― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted
2006年4月12日掲載

 日本のゲームメーカーの海外進出は,なにも今に始まったことではないが,最近の動きには,我々PCゲーマーにとっても興味深いものがある。セガ,コナミ,ナムコなどを筆頭に,日本企業による日本市場を意識しないPCゲームの開発や販売が行われているのだ。ゲーム産業が日々国際化していく中,販売対象とする地域に密着したビジネス展開やイメージ戦略がうかがえる。これは,新しいトレンドといえそうだ。

 

日本ゲーム企業「第3の海外進出」

 

■日本のゲームメーカー海外進出の歴史

 

 このところ,日本のゲームメーカー(※)が海外でゲーム開発や流通に本格参入するケースが目立ってきた。とくに興味深いのが,日本のメーカーが,日本のゲーム市場へのフィードバックが小さいはずの“PCゲーム”に手を染めるという事例だ。PCゲームのファンによく知られた海外のゲーム開発チームを日本企業がその傘下に収めたり,業務提携したりというニュースが頻繁に伝わってくるようになったのだ。今後,我々PCゲーマーにとって,気になる洋モノPCソフトに日本のメーカーのロゴが付くという,あまり見慣れない光景が増えてくるはずだ。

コナミのMetal Gear Solid: The Twin Snakesは,同社の誇るゲームIPながらカナダのゲーム開発チームに委託された異例のソフト。「Metal Gear Solid 2」のゲームエンジンで開発されたらしいが,PC版でもリリースされた

 もっとも,日本のゲーム会社が欧米に進出すること自体は古くから行われていた。1978年にアメリカに進出したナムコや,1980年にゲームウォッチの販売のためニューヨークに現地法人を設立した任天堂などを皮切りに,コナミ(1982年),ハドソン(1984年),カプコン(1985年),セガ(1986年)といったプラットフォームホルダーやゲームメーカーが海外拠点を展開するようになっていった。
 また1995年には,任天堂がイギリスをベースにするRareを傘下に収め,「ドンキーコング 64」や「スターフォックス・アドベンチャー」を生み出したし,同年にはスクウェア(現スクウェア・エニックス)もロサンゼルスに開発支部を構えている。最近では,コナミの「Metal Gear Solid: The Twin Snakes」(2004年)がカナダのSilicon Knightsによって開発されたり,コーエーがオンラインゲーム「三國志オンライン」(仮称)開発の拠点としてシンガポールに支部を設立したりなど,本来なら国内で行っていたであろうプロジェクトを丸ごとアウトソーシングする例が見られる。三國志はともかく,日本で培ったIP(知的財産)を海外の開発者に任せるというのが,これまでに多いパターンだったといえるだろう。
 日本では,欧米ほど販売会社と開発会社に明確な差がないため,本稿では“メーカー”という用語を使用する。

■地域で受けるソフトを意識した,新しい販売トレンド

 

 この自社ソフトを売るための「海外拠点の設置」,そして自社ソフトを制作するための「海外開発者との提携」,に続く第3のトレンドとして浮上しているのが,自社ソフトとは関係のない「海外用ゲームソフトの流通」だ。コンシューマ機を国際展開する任天堂やソニー・コンピューター・エンターテイメントが開発や流通を手がけるのは不思議ではない。だが,日本では大きな収益を期待できない,欧米のローカル市場向けPCゲームの開発チームを買収/業務提携する例が,ここ数年目立つようになってきたのだ。
 とくにそんな活動を積極的に行っているのが,セガ,コナミ,ナムコの3社である。

 

セガ

現在,The Creative Assemblyが開発中の「Medieval 2: Total War」。1万体という3D キャラクターのユニットが,中世ヨーロッパや北米,中近東の覇権をかけて戦うという,人気ストラテジーシリーズの最新作だ

 2005年3月,SEGA Europeが,イギリスのThe Creative Assemblyを傘下に収めたことが大きな話題となった。同社は,2004年に大きなヒットを飛ばしたRTS,「Rome: Total War」の開発元として知られるチームで,ゲームソフト販売会社となったセガにとっても初めての国外企業買収だった。これは,2004年末にSEGA Europeの最高経営責任者に就任し,欧米での陣頭指揮を執る鶴見尚也氏の意向によるものとされ,当時のプレスリリースでも「このセガ初の企業買収は,我々がゲーム業界の最高の人材に目を向けていることを示しています」とコメントしている。買収額は推定3000万ドル(約35億円)で,The Creative Assemblyの活きの良さを考えると,“割の良すぎる”買い物だったと言える。
 負担になっていたESPNスポーツのライセンスをTake-Two Interactiveに売却するなどしていたセガだが,その一方で今月になってイギリスのSports Interactiveを買収。ヨーロッパでは絶大な人気を誇るスポーツマネージメントゲーム「Football Manager」シリーズを手に入れた。
 さらに,Ubisoft Entertainmentのために「America's Army」をコンシューマ機向けに移植したSecret Levelを買収するなど,ヨーロッパだけでなくアメリカでも戦略的に展開している。Monolith Productionsのホラーアクション「Condemned: Criminal Origin」の販売権を獲得したのに続き,PC用RPGの開発元として名高いObsidian Entertainmentと提携合意にも至るなど,日本企業の中でも非常に幅広い積極的な活動をしているのだ。

 

コナミ

イギリスの特殊部隊SASの実戦的な作戦行動を取り入れたという「The Regiment」は,仲間を率いてテロリスト達に立ち向かうという,「Rainbow Six」を連想させるスクワッドベースのタクティカルアクションだ

 関連企業を含め,全世界で4000人を超える従業員を抱えるという国際的なコナミ。ヨーロッパではドイツのフランクフルトを拠点に展開しているが,セガ同様,イギリスを本拠にする開発会社との接点が多い。
 まず,筆者の知るところで最も古いのが,2003年にリリースされた経営シミュレーションゲーム「Casino, Inc.」である。セールスはぱっとしなかったが,Casino, Inc.の出来に満足していたのか,開発元のHothouse Creationsとはリリース直後に再契約のサインを交わしている。それが,2005年末にリリースされたクライムアクション「Crime Life: Gang Wars」として結実したようだ。
 また,2003年5月にはロンドンのKuju Entertainmentと提携。Konami of EuropeのTony Bickley(トニー・ビックレイ)氏は「彼ら(Kuju Entertainment)のプロフェッショナルなアプローチと技術力の高さだけでなく,ゲームに対するビジョンに感銘を受けた」と話していたが,これがイギリス特殊部隊SASの実際の作戦行動を基本にしたタクティカルアクションゲーム「The Regiment」に昇華し,イギリスではすでにリリースされている。

 

ナムコ

Flagship StudiosのアクションRPG「Hellgate: London」は,静止画面を見るとありがちな完全3Dの一人称視点だが,遊んでみるとDiabloっぽさが残っている。あまり情報が伝わってこないが,年内のリリースは可能だろうか?

 欧米のゲーム販売に力を入れているもう一つの日本メーカーがナムコだ。中でもPCゲーマーを最も驚かせたのが,2004年3月にアメリカ現地法人Namco Hometekが,Flagship Studiosが開発中の「Hellgate: London」の販売提携に合意したというニュースだろう。FlagshipはBlizzard Entertainmentにおいてゲーム開発の中核をなしていたBill Roper(ビル・ローパー)氏らが創設した開発チームで,DiabloシリーズのDavid Brevik(デイビッド・ブレヴィック)氏らが参加している。このDiabloのゲーム性を一人称視点で再現したようなHellgateは,発売前からすでに多くのファンを魅了しているアクションRPGである。
 ナムコの販売提携はFlagshipばかりではない。イギリスのRebellionが開発したアクションゲーム「Sniper Elite」がすでにリリースされているし,WizKidsのテーブルトークでカリフォルニアから台湾までに広く展開するInterServ Internationalが開発に関わる「MageKnight: Apocalypse」などのPCゲームが控えている。ハンガリーをベースにする新鋭Black Hole Entertainmentの「Warhammer: Mark of Chaos」のように非常にコアなRTSもプロデュースするなど,2006年だけを取ってもなかなか興味深いPCゲームのラインナップを持っているのだ。

 

 

 これら3社のラインナップを見ただけでも,ほとんどが北米やヨーロッパでの展開のみを考慮したものと考えられる。なぜなら,提携/買収先として,これらの地域で高い評価を受けた質の高いソフト開発会社ばかりが選ばれているからだ。各社,世界的に知名度の高いIPを揃えているが,「郷に入れば郷に従え」の言葉どおり,販売対象地域に根ざしたソフトのラインナップを広げることで,より安定し,信頼される実績を積み上げようとしているのだろう。
 イギリスの開発チームと提携することが多いのは,同国のゲーム開発会社の多くが,長い伝統で積み立てられたノウハウや技術力を持っているにもかかわらず,際立った勢力を持つ販売会社が存在していない,という理由もあるのだろうか。ヨーロッパでは,例えばドイツのように,PCゲームのシェアが50%近くある地域もあり,PCゲーム市場がまだまだ強いのは確かだ。そんなヨーロッパで,Total WarシリーズやHellgate: Londonのようなソフトを販売できる旨味は,十分に理解できる。
 そして,この日本企業の新しい戦略は,PCゲーム市場を活性化することにつながり,我々ゲーマーにとってのプラスにもなる。ようやく底の見えてきた日本のゲーム産業が,今後躍進していく契機になるかもしれない。

 

 


次週は,ゲーム研究者の大発見? について。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。奥谷氏が,先日地元サンフランシスコ・ジャイアンツの野球を観戦に行ったときのこと。14歳以下の子供は試合後にダイアモンドを一周できるという球場のサービスで,奥谷氏自身も生まれて始めてフィールドに降り立ったという。そこで彼が気になっていたのは,イチロー選手も苦言を呈していた“ベンチの汚さ”らしい。ジャイアンツのホームスタジアムは建設されて6年の新しい建物だが,それでも奥谷氏は紙コップやティッシュペーパー,ナッツか何かの破片が散乱する床をその目で確認。とくに,噛みタバコで吐き出された唾液のようなものがベンチの前を等間隔で濡らしているのを見た奥谷氏は,「こんな状況で野球している大リーガーは偉い」と感心していた。なんとなく,感心する場所がちょっと普通の人と違うような気がするが……。


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