー専用の入り口が用意されており,VIPプレイヤーはほとんど並ばずにイベントに参加できるようになっていた。
残念だったのは,会場入り口のカバンチェックがかなり厳しかったこと。WoW: The Burning Crusadeが世界で初めて披露されるということもあって,情報の流出にはかなり神経質になっていたようだ。もしカバンに,ビデオカメラ,ノートPC,PC用周辺機器,PSPなどが入っていると,入場が許可されなかったため,来場者からは不満の声が多数聞かれた。 筆者はプレスとして入場したのだが,WoW: The Burning Crusadeの体験ブースで撮影を行おうとしたところ,至近距離からの撮影は認めてもらえなかった。
(左)ビギナー向けの“WoW体験ブース”の様子
(中央)WoW: The Burning Crusadeの体験ブースの入り口。まるで空港の金属探知機のようだ
(右)WoW: The Burning Crusadeの体験ブースへは,1日に2回までしか入れない。また,体験ブースでのプレイ時間は1回につき15分に制限されていた
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■“世界大会”と銘打たれたが,決勝進出者は韓国選手のみ
会場の中で最も大きなスペースを占めていたのが,メインステージ。この場所では,3日間にわたって,世界的に知られるプロゲーマー達が熱戦を繰り広げた。 BWWI 2006の会場では,「StarCraft Invitation Tournament」と「Warcraft III Season 3 Final Match」というゲーム大会が開かれた。世界的なプロゲーマー達を招待したとのことだったが,実際には,e-Sportsが盛んな韓国のプレイヤーが大半を占めた。 StarCraftの大会には,韓国の選手が4人,ドイツ,ノルウェー,台湾,中国の選手が一人ずつ参加した。しかし中国代表のSha Jun Chun選手は,すでに韓国のプロゲームチームで活躍しているため,国内のファンにとっては,参加選手のほとんどがテレビで見慣れた顔ばかりであった。一方のWarcraft IIIの大会には,韓国の選手が4人,アメリカの選手が二人,ロシアとオランダの選手が一人ずつ参加した。 StarCraft大会の決勝に残ったのは,昨年(2005年)アメリカで開かれたイベント「BlizzCon」でのゲーム大会で優勝したHong Jin Ho選手と,最強のProtossプレイヤーとして知られるKang Min選手の二人。韓国選手同士の戦いとなり,まるで国内リーグの決勝戦を見るようだった。今回の大会に,国内の有名なプロゲーマーが多数出場したため,彼らのファンも多数観戦に訪れ,熱い声援を送っていた。 Warcraft IIIの大会では,オランダのManuel Schenkhuizen選手と,韓国のChun Jeong Hee選手が決勝に進出。激しい戦いの末,優勝候補と目されていたSchenkhuizen選手が逆転負けを喫する番狂わせを演じた。 なお,この決勝大会はケーブルテレビで中継されたのだが,Warcraft IIIの解説者として知られるSeo Kwang Rok氏は番組収録後,我々に対して次のようにコメントした。
「Warcraft IIIはまだ海外でも人気が高く,多くの人が楽しんでいる。そのため,プレイヤー全体の実力が非常に高い。一方で,StarCraftは韓国以外ではあまりプレイされていない。e-Sportsが国際的なスポーツ競技として認知され,さらに発展していくには,全世界規模で一般的にプレイされるネットワークゲームが,できるだけ早く登場する必要があるだろう。」
■Raidプレイに関する質疑応答には,多くのファンが注目
ゲームのプレイヤーが,開発者から直接話を聞ける機会はめったにない。BWWI 2006では,Blizzard Entertainmentから訪れた開発チームのメンバーがメインステージに登場し,ファンの質問に答えるイベントも行われた。三日間,それぞれ別のテーマで,WoWの開発にまつわる興味深い話を開発者自身から聞けたとあって,熱心なWOWSER達に好評を博していた。 初日はBattle Ground,二日目はダンジョン,最終日はRaidに関する質疑応答が行われた。登壇した開発者は,公式フォーラムなどを通じて,ファンから寄せられることの多い質問に対して,回答した。
ファンの関心が最も高かったのは,Raidをテーマとした最終日。この日は,WoWのリードデザイナーを務めるTom Chilton氏が登壇した。 まずChilton氏は,Raidを「より多くのGoldやレアアイテムを獲得するために,難度の高いダンジョンを攻略するキャラクターのグループ」と定義した。そして,WoWに対するモチベーションや,クリアしたときの達成感を高めるため,ある程度の数のキャラクターが揃わないとクリアできないように,難度をかなり高く設定したと述べた。
Chilton氏は,最高レベルである60Lvに到達したプレイヤーに,その後も持続的にゲームに取り組んでもらうためには,新たなコンテンツを提供し続ける必要があると説明した。続いて,韓国ではどのくらいの数のプレイヤー達が,Raidを組んでダンジョンの攻略に挑んでいるかに関するデータを公開した。 接続率が最も高い時間帯における,生成されたダンジョンの数と,各ダンジョンへの接続人数は,下記のとおりだ。
火山心臓部:462個のダンジョンを生成(1万5000人が接続) オニックシア:175個のダンジョンを生成(4200人が接続) 黒い羽の巣:408個のダンジョンを生成(1万3000人が接続) 綱雲:466個のダンジョンを生成(7300人が接続)
予想以上に多くのプレイヤーが,Raidダンジョンをプレイしていることを知った来場者達は,驚きを隠せない様子だった。またChilton氏は,1日の間に何人のキャラクターがボスモンスターに挑戦し,倒されているかに関する興味深いデータを公開した。
Chilton氏は,韓国のプレイヤーがRaidを行うときの,プレイ動向を分析したデータは,ゲームコンテンツの開発や,バランス調整作業にとても役立っていると語った。ボスモンスターの攻略時間の調整や,大きな達成感を得られる,やりがいのあるクエストの追加を行うときに,そのデータを活用しているそうだ。
Chilton氏は,The Burning Crusadeの発売前までに実装される予定の,最も難度の高いRaidダンジョン「ナックスラマス」の平面図を公開し,ダンジョンをデザインする手順などを説明した。Chilton氏は,拡張パックではより多くのダンジョンを用意する予定であり,メニューの中から入場するダンジョンを選択できるようにするなど,プレイアビリティを高めるべく作業に取り組んでいることを明らかにした。また,レベルが低いプレイヤーにも楽しめるダンジョンも追加し,WOWSERならレベルを問わず,誰にでもRaidの楽しさを味わってもらえるようにしたいとの意気込みを語った。
(左)メインステージに開発者が登壇している間は,そのほかの体験ブースなどはすべて“営業停止”状態になる。メインステージに来場者を集めるための戦略だろうか
(右)WoWの開発者によるサイン会。このようなイベントは,海外でもめったに行われていないところを見ると,韓国のファンに対して相当気を配っているようだ
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■カバンチェックには不満の声が多かったが,開催のタイミングも絶妙で,成功といえるイベント
BWWI 2006は,Blizzardのファンにとって,WoWの拡張パックThe Burning Crusadeや,StarCraft: Ghostに直に触れることができる,とてもよい機会だったといえる。 Blizzardはこれまで,人気サーバーへの接続に長い待ち時間が発生するといった,WoWのプレイヤーが抱える不満への対応が迅速でないとの指摘を受け続けてきた。今回,Blizzard本社から開発者が訪れ,ファンに対して直接語りかけたことは,彼らの不満を多少なりとも解消することに,役立ったのではないだろうか。 WoWのライバルである「Granado Espada」や「ZerA」といった,韓国産のビッグタイトルのオープンβテストが間もなく実施されるというこのタイミングで,このように大規模なイベントを行ったわけだが,新たな会員の獲得や,WoWを遊んでいないプレイヤーを再び呼び戻すことに成功したのかどうかが気になるところだ。
いずれにしろ,前述したように,The Burning Crusadeに関する情報が流出することを恐れるあまり,カバンチェックを厳重に行ったことで,韓国のゲームファンの反感を買う結果にもなってしまったのは残念なところ。 また,BWWI 2006はもともと,主催者主導のイベントだったため仕方ないところではあるのだが,受動的な形でしか情報を入手できなかった点も,やはり残念といえる。例えば,「RAG-FES」のようなファン主導型のイベントも同時に実施されれば,なお良かったのではないだろうか。
このようなイベントが開かれることは,日本のBlizzardファンとしてはうらやましい限りだが,以前に触れたように,日本国内でのサービス提供についても,何らかの準備が進んでいるかもしれないので,今後の動向に注目しよう。
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