4Gamerの読者には,「ゲームなんて子供のもの」などという古臭い偏見を持っている人はいないだろうが,とくにここ日本では,まだまだそういう考え方の人も多いようだ。そこで今回は,"エイジレスゲーマー"と題し,シルバー世代を代表する現役ゲーマー達を紹介したい。風変わり? エネルギッシュ? いやいや,彼らはゲームが趣味ということ以外は,ごく普通のおじいちゃん,おばあちゃん達なのだ。
■世界最高記録を目指す,80歳の女性ゲーマー
アメリカはフロリダ在住のDoris Self(ドリス・セルフ)さんは,8月中旬にイギリスで行われていた古典アーケードゲームの祭典"Classic Gaming Expo"で,世界チャンピオンのタイトルを奪回するために渡英した。カメラのストロボと大きな歓声に包まれる中,相当なプレッシャーもあったのだろう。セルフさん自身の記録を破ることもできなかったが,それでも彼女に与えられた称号に傷がつくことはない。
セルフさんは,なんと今年(2005年)で80歳。依然として"最高齢の元チャンピオン"ゲーマーなのである。
イギリスのClassic Gaming Expoでプレイするドリス・セルフさん。数年前までは立ってプレイしていたそうだが,今では椅子に座るようになった。後ろに立つのが「世紀のゲーマー」ことビリー・ミッチェル氏だ。このイベントを主催するミラード氏は,「日本からももっと参加してほしい」とのこと
Courtesy of Chris Millard (Classic Gaming Expo UK)
セルフさんと,彼女を熱狂させたアーケードゲーム「Q*bert」の出会いは古く,今から20年以上も前の1983年のこと。ちょうど夫を失ったばかりだったセルフさんが,娘の一家と一緒にChuck E. Cheeseというピザレストランに昼食をとりに行ったのが,すべての始まりだったという。
このレストランは,"ゲームの父"でAtari創設者の一人,Nolan Bushnell(ノーラン・ブッシュネル)氏が仕掛けたチェーン店。アーケードゲーム機のコーナーを併設しており,子供の溜まり場としても人気で,アメリカで500店舗近くを展開している。セルフさんの訪れた店は,24時間営業だったらしい。
Q*bertは,"アーケードゲームの黄金時代"と言われる1982年に登場したパズルゲームで,立体的に積み重ねられたキューブに,キューバートというタコのようなキャラクターを移動させることによって,キューブの色を揃えていくというものだ。レベルが上がるにつれて,キューブの色を変えたり進行の邪魔をしたりするキャラクターが登場するのだが,その可愛さが受けてか,本作を題材にしたテレビアニメまで作られたほどである。
娘に勧められてアーケードゲームに始めて触れたセルフさんは,後日子供達の少ない夜間を狙って一人でQ*bertに再挑戦し,気がつくと外も明るくなっていたという。家の玄関で仕事に出かける娘と出会い,白い目で見られたこともあったとか。
しかし,そんな努力が実を結び,1984年には1,112,300ポイントをマーク。アーケードゲームの点数を公式に記録しているTwin Galaxiesから,Q*bertチャンピオンの称号を認められることになった。なおこの記録は,2003年までの20年にわたって破られなかったのである。
ちなみに,同じ店でたむろしていた当時10代のBilly Mitchell(ビリー・ミッチェル)氏らのグループにも溶け込み,不思議な仲間意識もできたようだ。ミッチェル氏といえば,1999年に「パックマン」でパーフェクトスコアをマークするなど数々のゲームで記録を保有しており,同年の東京ゲームショウにおいて「世紀のゲーマー」として紹介された史上初のプロゲーマーである。
ここしばらくはQ*bertから離れていたというセルフさんだが,ミッチェル氏にQ*bertのアーケード機を贈呈されたことから一念発起。破られた記録を再度塗り替えるために,1,800,000というスコアを目指して自宅での特訓に乗り出したらしい。2005年の6月にはニューハンプシャー州で行われたFun Sportという大会に参加しており,さらに先述のClassic Gaming Expoにまで遠征した。
このイベントを組織したChris Millard(クリス・ミラード)氏の話では,セルフさんの写真を撮ろうと周囲にファンがごった返し,プレイ中に声をかけられるなどの妨害にもあったらしく,セルフさんとしても納得できる内容ではなかったようだ。しかし,「ポーカー仲間の友達からは,Q*bertにかける情熱を妙に思われているけど,これも私の人生。まだまだやめる気はないわ」と頼もしいコメントを残している。
■戦前生まれのFPSゲーマー
日本のPCゲーマーにとって,実に身近に感じるシルバーゲーマーがいる。シューティングゲームのファンにはかなりの知名度を誇る,aki_tanこと北島彰(きたじま あきら)氏である。
1930年生まれという北島氏が運営する「3D Shooting Games aki_tan's Page」のコンテンツを見てもらえばお分かりのように,古くは「Duke Nukem 3D」から,「DOOM III」「Splinter Cell:Pandora Tomorrow」まで,丹念なウォークスルーを制作している。このような攻略記事の制作には膨大な時間を要するはずだが,退職後の余暇を有効に活用しているようで,その入念な内容には,我々のような職業ゲームライターも頭が下がるほどだ。
北島氏の年齢であれば,「ゲームなんて毒だ」などという偏見を持っている人も少なくないだろう。現に,筆者の父は北島氏より一回り下の世代になるが,ゲームに関しては良い顔をしないし,筆者がまっとうな仕事に就いているとも考えていない様子である。それだけに,モンスターや敵兵を撃ち殺すFPSというゲームジャンルを冷静に攻略する北島氏のサイトを見ていると,嬉しいというか頼もしいというか,なんだか不思議な気持ちになってくる。
「古い写真ですから」と話す北島氏だが,それを差し引いても,かなり元気そうなご様子。ウォーターバイクに乗ったり,甲府近辺で写真撮影したりと,PCから離れた部分でも活動的だ。ちなみにValve Software社の「Steam」の運営方針が気に入らないため,「Half-Life 2」のウォークスルーは作っていないのだという
「(家族からは)おじいちゃんの風変わりな遊び,くらいにしか思われていないでしょう」と話す北島氏。氏のPC歴/ネットワーク歴は古く,わざわざ調べてもらったところ,「パソコン通信サービスのニフティサーブ(現@nifty)に加入したのが1992年1月,インターネットをやるためにASAHIネットに加入したのが1995年6月のことでした」とのこと。FPSは,ニフティのゲームフォーラムで話題になっていた「DOOM 2」をプレイしたのがきっかけとなった。
「DOOM 2のあとにHexenというゲームを買ったのですが,パズル要素が難しくて,ゲーム中盤で立ち往生してしまいました。しかし,もう無理だと投げだそうとしたとき,アメリカのサイトにウォークスルーがあるのを見つけました。それをダウンロードし,必死で翻訳して,なんとかゲームをコンプリートできたんです。そのとき,ウォークスルーというものの存在がとてもありがたかったので,せっかく翻訳したことだし,ほかにも欲しがっている人がいるはずと,自分のサイトに訳文を載せることにしました。これが攻略記事に手をつけ始めた動機です」。
4Gamerに関わるライター陣でも,これほど古くから,PCでのネットワークやFPSを経験していた者は少数派である。また北島氏は,海外のゲーマー達にメールを送ったり,英語の長文を翻訳したりなど,趣味とはいえ活動の幅は広い。なんとも頼もしい"大先輩"である。
ちなみに同氏は,現役時代にはコンピュータに関わる仕事をしていたそうで,同世代の人の中でも,比較的FPSに触れるチャンスに恵まれていたことは想像できる。しかしなんにせよ,氏の存在は,「ゲームに年齢は関係ない」ということをあらためて我々に教えてくれる。
ゲーマーとしての北島氏にも触れておこう。北島氏は,シューティングゲームだけを好んでいるわけではなく,フライトシムや鉄道シムなどもプレイするとのこと(PC自体は,趣味の写真の処理やプログラム制作などにもよく利用しているそうだ)。
(ドリス・セルフさんのように)毎日ゲームに没頭するとか,徹夜してまでゲームの攻略を続けるということはないようで,北島氏の場合は,興味のあるゲームがあるときに,1日2〜3時間程度のみプレイするという。
サイトのコンテンツを見ていても想像できることだが,「Call to Duty」のようなリアルなミリタリー系アクションよりも,アクションとパズルがほどほどにミックスされたゲーム性のものがお好みのようだ。今は,「Splinter Cell:Chaos Theory」の日本語版がリリースされるのを心待ちにしているとのこと。
以前筆者は,アイドス(Eidos Interactiveではなく,日本法人のほう)の広報担当者から,「トゥームレイダー」購入者の平均年齢は40歳前後だと聞いたことがある。PCゲームではハードウェアの維持にもそれなりの資金を要するだけに,日本ではこの年齢層が主力であってもおかしくはないだろう。
今後,少子化に伴ってPCゲーマーの平均年齢も上がっていくはずで,これから30年もすれば,今ではまだ珍しいセルフさんや北島氏のような人も,数多く現れているに違いない。
彼らは現シルバー世代における先駆者であり,我々ゲーマーの未来像でもある。素直に敬意を表したい。