景気の良いアメリカのゲーム業界で,オンライン専門のゲームレンタル業がゲーマー達から絶大な人気を集め始めている。現在のところ,PCゲームには影響がないものの,これまでの"ゲーム販売"という概念さえ崩す危険性を持った新たなるビジネスの登場で,各販売会社も早急に対応する構えを見せている。
アメリカでゲームを専門に扱うオンラインレンタルサービス「GameFly」は,イギリスのゲーム雑誌販売会社Future Publishing社と提携するなどして露出を増やし,最近人気が急上昇中。一度に2本のソフトを無期限レンタルできるサービスで,月額21.95ドル(約2270円)の会費はお得だろう |
ソフトは郵便で配達され,返却用の封筒も同封することでユーザーに負担をかけない仕組みになっている。貸し出し期日に制限がないなどの利点が受けて,現在では200万人の会員を集めるに至っている。
1998年にサービスが立ち上がった当初,NetFlixは「気に入ったソフトだけを購入する」という名目でレンタルが始められ,その後ソニーとの提携など映画産業との結び付きを強化していった。5年で900タイトルから3万タイトルへとライブラリを増やしており,当然小規模なレンタルビデオ屋では太刀打ちできものではなく,2004年には収益が150億円を超える大産業へと発展した。
これに驚いたのがビデオレンタルビジネスの頂点にいたBlockbuster社である。2004年の夏にはオンラインレンタルサービス「Blockbuster Online」を開始し,12月には無制限レンタルの月額料を29.99ドルから17.49ドルに切り下げるなど,Netflixとの市場争奪戦に入っている。世界中に約8500店舗あるというレンタルショップでも,延滞料を撤廃するなど改革に乗り出していることから,Netflixの猛威の影響を受けているのが分かる。
さらには,AmazonやWal-Martなども参入の動きを見せており,コンテンツ業界では一番ホットな分野なのである。
この動きが,ゲーム業界にも飛び火している。ここしばらくのうちに「RedOctane」「GamezNFlix」「GameFly」「GameChoice」などさまざまなサービスが乱立し,PlayStation 2用やXbox用ソフトを一定の月額料金で会員に提供している。
レンタル可能な本数の上限を設けているサービスもあるが,多くは"返送費用を肩代わりする" "好きなだけ借りていられる"など,NetFlix型のビジネスモデルを踏襲している。今のところ大企業が触手を伸ばしている様子はないようだが,前出のBlockbuster社も,店舗でのゲームソフトのレンタルサービスを強化している。
ゲームソフトのレンタルサービスや中古ソフトの店舗販売に関しては,これまでも日本とは比較にならないほど規制が緩く,法的にもビデオレンタルと同じように許容されている。
2時間もあれば見終わる映画と比べ,何時間も遊ばなければならないゲームのレンタルは,以前までは消費者には受け入れられがたく小規模に留まっていたため,ゲーム業界人達の眼中にはほとんどなかった。ところが,「延滞料撤廃」という新手のサービスにはかなり戦々恐々としている人も多いようで,「オンラインのレンタルサービスはゲーム業界を殺している」と言う関係者もいる。
DVDソフトのオンラインレンタルが好調の中,2003年のDVDソフトの売り上げも60%の伸びというのだから,景気の良い話だ。写真のBlockbuster社は,ゲームレンタル部門も本格的に拡張している |
確かに,新作ゲームソフト1本の単価は,映画DVDソフトの2倍から3倍ほどの価格帯となっており,なけなしのお小遣いをやり繰りする学生や,子供にせがまれてしぶしぶ財布のヒモを緩める親にとっては負担になっているのも事実。年間2万円ほどの投資をすれば好きなだけゲームで遊べるのだから,ゲームレンタルは消費者にとって非常に魅力的なサービスであるのは間違いない。
「Halo 2」が600万本の売り上げを記録するなど,まだまだアメリカのゲーム市場は陰りを見せていない。しかし,今後消費者の間で「ゲームとは,購入して遊んだ後は棚に飾っておく物」という認識が急速に失われ,遊びと割り切ってレンタルに頼るようになる可能性も十分に予想できるため,ソフト販売会社がレンタルサービスを敵視し始めたのも頷ける話だ。
レジストレーションコードやマルチプレイヤーモードでの認証が必要なPCゲームは,インストールや接続時に起こる不具合が想定されるため,レンタルサービスのリストからは除外されている。
しかし,コンシューマ用ゲームのレンタル化の悪影響が,母体のソフト販売会社に及んでしまっては,PCゲームの開発現場もひとたまりもないだろう。
当然のことながら,レンタルよりも購入を促進させるような魅力ある商品の開発やサービスで対抗するために,今アメリカのゲーム業界はさまざまな対策を講じているようだ。すでに以前のコラムで何度か述べたように,ここ最近,アメリカでのゲームソフトの単価は急速に低下しており,その理由の一つがゲームレンタルへの対抗策だと考えることもできる。オンライン流通システムの開拓も,レンタルを含めた仲買人を省くための処置であるのは明白だ。
ポスターやカレンダーなどパッケージに付加価値を与えるための特典サービスも増えてきたし,キャラクターグッズ販売など日本では一般的な副次的なビジネス戦略も,アメリカでさらに活発になるかもしれない。
日本の場合,アメリカにはない音楽CDのレンタルが,ビジネスとして成立している。「ついでにどうぞ」とばかりにCD-Rなどがレジ横に置いてあるのには,長らくアメリカに身を置く筆者にとっては新鮮にさえ感じるが,そうやってCDレンタル業とJASRACの関係が成り立っているのも,350億円に及ぶライセンス料が支払われているからだ。
MIT(マサチューセッツ工科大学)のイアン・コンドリー(Ian Condry)教授は,2004年夏のレポート「Cultures of Music Piracy」において,「日本のCDレンタルはトレンドや動向の調査にも利用されており,制作側と消費側のニーズが妥協点を見いだした例だ」と述べている。違法ダウンロードによって破壊されつつあるアメリカの音楽産業への訓示として,日本のCDレンタル業を参考にしているのだ。
日本のゲーム産業は,長らく違法コピーや中古販売などと格闘してきたが,それでも「最近ゲームが売れなくなった」という暗い話題が少なくない。コンドリー教授の「アメリカの若者は,日本の若者と同じく,法的要素ではなく(コンテンツに対する)好みと相互利益で動く」という意見は,そのままゲームの購買意欲にも当てはまる。それは,Yahoo!オークションなどでズラリと並ぶ中古ソフトの数を見れば明らかだ。ゲームレンタルに迅速に対応するアメリカを見れば,日本でもゲームレンタルのようなドラスチックな流通変革が必要に感じてならない。
2004年度のアメリカ映画市場シェアに見るゲーム産業の未来像
次回は,「マジック・キングダムがやってくる!」をお届けしよう。マジック・キングダムといえば……。次回もお楽しみに。
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