NVIDIA,新チップセット「nForce 600」発表(1) “4×4”を実現する「nForce 680a SLI」
AMDによるATI Technologies(以下ATI)の買収により,AMD64プラットフォーム向けチップセットの主流は,いずれATIブランド(もしくはAMDブランド)になっていくかもしれない。しかし,これまで,コンシューマ向けのAMD製CPU用チップセットといえば,NVIDIAのnForceだった。
そしてNVIDIAは,2006年10月18日に米国サンノゼで開催された,「GeForce 8800」の報道関係者向け先行テクニカルガイダンスの会場で,「AMDはNVIDIAにとって重要なプラットフォームパートナーである」とあらためて強調。その証というわけではないだろうが,非常に特徴的なチップセットである「nForce 680a SLI」を発表した。今回は,このガイダンスで発表された内容を中心にお伝えしよう。
左:nForce 680a SLIについてのプレゼンテーションを行ったNVIDIAのDrew Henry(ドリュー・ヘンリー)氏(Senior Director of Platform Products)。手に持っているのはASUSTeK Computer製のnForce 680a SLIマザーボード
右:AMD製CPUのロードマップについて語ったAMDのMichael Goddard(マイケル・ゴッダード)氏(Director, Advanced Technology Planning and Performance Labs)
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■AMD64初のコンシューマ向けデュアルCPUチップセット ■2007年登場予定のAMD製クアッドコアにも対応
nForce 680a SLIが持つ最大の特徴は,ゲーマーを含む一般コンシューマ向けとしては,AMD64初のデュアルCPU対応チップセットということだ。ブロックダイアグラムは下に示したが,ご覧のとおり,SocketF×2がサポートされる。
nForce 680a SLIのブロックダイアグラム
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Athlon 64用CPUソケットいえば,最近だとSocket AM2かSocket939が主流。SocketFはサーバーやワークステーション向けCPUであるOpteron(オプテロン)用なのだが,意外にもOpteronには未対応とのこと。では何に対応するのかというと,2006年11月14日時点では「将来的に登場予定のAMD製CPUに対応する」としか言えないのだそうだ。 ただ,その「将来」には,AMDが2007年中頃に投入予定となっている,65nmプロセスルールを採用した同社初のクアッドコアCPU「Barcelona」(バルセロナ,開発コードネーム)が含まれることは明言されている。
Intelに続き,AMDも2007年にはクアッドコアCPUを投入。nForce 680a SLIはこれに対応しているので,クアッドコア×2の8コア構成が可能と謳う
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リファレンスデザインのボードとして紹介された,ASUSTeK Computer製「L1N64-SLI Deluxe」。2個のnForce 680a SLIは銅板で覆われ,そこから2本のヒートパイプが放熱フィンに向かって伸びている
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ブロックダイアグラムに戻ると,nForce 680a SLIは2チップ構成,しかも,まったく同じnForce 680a SLIが2個組み合わせられている。ダイアグラムでは,片方しかPCIをサポートしていないように見えるが,これは「図を簡略化したため」(NVIDIA)とのこと。 2個のnForce 680a SLIチップは,いずれも2個あるうち片方のSocketFと16bit幅リンクのHyperTransportで接続され,SocketF上のCPU間は,メモリ内データの一貫性を取るためのプロトコルを加えた「Coherent HyperTransport」で結ばれる仕様だ。 ちなみにメインメモリは一般的なアンバッファードタイプのPC2-6400 DDR2 SDRAM DIMMが,1CPUあたり2スロットのデュアルチャネルまでサポートされる。Opteronはサーバー向けに信頼性の高められたレジスタードタイプのメモリしかサポートしなかったので,たしかにコンシューマ向けにはなっているようである。
12台のHDDを動作させたデモ機。電源コネクタの本数も圧巻だ
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従来のNVIDIA製ハイエンド向けチップセットである「nForce 590 SLI」では,1000BASE-T LAN×2,Serial ATA×6,USB 2.0×10がサポートされていたが,2チップ構成となったnForce 680a SLIでは,まるまる2セットとして提供される。つまり,1000BASE-T LAN×4,Serial ATA×12,USB 2.0×20がサポートされるのだ。 NVIDIAはテクニカルガイダンスの会場で,実際に12台のHDDを用いたシステムを展示。このデモシステムでは,RAID 0構成のブートアレイ(2台)とRAID 0構成のアプリケーションアレイ(2台),2セットのRAID 5構成データアレイ(4台×2)を動作させていた。
■16レーン×2のSLIよりも ■16レーン&8レーンによるSLIのほうが速い?
先ほど,2個のnForce 680a SLIは同じものと述べたが,nForce 680a SLIはそれぞれが16レーンと8レーン各1からなるPCI Express x16スロット×2をサポートする。つまり,nForce 680a SLIでは,標準で4枚のグラフィックスカードを同時に利用できるのである。
nForce 680a SLIマザーボードの構成を示したスライド
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右の写真を見てもらうと一目瞭然だが,たしかにPCI Express x16スロットはリファレンスボードにおいて4基用意されている。青いスロットが16レーン,黒いスロットが8レーンなので,左側の16レーン&8レーンには2スロット仕様のグラフィックスカードを差せるが,右側の隣接した16レーン&8レーンには,1スロット仕様の製品しか差せない。 一方,視点を変えてみると,16レーンのPCI Express x16スロット間は3スロット離れている。これはnForce 680i SLIのリファレンスデザインと同じで,同製品用に用意されたSLIブリッジがあれば,この2スロットでフルスペックのNVIDIA SLI(以下SLI)構成が可能なように見える。
nForce 680i SLIのSLI構成について説明するThomas A. Petersen氏(Director of Technical Marketing-MCP Products, NVIDIA)
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この点についてNVIDIAのThomans A.Petersen(トーマス・ピーターセン)氏は,「nForce 680a SLIにおけるSLI構成は,隣合う16レーンと8レーンの組み合わせを推奨する」と述べる。 これはどういうことか。これまでNVIDIAは,SLIの最大パフォーマンスを得るためには,2枚のグラフィックスカードをともに16レーンで接続すべきという論調を展開してきたわけで,明らかな矛盾だ。
……この答えは,ブロックダイアグラムをもう一度よく見直すと,おぼろげながら見えてくる。 nForce 680a SLIにおいては,2個のチップからそれぞれ16レーンと8レーンが出ているため,16レーン×2を用いようとすると,異なるチップから提供される16レーンを利用することになる。そして,ここが重要なのだが,リファレンスボード上に隣接して置かれている2個のnForce 680i SLIチップは,HyperTransportで結ばれていないのだ。 「もちろん16レーン×2でもSLI構成は可能だ。ただし,nForce 680a SLIに限っていえば,最大パフォーマンスは16レーンと8レーンを利用したときに出やすい」(Petersen氏)。
16レーン×2でSLI構成をとろうとすると,データ転送はCPUと各nForce 680a SLIチップ間のHyperTransportを利用することになり,バス帯域を消費することになってしまう。だから,このオーバーヘッドを考えると,同一チップ内で提供される16レーンと8レーンを素直に使ったほうがいいというわけである。
別記事でお伝えしている「nForce 680i SLI」については,「冷却効率に配慮して3スロット分の間隔を開けた」と言っているのに対して,nForce 680a SLIではその配慮がない。このあたりは一貫性がなく,やや迷走している感じで,ユーザーの混乱を招きそうだ。
■4CPU×4GPUの「4×4」を実現 ■いずれは“8×8”も!?
PCI Express x16スロット×4がいずれもSLIに対応するということは,SLIによるデュアルディスプレイ,あるいはQuad SLIが実現できそうに見えるが,果たしてどうだろうか。 結論からいえば,11月14日時点でNVIDIAは「通常のSLIしかサポートしていない」という答えしか返さない。要するに,将来的にはサポートされるかもしれないが,現段階ではなんともいえないということなのだろう。
ただ,少なくとも4枚のグラフィックスカードすべてを同時に利用することは可能。実際,そのデモンストレーションも行われた。 デモ機が搭載するCPUは案の定未公開だが,AMD製のデュアルコアCPU×2に,GeForce 8800 GTX×2,そして詳細は明らかにされなかったが,GeForce 7900シリーズを搭載する製品×2という構成で,グラフィックスカード1枚あたり1台,合計4台のディスプレイに接続し,それぞれで3Dゲーム,高解像度ビデオ編集,高解像度ビデオエンコード,高解像度ビデオ再生を同時に動作させるさまをアピールしていた。
左:4枚のグラフィックスカードが差さっている点に注目。実際に同時稼動していた
右:このPCに4台のディスプレイを接続し,比較的ヘビーな4アプリケーションを同時実行させるデモを披露
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4×4のイメージ
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このCPUコア×4,GPU(グラフィックスチップ)×4のシステムを,AMDが「4×4」(フォーバイフォー,開発コードネーム)と呼んでいることは,覚えている読者も少なくないと思う。 先述したように,nForce 680a SLIはクアッドコアCPUもサポートされるので,行く行くは“8×4”も可能になる。また,「GeForce 7950 GX2」のようなデュアルGPUソリューションが,1枚で提供されるようになれば,“8×8”も夢物語ではなくなってくる。
4枚のグラフィックスカードをすべて用いるという構成を,現実離れしたものと感じるゲーマーは少なくないだろう。ただし,3枚め以降を別の目的に活用することまでを視野に入れると,nForce 680a SLIが持つPCI Express x16 ×4という拡張性はかなり魅力的に見えてくる。
例えば,「Havok FX」のような物理エンジンのアクセラレーションにGPUを活用したい場合などだ。最新グラフィックスカード2枚でSLIを構成したうえで,それまで使っていたグラフィックスカードをHavok FXアクセラレーションに用いたりできれば,これはありがたい。 また,先頃NVIDIAは統合型シェーダ(Unified Shader)アーキテクチャのGPUで汎用プログラムを開発できる「CUDA構想」(CUDA:クーダ)を発表したが,これによって,Havok FX以外にもGPUアクセラレーションを行えるソフトウェアが登場してくるかもしれない。それこそHavok FX以外の物理シミュレーションエンジンやゲームのAI,(ゲームとはあまり関係ないが)ビデオエンコードソフトなどが,GPU上で動作できるようになるかもしれないのだ。その暁には,ほかのプラットフォームよりも多くのGPUをサポートできるnForce 680a SLIの価値が高まることだろう。(トライゼット 西川善司)
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