「Penryn」「Larrabee」「Nahalem」――Intelのゲルシンガー上席副社長,将来の製品を語る
Patrick P. Gelsinger氏(Senior Vice President and General Manager, Digital Enterprise Group, Intel)
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2007年4月17日の記事で少し触れているように,Intelは技術者の向けのイベント「Intel Developer Forum」を,去る4月17〜18日に中国の北京市で開催した。そこではIntelの“偉い人”達が講演を行ったのだが,その一人,Patrick P. Gelsinger(パット・ゲルシンガー)上席副社長兼デジタル・エンタープライズ事業本部長がイベント終了後に来日。あらためて同イベントのダイジェストを「インテル 将来の製品動向について」と題して日本国内の報道関係者向けに解説したので,そのなかから,4Gamer的に興味深い内容を拾ってみることにしたい。
■歴史的な技術「45nmプロセス」で ■製造される「Penryn」
45nmプロセスの優位性を強調するスライド。「Intelにとって画期的なマテリアル(=素材)を使ったプロセス技術」(Gelsinger氏)とのことだ
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Gelsinger氏はまず,2007年後半に予定される次世代CPU「Penryn」(ペンリン,開発コードネーム)の情報に関するアップデートを行った。その一部はすでに4Gamerでもお伝えしているが,簡単にいえば,次世代の「Core 2」である。 Penrynプロセッサは45nm High-K(≒リーク電流の少ない高絶縁性)プロセス技術で製造されるが,Gelsinger氏はこの45nmプロセス技術を「歴史的なブレークスルー」と強調。45nmプロセスにより,トランジスタの集積度が2倍に向上したほか,トランジスタのスイッチング速度は2割増し,それでいてスイッチング電力は3割減を達成したという。
Penrynプロセッサアーキテクチャは,サーバー/ワークステーション向けの「Xeon」ファミリー,デスクトップ向けのCore 2ファミリー,そしてモバイル向けのCore 2ファミリーと,同社が持つIA-32すべてのCPUに用いられることになる。 ちなみにデスクトップ向けCore 2ファミリーでは,動作クロック3GHz以上がターゲットとなり,クアッドコア(開発コードネーム「Yorkfield」)では95/130W,デュアルコア(開発コード名「Wolfdale」)では65WのTDPがそれぞれターゲットになるという。L2キャッシュはデュアルコアのCPUダイ一つ当たり6MBに拡張される予定だ。
またPenryn世代では,新たなSSE命令セットである「SSE4」や,SSEのためにデータを並び替える動作を支援する「スーパーシャッフルエンジン」など命令セットレベルでの改良が加えられている。以上のような改良により,例えば現行のCore 2と比べて3Dゲームでは最大40%の向上が見込めるという。
Penryn世代におけるCPUラインナップの概略(左)と,65nmプロセスで製造される現行のCPU製品に対するアドバンテージを示したもの(右)。45nmプロセスでは,システムバスクロックが1600MHzに達するとされたが,それはXeonの話で,デスクトップ向けCore 2は1333MHzに留まる見込み
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会場ではPenrynベースのXeonを2個搭載したワークステーションのデモが本邦初公開となった。MRI(体内の内部の情報を画像化する診断装置の一種)画像からリアルタイムに3D画像をレンダリングするというもので,膨大なデータを処理して人体の内部を3D画像で描くパフォーマンスの高さをアピール
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■GPGPUの議論は打ち止め? ■次世代技術LarrabeeやTolapaiにも言及
今回の説明会が「将来の製品動向」と銘打たれていることもあって,もう少し先の話もいくつか出てきた。基本的にサーバーやワークステーション用の話だったが,そのなかで一般ユーザーとしても期待できそうなのが「Larrabee」(ララビー,開発コードネーム)だろう。
LarrabeeはIAベースのコアを大量に集積させた,いわゆるメニーコアのアーキテクチャだ。まだ実験段階の技術だが,IAベースでテラフロップス(TFlops)の性能を狙うというだけに興味深い技術である。 ターゲットは科学技術計算,金融,医療などさまざまだが,(プレイステーション3が7個の「Cell」プロセッサを搭載しているのを考えると分かりやすいかもしれないが)CPUコアが増えると,浮動小数点演算性能が爆発的に向上する可能性があり,いきおいグラフィックス性能にも大きく影響する可能性が出てくるのだ。 興味深いのが,Gelsinger氏の示したスライドで,ここで氏は,「Intelのアプローチ(※筆者注:Larrabeeのこと)は,GPGPUについての議論を打ち止めにするだろう」というMicrosoftのコメントを引用してみせた。Intelの主張ではなく,Microsoftという第三者のコメントを引っ張ってくるのが面白いのだが,GPUメーカーが目指そうとしているGPGPU(GPUを使って3D以外の演算を行おうという考え)を,Larrabeeが不要にすると言っているようにも受け取れる。
Larrabeeの概要(左)と,Gelsinger氏が引用したMicrosoftのコメント(右)
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LarrabeeでGPGPUが不要になるということは,逆に,LarrabeeをGPUとして利用することもできなくはなさそうだが,この点について聞いてみると,「Larrabeeは科学技術計算をはじめ,さまざまなアプリケーションに応用できる技術で,ターゲットを絞って開発しているわけではない」(Gelsinger氏)とかわされてしまった。
さて,このほかGelsinger氏は,エンタープライズ分野やハイパフォーマンスコンピューティングをターゲットにした「QuickAssistテクノロジー」を紹介した。QuickAssistテクノロジーは第3世代PCI Expressをベースにしたサーバー向けアクセラレータのプラットフォームや開発環境を指す包括的な技術だ。 さらに,その延長にある技術として氏は「Tolapai」(トラパイ,開発コードネーム)を挙げる。これはIAアーキテクチャベースのコアにQuickAssistアクセラレータやメモリコントローラを1チップに統合するシステムオンチップ(SoC)である。
ここまでの話を聞いて,記憶力のいい読者はAMDの「Torrenzaイニシアチブ」を思い出したと思う。そう,これらはほとんど,Torrenzaへの対抗策といっていいような技術だ。 もっとも,AMDはソケット(や拡張スロットなど)を用意して,オープンにサードパーティの参加を呼びかけているのに対して,IntelはあくまでIAベースのプロセッサで実現しようとしており,このあたりにAMDとIntelのスタンスの違いが見えて興味深い。
■「リーダーシップを維持し続ける」 ■その意志を明確に示したIntel
TICK-TOCK戦略のイメージ。2007年は45nmの1年め,ということになる
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Intelは2年おきにプロセスを微細化し,微細化後1年で新しいマイクロアーキテクチャを導入するという「TICK-TOCK」(チクタク)戦略を掲げている。2007年は微細化の年なので,現行CPUとなる65nmのMerom世代を微細化したPenrynをリリースし,来年には計画どおり,新しいマイクロアーキテクチャに基づいたCPUの生産を開始するとはGelsinger氏の弁だ。
新しいマイクロアーキテクチャについては「Nehalem」(ネヘーラム)という開発コードネームが与えられているが,2008年後半に投入される予定のNehalem世代では,Athlon 64のようにメインメモリ用のメモリコントローラを統合するほか,Pentium 4時代の「Hyper-Threading」で培った技術を基に拡張した「SMT」(Simultaneous MultiThreading)が組み込まれるなど,確かに大きな革新となる見込みである。 いずれにせよ,非常に具体性を帯びたロードマップの説明に,45nmプロセスで製造されるCPUによる動作デモなどは,「Intelが業界のリーダーシップをとり続ける」という強い決意を感じさせる内容だった。間近に迫るPenryn,そして次々と打ち出される将来構想は,ライバルのAMDにとっても大きなプレッシャーになるに違いない。(ライター・米田 聡)
Nehalemの特徴をまとめたスライド
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Core 2 |
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(C)2006 Intel Corporation |
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