[AOGC 2006]アジア地域のオンラインゲームの現状(その1:韓国編)
本日から開催のアジア オンラインゲーム カンファレンス 2006(AOGC 2006)において,アジア地域での全体的な傾向に関するレポートとして,「アジアオンラインゲーム市場とゲーム社の戦略」と題して(韓国)中央大学助教授 コンテンツ経営研究所所長ウィ・ジョヒン氏(魏晶玄/John H.Wi)の講演が行われた。 これは,オンラインゲームの状況を日本,韓国,中国,ASEANの四つの地域にまとめて調査/考察したもので,昨年秋に行ったという最新情報に基づいたデータが披露された。
アジア市場全般は,非常に速いスピードで推移しており,1年前とはまったく違う様相を示しているという。オンラインゲームに関しては,現在アジアが世界への発信地となっているとし,アジア地域の動向を把握することの重要性を述べた。 全体的な傾向としては,市場の拡大速度よりも,新タイトルの投入速度が上回っており,アジア地域の多くはもはや発展段階を終えつつあるという。 普及段階の違いで,採るべきマーケティング戦略もまったく変わってくる。成長期にはどんどんタイトルを出してシェアを広げていけばよいが,市場が飽和してきた場合は,既存のゲームとユーザーの取り合いとなる。ウィ氏は,特定のゲームの長所を取り入れ,そこからユーザーを奪い取るマーケティングも行われてくるだろうと説明した。 確かに,韓国でも中国でも軒並みリネージュIIスタイルのゲームが作られたりするのも,一部はこういった状況によるものだろう。
■韓国におけるオンラインゲームの現状
韓国は,オンラインゲームをリードしてきているが,最近は成長速度が鈍化し,現在は年率20〜30%に落ち着いてきている。すでに成熟段階を迎えつつある状況だ。加えて,定額課金の崩壊とアイテム課金や部分有料化などのモデルが強化されてきている。アジア全体の傾向の最先端を走る韓国の状況は,今後の各国の動向を占ううえでも要注目といってよいだろう。
ウィ氏は,オンラインゲームの本質をゲーム性とコミュニティ性に分けて捉えており,これまでの韓国産オンラインゲームは,ゲーム性に問題があったと指摘。しかし,最近ではそれを補うべく,グラフィックスの強化に非常に重点が置かれるようになってきていると話した。確かに,韓国で最近注目作といわれている「SUN」「Granado Espada」「ZerA」などは,みなグラフィックスに力の入ったものとなっている。 ……と,講演ではさらりと語られたが,4Gamer読者ならお気づきだろう。そう,グラフィックスが「ゲーム性」の重要な部分として捉えられているのだ。このあたりは,日本とは多少感覚の違う部分なのかもしれない。 とはいえウィ氏自身,この傾向にはやや疑問を持っているようだ。グラフィックスを豪華にすると,ある意味ごまかされてしまい,ゲーム性もよく見えてしまいがちである。そういったことを続けていけば,やがて飽きられてしまう。さらに,そうして高画質に慣れた目には,もはや以前の作品が見るに耐えないものにしか映らなくなるという。要するに,本質的な部分に手を加えずにうわべだけでごまかしていても,解決にはならないということであろう。
韓国でかなり深刻になっているのが,定額制の崩壊である。 例えば,「ローハン」というゲームはかなりプレイヤーの評価が高いのだが,昨年初めに定額制でサービスされると発表されたものの,いまだに課金に移行できないでいるという。定額制にするとどれくらいのプレイヤーが離れるか,課金はいくらにするか,そういったことが読めないのだ。 「定額制は困難」というのが,現在の韓国市場での大きな問題点となっている。
●韓国での海外産オンラインゲームの状況 韓国内でサービスされている,海外産オンラインゲームについても状況が解説された。
「World of Warcraft」(以下WoW)は,韓国で現在も人気のあるMMORPGだ。日本円にして2500円程度と,かなり強気の定額課金が行われたところ,ユーザーの猛反発を食らって一時期かなりのユーザーを減らしたものの,まだまだ人気タイトルとなっているようだ。ただし,新規参入はパタリと止まってしまっているという。 ウィ氏は,Blizzard Entertainmentのアジア地域でのマーケティングリサーチが足りないと指摘している。 それを示すエピソードも披露された。韓国でWoWを提供しているのはBlizzard Koreaだが,韓国でWoWが公開されてしばらくして,アメリカのBlizzard本社に同社から連絡が入ったという。レベルキャップに達したプレイヤーが大勢出てきたので,早く拡張パックを用意してほしいという内容だ。本社では,このスピードに非常に驚いたという。Blizzardは「StarCraft」で韓国ゲーマーのパワーを体験しているはずだが,その予想を上回るほどの速さだったのである。 最近,韓国でWoWの拡張パックがいち早く公開されたのは,そういった事情があるのだろう。
Blizzard側の「常識」としては,キャラクターがレベルキャップになるまで,もっともっと長い時間を想定していたはずだ。若干の誤差はあれ,欧米地域ならばほぼその想定どおりになっているのだろう。これが,アジア地域では通用しなかった。まあ,アジア地域とはいっても,そういった韓国での「常識」に日本のプレイヤーが苦しめられるといったことも多々あるのだが。前述のサービス価格などについても,同様にリサーチの足りなさを示すものといってよいだろう。
日本から輸入されたオンラインゲームの事例としては,「大航海時代 Online」が紹介された。 大航海時代 Onlineは,韓国でのコアなコンシューマゲームファンを中心に,非常に期待度の高いタイトルとなり,ゲーム内容でも評価が高かったようだ。だが,結局は失敗に終わっているという。ちなみに,大航海時代 Online以前に韓国に上陸していた中国産のMMORPG「航海世紀」は,大航海時代 Onlineの登場とともに「撃沈された状態」になったとのこと。 大航海時代 Onlineの失敗の理由は明快だとウィ氏は語る。いわく,課金タイミングの問題である(韓国のプレイヤーに聞く限りでは,そういう問題ではなさそうではあるが)。アイテム課金ではあまりタイミングを気にする必要はないのだが,定額課金の場合は,タイミングが非常に重要になるという。ゲーム内でコミュニティが十分に成熟している段階であれば,定額課金も可能ではあるが,先ほどのローハンの例もあるように,それでもなお難しい問題をはらんでいる。 コミュニティが十分に成熟してから課金した場合,その時点でプレイヤーは,ゲーム内にコミュニティの人的資産なり,装備などのゲーム内資産なりを多く抱えているので,それらを捨ててほかのゲームに去ってしまう心配は少なくなる。 このタイミングを間違え,コミュニティが成熟しきらないうちに課金を始めると,もの凄い反発を食らうというのが通例となっているようだ。ウィ氏は,大航海時代 Onlineは明らかに課金を急ぎすぎていたと指摘した。
●コミュニティの強化 定額課金も,タイミングを誤らなければ導入可能であるというのがウィ氏の見解のようだが,それでもなお定額制には問題が残るとも指摘している。先ほどの例のように,やめにくいタイミングで課金を開始すると,熱心なプレイヤーは取りこぼさずゲームに残すことができる。半面,新規参入がぱったりとなくなり,上級プレイヤーだけのコミュニティばかりとなり,コミュニティが硬直してしまうという。 上級者ばかりになると,たまに入ってきた新参プレイヤーとの断絶も問題になり,ますます新規プレイヤーが入りづらいという悪循環に陥ることになる。 韓国で,現在もなお初代「リネージュ」が13万人のプレイヤーを抱えて第一線でプレイされ続けているのは,ユーザーコミュニティに,新規参入者を受け入れる仕組みがきちんと構築されていることが大きいという。 オンラインゲームの場合,コミュニティを軽視したマーケティングが禁物というのは,ある意味当たり前の話だろうが,多くの会社が予想以上に手痛い失敗を繰り返してきているようだ。
ちなみに,韓国の状況の詳細については,3月に日本で発売される予定のウィ氏の著書に詳しいとのことなので,興味がある人はぜひご一読を。(aueki)
「韓国のオンラインゲームビジネス研究」(東洋経済新報社)
|
|
|