[COMPUTEX 2005 #03]ゲーマーにとってAthlon 64 X2とは?
■「真のデュアルコアCPU」Athlon 64 X2が登場
発表会の模様を「こちら」でお伝えしたように,AMDからデュアルコアを採用するCPU「Athlon 64 X2」がリリースされた。1CPUパッケージに2個のCPUコアが内蔵されたAthlon 64 X2は,さすがに2倍というわけではないにしても,応分の性能向上が期待できる。 性能の向上が期待できるのは,大きく分けて二つの場面だ。一つは,2個(あるいはそれ以上の)CPUを利用できるようにプログラムされた,マルチスレッドタイプのアプリケーションを利用するとき。もう一つは,二つ以上のアプリケーションを同時に利用するときである。簡単にいえば,Hyper-Threadingテクノロジ対応Pentium 4やPentium Dで性能向上が期待できるアプリケーションなら,Athlon 64 X2でも同様に高性能が期待できる。エンドユーザーにとって身近な例としては「TMPGEnc 3.0 Express」などのエンコードソフトがあり,実際にAMDも,エンコード性能における大幅な性能向上をアピールしている。
ここでシステム総合性能を見る「PCMark04 Build130」(以下,PCMark04)で,Athlon 64 X2とAthlon 64を比較してみた結果がグラフ1だ。テスト環境は表1のとおりである。
Athlon 64 X2 4800+とAthlon 64 4000+はともに2.4GHzで動作し,L2キャッシュ容量も1MBと同じだ(表2)。基本的にはCPUコアのみが異なると考えていいが,総合スコアとなる「PCMark」の値,CPU性能を示す「CPU」の値を見ると,デュアルコアのAthlon 64 X2 4800+が,シングルコアのAthlon 64 4000+に大きな差をつけているのが分かる。PCMark04では,ファイル圧縮や暗号化,音声/動画エンコードなど,割と日常的に使われるアプリケーションに沿ったベンチマークが行われる。つまり,一般的なPCユースにおいて,Athlon 64 X2の優位性は明らかというわけだ。
■一般的なゲームユースでは力を発揮できないX2
では,当サイトの読者諸氏にとって最も重要な"アプリケーション"であるゲームならどうか。現在,ほとんどのゲームは先述したマルチスレッド対応ではなく,1個のCPUのみを利用するシングルスレッド処理に留まっている。この段階で,性能向上はあまり期待できないような気がするが,念のためベンチマークで確認してみよう。グラフ2〜4は順に「DOOM 3」「Unreal Tournament 2003 DEMO」の「Botmatch」(以下,UT2003 Botmatch)「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」(以下,FFXI)。UT2003では,Botmatchのほか「Flyby」というスコアも取れるが,こちらではビデオカードの性能がより強く表れてしまうので,今回は省略している。
結果は明白で,シングルコアとデュアルコアの間に差はほとんどない。それどころか,DOOM 3やUT2003 BotmatchではシングルコアAthlon 64 4000+のほうがわずかながらスコアが高い状態だ。理由はもちろん,現行のゲームアプリケーションがマルチスレッドに対応していないことにある。対応していないので,CPUの浮動小数点演算ユニット(FPU)は片方しか使われないというわけだ。したがって,ゲーム用途を第一に考えるのであればCPUにAthlon 64 X2という選択肢はない。 もっとも,これはAMDのCPUラインナップからも明らかだ。AMDは「ハイエンドゲーマー向け」と位置づけるAthlon 64 FXにおいて,デュアルコアモデルを用意していない。ハイエンドゲームユースでは依然として,シングルコアでクロックの高いAthlon 64 FXがその位置にあり続けるわけだ。実際問題として,Athlon 64 X2 4800+の予想実売価格は11万円前後と非常に高い。それでいて,ゲームにおいてはAthlon 64 4000+とパフォーマンスが変わらないのだから,これはやむを得ないだろう。とにかくゲーム用途で最高性能を求めるのであれば,Athlon 64 FXを購入すべきだ。
■「ながら系」プレイと複数アカウント操作に貢献?
ならば,ゲーマーはAthlon 64 X2をまったく視野に入れなくていいかというと,必ずしもそうではない。ここで,デュアルコアならではの活用法を検討してみたい。
Windows XPでは,デュアルCPUやデュアルコアといった形態に関係なく,2個のCPUがあって,片方のCPUの負荷が高いと,後から実行するアプリケーション(≒スレッド)は負荷がかかっていないほうのCPUへ自動的に割り振られる。そのため,たとえマルチスレッドに対応していないアプリケーションであっても,複数実行する場合は,デュアルコアCPUの存在意義が出てくるのだ。例えば,ウィンドウモードでゲームをプレイしながらWebサイトで情報を閲覧したり,別の作業を行いつつ,あまり操作の要らないゲームを立ち上げておくことはよくあるだろう。 これをシミュレートすべく,バックグラウンドでPCMark04を実行しながら「エバークエストII」のベータテスト版をプレイし,そのときのPCMark04の詳細スコアをチェックした結果がグラフ5だ。
さすがにエバークエストIIと同時に実行すればベンチマークのスコアは落ちる。そういう意味でAthlon 64 X2 4800+とAthlon 64 4000+に差はないが,下がり幅には大きな差が生じている点に注目してほしい。顕著なのはHTMLを解釈してWebブラウザが画面表示を行うときのパフォーマンスを計測する「Web Page Rendering」で,Athlon 64 4000+は約68%もスコアが低下しているのに対し,Athlon 64 X2 4800+は17%ほどで済んでいる。ゲームをしながらWebブラウジングを行うのであれば,Athlon 64 X2が高い性能を発揮するのである。 なお,描画性能を測る「Graphics Memory -64 lines」では,エバークエストIIが不正終了してしまった。さすがにビデオカードに多大な負荷がかかるアプリケーションの同時利用は,避けたほうがよさそうだ。
さらに,ウィンドウモードをサポートするMMORPGにおいては,二つのアカウントを持って同時に利用しているユーザーも少なくない。2クライアントを同時に起動した場合に,パフォーマンスは十分に得られるだろうか。 実際にエバークエストIIのベータアカウントを二つ用意し,Athlon 64 X2 4800+で同時に起動してみた。一つめのアカウントを動作させると,タスクマネージャーにおいて1個目のCPU(左側)の使用率が上昇する(画面1)。次に,二つめのアカウントを実行すると,2個目のCPU(右側)の使用率が上がり(画面2),一つめを終了させても右側の使用率は高いままである(画面3)。つまり,2個のアカウントで動作させたエバークエストIIは,それぞれのCPUに分散されて処理されており,従来のAthlon 64で同様の操作を行うよりも,CPUコアが多いぶんだけ動作は軽くなるのだ。
1600×1200ドットのディスプレイで1024×768ドットのゲーム画面を2個並べると重なる部分が生じるため,切り換え時に画面描画で若干もたついたが,Athlon 64 4000+のときと比べて確実に体感速度は上だ。今回は時間の都合で試していないが,ビデオカードを2枚差してデュアルディスプレイ環境を構築すれば,さらにストレスの少ない2アカウント操作を行えそうだ。 MMORPGのためにここまで環境を揃えるユーザーは少ないだろうが,Athlon 64 X2の可能性という意味では興味深い。最下位モデルでも6万円程度する現状を踏まえると,本誌読者には無用の長物といえるが,価格が下がってくれば,MMORPGや"ながらプレイ"向けとして,無視できない存在になるだろう。(宮崎真一)
画面左:画面1。1本めのエバークエストIIを起動してタスクマネージャを見たところ。1個めのCPUの負荷(左側)が上昇している
画面中:画面2。同じく2本めのエバークエストIIを起動して,2個めのCPUの負荷(右側)を見てみる。同じく上がっているのが分かる
画面右:画面3。1本めのエバークエストIIを終了させて,それぞれのCPUの負荷を見る。2個めのCPUには依然として負荷がかかったままだ
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Athlon 64 |
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