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「ゲーム制作に関する最新動向」の特別セミナーレポート
2007/01/24 22:49
東京大学大学院情報学環教授の馬場章氏
 本日(1月24日),都内で財団法人デジタルコンテンツ協会による「ゲーム制作に関する最新動向」と題した特別セミナーが開催された。このイベントは,経済産業省が中心となって行っているゲーム産業戦略研究の一環で,ゲーム産業の情報を産官学で共有することなどを目的としたものだ。冒頭の挨拶に立った東京大学大学院情報学環教授の馬場章氏は,2010年までゲームソフト制作,ゲーム機製作で,日本が世界をリードできるようにすること,ゲーム産業を社会的に認知される産業とすることなどを目標に挙げていた。

 今回のイベントでは,3D業界の技術動向について,テクニカルライターであるトライゼットの西川善司氏の講演と,マイクロソフトXbox事業本部の田代昭博氏によるXNA Game Studio Expressに関する講演が行われた。



■最新世代3Dグラフィックス事情

 西川氏の講演は,新世代のコンシューマゲーム機が3種類出揃った現時点で,それぞれのハードウェアの特性や開発現場で要求されてくるトピックについて解説するというもの。
 最初の話題は,シェーダである。Xboxがほぼ不発状態だった日本では,プログラマブルシェーダを初めて触る開発者やデザイナーも多い。日本では,プログラマがある程度決まった処理のできる汎用シェーダを用意して,パラメータやテクスチャなどをデザイナーをいじっていくという手法が多く取られているようだ。
 「ハイデフ」というのは,高解像度テレビ対応(720p)としてXbox 360が登場時に盛んに喧伝されたフレーズだが,現在ではPlayStation 3陣営が「1080p」をハイデフと再定義して喧伝している。1280×720ドットから1920×1080ドットに
1080pのフルハイビジョン解像度で60fpsのゲームを実現するハードとして売り出してはいるのだが,開発現場ではあまり歓迎されていないという。むしろ,720pくらいに抑えて,シェーダを多用したり,アンチエイリアスやモーションブラーを使用したほうが,ゲーム映像としては面白いものができるということらしい。現状のハード性能からすると,ちょっと背伸びをしている感じだろうか。



 コンシューマゲーム機にこれまでになかった開発トピックとしては,HDR,法線マッピング,影生成などを挙げている。PCでは,法線マッピングと忠実なリアルタイムシャドウを実現したDOOM 3が2004年8月発売だから,2年ほど前の話題ではあるのだが,コンシューマ機もそのレベルに追いついてきた。ただ,そういった技術は,どこも導入してありふれたものともなっていくので,差別化を行うためには,今後はPRTや表面下散乱,プロシージャルテクスチャなどが必要になるのではないかとしている。
 
 PC関連の話題では,Windows Vista世代のDirectX 10時代のグラフィックス環境などについての解説が行われた。DirectX 10の概要などは省略するが,DirectX 10世代のゲームエンジンについての触れられていたので紹介しておこう。
 話に出てきたのは,Crysisで使われているCryEngine 2.0,Project Offsetのゲームエンジン,そしてカプコンが開発しているユニバーサルエンジンである。ユニバーサルエンジンが本当にDirectX 10に対応しているのかどうかは不明だが,最新世代でしかも国産のエンジンということもあってか,詳しく紹介されていた。



 ユニバーサルエンジンは,Xbox 360用の「Lost Planet」で使用されているゲームエンジンで,昨年行われたCEDEC 2006で突如発表されて,会場を席巻していた。
 カプコンでは,Xbox 360用の開発キットが配布されるのとほぼ同時に,2004年くらいから開発を始めていたものらしい。
上側の画面はXbox 360の実機でリアルタイムにシェーダなどのパラメータを変更したりしているところ,下側の画面は,なんと開発機のPCで動いているLost Planetだという。
 特徴として挙げられていたのは,まず,2.5Dモーションブラー。ポリゴンの速度を格納したベロシティマップを用意して速度と方向を記録しておいて,そのデータに基づいて2次元のブラー処理を行うということらしい。低コストで迫力のある映像を作る,うまいアイデアである。

 次に「MSAA縮小バッファ法」。これはXbox 360に特別に用意された小容量だが高速なビデオメモリをフル活用した技法で,Xbox登場時にぶんか社の川瀬正樹氏が「ダブルスティール」で世界の度肝を抜いたときに使用した「縮小バッファ法」を応用したもの。全画面エフェクトなどを,縮小画面で実行して拡大して合成するというテクニックに,超高速メモリを使い,さらにMSAA(マルチサンプルアンチエイリアス)の機能を併用して,1アクセスで4ピクセルを同時に処理するという技だという。
 そのほか,PC並みの影表現を実現した高解像度シャドウバッファと3階層のカスケード式影生成や,毛皮表現,ポリゴンとの境界が目立たないソフトパーティクルなどが実現されている。
 Xbox 360以外のプラットフォームにも対応しており,国産ゲームエンジンの雄というべき存在となっている。ついででもいいので,PC版のゲームも出してほしいところだが……。



■XNA Game Studio ExpressはPCゲームを活性化するか?

 マイクロソフト田代氏の講演では,昨年末に正式公開された「XNA Game Studio Express」の紹介が行われた。
 XNAは,Xboxなどのゲームを開発するためにマイクロソフトが作成したゲーム用プラットフォームで,さまざまなライブラリなどによって構成されている。C#言語で,それらのライブラリを呼び出すことで,簡単にゲームを作成できるようにしてある環境である。Express Editionということで,無料で公開されており,このツールで作成したゲームを商用で使用してもよいという,太っ腹な内容となっている。
 講演では,XNAの構成や,サンプルのデモ,そしてWindows版のサンプルをXbox 360に移植する作業などが実演された。デモのタイトルは「Space War」である(PC版はキーボード割り当てがかなり分かりにくいので注意)。元となった「Spacewar!」は,1962年にMITのステファン・ラッセルらがPDP-1で作成した歴史的なコンピュータゲームだ(世界で2番目のコンピュータゲームと思われる)。似たようなゲームを見たことのある人も多いだろう。

 PC版からXbox 360版への移行は非常に簡単で,PC版で作ったファイルを(いくつかを除いて),Xbox 360版の新規プロジェクトのあるフォルダにコピーして,ファイル登録を行い,一部の設定を書き換えるだけである。会場では,併置されたXbox 360上で再ビルドされたプログラムが動いていた。そんなに簡単なら,ボタン一つで両方にビルドできるようにすればいいのにと思わなくもないのだが。
 技術的な部分では「お作法」にさえ従えば,XNAだけで開発ができるようになっている。PCやXbox 360でのプラットフォームの違いは意識する必要がない。

上:XNAの概要
下左:Visual C# Expressに追加されたゲーム用のプロジェクト
下中:手直ししたコードをXbox 360で読み込む
下右:Xbox 360で実行されたサンプル


 また,マイクロソフトでは,開発者のためのコミュニティを構築するように動いており,英語版ではすでにユーザーが作成したコードやゲームエンジンなどが,どんどん公開されているという。
 現状のXNA Game Studio Expressでは,Space Warといった非常に簡単なデモしかないのだが,「そんな簡単なものしかできないんじゃないのか?」という疑問を払拭するような本格的なデモ映像が2本公開された。一つはレースゲームで,もう一つはフライトシミュレータである。それなりに複雑な地形と,最近のゲームとして恥ずかしくない画質,および十分な実行速度のものだったが,レースゲームのほうの開発期間はわずか6週間ほどだったいう。これらを含め,マイクロソフトでは,格闘ゲームなど各種のゲームジャンルでのデモを作成し,コードを含めて公開していく予定だという(現在コードの整理中で,公開は半年後くらいになるそうだ)。



 なお,XNA Game Studio Expressを日本語版のページからダウンロードするためには,やけに詳細な個人情報の登録が必要なのだが,中身自体は英語版でも大差ない。チュートリアルなどの日本語訳は随時,日本語版サイトのほうで公開されていくそうだ。個人情報の登録がわずらわしい人は,英語版をダウンロードしよう。こちらならクリックすると即ダウンロードが始まる。

 現在,Windowsプラットフォームは2億台といわれる。マイクロソフトは,今年PCゲームのリラウンチングを目指しており,Games for Windowsなどのブランディング戦略を打ち出し,Xbox 360などと同様に,店頭にPCゲームの試遊台を設置したり,Windows Vistaではゲーム専用のGame Explorerが用意されたりと,PCゲームを推進していく方向で動くようだ。XNAによって,PCとXbox 360の開発が共通化されれば,PC市場も活気あるものになってくるのかもしれない。(aueki)

■XNA デベロッパー センター
日本語ページURL:http://www.microsoft.com/japan/msdn/directx/xna/
英語ページURL:http://msdn.microsoft.com/directx/XNA/default.aspx


ミドルウェア/開発ツール
■開発元:各社
■発売元:各社
■発売日:-
■価格:製品による

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http://www.4gamer.net/news/history/2007.01/20070124224940detail.html