[韓国ゲーム事情#624]韓国政府,RMTの法的規制に動く
Kimの韓国最新PCゲーム事情#624
韓国政府がRMTの法的規制へ。オンラインゲーム市場は氷河期へ突入か?(2006/11/29)
Text by Kim Dong Wook特派員
韓国政府が,オンラインゲームのゲーム内マネー取り引きを規制する動きを見せており,業界は氷河期突入への危機感を募らせている。
11月22日に文化観光部(注1)は,国会の文化観光委員会(注2)が「ゲーム産業振興法改正案」を上程したことを発表した。これが本会議を通過すれば,ゲーム内マネー(例えば「リネージュ」の「アデナ」や,ゲームサイト独自の各種仮想通貨,オンラインカードゲームなどのポイント)の現金取り引き,およびこれを仲介する行為は,違法行為に認定されるようになる(MMORPGにおけるアイテム(武器,防具など)取り引きなどは,現状では規制対象外とされている)。
この改正案の背景には,2006年夏に政府をも巻き込んで韓国全土を震撼させた「海物語」事件(注3)がある。これ以降,射幸性を持つゲームを規制する動きが強まり,これがオンラインゲームで問題視されてきたRMT(Real Money Trade)にも波及した形と言えるだろう。
オンラインゲームに関する追加条項としては,「ゲーム内マネー両替業の禁止」というものがある。これは,オンラインゲームをプレイすることで得られる有形,無形の成果物を,現金と両替すること,両替を仲介すること,再買入することなどを,主要な業務として行うことを禁じるものだ。 ここでいう成果物に該当するのは,オンラインゲームで獲得できるゲーム内マネーと,関連ポイント,およびこれらに類似するもののみ。そのため,武器や防具といった装備アイテムなどは除外されている。これについて疑問視する声もあるが,文化観光部の関係筋によると,今回の改正案では除外されている「ゲーム内アイテムの現金取引」についても,根本的な規制法案を検討しているようだ。 なお,この改正案は2006年12月中に本会議を通過する見通し。施行されれば,違反者は5年以下の懲役もしくは5000万ウォン以下の罰金刑を科せられることになる。
■RMT市場の規模と,規制によって予想される影響
RMTは,韓国のオンラインゲーム業界にとって,長い間解決できないままでいた課題の一つである。 ゲームプレイ時に必要となるゲーム内マネーや,アイテムの現金取り引きの隆盛は,ゲームの開発元や運営元にとって,当初の企画段階では想定していなかったはずのものだ。オンラインという環境の中で,プレイヤー間における需要と供給から生まれたものであるため,違法性を認めること自体に,ためらいもあったのかもしれない。 また,ゲーム内マネーやアイテムは,プレイヤーが自らのお金と時間を投資して獲得した成果物だから,所有権はプレイヤーに帰属するというRMT賛成派の意見と,ゲームの世界の一切の所有権は開発元に帰属するという反対側の意見との対立もあるが,明確な答えを誰も出せないままに長らく平行線をたどってきた。
こうした状況下で,ゲームを運営する企業の多くは,RMTの市場規模がサービスによって直接得られるはずの収益を上回りつつあると認識し,RMTに反対する立場をとりながらも,あまり積極的な規制を行わずにきている。 韓国ゲーム産業開発院の統計調査によると,2006年のオンラインゲームでのRMTの市場規模は,8300億〜9137億ウォン(約830億〜914億円)にものぼる。ちなみに,取り引き件数の約80%を仲介サイトを利用したRMTが占め,残りの約20%がプレイヤー間の直接取り引きであるという。総取り引き件数の約93%はMMORPGで,総取り引き額の約80%は,ゲーム内マネーの取り引きであるという。 これらのデータから,MMORPGにおけるゲーム内マネーの取り引きが,RMTの大半を占めていることが明らかだ。
業界関係者達は,「ゲーム産業振興法改正案が施行されれば,MMORPG,そしてポーカーや花札といったオンラインカードゲームのプレイヤーの減少が予想される。しかし,カジュアルゲームの場合は,ゲーム内マネーやアイテムの現金取り引き規模が小さいため,売り上げ減少などの影響はそれほど大きくないだろう」と予想している。しかしながら,文化観光部の発表があった先週,ゲーム関連の株価は一斉に下落した。 また,当然のことながら韓国RMT市場において,利用者数で80%以上を獲得している最大のサイト「itemBay」や,類似する仲介サイトも大きな打撃を受けることは間違いない。とくにitemBayの場合,海外の大手RMT会社から巨額のM&A提案を受けている最中とあって,この法案が悪材料になる可能性が高い。itemBayの関係者は,「この改正案については,社内でさまざまな検討を行っている。事態と状況を総合的に把握し,慎重に対応したい」と語っている。
業界の一部は,「この規制により,韓国の輸出産業として注目されているオンラインゲーム開発が,萎縮することは明らかである」と見ており,産業の活性化のためにも,何か新しい方策が必要であると指摘している。 実際,どのような影響があるのかは,法の施行後しばらく様子を見るしかないが,これまで誰もが触れまいとしてきたRMTへの規制は,韓国ゲーム業界にとって一大転機といえるだろう。
(注1) 文化観光部:韓国政府組織の一つで,下部に文化財庁,韓国観光公社,韓国観光研究院を持つ。日本でいう“省”にあたる
(注2) 文化観光委員会:国会内の小委員会として新聞,放送,映画,観光など,“文化”に関連する法案を検討し,上程する組織。ゲームも映像コンテンツの一つというくくりで,この委員会が取り扱う
(注3) 「海物語」の事件:2006年8月までに,パチンコ「海物語」(日本で人気を集めている同名パチンコ台と同じキャラクター,液晶などが使用されているが,三洋物産は輸出していない)を設置して運営するゲームセンターが,韓国内で1万5000店にもなった。韓国のパチンコは,大当たりすると商品券が出てくる仕組みになっている。この海物語も,政府が認可した段階では大当たりしたときに最高2万ウォン分の商品券を獲得できるに過ぎなかったのだが,流通過程などで最高250万ウォン分の商品券を獲得できるような形に改造された(この商品券は店外の金券ショップなどで換金可能)。つまり,射幸心をいたずらに煽る賭博になったわけだ。そのため,財産の多くをつぎ込んでしまう人が現れるなどといった社会問題となり,パチンコ台の販売会社社長らが起訴されるなどもした。さらに,この背景に政治スキャンダルが存在する可能性も一部で報じられ,大きな騒動となった。その後,政府はパチンコに対する厳しい取り締まりを大々的に実施。結果的に,多くの一般大衆が抱くゲームへのイメージも悪化した
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