2005年4月下旬,北米,韓国,西欧で,「Guild Wars」のサービスが開始された。ダークホース的な存在ながらも着々とファンベースを増やし,サービスインから一週間で25万本のセールスと,なかなかのヒット作となっている。本作はパッケージを49.99ドルで購入したあとは,無料でオンラインサービスを受けられるが,適当に遊んでは捨てられていくあまたの無料ゲームとは一線を画すアイデアで,ゲーマーの心を揺さぶっている。
■NCsoftとArena.netの出会い
NCsoftから2005年4月下旬に正式リリースされたばかりの「Guild Wars」が,「EverQuest II」や「World of Warcraft」と並んで,アメリカゲーム市場における核として成長しそうな勢いだ。
プレオーダーは10万本を超え,オンラインRPGではWorld of Warcraftに次ぐ過去第2位の記録となっているし,リリース後1週間の販売本数は合計25万本に達している。4月28日のリリースながらもPCゲーム部門のセールスでは4月の月間1位に輝いており,今のところはまったく人気の陰りを見せていない。
4月27日に3地域同時にリリースされたGuild Warsは,ストリーミングによる瞬時のパッチやチート対応が魅力の一つだ |
その作戦が偶然でないのは,「Lineage」シリーズでノウハウを蓄え,アメリカでも「City of Heroes」で足場を固めていたNCsoftと,Blizzard Entertainmentの初期メンバー達が創設したArena.netという,本作でタッグを組む両社のプロフィールからも明らかで,おそらくはかなり計算したうえでの戦略だろう。
今回は,Guild Warsのサービス開始までの軌跡をたどり,すし詰め状態になりつつあるオンラインゲーム市場で成功を収めた秘訣を探ってみたい。
NCsoftがアメリカに進出したのは2001年のことだ。同社社長のKim, Tack Jin(キム・テクジン)氏と,Ultimaシリーズの生みの親Richard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏らが,本拠地となるテキサスの象徴でもあるカウボーイハットをかぶって記者会見に臨んだ姿は,筆者の記憶にも鮮明に残っている。
Garriott氏ら元Origin Systemのメンバーは,その数か月前にDestination Gamesを創設したばかりだったから,当時はかなり衝撃的なニュースだったのである。
一方のArena.netは,2000年末にBlizzard EntertainmentのSouthオフィスを離れた3人を中心に結成された。
「Warcraft III」のリードデザイナーで,Battle.netの企画者でもあったMike O'Brien(マイク・オブライエン)氏,「World of Warcraft」の初期のリードデザイナーだったJeff Strain(ジェフ・ストレイン)氏の二人に,同社の元"ナンバー2"で,開発副社長として技術面を見ていたPat Wyatt(パット・ワイアット)氏が加わっており,買収問題で揺れていた当時のBlizzardでも,かなり初期に離脱したコアメンバーによる開発チームといえる。
NCsoftがアメリカで手がけたLineageは,大々的な広告キャンペーンによって露出が高かった割に,お世辞にも成功と呼べるほどの結果を残せなかった。
理由はいろいろあるだろうが,アメリカではすでに完全3DによるMMORPGが一般的になっており,新しく始めるゲームとしては魅力的に映らなかったのかもしれない。
2002年にはアメリカの独立系のデベロッパを次々と買収する戦略に転じ,その一つがArena.netだったというわけだ。
■コミュニティに直接アプローチする作戦で話題に
Arena.netのビジネスマネージャーで,現在はNCsoftのオースティン支部に移籍しているChris Chung(クリス・チュン)氏は,「MMOGがより大きな観衆(マス・オーディエンス)を獲得するために,いかにバリアを打ち砕くのかが当初からのテーマだった」と語る。
バリアというのは,課金システムやダウンロード方式といったビジネス関連の選択ばかりでなく,ストリーミング技術,完全ブロードバンド仕様,レベル上げやミッションの配分/内容など,技術からゲームプレイ全般までの,すべての事項を指すらしい。
すでに多くの日本人がプレイしているようだが,Kim, Tack Jin氏は以前「こちら」のインタビューで,日本でのサービスについても触れていた。今後の展開に期待しよう |
Arena.netを立ち上げたBlizzardの元幹部連中が,Guild Warsプロジェクトのために「ソフト以外はFree to Play」というシステムを構想したのも,オンライン上での無料プレイが大きな人気の一つとなった「Diablo」(ディアブロ)とBattle.netを念頭においていたのは間違いないだろう。
Arena.netのStrain氏は,「我々のビジネスモデルは必ず成功する。これまでメジャーなMMORPGがやっていなかったのが不思議なくらいだよ。Diabloのときも無料のオンラインサービスなんてほかに行われていなかったけど,それと同じで革命的なことなんだ」と自信を見せる。
ただ,NCsoftの傘下に入ったとはいえ,韓国から来たばかりの新興パブリッシャがその後アメリカ市場においてどのようなアプローチを行うのかが不鮮明だった頃は,Arena.netはマーケティング戦略まで自分達で構想していたようだ。
Chung氏は,「Guild Warsを理解してもらうためには,伝統的なマーケティングや広報手段では不十分だと考えていた」と話す。とくに月額無料という大胆なプランは,常識的には受け入れがたいものであり,発表当時から「ゲーム内でNIKEの靴を売るんだって」とか「オンラインサービスが無料の代わりに,パッケージが200ドルもするらしい」など,出所不明のウワサも多かったという。
そのためにArena.netが打ち出したのは,「オンラインコミュニティに直にアプローチし,ゲーマーにGuild Warsの面白さを知ってもらい,ゲームを宣伝してもらおう」(Chung氏)というものだったという。それは,発売に至るまでの1年あまりに,三つのゲームイベントを開催するという作戦へと結実する。
E3 for Everyone
これは,2004年のE3(Electronic Entertainment Expo)期間中だった4日間に限り,開発中のα版に誰でもアクセス可能にしたという一大イベント。この期間中に,合計20万人がプレイしたという。E3会場では対戦イベントも行われたが大きな不具合は見つからず,その完成度の高さとアクション重視のゲームプレイが大きく認知された。
World Preview Event
2004年10月には,「World Preview Event」と題されたイベントが行われた。欧米のほか韓国の首都ソウルにもIBMとの提携でデータセンターが設置され,リテールやOEMパートナーまでを巻き込んだ,かなり大規模なプレビューイベントとなった。3日間で,のべ50万人以上の参加者が楽しんだという。
Beta Weekend Event
これは,イベント期間内に本作の購入予約をした人に限り,β版を自由にプレイできるという面白い企画で,2004年11月から2005年4月までの毎月第一週に行われた。4月以降は,実質的に製品版で毎週末プレイできるようになっている。プレイヤーのキャラクター名はセーブされるなどの特典で,コアプレイヤーの育成に貢献した。
こうして,さまざまな手法でプレイヤーの興味を誘い,「ビジネスモデルやゲームプレイの説明よりも,まずは遊ばせること」(Chung氏)で,Guild Warsはリリース前からファンを集めて行った。
そして,この4月27日に,データセンターの設置されている北米(サンディエゴ),韓国(ソウル),西欧(フランクフルト)で同時に正式サービスを開始したというのは,オンラインRPG史上初めてのことであり,またIBMのBlade Serversを利用したスムースなサービスインは特筆に値する。
Guild Warsは,文字どおりの"MMO"であるのは街の中だけなど,ゲーム内要素だけでも一般的なMMORPGとはずいぶんと趣(おもむき)が異なるが,ゲーム外の部分,例えば「Intelligent Asset Streaming」テクノロジーによるパッチのストリーミング技術や,パッケージを購入すれば無料でオンラインプレイを楽しめるというアイデアでも,ほかのゲームとの差別化に成功している。長い経験の末に行き着いた,洗練された手堅いオンラインゲームといえよう。