― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 アメリカでは最近でも,雨後のたけのこのようにゲーム開発会社が“増殖”している。実力者であれ若手であれ,自分の持っている技術やアイデアを武器に,一攫千金を夢見て独立するのだ。そのドライな制作意欲が,アメリカのゲーム産業をより力強いものにしていく原動力の一つでもあるのだろう。今回は,数年後には誰もが熱狂するようなPCゲームを世に送り出す(かもしれない),五つの“スタートアップ”を紹介する。

 

最近発足したPCゲーム会社

 

 一頃ほどではなくなったものの,アメリカでは今でも,毎年のように新しいゲーム開発チームが生まれている。有名な開発チームの主要メンバーが新たに旗揚げしたり,大きな企業からスタッフがゴッソリと抜けたりというのは,もはや日常茶飯事。Xbox 360のリリースで始まった“次世代ゲーム機戦争”の裏で,有能な開発者の争奪戦も活発だったのは周知の事実である。
 アメリカのゲーム開発者達の間では,「いっぱしの開発者と自認できるようになれば独立する」という風潮もあるようだ。筆者は仕事柄,欧米の開発者達に起業の経緯を聞くことが少なくないが,そのようなときには,「俺も30を過ぎたからね。そろそろ自分で何をしたいのか考え始めたんだ」という率直な意見をよく耳にする。ゲーム業界のような若い産業では,30歳前後というと開発部隊の前衛でがんばっている頃だ。ゲーム開発という作業の流れを覚え,開発者として脂が乗ってきた頃に,それまでに温めてきたアイデアや蓄えた技術を,思う存分試してみたいという自立心が芽生えてくるに違いない。

 

Futrix Studiosによる新作FPS「Future Killer」の,独自エンジンによるイメージCG。金属質な基地の雰囲気は見飽きた感もあるが,水の流れなど興味深い点も見られる

ミチオ・オカムラ氏らによるHyboreal Gamesの第一弾は,「Starfall」という未来を舞台にした作品。あまり日本的な部分を感じない彼のアートには,「Diablo」の成功以降ファンが多い

 今年(2005年)に起業した開発チームも少なくない。ベンチャーキャピタルなどから投資を受けるのは簡単ではないが,それでも自分の理想郷を作ろうと,有名なソフトの開発メンバーや,業界を代表するような実力者達が次々と独立していく。
 このような新興企業は,処女作が発売されるまでは“スタートアップ”(Start-up)と呼ばれ,ファンから多くの期待を受けることになる。しかしゲーム開発には少なくとも2年はかかるようで,最近でも継続的に話題になっているBlizzard Entertainmentの元スタッフによるFlagship Studiosや,現在「Star Wars: Empire at War」を制作中のPetroglyph Gamesも,設立されたのはちょうど2年前の2003年末だった。
 この計算だと,今回リストアップした五つのスタートアップも,ゲームについての具体的な情報公開は,2007年頃になるはず。とくにPCゲーム開発が確実と思われる会社に絞って紹介するので,今のうちからぜひ名前を覚えておいてほしい。
 彼らのような“新しい力”ががんばっている限り,PCゲームは今後も活気を失わないだろう。

 

Junction Point Studios

所在地:テキサス州オースティン

公式サイト:http://www.junctionpoint.com/

 Junction Point Studiosは,2005年3月に発足された。ゲーム業界の知恵者Warren Spector(ウォーレン・スペクター)氏が中心となっており,ほかにも元ION Stormの数名がチームに含まれている模様だ。スペクター氏がプロデュースした「Deus Ex」では,実質的なゲームデザインを担当していたHarvey Smith(ハービー・スミス)氏と二人三脚だったものの,スミス氏のほうは2004年末にMidwayオースティン支部のプロデューサーとして迎え入れられている。
 第1作「Junction Point」は,スペクター氏が「Ultima Underground」のLooking Glass Technologies時代から温めていた企画だという。以前筆者に「(同作で)MMOゲームに挑戦したい」と語っていたことがあるが,実際のところはまったく不明のままだ。自ら“第一人称視点信奉者”と話すスペクター氏だけあり,すでに「Half-Life 2」のValve SoftwareからSourceエンジンのライセンスを受けることが明らかにされている。

 

Manifesto Games

所在地:ニューヨーク州ニューヨーク

公式サイト:http://www.manifestogames.com/

 スペクター氏が業界を代表するハト派であるとすれば,2005年9月にManifesto Gamesを設立したGreg Costikyan(グレッグ・コスティキアン)氏は,過激なタカ派といえる。
 16歳のときにボードゲームの制作でデビューした彼が,コンピュータゲームのデザインを始めたのは,1990年代のこと。Interplayより1997年にリリースされた「Evolution: The Game of Intelligent Life」のような知的なゲームデザインへのこだわりが強く,あまりにも実験的な内容のため,陽の目を見ることのなかった作品も多いらしい。
 ここ数年は,Nokiaでモバイルゲームのリサーチなどを行う傍ら,「I Have No Word & I Must Design」などゲームスタディに利用される書籍の執筆をしており,また,最近のゲームデザインのつまらなさや業界の体質を批判するコメントを,Web上で公開してきた。この会社も,「ゲームが文化へと昇華するには,インディ・レーベルが必要だ」という,彼ならではのゲリラ的な“マニフェスト”なのである。

 

Futrix Studios

所在地:テキサス州ダラス

公式サイト:http://www.futrixstudios.com/

 FPS開発の本場 ダラスでゲームデベロッパを創設したのは,Ritual Entertainmentのレベルデザイナーだった,Thearrel McKenny(セアレル・マッケニー)氏である。彼はMODの制作者としてDOOM時代から有名な人物で,比較的最近まで,(Ritual Entertainmentに在職しながらも)「Quake II: Lost Marine」のような個人での活動で話題になっていた。
 「SiN」や「Heavy Metal: F.A.K.K.」で有名なRitual Entertainmentだが,最近では移植やリバイバルのプロジェクトが多く,ゲームデザイナーのマッケニー氏は自分のアイデアを生かしきれないと考え,今回の独立へとつながったらしい。
 Futrixでは,すでに「Future Killer」と「Deadly Gate」というFPSプロジェクトを公表しており,スポンサーを見つけるためか,早々にプロジェクトの公式サイトまで作っている。

 

Trilogy Studios

所在地:カリフォルニア州サンタモニカ

公式サイト:http://www.trilogystudios.com/

 Trilogy Studiosも,2005年秋に設立が発表されたばかりのスタートアップの一つである。その中核を担うのは,以前Electronic ArtsにおいてEALA(ロサンゼルス支部)の副社長兼総合プロデューサーという肩書を持っていたMark Skaggs(マーク・スカッグス)氏だ。
 Westwood Studios在籍中から,“リリース日を守るプロデューサー”と称えられるほど辣腕を振るっており,Electronic Arts時代には「Command & Conquer: Generals」や「The Lord of the Rings: Battle for Middle-Earth」など,一貫してRTSを担当していた。しかし,2005年7月になって同社を辞職。Westwood世代のメンバーでは最後の離脱といわれており,これによって「Red Alert 3」の開発は頓挫したとも伝えられる。
 Trilogy Studiosは,約3.5億円の立ち上げ資金をすでに集めており,パートナーには,同じく元Electronic ArtsのIP部門副社長Rick Giolito(リック・ジオリト)氏や,Vivendi Universal Gamesの製品開発副社長だったMichael Pole(マイケル・ポール)氏などビッグネームが揃う。なお公式サイトには,Epic Gamesのロゴがある。

 

Hyboreal Games

所在地:カリフォルニア州サンカルロス

公式サイト:http://www.hyboreal.com/

 さらに,出来立てホヤホヤの開発チームで覚えておきたいのが,Hyboreal Games社だ。Flagship StudiosやArena.net,Castaway Entertainmentと同じく,元Blizzard Northのゲーム制作者達による会社である。
 注目したいのは,そのメンバーの中にMichio Okamura(ミチオ・オカムラ)氏の名前があること。彼は子供の頃に家族で米国に移住した日本人で,Diabloシリーズではラスボスのディアブロをはじめ,数々のモンスターのアートを手がけたリードアーティストなのだ。
 オカムラ氏のもとには,アニメータのEric Sexton(エリック・セクストン)氏と,UIエンジニアのSteven Woo(スティーブン・ウー)氏らが集結している。ただし,実質的なソフト開発は,Flipside Gamesというやはり元BlizzardのJonathan Morin(ジョナサン・モリン)氏がマニラに設立した会社に委託することになっている。
 第1作は「Starfall」というアクションRPGのようだが,コンセプトアート数点が公開されているのみで,詳細は一切不明。

 

 


次回は,PCゲーマーなら要チェックのグッズを紹介します。新たな必需品になるかも?

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。奥谷氏の5歳になる息子は,クリスマスの到来を指折り数えて待っているという。欲しいオモチャのリストを「North Pole」(北極)と書いた封筒に入れてポストに投函する(!)など,用意は万全らしい。そのクリスマスもいよいよ迫ってきた最近,彼が一番気にしているのが,サンタにあげるためのクッキーとミルク。アメリカでは一般的な風習らしいが,奥谷氏の息子は「無脂肪のやつにしよう。きっとサンタは,クッキーの食べ過ぎで太っちゃったんだ」と,きめ細やかな心遣い(?)を見せているとか。


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