ニュース
[AOGC 2006]MOD戦略にみるコミュニティマネジメント:日本人作のHalf-Life2 MODも紹介
2006/02/13 22:13
 国内のゲーム関連の講演会ではお馴染みとなったIGDA(International Game Developers Association)の新清士氏が,ゲームを改造して楽しむユーザー文化であるMOD(Modification)について,その概略や有効性を説明する講演を行った。
 IGDAを中心にさまざまな活動を精力的に行うかたわら,デジタルエンターテインメントアカデミーの非常勤講師として,MODを授業で活用するなどの試みを行っている新氏。海外ではもはや定番の戦略となりつつあるMOD戦略の可能性を語った。

 新氏の講義は,まずそもそも「MOD」とは何か? という簡単な説明から始まった。一応説明しておくと,MODとは「Modification」の略で,ゲームを改造する行為,あるいは改造されたファイルそのものなどを指す。古くは「DOOM」や「Quake」といったゲームをベースに,キャラクターやテクスチャのグラフィックスを改造するところから始まった文化だと言われているが,最近では,ゲームシステムそのものに大きく手を加えるMODも多数作られており,ユーザーが開発したMODであった「Counter-Strike」が爆発的な人気を博しているのは,読者諸氏もご存じのとおり。
 新氏は,Counter-Strikeの事例などを挙げて,ユーザーが自由に改造を行うことによってゲームの陳腐化が防がれ,ベースとなっている本家「Half-Life」が現在でも未だに販売本数を伸ばし続けていると,MODというものの有効性を語る。そしてその後,MODの歴史や実用例などといった部分に話は進んでいく。
 MODについての詳しい解説は,以前掲載した「こちら」の記事を参照してほしいが,要約すると,MOD制作者にはゲーム業界へのキャリアパスがあるということや(もちろん優秀な人に限るが),海外におけるMOD文化が日本における同人誌文化に似ている点などを紹介しつつ,「ユーザーの想発性を利用することが,ゲーム自体に大きな可能性を生み出す」と,新氏は説明している。
 また新氏は,MODをゲームに取り込んだ最新の事例として,ゲーム自体がMODシステムをベースにしている「Second Life」というタイトルを取り上げ,「本作では,ユーザーの作ったMODの著作権はユーザーに帰属するのが最大の特徴」と,そのユニークな運営方針を紹介。Second Lifeでは,ユーザーが作成したゲーム内アイテムを「ユーザー自身の作品」として,ユーザー間での売買(RMTも含む)を許可しており,これまで約12億円の取り引きがあるという。

 MODというものの現状や可能性をひとしきり説明し終えた後で,新氏は,「なぜ日本や韓国のタイトルは,ユーザーのクリエイティビティをもっと活用しないのか。ユーザーのクリエイティビティをもっと評価してよいのではないか?」と問題提起する。
 氏は,「例えば,アイテム課金制のオンラインゲームでも,そのアイテムの開発リソースに悩まされている。だったら,その部分の開発をユーザーにゆだねるという方法論もあり得る」と説明し,「3Dモデルやテクスチャといった部分の技術情報を公開し,それを一定のルールのもとに配布できるフレームワークを作ったらどうなるか? 喜ばないハズはないのではないか」と,その可能性を訴える。そして「従来はMODというとPCゲームだけの文化として扱われてきたが,プレイステーション3などでハードディスクが搭載されれば,コンシューマでもその環境が開かれる可能性がある」と語り,講演を締めくくった。

MODの可能性を語ると共に,ビジネスモデルが未開拓な点などの問題点も語られた


 さて,この「ユーザーのクリエイティビティをいかにして活用するか」という課題は,昨今パッケージゲームでも叫ばれている“ゲームのボリューム”をどう作っていくかという課題(この延長線には中古問題なども関わってくる)にも通じる部分だと思われるが,ユーザーの活動を巻き込んだビジネスモデルという意味では,ソーシャルネットワークサービスなどを代表に,いわゆるネット業界ではすでに「当たり前の認知」であり,ウェブ業界などではもう「実績のある手法」だといえる。
 ただ誤解がないように付け加えておくと,新氏は,インターネットビジネスにおいて,一つの軸になりつつあるこのコミュニティビジネスという方法論を,ゲーム産業でも積極的に取り込むべしとしたうえで,その手法の一つ……もっと言えば「すでに成功している実例の一つ」として,「MOD」という方法論が存在するということ,そしてこの流れが“より進化していく”であろう点を訴えている訳だ。これは,PCゲームを主として遊んできている筆者としても,とても賛同できるものがある。

 ただその一方で,新氏の言う「ユーザーのクリエイティビティ」をゲームという分野で発揮させる手法として,本当に今のレベルのMOD文化(素材レベルでの作成)が正しいかどうかについては,筆者としてはやや疑問である。
 同講演で新氏は,「スター・ウォーズ ギャラクシーズ」などの開発者として知られるラフ・コスター氏の「オンラインゲーム発展の歴史はインターネットと同じ。ネットの歴史がそうであるように,より簡易的にコンテンツが作れる方向に進むだろう」というコメントを引用していた。これは,例えば自分の個人サイトを作るという行為が,Blogの登場によってタグなどの専門知識が無くても可能になり,それによってユーザーのクリエイティビティが開花したという話である。ラフ・コスター氏が言うには「MODも,Blog並に作成が簡単になる時が来る」とのことで,その時にこそブレイクスルーが起きるだろうと説明する。
 これは新氏自身も語っていたことだが,「Blog並に簡単に作れる」というのを,どこまで拡大解釈して捉えるかは難しい。例えば,MMORPGやMODから一歩下がって見回してみた場合,リアルタイムストラジーにおける「リプレイ」という機能(ファイル)も,これは立派に「ユーザーが簡単に作れるコンテンツ」の一つだといえる。リプレイという機能があることによって,コミュニティが発達し,ゲームの陳腐化が防がれているのは間違いないし,その延長として,スタープレイヤーの誕生やe-Sportsの発展があったのは,見逃してはいけない部分ではないだろうか。
 少なくとも,キャラクターモデルをうんぬん,テクスチャをうんぬんという次元では,ラフ・コスター氏の言う「Blog並に簡単」な形には絶対にならない。むしろ,対戦ゲームにおけるリプレイ機能(と,その流通形態)や,昨今話題となったニンテンドーDSの「どうぶつの森」「nintendogs」などなど,ゲームをする過程で自然とユーザー独自のコンテンツが生まれるようなスタイルが,近年中に目標とされる形に近いように思える。
 いずれにせよ重要なのは,オンラインを介してファイルのやり取りが可能という環境が整った時点で,ユーザーが生み出すコンテンツのやり取りというものの可能性が大きく開かれる……という点。これは,もはや疑いようがない。PCゲーム,据え置き型/携帯ゲーム機を問わず,何らかの方法論でそこを企図したサービスが生まれてくることであろう。
 PCゲームでいえば,MOD的な要素を取り込んでいると言われるウィル・ライト氏の新作「Spore」などがどういうゲームとして仕上がってくるのか,今後の新作の動向を注目していきたいところである。



 最後にやや余談となるが,同講演中に新氏が紹介していた日本人作の「ハーフライフ2」用MODである「Mistake Of Pythagoras」も,これを機に紹介しておきたい。

 Mistake Of Pythagorasは,Counter-Strikeおよび国内のMODコミュニティの間では有名な佐藤孔盟氏が制作した作品。佐藤氏は,Counter-Strikeをアーケードゲーム用に改良した「カウンターストライク・ネオ」の開発スタッフ(LEDZONEチーム)として活躍する,おそらくは日本で初めてのレベルデザイナーなのだが,本MODは,通常の業務(LEDZONEの仕事)とは関係なく,帰宅後に毎日コツコツと作り上げたものだという。
 ネタバレになるため詳しい内容はここでは伏せるが,大まかに説明すると,巨大な数字の塊が空から降ってくるという奇想天外な世界を舞台に,謎に満ちた敵と戦っていくというストーリー。プレイ時間にして約2〜3時間前後と,ちょっとした拡張パック並のボリュームを誇っている。そのクオリティもかなり高く,とある海外の大手MODコミュニティサイトで行われたユーザー投票では,昨年のMODタイトルの中で,12位にランクインしたほど。
 ハーフライフ2を持っているプレイヤーであれば,誰でも簡単にプレイできるので,興味がある人はぜひ遊んでみてほしいと思う。まだ英語版のページしか出来ていないが,MODファイル本体は以下のサイトからダウンロード可能だ。(TAITAI)

 →「Mistake Of Pythagoras」の公式サイト&ダウンロードは「こちら」

※追記
MODファイル本体のミラーリングの許可が得られたので,4Gamerにもアップしておく。ダウンロードは「こちら」からどうぞ。


ハーフライフ 2 日本語版 / コレクターズエディション 英語版
■開発元:Valve Corporation
■発売元:サイバーフロント
■発売日:2004/11/17
■価格:日本語版 6825円(税込),CE英語版 9240円(税込)
→公式サイトは「こちら」

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/news/history/2006.02/20060213221311detail.html