[CEDEC 2005#03]AGEIAがPhysXの実機デモ実施,発売時期も判明
AGEIA TechnologiesのThomas Lassanske氏
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CEDEC 2005 2日めには,AGEIA Technologiesのシニアフィールドアプリケーションエンジニア,Thomas Lassanske氏の講演が行われた。氏の講演は,ゲームにおける物理演算の現状説明からプログラムの実例まで多岐にわたる,非常に中身の濃いものだったが,本稿では,4Gamerとしてとくに注目すべき部分について紹介していきたい。
■シングルコアCPU搭載PCはローエンドになる!?
これまではゲーム用ハードのほとんどがシングルコアCPU仕様だったが,今後はPCもコンシューマ機もすべてがマルチコアCPUになる。これが何を意味するかといえば,シングルコアのCPUを搭載するPCは「Minimum spec target」――つまりローエンドになることだと,Lassanske氏は述べた。リアリティのあるゲーム体験を提供するという点において,マルチコア構成を採るXbox 360やプレイステーション 3に,シングルコアCPU搭載PCでは太刀打ちできないというわけだ。
講演の中で行われた物理演算のデモ。水の中から大量に発射される灰色岩が煉瓦に当たって跳ね返り,草を揺らす。同時に,赤い玉が中空から地面に落ち,爆発を起こして,草をなびかせ,灰色の岩を吹き飛ばす。すべて物理演算のたまものである
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なぜか。シングルコアCPUでは,ほかの処理を犠牲にしてまで,CPUに物理演算ばかりをさせるわけにはいかないからである。例えば,草が生えているシーンがあるとして,この草がアニメーションで横にただ揺れているのと,キャラクターがそこに分け入ると左右に倒れるのとでは,リアリティがまるで異なる。このとき「キャラクターが分け入ったから倒れる」処理を行うのが物理演算だが,シングルコアCPU世代のPCやコンシューマ機は,CPUリソースが限られているので,キャラクターが動こうがどうしようが草は取りあえずなびかせておいて,全体的な見栄えに注力するしかなかったのである。
Lassanske氏は,シングルコアCPU搭載PCが物理演算に利用できるリソースは10%から多くても15%と定義し,これだと,せいぜい敵キャラクターや車両,アイテムの物理演算がいいところと指摘する。だが,これがデュアルコアPCになると,1個めのコアは最大30%程度,2個めは100%を物理演算に利用できるようになるので,数百オブジェクトの物理演算,数千オブジェクトの追跡(物理演算が必要な局面になるかどうかの追跡)を行えるようになり,パーティクルや草木といったエフェクトの物理演算も可能になるとのこと。さらに,水が流れるような流体シミュレーションも限定的ながら行えるようになるとした。Xbox 360の論理CPUは6個だが,OSやDirectXの処理が必要なので,それほど物理演算のパフォーマンスは上がらない。 さらに,プレイステーション 3では,数千オブジェクトの物理演算,数万オブジェクトの追跡,そして制限なしのエフェクト物理演算と流体シミュレーションが可能になるとのことだ。
シングルコアCPU搭載PC(左上),デュアルコアCPU搭載PC(右上),Xbox 360&プレイステーション 3(左下)と,PhysX搭載PC(右下)で可能になる物理演算の比較
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つまりLassanske氏は,デュアルコアCPU搭載PCであっても,スペック面でプレイステーション 3の後塵を拝すると述べたことになる。なら,いよいよPCゲームもおしまいかといえば,ここで同氏は,「PhysX搭載PCなら,プレイステーション 3と同じレベルの物理演算が可能」として,PhysX搭載カードの実機を使ったデモを披露して見せたのだ。
■Pentium Extreme Editionで6fps→PhysXで40fps超!
今回,Lassanske氏が見せたのは,AGAIA Technologiesの物理シミュレーション用開発キット「AGEIA PhysX SDK」(旧称:Novodex SDK)を利用したデモスイート「Novodex Rocket 2.0.001」である。
同氏は,Pentium Extreme Edition 840/3.20GHz(以下Pentium XE)搭載のシステムを用いて,大量の岩が崖を転がり落ちてくるデモを実行した。Pentium XEでは,4個の論理CPUのうち,1個がレンダリングに用いられ,残る3個は物理演算に用いられているとのことだが,このときのフレームレートは5〜7fpsで,画面は完全にコマ送り状態。しかもCPUはかなりビジーな状態だ。 それが,「物理演算をPhysXに任せてみよう」と,Lassanske氏が設定を変更すると,フレームレートは一気に35〜40fpsへ跳ね上がった。岩の転がりはもちろん滑らか。しかも,タスクマネージャから見えるCPUの使用率は一気に下がっているのが分かる。本当にプレイステーション 3と同レベルなのか,また,このデモがどこまで実際のゲームとリンクしているのかはともかくとして,インパクトは大したものといえよう。
左:Pentium XEを利用してデモを行っている様子。4スレッドがビジーになると,200人は入ろうかという大学の講義室いっぱいに,CPUクーラーの強烈なファン音が響いた。「大変なようだね(笑)」とLassanske氏がつぶやくと,会場からはどっと笑いが
右:こちらは同じシーンをPhysXから実行しているところ。タスクマネージャから確認すると,各グラフで右から3マスめより左が高く見えるが,これは直前の状態が表示されているため
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また,クルマに対して流体シミュレーション処理を行うデモも行われたた。こちらはCPU処理との比較こそなかったものの,滑らかに処理されており,PhysXのメリットとしては分かりやすい例だったといえるだろう。
こういった物理演算専用プロセッサPhysXのメリットは,シングルコアCPU搭載PCでも享受できるとのこと。この場合,CPUとPhysXが,デュアルコア"的"に動作することになる。専用の物理演算プロセッサが"2コアめ"として働いて,物理演算から解放さえされてしまえば,ゲームをプレイするうえでシングルコアCPUのペナルティはないようだ。
ちなみに,2005年8月現在,physicstools.orgの「こちら」からダウンロードできる「Novodex Rocket 2.0.001」のα版には,(時間の都合もあり,すべてチェックしたわけではないが)今回の2デモは含まれていない模様。これについては,今後の展開を待ちたい。
■12月発売,価格は250〜300ドルに 講演終了後,Lassanske氏と話ができたので,最も気になる発売時期と価格について聞いてみたところ,デモ用のPCを片付けながら「クリスマスシーズンになる。12月だね。カードの価格は250〜300ドル」と答えてくれた。この時期にクリスマスシーズンと予告する以上,よほどのことがなければこれで決まりなのではないだろうか。期待していた人にとっては,以前お伝えした予想価格より高くなりそうなのが残念なところだが,今回のデモを見る限り,少なくとも性能面はかなり期待してよさそうだ。(佐々山薫郁)
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