連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年2月14日掲載

 特集記事「PCゲーム新作ガイド 2007」を見ていただければお分かりだろうが,今年の欧米産MMORPGには期待作が多い。まさに戦国時代のような様相を呈しているが,現実問題,欧米では「World of Warcraft」が圧倒的な人気を博しており,それに立ち向かえるかどうかに注目が集まっている。さて今回は,その怒涛のMMORPGラッシュに花を添える(?)魅力的な3作を紹介してみよう。

 

まだまだある期待の新作MMORPG

 

World of Warcraftの牙城を突き崩せるか

 

World of Warcraftの待望の拡張パック第1弾「World of Warcraft: Burning Crusade」は,欧米で「発売初日で240万本」という記録的なセールスをあげた。正式サービス開始以来3年が経ってもいまだ衰えぬ人気に対し,今年リリースされる一連のMMORPG群は,どのような奮闘を見せるのだろう

 すでにリリースされた「Vanguard: Saga of Heroes」や,正式サービス間近の「The Lord of the Rings Online: Shadows of Angmar」「Warhammer Online: Age of Reckoning」など,なかなか期待できそうな欧米産のMMORPGが目立つ2007年。「World of Warcraft」の独占状態がますます強くなる以外,ほとんど目ぼしい動きがなかった2006年を思えば,どれを遊んでよいのやらファンにとっては目移りのしそうな一年になるかもしれない。

 

 現在,アメリカのMMORPG市場の55%を独占すると言われるWorld of Warcraftは,800万という途方もないアカウントを獲得している。ただし,中国への参入に成功したことがその大きな要因となっており,アカウント数の内訳の56%は,中国を中心としたアジア地域のものとされる。この中には,ゴールドファーマーなど,やや不透明な部分もあるのだが,それを除いても欧米で300万アカウント以上を持っている計算になる。
 「Final Fantasy XI」(邦題 ファイナルファンタジーXI)が欧米で40万〜50万アカウントと健闘してはいるものの,ほかのタイトルは,どんなに多くてもWorld of Warcraftの10分の1にも満たないのが現実である。
 同じようなテーマやプレイ感覚であれば,後発タイトルほどプレイヤーに魅力を与えられなくなっていくのは仕方ないかもしれない。多くの時間とそれに伴うお金を投資するMMORPGというジャンルでは,「なぜ,今のゲームをやめてまで新作に移るのか」という疑問を解決するほどの訴求力が求められるからだ。

 そこで,ファンを魅了するための手段として小説や映画を利用したり,歴史的テーマをモチーフにプレイヤーの知的好奇心を刺激したりする作品が増えてくるわけだ。特集で挙げた以外にも,「Pirates of the Caribbean Online」「Star Trek Online」「Stargate Worlds」など,今年から来年にかけてリリースされる予定のタイトルに,このような傾向が見られる。
 「The Matrix Online」や「Star Wars Galaxies」のように,大成功したとは言い難い作品もあり,必ずしもこうした戦略がうまくいくわけではない。しかし,World of Warcraftが,まず「Warcraft」ファンを納得させてその地歩を固めたように,それぞれのテーマをうまく料理したゲームシステムなどを開発できれば,数百万単位のアカウント獲得も夢ではないだろう。

 とはいえ,映画や小説に頼らず独自の世界観によって自分の望むMMORPGを作り出そうというする,Richard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏のような人達が少なくなったわけでもないだろう。以下に紹介する三つのタイトルがどれだけ成功するのかはまったくの未知数だが,これらの作品が,再び盛り上がりつつある欧米のMMORPGワールドに,一石を投じようとしているのも確かなのである。

 

 

The Chronicle of Spellborn

開発元:Spellborn International / 発売元:Frogster Interactive / 発売予定日:第1四半期

 

 「The Chronicle of Spellborn」は,オランダで開発中のMMORPG。強力な魔法によりバラバラに分かれて宇宙に漂う惑星の残骸が舞台となり,このうちの五つでそれぞれの文明が形成されつつあるという設定だ。
 プレイヤーが選べるのはヒューマンとダエヴィ(Daevi)という2種族のみ。職業はファイター,キャスター,ローグという3種類が用意されており,これらがスキルによりさらに3種類ずつに枝分かれしていくという。攻撃も自分の持つ好みのスキルをデッキ化して事前に用意しておくという,かなりアクの強い仕様になっており,また,アイテムにレベル制限がない代わり,キャラクターの攻撃力や防御力に何の影響も与えない。つまり,さまざまな武器やアーマーは“ファッション”として用意されてはいるものの,戦闘では,キャラクターのスキルだけがダイレクトに反映されることになるわけだ。
 ヨーロッパではドイツや英語圏諸国でのサービスが見込まれているほか,パブリッシャが韓国に支社を設立して,同国内で展開する予定になっているところが興味深い。Unreal Engineを利用するなど,グラフィックス能力もほかの作品と比べて見劣りするものはなく,硬派でユニークなMMORPGとして一定の評価を受けることになるのではないだろうか。

 

 

Dungeon Runners

開発元:NCsoft / 発売元:NCsoft / 発売予定日:未定

 

 NCsoftのオースティン支部(テキサス州)で開発されている「Dungeon Runners」は,2006年の早い段階で発表され,すでにβテストも始まったことがアナウンスされたものの,その後はニュースが途絶えていた。ただ,今年に入ってから公式サイトが一新されるなどしており,今年中のリリースは十分にあり得るだろう。
 本作は,まるで「Diablo」そのものとでも言うべきゲーム性で,画面もクォータビューを3次元にしたような馴染みやすさ。ファイター,メイジ,レンジャーというオーソドックスなクラスが3種用意されていて,最大人数は不明なものの,参加者数に合わせてマップの規模もランダムに生成される。カジュアル層を狙っているだけあり,15分で一つのクエストを終了できるといった手軽さも魅力的だ。
 基本プレイは無料となり,特定のアイテムなどを利用するために“メンバーシップ”という名目で,なんらかの課金が行われる見込み。街などは不特定多数のプレイヤーに共有されるが,ソロプレイもサポートするなど,厳密な意味ではMMORPGとは言えないかもしれない。だが,開発者の期待するように,ニッチなタイトルとして成功する可能性は十分にある。

 

 

Pirates of the Burning Sea

開発元:Flying Lab Software / 発売元:N/A / 発売予定日:6月

 

 初出が2003年1月と,ずいぶん開発に時間のかかっている「Pirates of the Burning Sea」は,もちろん“海賊”をテーマにしたMMORPGだ。Valveのオンライン配信サービス「Steam」を使っての配信やアップデートなどを予定しており,それがうまくいくのかどうか,多くの業界関係者に注目されている。
 18世紀のカリブ海を舞台にした歴史モノで,プレイヤーはイギリス,フランス,スペインの帝国に属する船長となるか,海賊としてプレイすることができる。ゲームは「Sid Meier's Pirates!」に非常に雰囲気が似ていて,あちらこちらの島を探索したり,NPCからミッションを受けることになる。仲間と共に大海原を駆け巡り,航海術や銃撃能力などのスキルを磨くのだ。
 もちろん,ゲームの最大の醍醐味は自分の船を改造し,ほかのプレイヤーとの激しい海戦を楽しむことだ。一つの船に何人ものプレイヤーが乗り込んで,NPCの輸送船団を襲い,略奪の限りを尽くしたりもできる。現在のところ,最大50人でのチーム対戦をサポートする予定で,6週間ごとに最も多くの港町を支配下に置いていた勢力を勝者とするシステムになりそうだ。

 

 


次回は,復活したあの男,について。どこの誰なのかはお楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。最近奥谷氏が購入したものの中で,最も得した気分になっているのがスチーム掃除機。アメリカの一般家庭と違い,奥谷家ではなるべく玄関先で靴を脱ぐようにしているが,それでもカーペットにしみついた積年の汚れは相当なもの。自慢のスチーム掃除機でリビングを3回掃除してみたが,いまだに真っ黒な水が吸い上げられてくるらしい。「こんなところでごろ寝していたのが信じられない」と語る奥谷氏だが,スチーム掃除機でせっせと掃除するより,カーペットを張り替えたほうがお得だったのではないか,というのは言わない約束だ。


連載記事一覧


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/kaito/115/kaito_115.shtml