日本運営スタッフに聞く,MMORPG「グラナド・エスパダ」の現状と今後
カスタマーサポートチーム 河尚伯(ハ サンベク)氏
|
3回のクローズドβテストののちにオープンβが開始され,さらに1か月以上が過ぎた「グラナド・エスパダ」。すでに上級ダンジョンを突破し終わったプレイヤーもちらほら見られたが,5月19日には待望の大規模アップデートが実施され,また世界が拡充された。 このアップデートも少し落ち着いたと思われる5月23日,ハンビットユビキタスエンターテインメントに伺い,オープンβサービスの現状と,今後の展開について話を聞いてきた。 本作に関するインタビューは,これまでにも何度も行ってきたが,今回は少し趣向を変えて,本作の日本サービスに直接関わるGM達を束ねる,GM長の河尚伯(ハ サンベク)氏に話を聞いてみた。これまで行ってきたような,開発関係者のインタビューとは違う雰囲気だったが,日本のオープンβサービスの今と未来を知るうえで,なかなか貴重な話を聞くことができた。
■GM長というお仕事について
右は,今回通訳を務めてくれた,GMチームの張祐鎮(ジャン ウジン)氏
|
4Gamer: 本日はよろしくお願いします。さて,河さんはGM長ということですが,具体的に,どのような業務をされているのか教えてください。
河尚伯氏: 私の1日の仕事の流れとしては,午前中はユーザーの反応や要望を知るためにコミュニティサイトを巡回したり,GMチームから毎日上がってくる報告を確認し,何か問題点があればそれをまとめて,韓国の開発側とやりとりしたりします。午後は,管理業務がメインになります。アップデートが行われる日には,サーバーに問題がないかモニタリング作業をしたりですね。まぁ,それほど大したことはしていないですよ(編注:通訳の張氏に聞いたところ,本当はものすごく忙しい人だそうです)。
4Gamer: GMチームを束ねて,直接韓国側とやりとりするわけですから,十分大変だ思うのですが……。では,グラナド・エスパダのGM長となる前は,どういった仕事をされていたのですか?
河尚伯氏: 実は私は,元々ゲームの開発者なんですよ。その経験が,今の,プレイヤーと開発との橋渡しという業務に生かされていると思っています。以前の職場での仕事なので,具体的なタイトルは挙げられませんが,私が手がけたゲームは,すべて日本でサービスされているんですよ。
4Gamer: おお,そうなんですか。では,確かに韓国のゲーム開発者の気持ちも分かるでしょうし,日本のゲーマーの好みにも詳しいでしょうね。ではそんな河さんから見て,日本と韓国のゲーマーにはどんな違いがありますか?
河尚伯氏: 韓国と日本のゲーマーのプレイスタイルには,かなり違いが見られますね。日本には,ゲームそのものを純粋に楽しんでくれている人が多いと感じています。また,ゲーム内でのエチケットやマナーが非常に良く,韓国の人には日本ゲーマーを少し見習ってほしいと思うところがありますよ(笑)。 一方で韓国のゲーマーというのは,ゲームそのもの以外の部分で楽しむ傾向があるようです。例えば,対人戦やレベル上げ競争など,ゲームを介してほかのプレイヤーとの勝負を楽しんでいるようですね。 ちなみに,日本で一番人気のあるプレイキャラクター(取得可能NPCも含む)はアデリーナなんですが,韓国では対人戦で強いキャラを好む傾向があるのか,クラウドボネが一番使われていたりします。
■日本独自仕様の導入は?
4Gamer: なるほど,確かにそういう面はあるかもしれませんね。さて,日本と韓国とでは,そのようにゲーマーの好みが大きく違うとして,河さんは,グラナド・エスパダが両方の国で成功を収めるために,どういった施策を考えていますか?
河尚伯氏: 日本でオープンβサービスを始めて,1か月が経過しました。ただ,“サービス”と呼んではいますが,あくまで“β”状態ということもあり,これまでゲームの基盤となるべき部分さえしっかりしていなかったので,事実上,プレイヤーからの意見を取り入れることができませんでした。しかし今後は,プレイヤーの声を汲み取ることが最も重要だと考えています。日本では,日本人のさまざまな要望に応える形で,受け入れられるゲームにしていくつもりです。 ただ,私自身も以前はゲーム開発に携わっていましたから,開発元の苦労はよく分かります。日本独自の仕様を入れることも大切ですが,もし韓国と日本のクライアントがあまりにも違ってしまえば,今度はアップデートなどの歩調を合わせるのが大変ですし,管理も難しくなります。ですから日本サービスに関しては,最大限開発元と話し合いをしながら,そのうえで独自のものを入れていこうと考えています。
4Gamer: 日本独自仕様を入れるとしたら,具体的にどんなものが考えられますか?
河尚伯氏: そうですね,システム面で独自のものを作ってしまうと,今話したとおり管理が大変になってしまいますので,コスチュームやアイテム,NPCといったところで違いを出していきたいです。
4Gamer: 日本のユーザーから,こんなコスチュームを作ってほしいといった意見は実際に出てます?
河尚伯氏: 個々のコスチュームというよりは,プレイヤーキャラクターの顔や髪型の種類を増やしてほしい,仲間にしたNPCの外見も変えたい,バラックモードにクローゼット機能を持たせてほしい……といった外見に関するものがメインですね。
4Gamer: なるほど。……それらは,前向きに検討中と考えていいですか?
河尚伯氏: ええ,もちろん。こういった話は,我々からも開発側に要望を出していますので。開発次第なので,いつとは明言できませんが,気長にお待ちください。
4Gamer: 分かりました。期待していますね。では,開発側に頼らずとも“日本独自”を打ち出せる,オフライン,もしくはオンラインのイベントはいかがですか?
河尚伯氏: イベントを企画するとしても,韓国人の私が考えつくものが,日本のゲーマーに受けいられるとは限りませんよね。なので,ゲーム内でのサポートやイベントについては,できるだけ私は口を出さずに,GMチームの日本人スタッフ達に任せたいと考えています。
4Gamer: できれば第二次クローズドβで行われたような,PvPトーナメントをまたやってほしいですね。
河尚伯氏: ええ,ぜひやりたいですね。正式サービスのタイミングで,PvPイベントをやろうと考えていますよ。日本大会はもちろん,可能であれば,韓国と日本による世界大会などもやりたいですね。
4Gamer: お,日韓戦ですか! それはいいですね。ぜひ実現してください。
■オープンβ&5月19日の大規模アップデートについて
4Gamer: オープンβ開始から約1か月,そして初の大規模アップデートからも数日が経過しましたが,手応えというか,プレイヤーからの反応は実際どんなものでしょうか?
河尚伯氏: 公式サイトに寄せられたご意見は,要望や改善案に関するものが多いですね。それによって,数多くのバグを修正できたし,アイテムのドロップ率などのバランス調整も行いましたので,ずいぶんプレイしやすくなっていると思います。
4Gamer: 本作の場合,確かにまだ完成度を高めている段階ですので,プレイヤーとしても,ゲームの完成に貢献したいというのはあるでしょうね。 ちなみに,現在アカウント数というのはどのくらいですか?
河尚伯氏: 正確な数字については,申し訳ありませんが現在公表できません。これは単純に,現時点での正確な集計を出していないからです。ただ,以前10万アカウント突破のリリースを出しましたが,そこから順調に伸びているのは確かですよ。
4Gamer: プレイヤーは確実に増えていると。ただ,それにしても,いきなり10サーバーでオープンβ開始というのは,かなり異例ですよね。結構強気なスタートに見えますが,これはグラナド・エスパダがそれだけ集客力のあるタイトルだという,自信の表れと見ていいのでしょうか。
河尚伯氏: 誰もが快適な環境でプレイできるように,最初から10サーバーを開放しました。
4Gamer: とはいえ,やはりプレイヤーが少ないサーバーも出てきていますよね。もしこの状況が続くようなら,サーバーの統合とかもあり得るのでしょうか?
河尚伯氏: もちろん,今後プレイヤー数の極端な偏りが見られたときなどには,サーバー統合も考えられますが,今のところ予定はありません。そのあたりは,今後流動的に対応したいと思います。
4Gamer: 状況を見つつ,ということですね。ところで,現在韓国のクライアントとのバージョン差は,どれぐらいなんでしょうか
河尚伯氏: アップデート差は2週間ぐらいしか開いていません。5月19日にアップデートを行ったばかりの現段階では,実装内容はほぼ同じですね。
4Gamer: ほぼ追いついているんですね。それは凄い。ただ,高レベル帯のユーザーは,19日に追加された新エリアですら,すでに“観光”し終わってるようです。正式サービスまでに,もう一度ぐらい大規模アップデートがあるのではと予想していますが,いかがでしょう。
河尚伯氏: うーん,正式サービスの日程そのものが未定ですしね。正式サービスに合わせて,プレイヤーに喜んでもらえるようなアップデート内容を考えてはいますよ。 ただ,今はそういった大きなアップデートよりも,日本のプレイヤーが欲しがっている機能を実装していくほうが先だと考えています。
4Gamer: その,プレイヤーが求めている機能というのは,具体的にはどんな内容ですか?
河尚伯氏: プレイヤーからの要望に応じて,すでに導入したものですと……上級ダンジョンでのPKや,モンスターを倒すときの爽快感のアップなどが挙げられますね。
4Gamer: え,上級ダンジョンでのPKは,要望があって実装されたものだったんですか? 日本のゲーマーはフィールドPKを嫌う傾向があるので,それは正直驚きました。
河尚伯氏: ああ,すみません。今挙げたのは,韓国版も共通のアップデート内容ですので。もちろんあちらのプレイヤーの声も入っています。 確かに日本には,フィールドPKを嫌う人もいますね。上級ダンジョンでのPKに関しては,チャンネル別にPK可/不可を決めたり,PKのオン/オフができるようにしたりなど,今後も検討していくつもりです。
4Gamer: そういえば,現時点で日本だけの独自仕様というのは,何かありましたっけ?
河尚伯氏: 今はまだとくにありません。現在は,オープンβに参加してくれている人に,グラナド・エスパダの中でさまざまなことを見て,聞いて,試してもらうために,(韓国版とわずか2週間程度しかズレがないという)厳しい日程の中で,アップデートを行っています。 先ほどもお話ししたように,日本独自のものは,今後入れていきます。というのも,実は今テストサーバーを準備中でして,今後は,要望が多かった機能などをまずはそちらでテストし,テスター達の意見をよく聞いたうえで実装していく予定です。
4Gamer: テストサーバーが,近々公開されるんですね。確かに,アップデートによる不具合を減らすためにも,必要ですよね。 実際,19日の大規模アップデート直後にはミッションが一切プレイできず,結果的には数時間分とはいえ巻き戻しがありました。それに伴い,オープンβの開始時間も延期になりましたし……。正直に言って,これまで,この手の不具合が目立っています。 先ほど,正式サービスのタイミングに合わせて,大規模アップデートを行う予定との話もありましが,このままでは,二の轍を踏みかねないかと心配していたのですが,……テストサーバーができれば,その点は改善されると考えていいですよね?
河尚伯氏: 19日のアップデートによる不具合では,プレイヤーのみなさまにご迷惑をおかけしました。大変申し訳ありませんでした。我々も徹夜で準備を進めていましたが,巻き戻しという事態になってしまいました。こういったことを再び起こさないためにも,テストサーバーをオープンし,そこで検証を重ね,より安定したバージョンを皆様に提供できるように努力していきます。
■今後のグラナド・エスパダ
4Gamer: では,ゲームの細かい部分についても聞いていきます。これは,プレイヤーの多くが最も気にしていることの一つだと思いますが,仲間にできるNPCはミッション・クエストをこなすにつれて増えるのに,バラックの拡張には限度がありますね。これに対する解決策というのは,何か考えられていますでしょうか?
河尚伯氏: ええ,バラックの拡張計画がありますよ。バラックの上限が増えれば,とりあえずは解決できるでしょう。その後には,「ハウジング」システムなども計画しています。
4Gamer: ハウジングですか! ぜひそれについて詳しく教えてください。バラックの延長のようなものですか,それとも実際に“家”として機能するタイプなんでしょうか。
河尚伯氏: すみません,私自身が開発に関わっているわけではないので,あまり詳しい話はできないんですよ。ただ,これは私の想像ですが,ハウジングシステムはバラックの延長といった形ではなく,また別のシステムとして存在するでしょう。 予想としては,倉庫代わりや,バラックに入りきらないNPCを収納するといった機能が,ハウジングシステムの一部として実装されるのではないでしょうか。あくまで予想ですよ(笑)。開発元のIMC Gamesから聞いた話では,ハウジングシステムの導入はまだまだ先のことで,とりあえずはバラックの拡張が行われるとのことです。
4Gamer: なるほど,ハウジングというと,どうしても家具の配置や,その家具を作り出す生産スキルがあるのではと予想してしまうんですが……。そのあたりは,今後の楽しみという感じですね。
河尚伯氏: 生産システムについては,企画段階で話が出たことはありますが,現時点では具体的な話になっていないですね。
4Gamer: うーん,残念。気長にお待ちしています。さて,そろそろ時間も迫ってきましたので,もう少し近い未来,具体的には次期アップデートについて,可能な限り聞かせていただければ。
河尚伯氏: あくまで予定ということで聞いていただきたいんですが,次のアップデートでは,新マップと新NPCを実装します。
4Gamer: それはいつ頃ですか?
河尚伯氏: 早く出したいところですが,まぁ,開発側から上がってこないことにはどうしようもないですからね(笑)。いつとは明言できず,すみません。
4Gamer: では,ほかに何か,アップデート内容を教えてもらえませんか? ヒントだけでも結構ですので。
河尚伯氏: うーん,どこまで言っていいんだろう……。ちょっとくらいはいいかなぁ。実は,小林智美さんにある依頼をしているんですよ。
4Gamer: ある依頼……というと?
河尚伯氏: それについて,いつ発表できるか,その依頼したものが何かはここでお伝えできませんが,ラフ画が届いてきていることだけお話しておきます。
4Gamer: アイテム的なものですか?
河尚伯氏: さて,どうでしょう。
4Gamer: コスチュームだと,当たり前すぎますかね?
河尚伯氏: いや,どうでしょう。
4Gamer: もしかしたら新キャラクターそのものが小林智美さんのデザインで出るかもしれないですよね。
河尚伯氏: 何を言われても,これ以上は話せませんよ(笑)。
4Gamer: なかなか手強いですね(笑)。ともあれ,それはかなり期待です。楽しみにしています。では最後に,河さんから,4Gamer読者に一言コメントをお願いします。
河尚伯氏: ハンビットユビキタスエンターテインメント自体,まだ生まれて間もない会社ですが,これからスタッフ一同で,グラナド・エスパダを良くするために努力していきいますので,ご期待ください。 とくに今後は,プレイヤーのみなさまの意見を最大限に取り入れたいと思っています。そのためにも,テストサーバーを近々開設しますので,ぜひ参加してください。そこでいただいた要望をもとに,日本独自のコンテンツも作っていきたいと考えています。
4Gamer: 分かりました。本日はお忙しい中,ありがとうございました。
今回のインタビューは,GM長という立場の河氏に話を聞いたため,当然ではあるが,開発側の作業となるグラナド・エスパダのシステム的な展開については,詳しい話を聞くことができなかった。ハウジングシステムなど,どうやら魅力的な仕掛けが用意されてはいるようだが,これについてもあくまで予想にとどまり,突っ込んだことを聞けなかったのは非常に残念である。このあたりについては,いずれまた,本作の開発プロデューサーであるキム・ハッキュ氏なりに聞くことにしたい。
5月19日に行われたロールバックに限らず,βテスト中とはいえ,プレイを進めるうえで致命的な問題がいくつか目立ったグラナド・エスパダだが,「今後は日本のプレイヤーの声を最大限にゲームに反映させたい」という河氏の言葉を信じて,まずはテストサーバーのオープンと,次期アップデートのタイミングを待とうではないか。(Text by 麻生ちはや Photo by kiki)
<余談 〜 ローカライズこぼれ話>
強烈な個性を放つNPC アンドレ・ジャンジール
|
今回通訳を行ってくれた張氏はローカライズ担当とのことで,あのNPC「アンドレ」の独特なセリフの翻訳も担当したのかと聞いてみたら,「私は一次翻訳担当ですので,あくまで韓国語から直訳で意味を伝えるだけですね。でも,アンドレは韓国でもあのままですよ(笑)」とのこと。 なんでも,日本語でのNPCの話し方や個性の方向付けには,実はGMチームもアイデアを出しているとか。ちなみにグラナド・エスパダのローカライズでは,最低でも三次翻訳まで行っているそうで,それが魅力的かつ自然な言葉につながっているのだろう。 ところで,知っている人は知っているのかもしれないが,このとき,アンドレ・ジャンジールは,なんと実在の人物がモデルになっているということも教えてもらった。アンドレ・キムという,韓国では知らない人がいないほどの有名デザイナーがいて,その人が,全身真っ白の衣装に真っ白の家具に囲まれていて,英語まじりの会話をするらしいのだ。アンドレファンは,このモデルの人物について調べてみると面白いかもしれない。
|
|
グラナド・エスパダ |
|
|
|
|
|
|
(C)2003-2007 IMC Games Co.,Ltd./Published by Hanbit Ubiquitous Entertainment Inc. |
|
|
|
|