[COMPUTEX 2006#12]より製品に近づいたMXM 2枚差しカード&ペルチェ冷却型カードをMSIが展示
MSIはここ数年,COMPUTEX TAIPEIの開催ごとに,一風変わった製品を展示するのが通例となっている。昨年のレポートでは,AGP 8XとPCI Express x16の両方をサポートしたグラフィックスカードを紹介しているから,覚えている人もいるのではないだろうか。 あの製品は残念ながら製品化されなかったが,今年も注目に値する製品が二つ展示されていたので,紹介してみたい。
まず紹介したいのが,NVIDIAの提唱するノートPC向けGPU(グラフィックスチップ)モジュール規格「MXM」(Mobile pci eXpress Module)に対応した小型グラフィックスモジュールを2枚搭載する「Geminium Go」だ。 Geminium Goについては,2006年2月22日の記事で紹介しているが,先に紹介したモデルとは,ずいぶんと趣が異なっている。
左が2月22日の記事で紹介したバージョン,右が今回のCOMPUTEX TAIPEI 2006で展示されていたものだ
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そう,名称こそ同じながら,設計はまったく新しくなっているのだ。上の写真を見れば分かるように,これまでのGeminium Goでは,二つのMXMスロットが横に並んでいたため,グラフィックスカードがかなり長くなってしまっていた。これに対して“新Geminium Go”では,MXMスロットがカードの表裏両面に一つずつ配置されているため,一般的なミドルレンジクラスのグラフィックスカード並みの大きさで留まっている。 長いと,当然のことながらPCケースを選ぶことになり,いきおい対象ユーザーが大きく減ることになるが,この新しいGeminium Goでは,そういう心配はないわけで,製品に一歩近づいたとはいえるだろう。
そもそも,MXMを採用するメリットは何かというと,大きく分けて三つある。一番大きいのは,MXMの交換によってGPUを交換できることだ。次に,MXMが採用するGeForce Goシリーズでは「PowerMizer」という省電力機能を利用して,例えばゲームをプレイしていないとき,PC全体の消費電力を大きく下げられること。そして最後に,1枚のグラフィックスカードでSLI構成が可能ということが挙げられる。
残念ながら裏面を見たり,ヒートシンクを外したりといったことはできなかったので,上からのぞき込むように撮影してみた。パッシブヒートシンクに,緑色のMXMが2枚挟まれるようになっているのが分かる
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ただ,これらが本当に実現するかは,まだ分からない。最近は,海外市場向けのゲーマー向けノートPCなどでMXMを採用する動きが出てきているが,それでもまだまだ少数派。そうなるとコスト的には不利になるし,そもそもMXMの単体販売が行われる予定は,MSIの日本法人,エムエスアイコンピュータジャパンのプロダクトマネージャ,Minky Chen(ミンキー・チェン)氏によれば「未定」。もちろん,PowerMizerを利用できるかどうかはドライバやカード全体の設計次第になるだろうし,SLI非対応のマザーボードでもSLI動作を行えるかも不明だ。 Chen氏は「もちろん,実際に発売します。8月発売予定です」とのことだが,これだけの課題がある状態から,本当にこの夏に発売されるかというと,筆者の経験上は微妙と言わざるを得ない。
もっとも,これらの問題がすべてクリアされれば,スペースや消費電力,熱設計面で制約のあるPCにおける,ゲームパフォーマンス向上の切り札になる可能性があるのは確か。将来的にMXMの単体販売ラインナップが拡充されていけば,末永く利用できる1枚になるかもしれない。MSIには,製品化を急がず,完成度の高い1枚に仕上げてもらいたいと思う。
なお,現時点の仕様を見てみると,コアクロックは450MHz,メモリクロックは800MHz相当。具体的なチップ名は明らかになっていないが,GeForce Go 7600あたりが搭載されている可能性が高い(GeForce Goシリーズの場合,コアクロックやメモリクロックは製品によって異なり,NVIDIAの公式仕様も明らかにされていないので,あくまで推測だが)。それでいてファンレスなのだから,発熱や消費電力面では,いまのままでもかなり期待できそうである。
■世界初? ペルチェ素子搭載の1枚
ペルチェ素子を搭載した「RX1600XT-T2D256E」。写真右手のごちゃごちゃした電源ケーブルが,ペルチェ素子用の電源ケーブルだ
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さてもう1枚は,冷却機構にペルチェ素子を採用したグラフィックスカード「RX1600XT-T2D256E」である。
ペルチェ素子は,電流を流すことで熱を強制的に移動させる(温度差を作り出す)ことが可能な素子。ファンとは異なり,可動部がないため騒音を発生させないというメリットがあるため,小型冷蔵庫や,一部のCPUクーラーなどにも採用されている。
RX1600XT-T2D256Eには,4ピンの周辺機器用電源コネクタが用意されているが,これはペルチェ素子に電力を供給するためのもの。標準でペルチェ素子を採用したグラフィックスカードは,筆者の知る限り,おそらくこれが初だ。
写真では分かりにくいが,2枚の銅板の間にペルチェ素子が挟まっている。ペルチェ素子からは電源ケーブルが3本出ていた
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ペルチェ素子を利用すると,冷却面と反対側の面が高温になるため,大型のヒートシンクやファン,あるいは水冷システムなどと併用するのが基本である。しかし,展示されていたRX1600XT-T2D256Eはごらんのとおりファンレス設計なので,このままの状態で安定して動作するのか(ヒートシンクが熱くなりすぎ,結局は熱暴走してしまわないか)は,正直疑問だ。MSIのブーススタッフに聞いてみたところ「横からファンの風を当てたりする必要はあると思う」とのことだったので,このまま製品化される,というレベルではなさそうである。
なお,製品名からも分かるように,搭載するGPUはRadeon X1600 XTだが,ペルチェ素子のような機構が必要なのは,Radeon X1900 XTXや,GeForce 7950 GX2のような大発熱モデル。MSIも,実際に発売するときには,そういったハイエンドモデルで採用してくる可能性があるとしていた。(石井英男)
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