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ついに始まる? 2007年ネットマーブルの反撃。CJインターネット社長インタビュー
2007/04/13 18:58
ペク・ヨンホン氏。石油のボーリングにも詳しい(?),ちょっと変わったオンラインゲーム会社の経営者だ
 メティン2,Gunz the Duel,ダークエデン,野菜村……。カリカリのコアプレイヤーにはあまり縁がないかもしれないが,それらをサービスインしている「ネットマーブル」というゲームポータルを運営している会社が,CJインターネットジャパンだ。
 ネットマーブルは,いわゆる“ゲームポータル”そのものといった風情のサービス。ミニゲーム,アバター,チャット,各種オンラインゲームなどがきれいに整えられたサイトで,良くも悪くも想像の範囲から逸脱していない――言い換えれば,他のゲームポータルと明確な差別化ができていない――というのが筆者の偽らざる印象だ。
 そのCJインターネットジャパンの社長が,先頃交代した。企業における社長の交代は,一般ユーザーになんの関係もない雲の上の話ではない。「会社の方針が変わるかもしれない」という意味で,非常に重要な意味を持つ出来事なのだ。

 新社長ペク・ヨンホン(Young Hoon, Paek)氏は,どんな人で,何を考え,今年のCJインターネットジャパン(ネットマーブル)をどのような方向へと導こうとしているのか。時間をもらって聞いてみたことを,以下に掲載しよう。(Interview by Kazuhisa,photo by kiki)

4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。先日社長として就任されたわけですが,もともとはどんなことをしていたんですか?

ペク・ヨンホン氏(以下ペク氏):
 私の経歴は商社から始まりました。次にインターネット関連の企業に3年いて,2003年度にネットマーブルにジョインしました。来た当初しばらくは事業企画にたずさわっていましたが,昨年末から,ネットマーブルのグローバル戦略の統括を行っております。

4Gamer:
 おや。グローバル戦略ということは,日本だけでなくワールドワイドで活動しているということなんですね。

ペク氏:
 ええ。現地法人があるアメリカなども含め,CJインターネット・グローバル戦略のすべてを統括しています。

4Gamer:
 なるほど。ではCJインターネットジャパンの運営方針や経営方針というものは,グローバル戦略の中でどのような位置づけにあるものなんでしょうか。

ペク氏:
 そうですね……位置づけ,というと少し違うかもしれませんが,設立当時のCJインターネットジャパンは,パブリッシャーの役割がメインでした。韓国の作品をどんどん日本でサービス展開していこう,と。同じアジア圏でも,例えば台湾とかベトナムなどの地域に対しては,ゲームを輸出しましょうというのが基本的な活動方針だったのですが,CJインターネットジャパンは,その当時すでにパブリッシャーの役割を推し進めていくことが予定されていました。
 CJインターネットグループのグローバル戦略において,パブリッシャーとしてスタートしたのは日本が初めてなのです。グループ全体として,日本が最も重要なポジションを担っているということがお分かりいただけますでしょうか。特別な地域なのです。

4Gamer:
 日本のCJの特殊な位置づけは理解できましたが,ビジネスモデルに関してはいかがですか? 外から見た場合にはそれはアバター販売であり,ゲームポータル事業であり,あるいはWebのバナー広告なども含まれるかと思うのですが。

ペク氏:
 これまでは,他社ポータルにも見られるようなWebゲームやアバターなどを中心にビジネスモデルを構築してきました。私はまだ就任したばかりではありますが,今後は徐々に変えていこうと思っています。

左が日本のネットマーブル,右が本家Netmarble。デザインもインタフェースもほぼ踏襲されているが,本家のほうがいわゆる“MMO”が多い


■ユーザーに向けてのゲームポータルの差別化
〜「そこに行けば楽しいゲームがたくさんある」ポータル


4Gamer:
 変えていく,といいますと。

ペク氏:
 重要なことは,ゲームを中心にしたサイト作りです。もちろんアバターなどの従来のコンテンツを無視するというわけではありませんが,韓国の大型タイトルを日本でパブリッシングして成功させ,それをどんどん増やしていくという柱も打ち立てようと思っています。

4Gamer:
 各社がこれだけゲームポータルを立ち上げている状況において,それが差別化の一環として有効であるというお考えなのでしょうか。

ペク氏:
 それとも少し違います。ゲームポータルとしての差別化を図るというよりは,ポータルとしてのインフラを維持/発展させつつ大型のタイトルを持ってきて,それを日本の市場の中で安着させるという役割を担っていきたい,ということです。ポータルはポータルで,事業として少し別な話なのです。

4Gamer:
 しかし御社は事実上ネットマーブルで成立している会社ですよね。だからこそ隠れた2本目の柱として打ち立てておくということですか?

ペク氏:
 そうですね。そういう表現が近いかもしれません。
 もう一つお話しておきたいことがあります。ゲームポータルという言葉には,アバターが多いとかミニゲームが多いとか,そういったイメージがあるかと思いますが,弊社はそういう形を目指しているわけではありません。最も基本的な部分である「ユーザーがそのゲームポータルに行けば楽しいゲームがたくさんある」という構図を目指しています。

4Gamer:
 ハンゲームなどにも見られる傾向ですが,ゲームポータルというもののモデルの変貌ですよね。そのサイトの存在自身がコンテンツ化していく,という。

ペク氏:
 ええ。また,いくら多くのゲームを扱いたいといっても,課金やデータベースのためのシステムがバラバラに動いていてはダメです。それでは単に入り口がたくさん集まっているだけに過ぎません。
 バックエンドであるインフラ面でも,しっかりとしたものが構築されているのが,ゲームポータルだと思っていますし,そういう存在になれればと思っています。

4Gamer:
 なるほど。しかし課金システムにまで話が立ち入ってしまうと,逆にポータルに載せるタイトルの選別が難しくならないですか? 当然話はID管理や課金方法にまで及ぶと思いますし,それらを明確な形でクリアにしようとするなら,開発初期段階から参画するというのが理想的だと思うのですが。

ペク氏:
 実はその部分はまったく問題視しておりません。韓国での実績やノウハウがありますし,各種ユーザーデータが揃っているので,心配はしていません。定額制,従量課金,アイテム課金,プレミアム課金など,現状考え得る課金システムにはすべて対応できると思います。

4Gamer:
 日本での大手ポータルサイトは,現状では基本無料のアイテム課金を前提にしてビジネスモデルを組んでいるように思えます。例えば先ほど話に出たハンゲームなどがそうですよね。なのでデベロッパーさんは,月額課金のタイトルをハンゲームには持っていきづらいと。そのあたりの課金モデルに関して,CJインターネットとしてのこだわりはありますか?

ペク氏:
 ありません。なぜならば,ゲームはまずその内容で語られるべきサービスだからです。例えば,今とても完成度が高い重厚長大なMMORPGがあったとして,そのサービスを定額制モデルでスタートするのは構いません。しかしそのあとは,市場の変化に添うような形でどんどん変わっていかなくてはなりません。
 もちろん弊社もそういったゲームをサービスできるならば嬉しいと思っていますし,収益や集客性などの分析を行ったあと,然るべき手法でビジネスモデルを構築してネットマーブルに載せるのがベストだと思っております。


■業界に向けてのゲームポータルの差別化
〜どんどん韓国で開発して,それを日本でパブリッシングしてサービスする


4Gamer:
 しかしそうなった場合には,当然,競合他社とのバトルになりますよね。その状況がひとたび始まってしまうと,独占提供ということにこそ価値と意味があると考えられます。
 例えば……そうですね,リネージュIIクラスの作品があったとして,それをCJインターネットとハンゲームとで提供しても,ビジネス上の旨みがあまりないですよね。それを避けるための,デベロッパ――というよりCP(=コンテンツプロバイダ)――に向けた“差別化”はどのように行っていくつもりですか?

ペク氏:
 まず,CJインターネットというのは最初にオンラインゲームのパブリッシングを開始した企業で,各開発会社とのネットワークが厚いという部分を覚えておいていただきたいですね。続く要因として,CJ Internet Game Studioという,ゲームを開発する部隊がありますし,オンラインゲームの開発会社にも投資しております。

4Gamer:
 あぁ,なるほど。デベロッパに向けた差別化というものが,是が非でも必要だというわけではないんですね。確かに本国のJung社長もそのようなことを述べていました

ペク氏:
 ご承知のように,それら開発会社の一つから,イースオンラインも登場する予定です。そういったゲームをどんどん韓国で開発して,それを日本でパブリッシングしてサービスする,と。ここに,他社よりも有利な状況でサービスできる理由があります。

4Gamer:
 もうイースオンラインは日本サービスが決まってます,という感じに聞こえますね。

ペク氏:
 いえいえ。日本でサービスすると決定したわけではありませんよ(笑)。CJは「とても関心を持っているパブリッシャーの一つ」だと認識していただければ。

4Gamer:
 CJ Internet Game Studioは,今年2007年に4タイトルの開発ラインを持っていると聞いているのですが,何かヒントをいただけませんか。

ペク氏:
 え,4本? (指折り数えてみて)1,2,3……4。あ,ホントだ(笑)。まずリリースが確定しているのは,イース オンラインですね。いま韓国でクローズドβを行なっています。
 2番目はMMORPGです。しかしよくある中世ファンタジータイプではありません。弊社コンテンツである「野菜村」のMMORPGです。これが夏に提供される予定です。3番目は,MMOアクションゲームです。

4Gamer:
 MMOアクションゲーム,ですか。それは何人くらいでプレイするものですか?

ペク氏:
 私もαバージョンしか見ていないので,ちょっと言及するのはご容赦ください。

4Gamer:
 今後大きく変わるでしょうしね。では4番目は?

ペク氏:
 大型のMMORPGをリリース予定ですが,スケジュールはまったく決まっていません。


日本でも注目度の高い「イースオンライン」。古くからのファンから見ると「これ,イースなんですか?」と問いたくなる画面だが,あの世界観やキャラクターがどのように生かされているのか,非常に興味深い

4Gamer:
 日本におけるネットマーブルは,どうしてもキラーコンテンツに欠けているというのが,私の偽らざる感想です。アバター然り,テーブルゲーム然り,サイトに乗っているオンラインゲーム然り。メティン2やダークエデンなどの独占タイトルこそありますが,やはり突き抜けたトップを取れるほどのパワーはありませんよね。
 しかし先ほどから聞いている限り,今年のネットマーブルは,その部分が払拭されていくと考えてもよいのでしょうか。

ペク氏:
 そうですね。おっしゃる通り,キラーコンテンツと呼べるパワーを持ったものはまだありません。私が就任する前の運営手法は,ゲームタイトルを多く見せるという形に専念してたというのが実情です。しかし先ほどからの話のとおり,もはやそういう時代ではありません。ユーザーに愛されなかったり面白くなかったりしたタイトルは,然るべき処置をとっていくことになると思います。
 今後の日本のネットマーブルについては,まずワンダーキングをスタートさせて,今年全部で5タイトルのパブリッシングを予定しています。その途中で,あまり意味を成していないボードゲームなどは整理していくことになると思います。そういった大作ゲームをどんどん投入しながら,今あるゲームも面白い形にアップデートしつつ,来年の上半期には“キラーコンテンツ”と呼べるタイトルを作り上げられるよう準備しています。

4Gamer:
 それを目指せる規模のゲームであることを考えると,5タイトルというのは結構多い数ではないでしょうか。

ペク氏:
 5タイトルより少なくなることはありません。多くなる可能性は十分にありますけど。

4Gamer:
 それらは,先ほどから話に出ているような新規開発のものがメインですか? それとも今韓国にあるものですか?

ペク氏:
 5タイトルの内2作品は未サービスで,残りが現在韓国でサービスしているものです。

4Gamer:
 お,二つサービスしていないものがあるんですね。そしてそれらはすべてがすべて重厚長大なオンラインゲームというわけではなく,ユーザーから評価される,愛されることを前提にプランが組まれている,と。

ペク氏:
 そうです。


サービスを開始したばかりの「ワンダーキング」。低年齢層向けのカジュアルオンラインゲームとして,ネットマーブル上で花開くだろうか


■コンシューマゲームマーケットとの共存が要(かなめ)
〜オンラインはもはやPCだけのものではありません


4Gamer:
 話を少し外側に広げさせてください。日本国内のオンラインマーケットやオンラインユーザーについて何かお考えのことがありますか?

ペク氏:
 日本のマーケットには日本なりの特徴が存在すると思っています。
 2005年度の日本の市場は,かなりの成長率を見せていたんですが,2006年度は,ある程度平行線を辿っています。まだキャズムの段階ですよね,そこからトルネードが起こっていない状態。「オンラインゲームって面白そうだからやってみよう」という動きが,本当の意味で一般の人にまで拡散していないのです。

4Gamer:
 まだアーリーアダプターに留まっていて,キャズムという谷を越えられていないと。

ペク氏:
 そうです。一般の人まで拡散できていないから成長が止まっているわけで,まだまだ伸びる余地は残されていると思うのです。日本のユーザーの特性をピンポイントで研究し,それに対して品質向上を行っていけば,必ずや一般ユーザーにまで拡散すると確信しています。

4Gamer:
 今の何倍くらいを想定していますか?

ペク氏:
 難しい質問ですね(笑)。私個人としては,ビジネス上の数値で述べるならば,韓国を上回ると思ってます。GDPの規模でも7〜8倍,ゲームの部分にしても世界の2位の国ですから。現状では日本全体の4〜5%ぐらいがオンラインゲームの市場だと言われていますが,それの8倍……少なくとも30%ほどを見込んでいます。

4Gamer:
 言い古されていることではありますが,やはりコンシューマゲーム機が強く存在している日本のマーケットで,PCオンラインゲームがより多く深く食い込んでいくのは,とても容易なことではないだろうというのが大方の意見ではないかと思います。そこに関してはどのようなお考えをお持ちですか?

ペク氏:
 よくご存じのように,Xbox 360はシステムでオンラインを支援していますし,マイクロソフトでもアイテム課金を始めています。PS3然りWii然り,オンラインはもはやPCだけのものではありません。PCプラットフォームだけでなく,今後はコンソールの部分でもネットワークオンラインに対する取り組みが基本要素になるかと思っています。

4Gamer:
 やはり各社さん言うことは同じですね。

ペク氏:
 でしょうね。PCだけであればやはりどこかに限界があると思っています。日本はコンシューマゲーム機から始まった歴史を持っていますし,先ほどの30%という数値はそれを踏まえての話です。

4Gamer:
 ……ということは,CJインターネットとして,コンシューマ機マーケットへ参入する意思があるんでしょうか。

ペク氏:
 現実問題として,CJとして独自にコンシューマ市場に参入することは,かなりリスクが高いと思います。例えばセガさんとは「スーパーモンキーボール」での連携がありますが,弊社にはオンラインゲームの基盤があり,彼らにはコンシューマゲームでの基盤があります。現状では"提携”するのが一番望ましいと考えている次第です。
 オンラインゲームに限った話ではありませんが,コンテンツの内容そのものもさることながら,一番重要なのは運用です。コンシューマゲームの開発力がある企業さんと,マイクロビリング(=少額決済)の運用ノウハウがある弊社と,両者の良いところを採用しつつ一緒に進んでいければ望ましいと思っています。

4Gamer:
 では携帯電話のマーケットについてはどうですか。

ペク氏:
 これは韓国でも日本でも言えることなのですが,いまだ低迷……というより混迷ですかね,そんな市場だと考えています。コンシューマゲームについてもある程度言えることだと思うのですが,プラットフォームが整ってきた段階で参入するのが,会社にとって一番望ましい状態です。しかし現状の韓国では,通信網の開放によってキャリアだけにとどまらないさまざまな企業が乱立しており,混沌を極めるといった状態が続いています。


どことなく欧米風味漂う絵柄の「VanillaCat」(ヴァニラキャット)。一種のアバターゲームだとは思うが,韓国では,いまだその系統が根強いのだろうか
4Gamer:
 過渡期なんですね。
 では,コンシューマにせよ携帯にせよ,明確な参入の意思はまだないようなので,さらに質問させてください。先ほどあなたが述べていた“キャズム”を超えるために,CJとして何をするべきだと思いますか?

ペク氏:
 来年度の上半期までは,日本における正しい運営手法のノウハウを蓄積することがトッププライオリティだと思っています。コンシューママーケットに参入するのはリスクが高いのですが,オンラインゲームで蓄積されたノウハウを元に,コンシューマメーカーさんとの提携による展開をやっていければなと思っております。

4Gamer:
 なるほど。とはいえそれはやや会社寄りすぎる話ですよね。
 話をもう少しベタな方向にすると,CJインターネットジャパンとして,今後新規ユーザーとしてターゲットに捕らえているのは,どういった層のプレイヤーですか?

ペク氏:
 それはとても難しい質問です。新規タイトルに関しては,コンテンツによってすべてその対象が異なっています。ネットマーブルというゲームポータルを持っていますので,例えば「15〜19歳までしか対象にしておりません」といった位置づけは持ちたくないのです。やはりコンテンツによってマーケティングの方法も違ってきますので,各コンテンツによってユーザー属性を変えていければと考えています。

4Gamer:
 つまり手広く,ですか。大人から子供まで。

ペク氏:
 そうですね,端的に言うならば。
 例えば,今ローンチされたワンダーキングは中高生がターゲットになっていますし,次にローンチするバニラキャットは10代後半の女性がターゲットになります。そんな風に,コンテンツ別で異なったユーザーに来てもらえれば,と。

4Gamer:
 端的にセグメント化されたターゲットユーザーを対象とするコンテンツをいくつも集めることによって,ネットマーブルというゲームポータルとして手広い層を捕らえて大きなサイトになっていく,と,そういうことでしょうか。

ペク氏:
 そういった形で考えていただいてよいかと思います。ポータルがあってコンテンツがあるのではなくて,コンテンツありきのポータルを作っていくという形を,真面目にやっていきたいと思っています。

4Gamer:
 ところでネットマーブルジャパンとしては,今現在はどのあたりのユーザー層が一番多いんですか?

ペク氏:
 例えばダークエデンやメティン2は20代がかなり多く,野菜村であれば小学生が結構多かったりという感じでしょうか。野菜村などは,子供さんだけではなくて30代のお母さんまで一緒にやっていることがよくあります。

4Gamer:
 親子一緒ですか。確かに殺伐としていないですしね,あのゲーム。他社の話で恐縮ですが,ジークレストさんのバルビレッジもお母さんと子供が大半らしいですよ。

ペク氏:
 そういう風に遊んでもらえるのは嬉しいですよね。

4Gamer:
 ターゲットはとくに存在せず,コンテンツによってその居場所を切り分けていくというのは理解できましたが,だからといってポータル部分を無視できるわけではないですよね。そこの機能強化は何か考えていますか?

ペク氏:
 ずっと考えてます。4月中には,コミュニティやゲームBlogのオープンを予定しております。インフラ上問題のないものであれば,どんどん行なっていく予定です。


想像どおり,「大人」のプレイヤーが多い「メティン2」。見たところ,ネットマーブルとしては,メティン2よりもう1段上の層をつかまえることが課題だろうか


■オンラインゲームはあくまでも映画の市場と同じ
〜多く集めれば,その構造自体がローリスク・ローリターンになるのです

ホワイトボードにて熱弁。というより筆者の理解力が足りなかったせいなのだが……。いつも思うが,韓国オンラインゲーム系の経営者達は,見ているところがほぼ同じポイントに収束している。なるほど,競争は激化していくわけだ

4Gamer:
 日本のオンラインゲームは2005年ぐらいから急速に数が増えて,今は一つ一つのビジネスが非常に成立しづらい状況だと考えています。いまでこそ“実験的プロジェクト”が許されていますが,いずれはそうもいかなくなる日がきっと来ます。
 そんな状況の中でキラーコンテンツを増やしていくというからには,それなりの覚悟と勝算があると思うのですが,どのあたりに最も気をつけていますか。

ペク氏:
 現状,日本でサービスされているオンラインゲームで成功したと呼べるのは,リネージュ,ラグナロク,レッドストーン,トリックスター,パンヤ……くらいまででしょうか。ここで成功者ではなくて「失敗」のほうに目を向けると,一つのことが分かります。それは,「日本市場をまったく考慮せずに,韓国のものをそのまま日本に持ってきてローカライズしてサービスした」ということです。それがすべてであるとは言いませんが,そういう要素が大きな部分を占めていることは,おそらく間違いないでしょう。

4Gamer:
 御社の新作タイトルはその轍を踏まない?

ペク氏:
 もちろん,先ほど申し上げた5タイトルすべてが成功するとは正直なところ思っておりません。最大限ギリギリまでがんばりますが,結果として「成功」するかどうかは未知数です。また,韓国のサドンアタックのように同接プレイヤー数25万人,のようなところまで行くタイトルもないと思っています。
 オンラインゲームはあくまでも映画の市場と同じであって,五つの中から一つもしくは二つが成功すれば,弊社としては十分満足です。

4Gamer:
 その「数を揃えることが重要」はコンテンツビジネスによくある発想ですし,一部の側面を考えるならば真実だとは思うのですが,最初からそれを意識するのは危険な発想だと思うのですが。

ペク氏:
 あぁ,なるほど。そう捉えられてしまうとちょっと心外なので説明させてください。
 私は大学時代の専攻が資源工学で,石油の採掘などもいろいろと調べていました。石油採掘を探索するときには,五つくらいのポイントを決めてから掘るんです。

4Gamer:
 オンラインゲームと石油のボーリングを一緒に話す人は初めてです。

ペク氏:
 似てますよ,とても。言い方が微妙でちょっと難しいのですが,「五つの中で当たりがあればよい」ではなくて「五つマークしても必ず外れはある」というのが,私の言いたかったことです。

4Gamer:
 しかし,ハイリスク・ハイリターンであることには変わりありませんよね。
 韓国も日本もすでにオンラインゲームマーケットが変質しつつあります。コンテンツを真面目に作って生き残りを懸けた必死な戦いが行われている横で,一攫千金を狙ったよからぬ輩が山ほど集まってきているのも事実で,作るだけ作って,金にならないと見るやサッと引き上げるというのが最近よく見られる傾向かと思われます。
 業界全体の健全な発展はむろんのこと,プレイヤーにとってもあまり良いことではないですよね。プレイしている人が0人というオンラインゲームは存在しないわけですし。

ペク氏:
 そうですね,確かに。

4Gamer:
 一生懸命作っている開発者やそれを遊んでいるプレイヤーをなおざりにして,イナゴが通った跡のように市場が食い尽くされるのは,ちょっと見過ごせません。社長個人の見解で結構なんですが,オンラインゲームをローリスク・ローリターンで成立させるという目はないんでしょうか。

ペク氏:
 例えば,ある会社が作ったゲームを,良いゲームだと思ってうちが欲しいという形であれば,それはハイリスク・ハイリターンだと思います。そのコンテンツの内容にすべてがかかっている,割と博打性が高いアクションですよね。
 ただ,弊社の場合は運用も制作もある程度ノウハウがありますし,費用を抑えながら,かつリスケッチをしながら進められるという部分が,リスクヘッジとして有効ではないかと思っています。
 また,ネットマーブルというポータルサイトには,1日で多くて数十万というユーザーが出入りしています。マーケティング費用もある程度削減できるといってよいでしょう。

4Gamer:
 なるほど。しかし今話題に出した「リスク」とか「リターン」というものは,すべてビジネスモデルの構造そのものに由来する問題だと思うんですよ。いまおっしゃったような手法は確かにリスクヘッジにはなりますが,根本的な部分の解決には至りませんよね。

ペク氏:
 あぁ,それはそうですね。それぞれ個別のゲームは,依然ハイリスク・ハイリターンのままだと思います。しかし,先ほど申しあげたように一つのポータルの中に,それぞれのゲームを集めていけば,その構造自体がローリスク・ローリターンになるのです。

4Gamer:
 あぁ,確かに。抜本的解決かと言われると「No」ですが,なるほど,構造自体には若干の変化がありますね。しかしその手法は目的と手段が入れ替わっていませんか?

ペク氏:
 ただし,ポータルのローリスク・ローリターンという構造に腰掛けるつもりはありません。それぞれのゲームを強化することによって,そのローリスク・ローリターンを,ローリスク・ハイリターンに変えていきたいと常々考えています。

4Gamer:
 しかしその構造が採用できるのは,御社がゲームポータルを持っているからですよね。

ペク氏:
 そうです。それが優位性というものです。ほかのゲーム会社もポータルサイトを作りたがっている中で,弊社には韓国で長いキャリアがありますし,システム自体は整っています。確かに日本ではトップの座にいるとは言いがたいですが,他社のサイトよりは圧倒的に有利な立場だと思っています。

4Gamer:
 なるほど。大物タイトルも次々と現れて変わっていくであろう今年のCJインターネットを楽しみにしています。

ペク氏:
 ぜひよろしくお願いします。


 昨年秋の韓国ゲームショウ「G★」の記事を読んでくれた読者であればすでにお分かりかと思うが,実は今回のインタビューでは,作品面における新しい話は聞き出せていない。成果は,あそこで本家社長Jung氏が語ったことが,ほぼそのまま日本にも適用されるに違いない,ということがかなりの確度を持って断言できるようになったということだろう。
 イースオンラインスーパーモンキーボール レーシングオンラインSDガンダム カプセルファイター オンライン……強大なパワーを持つ本家CJ Internetが抱えるコンテンツ群は,ペク氏も語っていたように,日本のコンテンツパワーと韓国の技術力の融合といえる作品達。現時点で判明しているものだけでも,日本のユーザーにとって十二分に馴染み深いものだ。

 韓国だけでなく日本においても,ユーザーの囲い込みに向けて,各社が続々とゲームポータルサイトを立ち上げている。サービスしているゲームが二つ以上あれば即ポータル化,といっても過言ではない。
 しかし当たり前ではあるが(そしてポータルを運営している人達も先刻承知のことと思うが),ゲームポータルが成功を勝ち取るための条件は,基本的には
・ポータルサイトそのものに価値を持たせる
・ポータルサイトの上に載るゲームそのものでユーザーを集める
のどちらかしかない。国内2番手として,上記両側面でやや出遅れてしまったことが否めないネットマーブルは,まずは後者の路線を歩むことを決めたようだ。

 いままで,目を見張るような大きなアクションには欠けていたネットマーブルは,今年一体どんな転換期を迎えるのか。残念ながら,このインタビューでは明確なその構図を浮き彫りにすることは出来なかった。氏が語っていた「数を集めるとローリスク・ローリターン」の構図は,なるほどそのとおりではあるが,結果的には既存のビジネスモデル――勝利の方程式と思われているもの――から本質的な変貌は遂げていないように思う。
 現時点でのゲームポータルは,良いコンテンツを数多く抱え,それによってサイト人を集め,滞留させ,滞留させている「集めた人」をさらに違うコンテンツに誘う,という“自社サービス内完結型永久機関”を作り上げないことには,いずれは道が閉ざされてしまう。サイトだけがあっても成立しないし,コンテンツだけがあっても成立しない。その両方が揃って,初めてスタート地点に立てるビジネスなのだ。

 そのすべてが良いバランスで揃っていながらも,頭一つ抜け出せなかったCJインターネットジャパン。次なる手が「コンテンツの拡充」なのは,氏が語っていたとおりだ。しかし,その後の発展のフローはどのように描かれているのか,フローの最後には何が待っているのか。そのポイントは明らかにされていない。もしかしたら,そこまでの絵図はまだ描き切れていないのかもしれないが。
 今年の頭から,サイト集客数もページビューも確実に増えていっているこのゲームポータルの1年は,油断のならないものになりそうだ。常にハンゲームの後塵を拝する形で,苦渋を味わってきたCJインターネットジャパンの,本当の挑戦がいまから始まる。

(2007年3月23日収録)



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