[E3 2006#191]業界人必見? NCsoft CEO TJ Kim氏特別インタビュー:NCsoftのワールドワイド展開と,コミュニティ強化への意欲
E3 2005では「今後のオンラインゲーム市場は,コアなMMORPGとカジュアルゲームに二分される」と語っていた,NCsoft CEOのTJ Kim(Kim, Tack Jin)氏。現在のオンラインゲーム市場はまさに二極化しているが,そんな状況の中,氏はどのようなビジョンを持ち,NCsoftの舵取りを行っているのだろうか。E3 2006の雑感や,次期主力MMORPG「Aion」,NCsoftの今後の展開などについて聞いてみたところ,単に作品の話にとどまらない,実に興味深い話を聞くことができた。ゲームそのものだけでなく,オンラインゲーム市場の現在と未来に興味がある人は,ぜひ目を通してみてほしい。
■NCsoft CEOが語る,E3 2006の雑感
NCsoft CEOのKim, Tack Jin氏
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4Gamer: 毎回毎回,お忙しいところ時間を割いていただいて恐縮です。本日はよろしくお願いします。って毎年言ってますね,このセリフ。
Kim, Tack Jin氏(以下TJ Kim): こちらこそ,よろしくお願いします(笑)。
4Gamer: 今日までの時点(編注:5月11日)で会場を眺めてみて,E3 2006の印象はどうですか?
TJ Kim: まだ全部を見て回っているわけではないのですが,周囲の人の関心は,任天堂とソニーの新ハードに集中しているようですね。個人的には,プレイステーション3のコントローラからバイブレーション機能が省かれた点が残念です。
4Gamer: ちょっと意外な個人見解ですね(笑)。でも確かにバイブレーション機能は,うまく活用すれば面白い演出ができるから,もったいないといえばもったいないですよねぇ。 ショーとしての見どころがコンシューマに集中している点は同感です。ご存じのように4Gamerは,PCゲーム/オンラインゲーム情報をメインコンテンツとするメディアなので,今年はちょっと寂しいのかなぁと思いつつ,会場を回っています。
TJ Kim: E3 2005に出展された大作PCゲームがおおむねリリースされてしまっているから,PCゲームに関しては,今年は充電の年なのかもしれませんね。
4Gamer: そういえばNCsoftのブースは,昨年/一昨年のような,とんでもなく大規模なブース展開はしていないんですね。
TJ Kim: 昨年,一昨年のブーススペースは正方形だったので広々と使えたのですが,今年は長方形型のスペースになってしまい,空間の有効利用が難しかったですね。いろいろ悩んだのですが,今回念頭に置いたのは,ブースに入った人が,効率よくすべての出展内容を見られるようなブース設計でした。
4Gamer: あ,なるほど。それで去年までとは雰囲気が違って見えたんですね。去年までは,ブース全体の面積は広いけれど,出展内容ごとに小分けにされているというか,きっちり分断されている印象がありました。
TJ Kim: そうですね。こういったショーでは,常に希望通りのスペースが取れるわけではないので,その時その時でベターなブース展開を心がけています。
例年よりも地味なブース展開とはいえ,その出展内容や装飾はかなりのもの。ステージイベントも定期的に行われ,実に賑やかなブースであった
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■PlayNCの次なる展開は,なんとユーザーレベルでのデベロップメントキット公開
4Gamer: E3 2005でお会いしたとき,あなたは「これからのオンラインゲーム市場は,コアなMMORPG市場と,カジュアルゲーム市場に二分化されるだろう」とコメントしていましたが,今のオンラインゲーム市場を見ると,そのとおりの状況になってきているといえるでしょう。今後も,この状況は続いていくと考えていますか?
TJ Kim: 市場規模としては,MMORPG市場もカジュアルゲーム市場も,今後さらに発展していくと考えています。しかしカジュアルゲームについては,例えばWebを中心とした,コミュニティ重視のスタイルが強調されていき,MMORPGのほうは,よりネットワーク技術/グラフィックスの水準が高まり,NextGenerationと呼ばれるコンシューマ機にも対応できるタイトルが浮上してくるでしょう。
4Gamer: 二分化は今後もしばらく維持され,それぞれの特色がより強く表れてくるということですね。
TJ Kim: ええ。とくにカジュアルゲームについては,ユーザーを招き入れるための公式サイトを,より楽しく見せる方向に進んでいくと思います。
4Gamer: それは,サイト自体を楽しくするということですか?
TJ Kim: そのとおりです。公式サイト自体が,カジュアルゲームの一コンテンツとして成立するような感覚ですね。 ところでカジュアルゲームといえば,弊社でもPlayNCというゲームポータルを運営していますが,「Play and See」という意味も込めてるんですよ。
4Gamer: お,そうだったんですね。そのPlayNCの調子はどうですか?
TJ Kim: 現在PlayNCでは,コミュニティソリューションを導入する作業を内部で進めています。来年のE3では,コミュニティに対してのさらなるファンクションを公開できると思いますよ。 今後の展開としては,PlayNCでゲームデベロップメントツールを提供し,誰でもゲームを作成/公開できるような環境を構築していく予定です。
4Gamer: え? ……それは,ユーザーレベルでのオープンプラットフォーム構想なんですか?
TJ Kim: はい。ユーザーレベルで提供できるはずです。現在開発中のソリューションは,JAVAベースのデベロップメント環境ですが,それは来年には公開できると思いますよ。
4Gamer: Devツールと聞いた瞬間,当然サードパーティ向けのデベロップメントキットを想像したのですが,いきなりユーザーレベルまで一気に行ってしまうわけですか。それが実現すれば,コミュニティだけでなく,業界に与えるインパクトも大きいですね。うーん,またもや一歩先の展開ですね。
TJ Kim: 期待に応えられるよう,頑張ります(笑)。
■「MMORPGのNCsoft」が打つ次の一手とは?
NCsoftの次期主力MMORPG「Aion」。“Interaction”を主要キーワードとし,プレイヤーとゲーム世界の有機的結合を目指す。CryENGINEによる美麗なグラフィックスにも注目したいところ
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4Gamer: ではいったんそれは置いておいて,続いて一方のMMORPG市場についての話も聞かせてください。 「リネージュ」や「ウルティマオンライン」で開花したMMORPG市場は,現在「第3世代」のタイトルが主流となっていると考えています。しかし,その第3世代は「World of Warcraft」の一人勝ちともいえる状況ですよね。あなたから見て,WoWにはどのような凄みがありますか?
TJ Kim: ……うーん,難しいですね。WoWについては,解説力が高い作品だと考えています。
4Gamer: 解説力,ですか。
TJ Kim: はい。WoWは「EverQuest」をベースに,MMORPGというジャンルを完成させたタイトルだと思っています。しかしEQのように,ゲームシーンに何か新しいインパクトのあるものを提示したかという点については,甚だしく疑問が残ります。
4Gamer: その点に関しては,私もまったく同意見です。
TJ Kim: 非常に斬新で魅力的なEQというタイトルは,一般ゲーマーにはそれほどアピールできませんでした。しかしWoWは,EQが表現し切れなかったMMORPGの魅力を,うまく説明できた,アピールできたという点が,成功に結びついている。そういう意味で「解説力」という言葉を用いました。
4Gamer: なるほど。すごく納得できます。WoWは掛け値なしにすごい作品ですが,新しい何かを提示したわけではないですし,それゆえにゲーム開発者達に与えた影響も大きくはないですよね。まぁ業界に与えた影響は史上最大の規模ですが(笑)。 そうであるにもかかわらず,あれだけのユーザー数を抱えこんでいるところが,WoWの凄いところというか,厄介なところというか。
TJ Kim: まったく,いろんな意味で厄介なタイトルですよね(笑)。
4Gamer: 欧米,中国,韓国などで多くのプレイヤーを擁しているWoWですが,明らかに好みが異なるであろう複数のリージョンで,あれだけ人気を集められるというのは本当に凄いですよね。やはりMMORPGというのは,中心に一本しっかりとした魅力が存在し,それがぶれなければ,ワールドワイドでも成功できるという証明の一つなのではないかと思います。
TJ Kim: ワールドワイドな市場で成功するための基準は,やはり「楽しさ」でしょうね。楽しさ,というのは,コアゲーマーにとっての楽しみではなく,一般ユーザーでも味わえるレベルでの楽しさです。WoWは,その楽しさの基準をきちんと確立している作品だと認識しています。
4Gamer: なるほど。今回,御社の次世代MMORPGとして「Aion」が発表されましたが,それもWoWのような「楽しさ」を意識して制作していますか? E3で大々的に発表したということは北米市場を,そしてもちろんNCsoftのことだから,日本をも意識してのことだと思うのですが。
TJ Kim: 先ほど話題にのぼった「楽しさ」については,Aionにも当然盛り込んでいるつもりです。
4Gamer: Aionは,リネージュシリーズに並ぶ,NCsoftの二本柱として成長すべきタイトルだと考えていいのでしょうか。
TJ Kim: リネージュの場合,個人的には「半分」の成功だと考えています。ヨーロッパやアメリカでもそれなりの成功を収めているシリーズですが,アジアでの成功に比べると,やや小規模な水準です。Aionに関しては,ワールドワイドでの成功を前提に開発を進めていますよ。
4Gamer: 同様にワールドワイドでの成功を目指していたであろう「AutoAssault」が,現在ちょっと苦戦していますよね。
TJ Kim: AutoAssaultの場合,商業的にはまだ成功しているとはいえませんが,ゲーム雑誌などでは,比較的高い評価を得ています。まぁ,メディアの評価とプレイヤーの評価は違うんですかね。って,こんなことを4Gamerさんに言うのも気が引けますが(笑)。
左:「ウルティマオンライン」。MMORPGの歴史は,事実上このタイトルのリリースをもってスタートした 中央:発展途上だったMMORPGというジャンルを,試行錯誤しつつ完成させた「EverQuest」 右:日本ではやや知名度の低い「World of Warcraft」だが,世界最多プレイヤー数を誇る,MMORPG界の怪物だ
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4Gamer: NCはずいぶん欧米マーケットに進出していますが,欧米のオンラインゲーム市場について,どのような考えを持っていますか?
TJ Kim: まずヨーロッパとアメリカの市場を比較すると,オンラインゲーム市場ではヨーロッパのほうが大規模ですね。「Guild Wars」も,アメリカよりはヨーロッパのほうが売り上げが高いです。
4Gamer: 売り上げの面では,やはりドイツがトップですか?
TJ Kim: イギリスやフランスも結構いいですよ。あと北欧なども。でもドイツがトップクラスに入っていることは確かです。
4Gamer: 先日日本の某メーカーさんの人と同じような話をしたのですが,彼もヨーロッパ市場が今後注目の市場だと言ってましたよ。上に登っていくと,目指すところが似てくるんですかね。
TJ Kim: 弊社もその会社も,当初はアメリカ市場に注力しすぎて,あとになってヨーロッパ市場の重要性に気づいたところがあるかもしれませんね。ある意味,考え方が似ているというより,痛い目を見た状況が同じなんじゃないかという気がします(笑)。
4Gamer: なるほど(笑)。ところで,ワールドワイド展開にあたって,コミュニティの問題についてはどう考えていますか? いくつものリージョンにまたがって同一作品をサービスするときに重要なのは,コミュニティの展開だと思うのですが。
TJ Kim: 地域別にコミュニティソリューションを導入する企画を立てていて,来年からその企画が実行できるように作業を進めています。 今の戦略としては,まずシングルサインオンの導入が急務です。PlayNC上で導入しているアカウント統合をさらに突き詰めて,オリジナルのメッセンジャーを提供する予定です。メッセンジャーはテキストチャットだけでなく,ボイスチャットにも対応させます。
4Gamer: おや,VCまで。ボイスチャットは,PlayNC対応のゲームならばそのまま利用できる仕様ですか?
TJ Kim: そうです。今「Exteel」では,同じパーティになると自動的にボイスチャットが可能になるのですが,今後は別のゲームをプレイしていても,友人登録さえ済ませていれば,ボイスチャットが可能になるというわけです。
4Gamer: ん……メッセンジャーときてボイスチャットときて……ということは,もしかしてIPフォンなども関連してきますか?
TJ Kim: ご名答ですね(笑),その予定です。PlayNCのユーザーなら,無料のIPフォンが使えるようになるという認識で結構です。ほかにも,現在PlayNCでブログを提供していますが,さらに高機能な検索機能の導入や,ファンサイトをサポートする機能の構想もあります。
4Gamer: コミュニティの抱え込みは各社当たり前に考えることですが,そのレベルにまで広げて始めるとは思いませんでした。ちなみに先ほど話に出たデベロップメントキットに,IPフォンやボイスチャットなどのモジュールも含まれるということですか?
TJ Kim: そうです。そこまで含めて,ユーザーの皆さんに公開する計画です。
4Gamer: かなりのものなんですね……。それは,サードパーティがビジネスで参入することもアリなんですか?
TJ Kim: うーん,これはあくまでPlayNCユーザーに提供されるインターネットサービスの一環なので,ビジネスとは切り離して考えています。とはいえ,サードパーティがデベロップメントキットを利用して制作したタイトルを,PlayNC上でサービスするという展開は,十分に考えられますけどね。
4Gamer: 裾野を広げて,コンシューマへの進出については,どう考えていますか? 去年も聞きましたけど,これ。
TJ Kim: 1年で私もちょっと考え方が変わりましたよ(笑)。現在,コンシューマゲームの市場は,どの機種を選んだとしても,広い意味での「ローカルプラットフォーム」になってしまっているのではないかと考えています。例えばプレイステーション2の場合,タイトルが出れば日本でもかなり売れて,ヨーロッパ/アメリカでもそれなりの売り上げが見込めました。しかし次世代機が出揃った現在,技術的には向上していますが,市場的には若干後退しています。 今回のE3でも複数の次世代コンシューマ機が出展されていますが,私にとってはそのいずれもが,プレイステーション2のようにワールドワイドな市場で通用するものになるとは思えません。コンシューママーケットはすでに,グローバルパワーを失いつつあると考えています。
4Gamer: なるほど。面白い視点ですね。
TJ Kim: NCsoftとしては,アメリカではコンシューマ企画をいくつか立案しているし,日本でも戦略を立てつつあります。しかし我々にとって唯一のグローバルプラットフォームは「PC」であり,コンシューマ機はそれぞれのリージョンに応じたローカルルールの中での解決策だと考えています。
4Gamer: 次世代コンシューマ機は,オンラインに「対応」はしていても,オンラインゲームを快適に遊べるハードウェアであるとは,まだまだいえないですしね。オンラインゲームメーカーたるNCsoftにとっては確かにそうなのかもしれません。 しかし先ほどのIPフォンやメッセンジャーの話もあるし,携帯ゲーム機向けのゲームはどうですかね?
TJ Kim: NDSとか興味はありますよ。しかし携帯ゲーム機は,NCsoftの得意分野からはちょっと離れているんですよね。例えばPCやコンシューマでは,ある程度長い期間プレイできる,完成度が高いゲームが必要です。一方携帯ゲーム機では,1か月や2か月で消費されるような,気軽なタイトルが好まれます。
4Gamer: NCsoftが得意とするのは,明らかに前者ですね。
TJ Kim: はい。そういう意味で,現在の弊社では携帯ゲーム機に対応しづらいと考えています。とはいえ,先ほどお話したデベロップメントキットはJAVAベースなので,JAVA対応の携帯端末を利用して,何か面白いことができるかもしれませんね。
4Gamer: JAVAは汎用性が広いから,いろいろな展開が考えられそうですね。……そろそろ時間ですね。興味深いお話をありがとうございました。次は,できたらドイツのGCでお会いしましょう。
TJ Kim: ええ,ぜひライプチヒで(笑)。
相手はNCsoftのCEO TJ Kim氏である。当然,タイトルに寄らない興味深い話が聞けるものだとは予想していたが,まさかこれほどまでに大きな話が聞けるとは思ってもみなかった。 リネージュシリーズを初めとするMMORPGで基盤を固め,PlayNCというアイデアでカジュアルゲームに打って出たNCsoftだが,今後はその二本柱をより強固なものにしつつ,ワールドワイド展開とコミュニティの強化にさらなるリソースを注ぎ込むという。来年には発表できるという「ユーザーレベルの」デベロップメントキットの存在も,「実に楽しみだ」の一言ではまとめきれないインパクトがある。 E3 2006の出展内容を見て,「新作」と呼べるのはAionだけだったし「今年のNCsoftはちょっと元気がないかな」と不安になってみたわけだが,これはまさに,嵐の前の静けさなのかもしれない。(Kazuhisa/大路政志)
今回プレイアブル出展された「Aion」(左)や,すでに韓国でサービス中の「Exteel」(中央),映像出展のみとなった「Soccer fury」(右)などなど,NCsoftのコンテンツは多種多様だ(SNKプレイモアの「The King of Fighters Neo Wave」のPC版もリリースされるとの話もある)。近い将来,それらすべてが,よりコミュニティ機能の向上した「PlayNC」を通じて遊べる日も近いだろう
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Aion: The Tower of Eternity |
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Aion The Tower Of Eternity is a trademark of NCsoft Corporation. 2006(C)Copyright NCsoft Corporation.
NC Interactive Inc. was granted by NCsoft Corporation the right to publish, distribute, and trademark Aion The Tower Of Eternity in the United States of America and Canada.All Rights Reserved. |
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PlayNC |
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PLAYNC IS A TRADEMARK OF NCSOFT CORPORATION. 2005 (c) COPYRIGHT NCSOFT CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. |
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