― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 THQ,Sony Online Entertainment,Elixir Studios,AGEIA Technologies……。この夏のPCゲーム周りのニュースで大きなものといえば,まず「Hot Coffee MOD」の「Grand Theft Auto:San Andreas」が思い浮かぶが,そのほかにも話題になったメーカーは多い。この夏,"株"を上げたメーカーと下げたメーカーは,どんなところだろうか? 今回は予定を変更して,ゲーム業界のアップ&ダウンについてお伝えする。

 

2005年夏 欧米ゲーム業界アップ&ダウン

 

 アメリカやヨーロッパのゲーム業界は案外広く,毎日のようにあちらこちらで,何かしらの事件が起こっている。人材の引き抜き,買収,倒産などは日常茶飯事で,それらのニュースを追っていると,ゲーム業界全体の動きが,ボンヤリとした像を結ぶ。
 どんなゲーム会社/クリエイターだって,好調なときもあれば,不調なときもある。ゲーム制作や業界でのヒロイックな活躍も見られれば,惨めに転落してしまうことだってあるわけだ。
 今回は,この夏に報道されたゲーム関連の出来事を振り返り,PCゲーム業界におけるメーカーや人物の"アップ&ダウン"を判定してみたい。

 

THQ

THQ期待のRTS「Company of Heroes」

 このところ,PCゲームに再び力を入れ始めたのがTHQだ。そのラインナップも「Company of Heroes」「Full Spectrum Warrior:Ten Hammer」「Moto GP URT3」「S.T.A.L.K.E.R. ‐ Shadow of Chernobryl」,そして「Titan Quest」と,コアゲーマーの心をくすぐりつつ,一般受けもする大作に変貌しそうな作品が揃う。
 この8月には,Sony Online Entertainmentを前身の989 Studios時代からビジネス面で支えてきた逸材,Kelly Flock(ケリー・フロック)氏を世界販売副社長として招いており,その基盤を固めつつある。

 

 

Sony Online Entertainment

災害援助の表明で株を上げた「EverQuest II」のSOE

 Sony Online Entertainmentは,アメリカ南部に大きな爪痕を残したハリケーン災害に迅速に対応し,米軍が被災地に到着する以前の9月2日に義援金の募集を表明。「EverQuest II」のゲーム中に"/donate"という新しいコマンドを追加して,赤十字の公式サイトを開けるようにした。
 また,同地域のアカウント1万3000人分をサスペンドし,連絡があるまで月額料金不要という処置も行っている。この行動にはゲーム業界で賛同する人も多く,ほかのメーカーや開発者個人も追随する動きを見せている。

 

 

Cyan Worlds

「Myst V:End of Ages」は,アメリカでは9月20日,日本では9月22日に発売予定

 「Myst」シリーズの開発元として名高いCyan Worldsが,すでに業務停止の状態に陥ってしまっている。
 1987年に「The Manhole」でデビューして以来,CD-ROMドライブ登場による"マルチメディア時代"の追い風に乗って大成功を収めた同社だったが,初のオンラインゲーム「Uru:Ages Beyond Myst」が一年を経ずして失敗するなど,ここしばらくはブレイクスルーがなかった。
 シリーズ最終章にあたる「Myst V:End of Ages」(邦題 ミストV)は無事にリリースされるようだが,古参のゲーマーの中には残念がっている人も多いはずだ。

 

 

Elixir Studios

"イギリスの天才少年"Demis Hassabis氏の復活が望まれる

 さらにイギリスでも悲劇は起きている。「Republic:The Revolution」や「Evil Genius」の開発元として知られるElixir Studiosが閉鎖し,すでに公式ページにもアクセスできない状態だ。
 同社は,1997年にDemis Hassabis(デミス・ハサビス)氏によって設立された開発チーム。同氏は12歳でイギリスのチェスチャンピオンとなり,16歳でBullfrog社の名作「Theme Park」を開発した"天才少年"として業界でも名高い。彼の今後は不明だが,その経歴の割にはまだ20代。いずれ再起してほしいものだ。

 

 

AGEIA Technologies

Sony Computer EntertainmentとPhysX SDK提供でも合意

 AGEIA Technologiesが,このところ熱い。同社は物理演算の処理を専門に行うPhysX PPU(Physics Processing Unit)を開発したことで一躍スポットライトを浴びており,先ごろはBFGから2005年末にPhysX搭載カードがリリースされることが発表されたばかり。その翌日には,なんとスウェーデンで開発されているMeqon物理エンジンを買収するなど,外堀も着実に埋めつつある。
 対応ソフトも,この夏発表されただけでもMythic Entertainmentの「Dark Age of Camelot」や「Warhammer Online」,Digital Jestersの「Bet on Soldier:Blood Sport」,Quantum Dreamsの「Omikron 2」など,ジワジワとラインナップを増やしている。

 

 

Funcom

FuncomのADV続編「Dreamfall:The Longest Journey」

 ノルウェーのFuncomは,まだまだ人気の持続する「Anarchy Online」を先鋒にした中国進出を決めたり,ベンチャーキャピタルから500万ユーロの融資を受けたりと,このところ活発な動きを見せている。
 Anarchy Onlineは,すでにリリースから満4年が経過したSF MMORPGで,ゲーム世界のモニター内で広告主のビデオメッセージを表示するなど新しいアイデアを採用し,月額無料の方針を貫いているのには好感が持てる。新作「Dreamfall:The Longest Journey」のリリースは2006年春に延びたが,とりあえずはアップ組に加えておきたい。

 

 

Blizzard Entertainment

Upper Deck社から「World of Warcraft」のカードゲームが発売予定

 全世界で400万のアカウント数を誇り,アメリカ産のMMORPGとしては初めて同国内で100万本のセールスを達成した「World of Warcraft」は,今では中国でコカコーラのCMに利用されたり,カードゲーム版も制作されたりと,大きなフランチャイズへと成長している。
 販売元のVivendi Universal Gamesでは2006年度上半期の収益が61%(2億3600万ユーロ)も上昇するなど,発売前にあった両社のイザコザなど吹っ飛ばす勢いだ。Diabloの元開発オフィスであるBlizzard Northを本部と統合しており,そろそろ新作に向けた動きがあるかも?

 

 

Jack Thompson

Jack Thompson氏のRockstar Gamesへの挑戦は続く……

 以前この連載で,暴力や過激な表現を含むゲームを弾圧する弁護士Jack Thompson(ジャック・トンプソン)氏についてお伝えしたが,まだまだゲームと暴力の因果関係を証明できるまでには至っていないようだ。
 最近では,2003年に3人の警官を射殺して逮捕されたアラバマ州の20歳の被告を弁護していた同氏。「Grand Theft Auto III」に熱中したことによる弊害だとして無罪を主張したが,2005年8月に行われた最終判決では,意見が採り入れられずに有罪が確定した。しかし,「被告は殺人シミュレータで訓練を受けたのだ」と報道番組で語っており,徹底抗戦を続ける模様である。

 

 


次回こそは,最近のゲーム映画情報(1)をお送りしよう。お楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。最近のイベント取材では,腰痛だの運動不足だのと言い訳ばかりしてきた奥谷氏。ひょんなことから娘のサッカーチームのゴールキーパーコーチとなり,週に一度は汗を流すようになったという。高校時代はラグビー部に所属していたという彼だが,「サッカーなんて体育の時間にやっただけだし,ましてやキーパーなんて」と話すように,8歳の子供達が相手だからこそ,なんとか通用しているようだ。


連載記事一覧