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[GC 2007#004]業界のトップが考える,「売れるゲーム」の作り方はこれだ!
2007/08/22 13:40
Don L. Daglow氏はミニコン時代からコンピュータと関わってきたというベテランクリエイター。豊富な経験による数多くの実例が説得力を持つ
 2007年8月21日,「Best Selling Games」(売れるゲーム)という,非常に挑戦的なタイトルのパネルディスカッションがGCDC 2007で行われた。
 パネラーは,「The Lord of the Rings: The Two Towers」やEA Sportsの作品を多く手がけてきたベテランゲームデザイナーのDon L. Daglow氏,Epic Gamesの社長であるDr. Michael Capps氏,「Star Wars: Rogue Squadron」など,ゲーム機のベストセラータイトルを多く持つFactar 5の社長で,GCDC 2007の基調講演でESRBに異を唱えたJulian Eggebrecht氏。Peter Molyneux氏の参加も予定されていたのだが,なんでも飛行機が遅れたということで欠席となっていた。さすがはカリスマゲームクリエイターである(意味不明)。
 ……ということで,代役として同じLionhead StudiosのGeorge Backer氏が急遽出席し,計4名でのディスカッションとなった(司会はGameSpotのJustin Calvert氏)。

 冒頭,Daglow氏は「せっかくだけど,売れるゲームの秘密が20〜30分のレクチャーで分かるわけないよね」と軽い牽制球を投げて会場の笑いを誘う。
 もちろん,聞いている我々だって,これさえ聞けば明日から売れるゲームをガンガン作れるはずという甘い観測は持っていないわけで(筆者は少し期待していたが),会場を満たした聴衆は,その絶妙なディスカッションのタイトルにちょっと引っかけられた格好だ。

■「良いゲームを作ればいい」では終わらない
■生々しい欧米ゲーム開発者の本音


 さて本題。ディスカッションは「売れるゲームのアイデアはどんなところから得るのか?」と司会のCalvert氏が水を向けるところから始まった。Daglow氏によれば,アイデアは泡のようなもので,さまざまなメンバーの小さな泡が集まって大きな泡になっていくのだそうだ。こうしてアイデアが形作られてきて初めて,キャラクターデザイナーとそれを練り上げていくことになる。

PCゲーマーにはちょっと馴染みが薄いかもしれないデベロッパ,Factor 5で社長を務めるJulian Eggebrecht氏。1999年以来,GCDCの常連だ
 Eggebrecht氏のFacter 5は現在,Sony Computer Entertainmentのアクションアドベンチャー「Lair」の制作に追われているが,同社はこれまでもっぱら映画「Star Wars」をテーマにした作品を制作してきており,基本のアイデアはパブリッシャ側に与えられることが多い。そういった場合,アイデアの核となるのは,ベースとなる世界観を維持しつつ,ゲームとしてどういう要素を付け加えていくかということになる。
 Capps氏は経営者ということもあり,氏にとってのゲーム開発の始まりは「正しい位置に正しい人員を配置し正しいビジョンを与えること」とごくシンプルなもの。結局のところ,4人のパネラーに共通していたのは,売れるにせよ売れないにせよ,ゲームのアイデアがそのまま転がっている状態ではたぶんダメで,核となるものをいかに切磋琢磨して磨き上げていくかが重要だということである。

 その後,コミュニティの存在意義や,ライセンスゲームは良いか悪いか――ライセンスゲームを作っていないデベロッパは「良くない」,作っているところは「良い」と意見は当然割れてしまった――といった話題が続いたが,その中で4Gamerとして一番気になったのが,「メディアとの関係はどうあるべきか?」という質問だ。
 「オレはメディアを愛しているよ」と言うDaglow氏に会場がどっと沸くが,それは同時に“本当はそうじゃないんだろうな”という会場の意見の表れでもある。発売されたゲームをすべて扱うスタンスを取る欧米(とくにアメリカ)のメディアでは,Web媒体,雑誌を問わず,ときとして容赦ない記事を書く。時間と予算をかけて作ったタイトルがボロクソに書かれるのは,開発側にとって嬉しい話であるはずがない。

上司の遅刻で急遽代役を務めることになったLionhead StudiosのGeorge Backer氏
 だが,意外にもメディアの意見は重要だという点で4人は基本的には一致していた。とくにDaglow氏は,かつて作った野球のゲームでメディアの意見に耳を貸さずに自分のやり方を通して失敗した経験を語り,よい制作者は人の話を聞くべきだと語る。また,ハードコアゲーマーの多いUnreal Tournamentシリーズでは,さまざまな強い意見を持つプレイヤーも多く,それらを集約する場であるという意味においてメディアの存在を評価する。
 一方,Epic Gamesとはちょっと立場が異なり,カジュアルなプレイヤーが多くて声高なプレイヤーが少ないFactor 5のEggebrecht氏も,メディアのプレビュー/レビューには耳を傾ける必要があり,「メディアは敵ではない」と断言する。
 もっとも,4人ともやはりメディアに対して必ずしも好感情ばかりを抱いているわけではないようで,「まあ,いろいろあるけどね」というニュアンスの発言もいくつかあったが,それはまあ当然のことだと思われる。

Epic Gamesの社長であるDr. Michael Capps氏。現在,飛ぶ鳥を落とす勢いのEpic Gamesを統べているだけあり,話のスケールも大きめ
 印象に残ったのは,全員が「マーケティングの大切さ」を訴えたことだ。Daglow氏は「ゲームは駅前の群衆のようなもの」とする。無数の人々(ゲーム)の中で目立つには,箱の上に立って頭一つ高くすることが必要であり,その箱がマーケティングだというのだ。
 「Gears of War」のPRには莫大な予算を投入したと語るのはEpic GamesのCapps氏で,潜在的ユーザーの中には,自分でゲームを買えない年齢の人も多く,マーケティングによっておじいちゃんやおばあちゃんにもタイトル名を知ってもらい,ショッピングシーズンに孫へのプレゼントとして購入してもらえるようにすることも重要だと続ける。「Gears of Warを?」という気もするが。
 「良いゲームを作れば売れるのです」といった感じの優等生的解答を予想していた筆者は,意外なほど生々しい彼らの意見にちょっと驚くわけだが,そういう率直さもまた欧米のビジネス感覚だろう。

 このように,純然たるゲーマーにとってはちょっと距離のある内容だったり,穿った意見で観衆を楽しませてくれるMolyneux氏が欠席だったりして,「面白さ」という点ではやや不満が残ったパネルディスカッションであったのも事実。とはいえ,莫大な資金を投じて大作を次々に作っていく北米ゲーム制作会社のリーダー達が,何を考えているかということを垣間見させてくれたという点で,興味深いものがあった。
 「売れるゲームの定義は?」という質問に「売り切れになること」「ドル札を満たした風呂に入れるほど売れること」などという解答をするクリエイターの存在は,やはりアメリカならではだろう。(松本隆一)


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http://www.4gamer.net/news/history/2007.08/20070822134005detail.html