「WarRock」開発元CEO&テクモの担当者にインタビュー:日本でのサービス展開について聞いてみた
(左から)Dream Execution CEO Jang Youn-Ho(ジャン ユンホ)氏,テクモ 執行役員 ハイシナジープロダクション エクゼクティブプロデューサー 原尾宏次氏,同 マルチコンテンツ事業部プロデューサー 河野順太郎氏
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8月28日に開かれたテクモのプレスカンファレンスで,韓国産のミリタリーオンラインFPS「WarRock」の日本展開に関する発表が行われた。 レポート記事でお伝えしたように,WarRockは,同カンファレンスで発表されたテクモの新たなオンライン事業である「LieVo」を通じ,基本プレイ無料のサービスとして提供される。また,ゲームポータルサイト「LieVo.jp」がオープンする10月10日から,本作のクローズドβテスターの募集が開始されることも明らかにされた。
カンファレンスの終了後,本作の開発元 Dream ExecutionのCEOであるJang Youn-Ho(ジャン ユンホ)氏にインタビューする機会を得た。また,テクモの執行役員 ハイシナジープロダクション エクゼクティブプロデューサーを務める原尾宏次氏と,同マルチコンテンツ事業部プロデューサーの河野順太郎氏に同席してもらい,日本展開の詳細について話を聞けたので,その模様をお伝えしよう。
■「基本プレイ無料/アイテム課金」以外のプランも検討中
Dream Execution CEO,Jang Youn-Ho(ジャン ユンホ)氏
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4Gamer: 帰国便の時間が迫る中,インタビューに応じていただきありがとうございます。本日はよろしくお願いします。
ジャン氏: こちらこそよろしくお願いします。
4Gamer: 4Gamerでインタビューさせていただくのは,今回で2回目ですね。前回のインタビューの中で,WarRockの日本でのパブリッシャを探しつつ,日本のゲームメーカーとコンシューマ機用ゲームを作る計画を進めていると話してくれましたが,そのメーカーとはテクモのことだったのでしょうか?
ジャン氏: WarRockとコンシューマ機用ゲームの共同開発はまったく別の話でして,現在コンシューマ機用ゲームのプロジェクトを共同で進めているのは,テクモではありません。もちろん,今後チャンスがあれば,一緒に何かやらせてもらいたいですけどね。
4Gamer: あ,違うんですか。すみません,いきなり的外れな質問をしてしまいました。
原尾氏: いえいえ(笑)。
4Gamer: それでは,WarRockについてうかがいます。日本では「基本プレイ無料/アイテム課金」という方式で運営されるとのことですが,韓国や欧米ではどのような課金方式が採用されているのですか?
ジャン氏: 韓国と欧米では若干異なります。まず,韓国では二つの課金方式があり,一つは個人会員を対象とする基本プレイ無料/アイテム課金方式です。もう一つは,韓国ではとてもポピュラーなPC-Bang(インターネットカフェ)向けの特別な課金方式です。 欧米については,個人会員向けにいくつかの異なる課金方式を用意しています。その中には,基本プレイ無料/アイテム課金方式や月額課金方式が含まれます。 実際の名称は異なるのですが,分かりやすくたとえるなら,「ブロンズプラン」「シルバープラン」「ゴールドプラン」といった感じで,複数の料金プランを用意しており,それぞれサービス内容も異なるわけです。 当然ながら,サービス内容が最も充実しているのがゴールドプランです。ゴールド会員に対しては,専用のマップやアイテムなどを提供しています。
4Gamer: 日本でも,基本プレイ無料/アイテム課金以外のプランが用意される予定はあるのでしょうか?
テクモ マルチコンテンツ事業部プロデューサー,河野順太郎氏
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河野氏: WarRockの楽しみをしっかりと味わってもらうためにも,基本プレイは無料でいきます。これは決定済みです。 それに加えて,プレイヤーに「なるほど!」と納得して料金を支払っていただける料金プランについて,今まさに検討しているところです。 そうですね,どちらかといえば,“欧米方式”に近いものになる……かもしれませんね。
ジャン氏: ちなみにアメリカではパッケージ販売も行っており,パッケージの購入者のみが使えるアイテムも提供していますよ。
4Gamer: 日本でのパッケージ販売についてはどうですか?
河野氏: 私達としては,これまでFPSをプレイしたことがないという人にも,WarRockを遊んでもらいたいと考えています。そういう人達にこのゲームを届ける方法として,パッケージ販売がベストなのではないかという考え方もあるんですよね。ですから,パッケージ販売を行うかどうかについても検討しています。
4Gamer: 確かに,より幅広いゲームファンに提供するための選択肢になるかもしれませんね。 それでは,ローカライズについて聞かせてください。日本語版というからには,テキストは日本語化しますよね。
原尾氏: ええ,そうです。
4Gamer: それでは,音声に関してはどうでしょうか?
原尾氏: 日本語の音声に差し替えます。ゲームにのめり込めるかどうかに関わる,重要なポイントだと考えています。
4Gamer: 音声の日本語化まで検討されているというのは,ちょっと驚きました。逆にグローバルな視点から聞きますが,他国のサーバーへの乗り入れは可能ですか?
ジャン氏: 今のところ,リージョンごとにIPアドレスで接続制限を行っていますが,それぞれの国での運営が軌道に乗れば,例えばワールドワイドのクラン戦などのようなゲーム内イベントも開催できるのではないかと思います。
英語版,そして日本語版は韓国語版からどう変わる?
4Gamer: 2005年末から,WarRockのインターナショナルテストを行いましたよね。このテストから,欧米のゲームファンもプレイできるようになったわけですが,彼らの反応はどうでしたか?
ジャン氏: インターナショナルテストは約3か月間実施しました。その中で感じたのは,韓国と欧米では,好まれるプレイスタイルが異なるということです。参加者から得られた意見を参考にして,欧米版には韓国版とは若干内容の異なるアップデートを行うことになりました。
4Gamer: それはつまり,今後アップデートを重ねるにつれ,欧米版と韓国版は内容の異なるゲームになっていくということでしょうか。
ジャン氏: いえ,そうではありません。ゲームの内容やシステムは同じものですが,機能をアップデートしていく順序を部分的に入れ替えたり,あるいは丸ごと入れ替えたりするという意味です。 韓国版はエピソード1,2,3,4という順序でアップデートしたのに対して,欧米版は追加する要素の組み合わせや順序を変更しました。
4Gamer: 何か具体的な例を聞かせてください。
ジャン氏: 韓国のユーザーは,個人の勝敗にこだわる傾向が強いといえます。誰が勝ち,誰が負けたかを明確にしたい,ということですね。ですから,韓国ではデスマッチモードに人気が集まりました。 逆に欧米のプレイヤーには,仲間と協力して進めていくモードを好む傾向が見られました。そのため,協力して遊べるコンテンツを早めに実装しました。
4Gamer: なるほど。日本ではどのようになりますか?
テクモ 執行役員 ハイシナジープロダクション エクゼクティブプロデューサー,原尾宏次氏
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原尾氏: たびたびで恐縮なのですが,検討中です。どのようにすれば,日本のプレイヤーによりスムースに受け入れてもらえるのか,これから考えていきます。単なる日本語化に留まるのではなく,日本ならではの要素を追加することも検討しています。
4Gamer: WarRockでは,プレイヤーキャラクターが成長していくとのことですが,単純に考えれば,これは長くプレイしている人が圧倒的に有利なのではないでしょうか。そのあたりのバランスはどのようにとられているのでしょうか。
ジャン氏: 長くプレイすればするほどキャラクターが強くなり,初心者は上級者に倒されるだけというのでは,確かにゲームが成立しません。そのような状況にならないよう,WarRockにはいろいろなアイデアが盛り込まれています。
4Gamer: 具体的には,プレイヤーキャラクターはどのように成長するのですか?
ジャン氏: プレイを続けていくと,“階級”が上がる仕組みになっています。階級が上がれば,キャラクター自体の能力も少しずつ向上しますが,それは本当に少しずつで,戦いが成り立たないほど大きなギャップは生まれません。
4Gamer: それでは,階級が上がることにはどのようなメリットがあるのですか?
ジャン氏: 使用できるアイテムが増えたり,プレイできるマップが増えたりします。キャラクターの性能ではなく外見を変えるアイテム,例えば勲章を身に着けられるようになるなどのメリットがあります。
河野氏: また,キャラクターが成長することで,自分の行動のバリエーションが増えていきます。
原尾氏: コミュニティの中で,自分の果たせる役どころが増えていくということですね。
4Gamer: なるほど,ようやくイメージがつかめました。初心者でもスムースに入っていけるゲームになることを期待しています。 ところで,プレスカンファレンスでは,司令官として自軍の仲間に指示を出せる「SKYNET SYSTEM」が実装予定との話が出ていました。司令官になるためには,プレイ経験を積んで,それなりにキャラクターを育てる必要があるということですか?
ジャン氏: コマンダーはまだ実装されておらず,仕様も確定していませんが,方向性としてはそういうことですね。
■少し突っ込んだ質問もしてみた
4Gamer: せっかくの機会ですから,少し突っ込んだ質問もさせてください。
ジャン氏: ええ,どうぞ。
4Gamer: 以前から韓国や日本では,「WarRockはバトルフィールドシリーズに似ている」と言われてきましたよね。インターナショナルテスト以降,欧米のプレイヤーからはどのような意見が上がってきましたか?
ジャン氏: この意見が最もホットに飛び交ったのは,WarRock発表当初の韓国においてです。インターナショナルテストに参加した欧米のプレイヤーから寄せられたのは,そのことよりも,ハイスペックのマシンがなくてもこのような内容のゲームがプレイできるのは嬉しいという,肯定的な意見が多かったと記憶しています。
4Gamer: それはやや意外ですが,興味深いです。バトルフィールドシリーズはアメリカで開発されたゲームですし,同じジャンルのゲームが登場したとあれば,似ているとか似ていないとかに敏感になりそうな気がしますので……。
ジャン氏: 私達にとっても意外でした。そのように,ゲームそのものについて評価しようとしてくれる姿勢に感銘を受けました。
4Gamer: WarRockについて,韓国ではいろいろな意見が飛び交ったとのことですが,ここで韓国のゲーム業界について,ぜひ話を聞かせてください。 現在日本では,非常に多くの韓国産ゲームがサービスインしていますが,どこかで見たようなゲームが多いという批判の声が少なくありません。
ジャン氏: その批判については私も認識しています。
4Gamer: 近い将来,この状況に変化が訪れると思いますか? それとも,まだしばらくの間は同じようなゲームが生み出されていくのでしょうか。韓国のゲーム業界で活躍しているジャンさんの意見をぜひ聞かせてください。
ジャン氏: 今までの韓国のゲーム業界は,より長いゲーム開発の歴史を持つアメリカなどのゲームを“お手本”としてきたのは確かです。韓国に限らず,またゲームに限った話でもありませんが,モノを作るということにおいては,よりよいものを参考にして技術や力を蓄えることで,独自のモノを作り出せるようになるのではないでしょうか。 そして韓国では,お手本が必要な時期がようやく終わり,次の時代に入ろうとしていると思います。
4Gamer: “次の時代”ですか?
ジャン氏: これまで韓国は,サーバー管理といったネットワーク周りの技術で一歩先んじていましたので,それをアドバンテージとして他国にゲームを輸出できていた面があります。 しかし近年では,ほかの国々の技術力も向上し,競争力が低下しつつあります。そうなると,これからはゲームの内容や企画で勝負するしかありません。 これからは,個性的な作品を作れるようになることが重要です。韓国のゲーム業界全体が,そのような認識を持っていることは事実だと思います。
4Gamer: 当然ながら日本国内では,韓国ゲーム業界の現状ははっきりとは分かりませんが,今のお話を聞く限り,何らかの変化が起きる予兆はありそうですね。
ジャン氏: 韓国のゲーム会社の多くが,「あと数年もすれば,韓国のゲーム業界が終わってしまうのではないか」との危機感を持っています。今の韓国ゲーム業界に不足しているものが,企画力であるということも認識していますよ。
4Gamer: なるほど。とても興味深いお話でした。ぶしつけな質問に真摯に答えていただき,ありがとうございました。 さて,今はおそらく,サービス開始に向けた準備の真っ最中だと思いますが,東京ゲームショウ2006のころにはいろいろなことが決まっていると期待してもよいでしょうか?
河野氏: ええ。東京ゲームショウでは,進捗状況の報告をするつもりです。そしてカンファレンスで発表したように,10月10日のLieVo.jpのサービスインと同時にクローズドβテスター募集を開始し,正式サービスへとつなげていく予定です。どうぞご期待ください。
4Gamer: WarRockが日本のゲームファンの間に根付くことを期待しています。本日はどうもありがとうございました。
ジャン氏,原尾氏,河野氏: こちらこそありがとうございました。
これまでFPSのマルチプレイが,カジュアルゲーマーにとってハードルの高いものであったことは間違いないだろう。繰り返し倒された挙げ句,スコアボードの一番下に自分の名前が表示されているのを見れば,多くの人は気が引けてしまうのではないだろうか。 運営側もそのことは十分に理解しているようで,基本プレイを無料にしたり,あえて「FPS」ではなく「OMA」(オンラインミリタリーアクション)という言葉で紹介したりと,少しでも多くの人にプレイしてもらうための施策を練っている。 なぜかFPSがいま一つ振るわない日本で,これからWarRockがどこまで善戦できるか。興味深く見守っていきたい。(Text by ライター:星原昭典 / Photo by 市原達也)
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