今年3月に,JAVAの総本山とも言えるサン・マイクロシステムズから「Project Darkstar」というシステムがリリースされ,JAVA言語を使った3D MMORPGの未来が広がった。「RuneScape」や「Yahoho! Puzzle Pirates」など,すでに数百万アカウントを誇るJAVA製のヒットゲームも多いが,ついにMMORPGまで低予算で開発できてしまう時代がやってきたのだろうか。
増えてきた本格派JAVAゲーム
ジャバが熱い。と書けば今回はコーヒーの話なのかな? と思ってしまう読者もいるかもしれないが,違う。今回は,サン・マイクロシステムズが開発し,現在も進化を続けるオブジェクト指向のプログラミング言語「JAVA」と,それで書かれたゲームについてお伝えしよう。
PCユーザーなら,JAVAという名前は何度か耳にしているだろう。JAVAは,プラットフォームに依存しないアプリケーションの制作を可能にすることを目的に,1990年代前半からサンが開発を進めてきた言語および環境だ。ネットワークやセキュリティ面で安定した性能を持ち,全世界で使われる携帯電話の80%で利用されるなど,多くのプログラム開発者から信頼を得ている。
アメリカの人気TVドラマをゲームにした「Law & Order: Justice is Served」(2004年)は,JAVAによってプログラムされた3Dアドベンチャーで,Vivendi Gamesから販売されている
とはいえ,PCの3Dゲーム分野では,グラフィックスライブラリへのアクセススピードがボトルネックになるなどの理由で,JAVAではなくC++言語が圧倒的な支持を得てきた。API(Application Programming Interface)としては,現在のところMicrosoftのDirectXが事実上の標準で,それをOpenGLが追随している格好だ。
しかし最近,高騰し続ける開発コストのため,より安価に利用できるJAVAが注目され始めているのだ。こうした動向はサンも認識しているようで,同社はJAVA Game Communityというテクノロジグループを設立し,DirectXとOpenGL上で作動する「JAVA 3D API」を開発している。
その結果として,JAVAベースのゲームがこのところ急激に増えているのである。これまでにも,「Quake 2」を書き直した「Jake 2」や,すべてJAVA言語を使って制作された「Law & Order」シリーズのような本格的な3Dゲームが存在していたし,「Star Wars Galaxies」ではサーバープログラムがJAVAで制作されていた。そんな中,ここ1〜2年でとくに発展著しいのが,JAVAで書かれたMMORPGなのだ。
というわけで,ここしばらく話題になっているJAVA系MMORPGを紹介してみよう。
インターネットにアクセスできる限り,どこからでも自由にプレイできるブラウザベースMMORPGの一番の成功例と思われるのが,イギリスのJagexによって開発されたこの「RuneScape」だ。現在,英語圏を中心に133ものサーバーが稼動しており,アカウント数の総計は900万に及ぶ。月額5ドル(約600円)を支払ってプレミアサービスを受ければ,マップやクエストなどが増える。プレミアサービスの利用者は80万人で,広告料などを含めると毎月約4.5億円の収入ということで,ほかのJAVAベースのゲームと比べてもダントツである。実際,Jagexの創立者であるオリジナルメンバー3人(現在,社員数は250)は,2005年のイギリス長者番付に名を連ねたらしい。
サービスを開始したのは2004年3月のことだが,2006年5月にはグラフィックスやサウンドに関する大幅なアップデートを行っている。基本料金は無料なので,欧米では小学生の間でも大きな人気を得ている。カジュアルなプレイヤーが多いためか,Jagex関係者を名乗ってアカウントをチャットに打ち込ませるような初歩的な詐欺の蔓延が問題になっているようだ。
サンフランシスコを本拠とするThree Rings Designが2003年12月にリリースしたゲーム。プレイヤーは海賊のアバターを操り,オンラインで仲間達と交流しながらパズルなどのゲームで遊ぶというものだ。
JAVAで開発されたインディーズ系ソフトとして2004年のGDC(Game Developers Conference)で大賞を受けている。現在はUbisoft Entertainmentが販売元となり,アカウント保持者は200万人を超す。月額は9.95ドルだが,49.95ドルで一年分の契約も可能である。
Puzzle Piratesは,すべてのシーンにおいて独立したミニゲームになっているのが特徴で,航海で船を疾走させるためにはスーパーマリオ風の2Dゲームをこなし,海賊との戦いでは落ち物ゲームのクリアを目指すことになる。船にクルーメンバーを乗せて共同で航海し,操船やら戦闘やらクラフティングやらで仲間達と協力し合うコミュニティとしての要素も強い。
1doubloon(ゲーム内通貨の単位)が25セント程度で開発元と直接取引されており,これでアイテムや船を購入する。今年4月にはのべ500万doubloonsが販売されたという。
スウェーデンのMojang Specificationsが開発したMMORPGで,この6月にマスターアップしたばかり。まだ知名度が低いためか,サーバーにアクセスしているのは常時100人にも満たないほどである。キャラクターアニメーションがなく,ゲーム画面はちょっと寂しく感じられるが,OpenGLとの連携によって,地形や天候などかなり高レベルの3Dグラフィックスを達成している。JOGL(Java OpenGL)かLWJGL(Lightweight Java Game Library)を使って起動できるが,JOGL版では現行のATI系グラフィックスカードがうまく作動しないとのこと。
JAVA系MMORPGらしく基本料金は無料だが,その場合,スキルキャップやマップが限定されている。プレミアムサービスは5ユーロ(約750円)で,1ユーロでSilver Coin一枚というRMTも行われている。
二つの王国が対峙しているという設定で,PvP(対人アクション)が許可されているため,一人では生活しづらい仕様になっている。その結果,プレイヤー達は村を作り,一定額を支払ってNPCのガードマンに村を守ってもらうことになる。
Project Darkstarは,
低予算MMORPGの開発に貢献する
今年5月にサンフランシスコで行われていたJAVA開発者の会合JavaOneにおいて,サンのScott McNealy(スコット・マクニーリ) 会長は,2005年のJAVA搭載携帯電話の出荷台数が世界で2億台を突破したことを挙げ,すでに消費者へ深く浸透していることを強調していた。
今後,JAVAの持つ“プラットフォーム非依存”のコンセプトを実現すべく,携帯電話とPCゲームの間でなんらかの互換性を持たせたようなサービスも増えていくことは間違いない。そればかりでなく,マクニーリ氏はJavaOneの基調講演で「JAVAはすでにPlayStation 3に搭載済み」(The Sony PlayStation 3 is coming out with Java on it.)という発言をしている。その言葉が何を意味しているのかは今一つ明確ではないが,ミドルウェアとしてのJAVAは着実にゲームへの足掛かりを築いているようだ。
Immediate Mode Interactiveという開発チームが制作した「Cosmic Birdie」は,Project Darkstarサーバーシステムを使用。公式サイトから無料ダウンロードできる。3Dサウンドや地形の変形にも対応した本格的な3Dゲームである
そんなサンが満を持して今年3月に発表したのが,「Project Darkstar」だ。これは,San Game Serverとも呼ばれている,同社が15年ほど掛けて開発したSun Gridのバリエーションである。このDarkstarサーバーは,WindowsやLinuxなどプラットフォームを問わず,数百万のアカウントを管理する大規模なMMORPGからポーカーゲームのようなカジュアルなオンラインゲームにいたるまで,サーバーアーキテクチャのスケーラビリティやデータベースのパフォーマンスに関するチューニングといった諸問題における開発者の負担軽減を目的としている。
簡単に言うと,開発者が新作を作るたびに新しいサーバーを構築する必要がなく,小規模な開発会社やインディーズ系の開発チームでも,より手軽かつ短期間にオンラインゲーム制作を可能にする。まさにゲーム専用の“スタンダードなサーバー環境”となるべく開発された技術だ。
Project Darkstarは,JAVA言語だけでなくC++言語もサポートすることになっている。興味深いのが,Project Darkstar公式サイトにゲームアプリケーションのソースコードを無料公開すると明言されていることで,とにかくより多くのMMORPGを世に送り出してやろうとの構えらしい。
インディーズ系開発者は,ときとして業界内部から生まれにくいユニークな発想のソフトを作り出すことがある。また,NCSoftの北米支部がJAVA系プログラマーを募集するなど,メジャー企業のJAVA参入も順次行われていくように見える。JAVAやDarkstarは今後のMMORPGジャンルの革命に,どのように関わっていくことになるのか楽しみだ。
来週は,「ゲーマーも薬物汚染?」と題してお送りします。