[GDC07#22]クリス・テイラー氏,新作「Supreme Commander」誕生の秘密を公開
Gas Powered GamesのCEOであるクリス・テイラー氏
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それぞれのレクチャーの評価基準を「最新情報や開発Tipsなどを分かりやすく,かつ一般化して聴衆に伝える」という点に置けば,3月8日に行われたクリス・テイラー氏の講演,「Controlling and Entire Theatre of War: The Development of Supreme Commander」には,まず間違いなく「F」が付くだろう。だが「面白さ」という視点からみれば,まず間違いなく「A」,いや「AA」ぐらいは軽く取ってしまうはずだ。
2月21日に発売されたばかりのSF RTS「Supreme Commander」を開発したデベロッパ,Gas Powered GamesのCEOであるクリス・テイラー氏は,ゲーム業界の人気者だ。RTSというジャンルを一段高みに押し上げたと評価される「Total Annihilation」(1997年)を制作したあと,独立してGas Powered Gamesを設立。「Dungeon Siege」(邦題 マイクロソフト ダンジョン シージ。2002年)「Dungeon Siege II」(マイクロソフト ダンジョン シージ 2。2005年)を制作してヒットを飛ばした。その個性的なキャラクターと,ゲーム制作に対する情熱/手腕で知られる人物だ。
開口一番,「スライドは使いません。私はスライドなんか嫌いだ!」と宣言するテイラー氏。いつものように三脚を立て,カメラをスクリーンに向けていた4Gamer取材班約一名をがっかりさせると同時に,聴衆から軽い拍手を獲得した。そして彼は,「その代わり,とりあえず,私が誰だか知ってほしい」と,ゲームを中心とした“自分史”を語りはじめた。 カナダのバンクーバーに生まれたテイラー氏は現在40歳だが,17歳の頃から「ゲームを作りたい」という野望を抱いていたという。だが当時,バンクーバーにゲームソフトを開発する企業はなく,仕方なくプラスチック工場などで働いていた。やがて,イギリスに本拠を置くDistinct Softwareという企業に就職し,念願のゲーム作りを始めるが,最初は「ばかばかしいスポーツゲームばかり作っていた」とのこと。彼のお気に入りはストラテジーであり,Cavedog Entertainment(現 ATARI)でTotal Annihilationを開発した後,念願を果たすべくGas Powerd Gamesを作ったのだ。 Superme Commanderのアイデアは,Dungeon Siegeを作っていた頃から温めていたそうだが,はっきりいって温めていただけで,企画書などはまったく作っていなかったという。ゲームのイメージは,Photoshopのように,自由自在に拡大/縮小ができ,視点の移動も簡単なRTSである。 「ズームって重要だと思いません? 私が考えていたのは,タクティカルゲームとストラテジーゲームがシームレスにつながったようなゲームです。D-Dayのような作戦を考えてください。師団を移動させてノルマンディー海岸に上陸させるのはストラテジーですが,それをぐっとズームアップすると,それぞれのユニットが見えてくる。彼らの戦いはタクティカルになるんです。それらがスムースにつながっていると面白いかな,と」
だが,テイラー氏が訪れたパブリッシャは,必死の説得にもかかわらず首を縦に振ることはなかった。決まって「面白くない」と言われてしまい,とくにアルファベット二文字で知られる世界最大のパブリッシャは,けんもほろろだったそうだ。 自分のアイデアは自分の子供のようなもの,とテイラー氏は言う。子供を育てたかった彼は,パブリッシャを歩き回り,ついにTHQからパブリッシングと資金の提供に関する同意を得る。そして,その連絡を受けた日曜日の朝6時から,THQに提出する企画書を書き始めたというのだから,なかなかすごい。彼はワープロのキーを叩きに叩き,月曜日に胸を張ってSupereme Commanderの企画書を提出したという。 「これがプロの仕事というものです。いや,ときどき私のことを『プロ』と呼んでくれる親切な人もいるんですよ」と胸を張るが,張っていいのかどうか,会場のほぼ全員が疑問に思ったはずである。 資金を得たテイラー氏とGas Powerd Gamesのスタッフは大車輪で開発を進める。「うちのスタッフは非常にクリエイティブなんです。まあ,ゲーム作りに関しては分かりませんが,予算運用とスケジュール管理は天才的」と会場を笑わせるが,真面目な話,ゲーム開発でないがしろにされがちな資金運用/スケジュール管理もまた重要な要素であり,発売スケジュールが延びまくってしまっては,それがいくら歴史上の傑作だったとしても,3割引きぐらいで考える必要があるということだ。 ひどい苦労話も,テイラー氏の口から出ると,思わず吹き出さずにはいられない物語になる。それは,「今は40歳だけど,気分は17歳のままです。ときどき母親におやすみのキスをしたくなるくらいだ」というテイラー氏のゲーム作りにかける情熱が,我々にもよく分かるからだ。好きなことをしている限り,苦労も苦労ではなくなるのだろう。
開発における問題解決の糸口を求めて出席した人や,ゲーム業界の現状を探りにきた人にとっては,あまり有意義なレクチャーとは言えなかったかもしれない。だが,それ以上のものを得た人が多かったことは,講演終了後,大きな拍手が鳴りやまなかったことからもはっきりと分かった。こういうレクチャーがあるからこそ,GDCは面白いのかもしれない。(松本隆一)
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