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奥谷海人のAccess Accepted

 ヨーロッパ最大のゲーム市場であるドイツで開催されていたゲームショウ"Game Convention"は,大作が初公開されるようなイベントではないものの,気になる作品がいくつも展示されていたのは,本誌の特集記事(目次は「こちら」)でお伝えしたとおりだ。今回は,そんなドイツのゲーム産業の過去を振り返り,今後注目すべきデベロッパを紹介する。


ドイツのゲーム市場と開発現場の温度差

■ドイツのゲーム市場と開発現場の温度差


ドイツのゲーマー達の熱気が直に伝わるGame Convention。人垣だらけで歩くのも嫌になる。写真は「F.E.A.R.」のデモが大好評だったVivendi Universal Gamesのブースにて

 8月17日からの5日間,ドイツのライプチヒ市で開催されたヨーロッパ最大のゲームイベントGame Convention 2005も,無事に終わった。最終日だった日曜日は,地元サッカーチームの試合があったためか入場客が少なめだったようだが,2004年の10万5000人という記録は土曜日のうちにクリアしており,合計では主催者側の予想を上回る13万4000人を集めたという。
 人口が8200万人のドイツにおいて,PCやコンシューマゲーム機でゲームをするプレイヤー人口は,全体の20%にあたる1700万ほどだと試算されている。ソフト販売本数もイギリスやフランスを超え,アメリカと日本に次ぐ世界第3位,ヨーロッパでは最大規模のマーケットを誇っている。Game Conventionに参加するドイツ人達の中には女性や低年齢層も多く,かなり広範囲にゲームが受け入れられているのが分かる。

 しかし,ドイツのゲーム市場の広さに見合わないものがある。国内のゲーム開発会社の少なさである。
 その歴史を紐解けば,AmigaやAtari,Commodore 64などの初期のゲーム機では盛んにゲーム開発が行われており,ストラテジーやパズルゲームが量産されていた。しかし,その後のWindowsやプレイステーションなどへの対応には完全に乗り遅れてしまっており,メジャーなドイツ産ソフトは,今世紀になってからようやく登場し始めたと言っても過言ではない。
 このあたりは,お隣フランスと似たような背景であり,極度にディテールにこだわる作風が多いのも,裏を返せば小数の人材がグラフィックスアートなどそれぞれの得意分野でマニアックな作業を行っているからだと考えられる。

■ドイツを代表するメーカー"Blue Byte"


 ドイツで有名なPCゲームといえば,やはり"The Settlers"(原題 Die Siedler。邦題 ザ・セトラーズ)だろうか。1作目の「The Settlers」は,1993年にAmiga版でリリースされ,その翌年にはMS-DOSへと移植されて,世界で100万本を販売した。
 The Settlersは,そのまま「ドイツ産ゲームとは何か」を具現化しているようにも思える。風になびく樹木をはじめとする細かな描き込みは,当時大人気だった「SimCity 2000」に勝るとも劣らない。建物一つ一つが緻密に描かれ,ちょっと可愛いキャラクターが動き回るアニメーションなどは,現在に至るまでドイツの伝統芸となっている。
 1996年にリリースされた「The Settlers II」は,MS-DOSしかサポートしていないものの,シリーズを通して最も遊びやすく,かつ集落の経営と軍事のバランスが絶妙な傑作として,古参のゲームファンの記憶に残っているはずだ。

 

第1作と同じ大ヒットとなった「The Settlers II」。当時最高水準の繊細なグラフィックスが最大の特徴だが,個人的には,筆者が知る中で唯一,1台のPCで二つのマウスの使用をサポートしたゲームというのもポイントが高い

 開発元のBlue Byte Softwareは,Thomas Hertzler(トーマス・ハーツラー)氏によって1988年に設立された会社だ。
 同社の処女作は,フランスの雄Ubisoftからリリースされた「Jimmy Connors Pro Tennis Tour」というテニスゲーム。その後は自社販売を手がけるようになり,The Settlersのほかストラテジーゲームの"Battle Isles"シリーズなどで名を上げ,1997年には「Archimedian Dynasty」というアクションゲームも手がけている。
 1998年にリリースされた「The Settlers III」は,建物やキャラクターが3Dグラフィックス化されたものの,その操作性やカートゥーン調になった絵柄について,ファンの間で賛否両論となった。

 そして2000年,同社はドイツで初めてのゲームポータルサイトとなった「Blue Byte Game Portal」をリリース。それがきっかけとなり,2002年の「The Settlers IV」リリース前に,Ubisoftに買収されることになった。
 当時,アメリカのゲーム販売会社の間で独自のポータルサイトがブームだったのに加え,ドイツでは東西を分断していた"ベルリンの壁"が崩れたばかりだったため,ドイツ市場開拓の試金石という意味合いがあったのだろう。

■ドイツ産ゲームの未来を担うのは?


ハンブルクの新星Replay Studiosは,GTAのような自由度を保ちつつ災難から逃れるのが目的という"リアリティ・ゲーム"を開拓中。ドイツから新ジャンルの登場なるか?

 このほか,'90年代中期にリリースされたドイツ産のゲームとして思い出されるのが,Sid Meier(シド・マイヤー)氏で有名な旧MicroProseからリリースされた「Pizza Tycoon」(1994年)だ。
 1993年の「Railroad Tycoon」,1994年の「Transport Tycoon」に続くタイクーンシリーズ3作目として,現在まで続く類似タイトルの先駆けとなるゲームソフトで,開発元は本作が最初で最後の作品となったCybernetic Corporationだった。
 Pizza Tycoonのゲーム性は悪くなく,筆者も本作で,マフィアに恐喝されながら若者向け新作ピザの開発に勤しんだ記憶がある。ドイツという国の代表作の一つというには地味すぎるが,実際問題1990年代のドイツでは,PC用ゲームソフトの開発は,ごく細々としか行われていなかったのである。

 しかし,Game Conventionでの熱狂を見ていると,ゲーム開発者の層の薄さと,先に述べたゲーム市場の厚さの差が,やがては埋められていくのではないかと感じられた。
 いや,このイベントに,ドイツの開発元が軒並み出展していたというわけではない。ただドイツという国の人々には,アメリカや日本では失われつつある,ゲームに対する興味やエネルギーがたっぷりとあるように感じられたのだ。

 さて,ドイツにおけるゲーム開発の先頭に立つのは誰か? 最後になったが,筆者の持つリストから可能性のありそうな開発チームをピックアップして,本稿を締めたい。


Crytek
代表作「Far Cry」

 ヤーリ3兄弟によって2002年に発足したCryTekは,独自に開発した3Dゲームエンジンを,NVIDIAやAMDの技術デモとして幅広く紹介。その結晶となったFPS「Far Cry」は2004年度のヒット作となり,おそらく当サイトの読者にとって最も知名度の高いドイツ産ゲームだろう。現在はXboxオリジナル版「Far Cry:Instinct」の開発に忙しいようだが,そろそろPCゲームの新作の話も聞きたいところだ。

 

Piranya Bytes
代表作「Gothic」

 同社の名前は知らなくても,日本でも固定ファンを獲得している「Gothic」というRPGなら,知っているという人もいるだろう。2001年1月にリリースされた1作目はドイツ国内で大きな反響を呼び,同年11月には英語に翻訳されて世界的に認知されることとなった。Game Conventionでは「Gothic 3」が展示されていた。

 

Radon Labs
代表作「Project Nomads」

 2001年のECTSでゲーム大賞を受賞した「Project Nomads」は,ベルリンに拠点を置くRadon Labsが制作した。同社は,過去にはMicrosoftから発売されたPCゲーム「Urban Assault」などの実績があり,現在は,ゲームエンジン「Nebula 2」をオープンソースコード化してプログラマの育成に努めている。ドイツ国内のゲーム業界でも,一目置かれる立場にあるようだ。

 

Replay Studios
代表作「Survivor」

 新興開発チームのReplay Studiosは,PCとXbox用に「Survivor」というゲームを制作中だ。これは,ニューヨークのテロ事件や広島への原爆投下,さらにはタイタニック号の沈没に至るまでの実際の出来事をテーマに,プレイヤーが生還に挑戦するという,リアリティTVならぬリアリティゲームだという。さらには「Crashday」や「Sabotage 1943」など,2006年には次々と新作をリリースする予定で,元気の良い開発チームといえる。

 

その他のドイツ国内PCゲーム開発社
会社名代表作現在のプロジェクト
Ascaron EntertainmentSacredCentury Conflict:The Clan War
EgoSoftX2:ThreatX3:Reunion
Massive DevelopmentAquanox 2:Revelation不明
ReakktorNeocron不明
Related DesignsAmericaAnno 1701
SEKWigglesParaworld
Soft EnterprisesHighland Warriors不明
Spellbound EntertainmentAirline TycoonDesperados 2:Cooper's Revenge

 


次回は最近のゲーム映画情報(1)と題し,ゲームを題材にした映画を紹介していきます。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。Game Conventionの取材は,E3にも負けず劣らずハードで,奥谷氏はほぼ不眠不休で仕事をしていた。そのためというわけでもないだろうが,一度寝ると,これがテコでも起きない。音で起こすのはまず無理で,ちょっとやそっと揺り動かしても,無反応。ライターの星原氏が何度か挑戦したものの,結局起こせなかったという。まぁ"短く深く眠る"というのが,奥谷氏なりの記事執筆量を増やす秘訣なのだろうが,あそこまでいけば超人の域かもしれない。


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