ここ最近は耳にする機会が少ないが,暴力描写の多いアクションゲームは,しばしば社会の嫌悪の対象となってきた。ところが,GTA3以降欧米では突破口が開かれたようで,Rockstar
Games社を筆頭に多くのバイオレンスゲームがリリースされている。ゲームそのものが,子供向けではなく大人のエンターテイメントとして育ってきているようだ。
最近はずいぶんと落ち着いてきたけれど,前回の大統領選挙選で賑わっていた4年前(2000年)のアメリカでは,「暴力ゲームの影響」は大きな政治的テーマへと発展していた。その先鋒だったのが民主党の副大統領候補だったジョー・リバーマン現上院議員らで,投票数などで接近していた選挙戦の結果次第では,コンピュータゲーム業界にさらに波及していた可能性もある。現在では,暴力を助長するなどとしてゲームを槍玉に挙げていた多くの訴訟は却下されるなどしており,業界への悪影響を心配するコアゲーマーには嬉しい限り。
この流れを変えたのは,やはり「Grand Theft Auto III」(以下,GTA3)のリリースだ。アメリカで発売されたのは2001年10月。ニューヨークが同時多発テロで大きく揺れていた時期で,このゲームでも街の上をビルすれすれに飛んでいく飛行機のスクリプトシーンなどがカットされている。しかし,プレイ感そのものは変わることなく,ゲーマーの間で口コミで広がっていったのが大成功の始まりとなった。
GTA3は,さまざまな形で欧米のゲーム業界を"飛躍"させた。まず,現実的な都市空間で,自由にプレイヤーを遊ばせながらも飽きさせないアクションゲームが考案されたことの意義は大きい。ファンタジーなど既存のゲームのテーマに囚われず,現代都市や人間を描いたものが次から次へとリリースされているだけでなく,「Tony
Hawk's Underground」「Need for Speed:Underground 2」「Spider-Man 2」「Sid Meier's Pirates!」など,主題やジャンルに関わらずポジティブな影響を与えている。
また,長年日本産ゲームの発想や人気の前に手も足も出なかったアメリカやヨーロッパの開発者達も,自分達の土俵でも十分に面白くて売れるゲームができるという自信獲得にもつながってきている。
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超が五つくらい付きそうな猟奇的ゲーム「Manhunt」では,すでに250億円を越える訴訟が起きている。ゲームにおけるバイオレンスとは,プレイヤーのファンタジーとは何かを考えさせられることから,正常な心を持ったゲーマーには有益ともいえる18禁ゲームである |
さらには,「M」(成人)レーティングのゲームの可能性が一気に広がったことも特筆できるだろう。そもそも,ゲームのセールスを牽引してきたのは18歳から35歳までの購買層だったのは知られていたが,その層だけを真っ向からターゲットにしようという挑戦者は中々現れなかった。
ところが,今ではPCやプレイステーション2はおろか,GAMECUBEでも「ブラッドレイン」のようなセクシーで過激な流血描写もあるゲームが登場する時代。GTA3の販売元であるTake2
Interactive社のRockster Gamesブランドも,暴動を扇動して悪徳企業を制裁する「State of Emergency」や,スナッフフィルムの役者となって実際の殺人場面を映像に収めるための行動をとる「Manhunt」など,これまでのホラーものや流血の多さでMレーティングに認定されていたゲームとは異なる変化球で,核心的に残虐性のベースを上げている。
筆者の机の上にManhuntのPC版がある。このソフトを作ったのは,GTAシリーズと同じRockster North(旧DMA Designs)。元々「レミングス」を世に送り出した開発者達も,このような暴力ゲームをうまく「社風」として消化したものだと妙に感心している。
Manhuntのプレイ感は悪くない。ディレクターと呼ばれる謎の男に雇われた前科者の主人公が,指示されるままに獲物を狙うというステルスアクションで,汚職まみれの警官やKKK団など犯罪者がターゲットとなる。隠しカメラで決定的な瞬間を押さえるため,時には何分も暗闇で待ち構えたり,敵に囲まれたときの脱出経路を知っておく必要があるなど,一見地味に感じられるかもしれない。しかし,相手のスキを付いて背後に襲いかかり,ビニール袋からバット,ワイヤー,そしてもちろん銃や斧を駆使しながら時間をかけて残虐な殺し方をするほど,ミッション終了後に良い報酬がもらえるという狂気的なゲームなのである。
実は筆者は,ミッション序盤でゲームを投げ出してしまった。プレイ感は洗練されていてしばらく楽しめたものの,何かイラクでの残虐映像を好奇心で見て後悔したときのような,まるで自分の無垢な(!?)心が汚されてしまったような陰鬱な気持ちになったのだ。
映画では,よく同じような気持ちになる。スナッフといえばニコラス・ケイジが主演した「8mm」がそうだし,古くは「ナチュラル・ボーン・キラーズ」,最近では「パッション」でも観終わったあとは心暗くなった記憶がある。映画とゲームを比べるなら,やはりゲームはインタラクティブ性があり,コントローラを通してプレイヤーに決定権があるというのが大きく異なっている。Manhuntのような場合,暴力を否定すれば,先に進むことができないのである。
しかも,暴力的ゲームとして名指しされることの多い格闘モノやFPSには存在する,トーナメントを勝ち上がっていったり何百という敵の屍を乗り越えて戦争を体験していくうえでの達成感や満足感というものものが,Manhuntには感じられない。あるとすれば,自分の残虐行為がスナッフ愛好者の目に適うかどうかという,極めて強暴な欲求である。要は,Manhuntは究極の"殺人ファンタジーゲーム"なのだろう。
このゲームをプレイして考えさせられることは多い。何しろ,ビニール袋で敵を殺すようなゲームは,今だかつて存在しなかった。ガラス片が凶器として再利用できるなんて,誰が思いつくのだろうか。冗談はさておき,しばらくプレイしてみれば,筆者個人には殺人に対するファンタジーがないことは,後味の悪さから身に染みて分かった。それはそれで,このゲームをプレイした意義が達成されたと思っている。
バイオレンスに的を絞った"Mレーティング"ゲームは,Manhuntで行き着くところまで行ってしまった感があるため,今後どのように進化していくのかは興味深いところ。暴力や戦争に限らなくても,実際に「Singles」「The
Sims 2」「Leisure Suits Larry」のような人間関係や恋愛をテーマにした作品も多く見られるようになっており,大人の開発者が大人のプレイヤーを想定してゲームを作る風潮が顕著になったのを感じる。Manhuntのようなゲームの登場も,ゲームが社会に浸透していく過程での通過儀礼なのかもしれない。
ここ最近のRockstar Games社のソフト一覧
タイトル |
レーティング |
リリース状況 |
PC版 |
Grand Theft Auto:Vice City |
M |
発売中 |
○ |
Max Payne 2:The Fall of Max Payne |
M |
発売中 |
○ |
Red Dead Revolver |
M |
発売中 |
× |
Manhunt |
M |
発売中 |
○ |
Grand Theft Auto:San Andreas |
M |
11月 |
○ |
湾岸Midnight Club 3:DUB Edition |
評定中 |
2005年1月 |
× |
State of Emergency 2 |
未定 |
2005年中 |
○ |
次回のテーマは,「あのゲームのあれこれ」。果たしてあのゲームとは……?
次回をお楽しみに。
■■奥谷海人(ライター)■■
4Gamer専属の海外特派員。奥谷氏が暴力ゲームについて考え始めたのは,期待作「Half-Life 2」の下準備として,オリジナル版をプレイしていたときだと氏は振り返る。ヘッドホンでプレイしていたため,背後でマジマジと見つめている娘の存在に気づかなかったのだ。それ以後,手榴弾に見立てたブロックを部屋に投げ入れて扉を閉め,敵マリーン役の弟を抹殺するなどのHLごっこが繰り広げられたという。その弟もハロウィンの仮装でゴードンになりたいなどと要求しているらしいが,当然HLごっこは全面的な禁止になり,奥谷氏のゲームも夜中まで自粛するよう奥さんから教育的指導が出ている。
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