この8年間で,ボイジャー1号は太陽系を脱出して40億キロメートルを飛行した。しかしいまだリリースされていないソフトがある。古参のゲームファンにも忘れられかけている,永遠の期待作「Duke
Nukem Forever」だ。このソフトの過去と現在を探ってみた。
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Duke Nukem 3Dの登場から9年。このゲームを知っているのは,ほとんどが30代のゲーマーだろう。現在のところは「2005年12月」を予定しているとされるが,詳しいことは何も分かっていない |
制作発表から8年。多くのFPSファンに忘れられてしまった感のあるソフトといえば,「Duke Nukem Forever」のことだ。メジャーなゲームイベントに展示されることもなく,欧米のゲーム雑誌が年始に掲載するような「今年期待するゲーム・トップ10」からも見放されてしまっており,もはや,"過去のソフト"になりつつある。
実際,開発元の3D Realms社からDuke Nukem Foreverに関する情報が漏れることはほとんどなく,画面写真も2001年に出たきりで,NewsらしいNewsは我々業界人の耳にもほとんど届くことはない。競合相手であり地元ダラスの仲間でもあるid
Software社のQuake 2エンジンから,やがてEpic Games社のUnreal,さらにはUnreal 2エンジンへとグラフィックスエンジンを変更するなどし,その都度ソフト開発の遅れが指摘されていたが,それだけが理由でないのは確かだろう。
前作「Duke Nukem 3D」は,「DOOM」の成功に影響されて1996年にリリースされた第一人称視点型のシューティングゲームで,主人公デュークのマッチョな戦いっぷりと馬鹿な設定やセリフが受けて大成功につながった。シェアウェア販売で地道にノウハウを積んでいた3D
Realms社だけあり,優秀なマップを作ったMODアーティストには報酬を与えるなどオンラインコミュニティへのアプローチも良く,「Quake」と競い合うようにしてファン層を拡大。その功績は,なんといってもキャプチャー・ザ・フラッグをマルチプレイのゲームモードとして採用したことにあるだろう。
しかし,その成功とは裏腹に,企業内部ではチームメンバーの間でイザコザが耐えないとのウワサがあった。今となってはその内情を詮索するのも難しいが,Duke
Nukem 3DのためにBuildエンジンをほぼ一人で開発したケン・シルバーマン(Ken Silverman)氏ほか,アマチュアレベルデザイナーにとっては教祖的な存在だったリチャード"レベロード"グレイ(Richard
Gray)氏ら,有能なメンバーが次々と退社していった。
販売元との軋轢も絶えない。1998年に「ソフト販売業のあり方を変える」という反逆児的なスタンスで登場したGathering
of Developers社と意気投合し,Duke Nukem 3DをリリースしたGT Interactive社から離脱している。Duke
Nukemの新作の販売権や版権に関しては法廷にまで持ち込まれたが,結果は3D Realms社側に利があったようだ。ただし,そのGathering
of Developers社もDuke Nukem Foreverが登場する前に廃業し,創立から4年で幕を下ろしてしまった。そのGathering
of Developers社の権利を購入したのは「Grand Theft Auto」のTake 2 Interactive社で,PCゲーム部門のブランドとして現在も利用されている。
今のところ,Take 2 Interactive社からDuke Nukem Foreverが発売されるのかは,まったく分かっていない。2003年に行われたTake
2 Interactive社の株主総会では,販売予定リストにDuke Nukem Foreverの名前がなかったことを質問され,同社の幹部は「Duke
Nukem Foreverは我々の感知するところではない。いつ完成するのかも分からない」と立腹気味に語っていたという。3D
Realms社も,これを受けて「Duke Nukem Foreverの権利は我々に帰属している。すべてを決定するのは我々だ」との強気のコメントを出しており,両社の関係も泥沼状態にあったようだ。もっとも,2004年の株主総会ではDuke
Nukem最新作はいずれ発売されるとのコメントもあり,パブリッシングに関しては落ち着いてきている。
こんな現状なので,Duke Nukem Foreverがいつリリースされるのかは非常に不鮮明である。ただし,3D
Realms社側にも動きはあるようで,2004年9月末にはMeqon社から短いプレスリリースが出ている。同社は,スウェーデン大学の研究者達が1999年に独立した新興のソフトウェア開発会社。彼らの商品は,「Meqon
Game Dynamic SDK」と呼ばれるもので,つまりは物理エンジンのことである。
また2004年の春には,3D Realms社の関係者からDuke Nukem Foreverに関する情報を筆者は聞き出している。彼によると,Duke Nukem Foreverのグラフィックス部分はUnrealやDOOMのライセンスではなく,同社が一から制作したものになるというのだ。また,かなり独特な地形レンダラを開発しているとのことで,地形の侵食を再現できるようになっているらしい。詳しくは分からないが,雨が降れば土砂が流れ,別の機会に訪れたときにはまったく異なる情景になっている,などということが予想できるだろう。そういえば,本作の舞台となるのもラスベガスからアリゾナの砂漠地域までを中心としており,ここは長年の侵食によって形成されたグランドキャニオンもある場所だ。フーバーダムを決壊させて,まったく異なる地形にしてしまうつもりなのだろうか?
開発8年めに至って物理エンジンだの地形レンダラだのゲームの基礎部分の話だけが出てくるのも,正直に言っていかがなものかと思う。「Max
Payne」シリーズのプロデュースである程度の資金が入っているのは想像できるが,なんとも気の長い話だと言わざるを得ない。その間にもDOOMの最新作は出てしまったし,Unrealの3作めやQuakeの4作めだって先に登場してしまいそうな雰囲気なのである。「Duke
Nukem For-Never」のジョークも,本当に笑いごとではなくなっているのだ。