»
2007年9月1日に国内販売が始まる予定となっている,ASUSTeK初のサウンドカード「Xonar D2」。Windows Vista環境でもサラウンドサウンド出力を簡単に行えるため,Vista世代のゲーマーにとっては貴重な選択肢となる可能性を秘めているが,果たしてその実力は? Windows XP&Vistaで横断的に検証し,さらに音質もチェックしてみよう。
|
Xonar D2
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp
予想実売価格:2万1000円前後(2007年8月31日現在) |
2007年6月のCOMPUTEX TAIPEI 2007で電撃的に発表された,ASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)初のサウンドカード製品「Xonar」(ソナー)。ゲーマーを含む,高音質を求めるすべての人に向けて,PCIインタフェース対応の「Xonar D2」とPCI Express x1インタフェース対応の「Xonar D2X」が用意されるという意欲的なラインナップが話題を集めたので,記憶に残っている人も少なくないだろう。
今回4Gamerでは,そんなXonarのPCIインタフェース版で,2007年9月1日の発売が予定されている「Xonar D2」の製品版サンプルをASUSTeKから借用できた。そこでさっそく,ゲームにおいてどれだけ期待できそうなのかをチェックしてみたい。
|
|
Xonar D2を別の角度から。ゲーム用途では最近ほとんど使い途のない内部サウンドケーブル用端子が用意されているあたりから,さまざまな用途の想定されていることが窺える |
「Oxygen HD CMI 8788」をベースに拡張された
「AV200」サウンドチップだが……ほぼ同じもの?
|
AV200サウンドチップと,それを囲むように配置されたBurr-Brown製D/Aコンバータ,PCM1796×4 |
Xonar D2(やPCI Express x1版の「Xonar D2X」)が搭載するサウンドチップは,ASUSTeKオリジナルの「AV200」だ。COMPUTEX TAIPEI 2007のレポート記事にあるとおり,これはC-Media Electronics製サウンドチップ「Oxygen HD CMI 8788」(以下CMI 8788)をベースに,拡張が行われたものとされている。
CMI 8788は,ゲームなどのサウンドを「Dolby Digital Live」や「DTS Interactive」に準拠したストリームデータへとリアルタイムエンコードしてデジタル出力できることと,「Dolby Headphone」や「Dolby Pro Logic II」「Dolby Virtual Speaker」といったサラウンドサウンド機能&バーチャルサラウンドサウンド機能を利用可能なことが特徴。実際には,CMI 8788がこれらを100%ハードウェア処理するのではなく,大部分をCPUによるソフトウェア処理で行うため,どうしてもCPU負荷は高めになる。(※ここで取り上げた各種サラウンド技術については2007年2月14日の記事が詳しいので,興味のある人は参照してほしい)
|
デバイスマネージャを確認すると,CMI 8788という文字が読み取れる |
この点AV200では,リアルタイムエンコード処理をサウンドチップ側で行うため,CPU負荷が大幅に下がるとされている……のだが,Windowsのコントロールパネルから確認する限り,デバイスIDは「8788」で,ハードウェアエンコーダを内蔵しているようには見えない。実際のパフォーマンスは後ほど計測するが,AV200とCMI 8788の間に,劇的な違いはないと見ておいたほうがよさそうだ。
なお,PCケース内に存在するノイズの影響を受けにくくするというシールドカバーを取り外すと,このほかにもいろいろ分かってくる。
|
|
シールドカバーを外すと,LEDの埋め込まれた“発光ユニット”の取り付けられたカードが姿を見せる。さらに発光ユニットも取り外すと,カードの全貌が見えてきた |
|
カード直づけとなるJRC 2114×2。写真右下に2個並んでいる |
アナログ出力の要となるD/Aコンバータは,24bit/192kHz対応となるBurr-Brown製の2chモデル「PCM1796」×4。一般のオーディオ機器に採用されているチップを4個搭載して,アナログ7.1ch出力を可能にしているわけだ。
D/Aコンバータの先には日本無線製OPAMP(オペアンプ)「JRC 2114」が接続されている。さらにその先には,白いプラスチック外装の積層フィルムコンデンサが立ち並ぶブロックがすぐ近くに二つ,少し離れたところに二つの計四つあるのを確認できるが,これはASUSTeKいわくローパスフィルタ(LPF)で,「(※筆者注:低音域の)出力をよりクリアにするためのもの」だそうだ。
|
|
ローパスフィルタとして機能する四つのブロックの先に,NEC製のリレー回路があり,外部インタフェースへとつながっていく |
興味深いのはアナログ入力段だ。A/Dコンバータは定番ともいえるCirrus Logic製「CS5381」だが,同チップとAV200の間に,「A/Dコンバータへ入力をコントロールするためだけに使っている」(ASUSTeK)というAC’97 CODEC「DJ100」が挟まっている点は,指摘しておく必要があるだろう。
|
|
左は入力段。DJ100はAC’97 CODECで,マイクやCD,ライン入力などアナログの入力セレクターとして機能しているという。右は外部インタフェースだ。アナログ7.1chはすべてステレオミニピン仕様。S/PDIF入出力は同軸対応だが,付属の変換コネクタにより光接続も行える |
洗練され,使いやすいコントロールパネル
ゲームに最適なモードも直感的に選択可能
|
Xonar D2 Audio Center |
ドライバ周りについてもチェックしていこう。結論からいうと,「Xonar D2 Audio Center」と名付けられたコントロールパネルは非常に洗練されている。カーオーディオの2DINユニットをモチーフにしたようなデザインで,かなりの部分で直感的な操作が可能だ。Windows XP/Vistaで操作感覚は変わらず,Windows Vista環境でも,簡単にゲームのサラウンドサウンド,あるいはバーチャルサラウンドサウンド設定を行える。
|
|
メニューボタンを押すと,表示パネルが跳ね上がり,細かい設定画面が現れる。このあたりはマザーボードの各種ユーティリティを作り慣れているASUSTeKならではだろう。メニュー中,必要な部分が日本語化されている――しかも半角カナではない――のもいい |
|
|
アナログ/デジタル出力は,「Main」タブの「SPDIF出力」チェックのオフ/オンで切り替えられる。その後,ボリュームの下にある「DSP Mode」からゲームモード(※コントローラのアイコン)を選ぶと,ゲームに最適なDSPの組み合わせを行ってくれる。手動設定も行えるが,DSP Modeのプリセットが一番しっくりくるように感じられた |
CMI 8788搭載カード,X-Fi&オンボードサウンドと比較
パフォーマンスはまずまず妥当も改善の余地あり
概要が掴めたところで,テストに入りきたいと思うが,比較対象としては,Xonar D2と同じく,CMI 8788ベースのサウンドチップを搭載したRazer製カード「Razer Barracuda AC-1 Gaming Audio Card」(以下AC-1),そして定番の「Sound Blaster X-Fi」から「Digital Audio」(以下X-Fi DA)を用意した。3製品の主な違いは表1のとおりだ。
詳細なテスト環境は表2のとおり。2007年夏の時点における4Gamerのリファレンスマザーボード,「P5B Deluxe」に用意されるHigh Definition Audio CODEC「AD1998」(以下ブランド名であるSoundMaxと表記)でもテストを行うことにする。
このほか,本稿で採用したいくつかの規定を以下のとおりまとめておきたい。
- テストには,同時発音数ごとにCPU負荷をチェックできる「RightMark 3DSound 2.3」と,4Gamerのベンチマークレギュレーション4.1で採用されるゲームのうち,テスト中にサウンド出力を伴う3タイトルを用いる。ゲームテストは,描画負荷を最小限に抑えるべく,「標準設定」でのみ行う
- GPUやOSの違いがサウンドカードのパフォーマンスにどう影響するかを見るため,GPU 2種類(GeForce 7600 GT&GeForce 8800 GTX)OS 2種類(Windows XP&Windows Vista)を用意した。Windows Vista環境のテスト時に,「Creative ALchemy」は導入していない
- Windows側のスピーカー設定は2スピーカーモードに固定。Xonar D2とAC-1については,アナログ出力でエフェクトやDSP機能など一切を無効にしたデフォルト状態(グラフ中ではanalogと表記),そしてデジタル出力を選択して,Dolby Digital LiveとDolby Pro Logic IIxを有効にした,最も負荷の高い状態(同digital DDL+PLIIxと表記)でも検証する。Dolby Digital Liveエンコードを行えないX-Fi DAとSoundMaxはアナログ出力のみ
- グラフ中,スペースの都合でXonar D2を「Xonar」と略記し,「Windows」「GeForce」は省略する
では早速,ベンチマークの結果を見ていこう。
グラフ1は,「RightMark 3DSound 2.3」で,DirectSound 3D出力を行ったときのCPU負荷をチェックしたものだ。多くのゲームで最大発音数が32あるいは64音ということを考えると,アナログ出力時の高くても3%程度という負荷は問題にならないと思われるが,同じCMI 8788ベースのAC-1と比べると,Xonar D2のスコアは若干高めか。
Dolby Digital LiveとDolby Pro Logic IIxを有効にしてデジタル出力すると127音で大きく上がるうえ,スコアが安定していないのも少々気になるが,あくまでこのグラフはざっとした傾向を見るものに過ぎない。ゲームでのテストに移ろう。
まずは「Half-Life 2: Episode One」から。Xonar D2のスコアは,グラフィックスカードやOSの違いとは関係なく,全体的に低めとなっている(グラフ2〜4)。Dolby Digital LiveとDolby Pro Logic IIxのCPU負荷は,むしろハイエンドな環境のほうがスコアに反映されやすいが,ハイエンド環境では無視できるレベルであることも見て取れる。
また,この結果から判断するに,AV200がDolby Digital Live(やDTS Interactive)準拠のストリームエンコードをハードウェアで処理している可能性は限りなくゼロに近いだろう。
続いてグラフ5〜7は「Company of Heroes」のスコアだが,ここではWindows XP+GeForce 7600 GTの組み合わせにおいて,Dolby Digital LiveとDolby Pro Logic IIxを適用したXonar D2のスコアが大きく落ち込んでいる。今回試したドライバでは,PCのパフォーマンス的に余裕のない状態でのストリームエンコード処理をCPUに振り分けるあたりがうまくいっていない可能性がありそうだ。なお,アナログ出力だと,AC-1やX-Fi DAとXonar D2との間に差はほとんどない。
最後にレースシムの「GTR 2 - FIA GT Racing Game」である。GeForce 8800 GTXにとって「標準設定」は軽すぎるため,GeForce 8800 GTXでテストするとCPUボトルネックが生じてスコアが少々荒れてしまうのだが,解像度による違いを無視して,Dolby Digital Live+Dolby Pro Logic IIxのCPU負荷だけ見てみると,Xonar D2とAC-1の間に差はほとんどない。同じような落ち込み方をしており,同じようにCPUを使っているといえるだろう。
ところで,Windows Vistaでのテストにおいては,スコアがWindows XPでのテスト時と比べて約40%も落ち込んでしまった。ゲームによってはWindows Vistaで大きくパフォーマンスを損なう場合があるわけで,過去のゲーム資産を動かすプラットフォームとしてのWindows Vistaには,やはりまだ不安が残る。
ゲームスコア全体についてまとめると,Xonar D2にはドライバ最適化の余地が残されている一方,パフォーマンス的にはAC-1と似たところに落ち着いている。発売直前というタイミングを考えると,及第点といったところだろうか。ここからの改善に期待したい。
アナログ出力品質はまずまず良好
若干のクセがあるのはローパスフィルタの影響?
ここ数年の間にサウンドカードのS/N比(ノイズレベル)は劇的に向上してきている。Sound Blaster X-Fiが登場したころは109dBといった数字が注目されたが,いまや1万〜3万円程度の製品だと,110dB超えは当たり前になりつつある状況だ。Xonar D2も118dBを謳っており,クリアなサウンド出力を期待してしまう。
|
付属品一覧。ミニピン×1−RCA×2のアナログ出力ケーブルが4本付属する一方,ミニピン−ミニピンタイプが付属しないのは潔い。必ずしもゲーマー専用というわけではないため,MIDI関連のデバイスも同梱する |
そこで今回は音質についても,試聴印象だけでなく,テストによるチェックを行ってみたい。
サウンドテストはどうしても専門的な話になるので,最初に簡単な説明を行っておくと,要するにここでは“いい音度”を数値化しようというわけである。より具体的に述べると,サウンドに含まれるノイズの量を示す「ノイズレベル」と,音の幅広さを示す「ダイナミックレンジ」についてチェックする。
ノイズレベルは低いほどよく,ダイナミックレンジは高いほどいい。単位はdBで,市販のオーディオ機器であれば,ノイズレベル-90dB以下,ダイナミックレンジ90dB以上が合格点といえる。
以下,少々難しくなる(ので,テスト結果をすぐ見たい人は読み飛ばしてもらって構わない)が,詳細なテスト環境も記しておこう。
計測に当たって,再生側のOSはWindows Vistaを使用。サウンドカード単体で入出力を検証する「ループバック」と,サウンドカードの出力を別のPCに入力する「プレイバックテスト」の二つを行うことにした。前者は,入出力のバランスやカードの設計を見るのに適しており,後者は実際の試聴印象に近いデータを得やすい。
いずれのテストにおいても信号は24bit/48kHzで統一。ループバックテストでは,短いミニピンケーブルでサウンドカードの出力−入力をつないで,再生→録音を行う。プレイバックテストではサウンドカードからの出力を,別途用意したWindows XPベースのPCに接続されているIEEE 1394接続のAvid Technology(M-Audio)製外付けサウンドデバイス「FireWire 410」に入力し,入力されたものを録音するという流れだ。
出力には1kHz/0dBで出力できるフリーソフトウェアの「WaveGene for Windows 1.31」(以下WG)を利用し,WGから出力した24bit/48kHzの信号が持つノイズレベルとダイナミックレンジを,音質評価用のベンチマークソフト「RightMark Audio Analyzer 6.0.5」(以下RMAA)を使って検証する。RMAAの公式サイトにあるXonar D2のテストガイドに従い,出力フォーマットはDirectSoundを採用。キャリブレーションに当たっては,「Windows Vistaのサウンドミキサーから出力を最大に調整し,並行して入力レベルを調整。最終的にRMAAのレベルメーターで-1.0dBになるようにした。
|
ALT Technologyを有効に利用するため,“録音ユーティリティソフト”「ASUS PMP」がXonar D2には付属している。著作権保護されたファイルの再生,レベル調整,録音,再圧縮といった一連の作業を簡単に行えるのでなかなか便利 |
なお,ここまであえて触れていなかったが,Xonar D2には「ALT Technology」(ALT:Analog Loop Transformation)という技術が実装されている。これは,アナログ出力した音を,ケーブルなしでループバックして録音するもので,要するに「著作権保護されたサウンドデータを“一瞬だけ”アナログ出力することで法的な問題をクリア。直後,カード上でループバック録音することで,音質の劣化を最小限に留めつつ,著作権保護フリーのサウンドデータに変換する」ものだ。ゲーム用途ではほとんど意味がないと思われるが,この機能が気になっている人もいると思うので,Xonar D2のループバックでは,外部ケーブルを利用したテストのほか,ALT Technologyを使ったテスト(グラフ中はALTと表記)も行った。
また,SoundMaxはループバックテストにて-1.0dBに届かなかったため,プレイバックテストのみを行っている。
というわけで,ノイズレベルのテスト結果(グラフ11)とダイナミックレンジのテスト結果(グラフ12)を見ていくと,ループバックテストはいずれも合格点をクリアしている。とくにXonar D2とAC-1は優秀で,Xonar D2の場合,ALTの効果にも期待が持てそうだ。
プレイバックテストになると,ノイズレベルが一気に20dBほど上がってしまい,いきおいダイナミックレンジにも影響が出ているが,それでもXonarはプレイバックテストで(今回テストした製品では)唯一90dBを上回っている。
ただ,実際に音を聴いてみると,ローパスフィルタの影響なのか,少々クセがあるようにも感じられた。Xonar D2は中低域のアタック音などに優れ,ビートの利いたロックやポップスに向いている印象を受けるのだが,一方で高域の透明感はX-Fi DAに一歩譲る。アカペラやピアノソロといった楽曲には向いていないとも換言できるだろう。迫力あるゲームサウンドを楽しむという意味では完全に合格点である一方,アナログ出力で音楽を楽しもうと思うと,この音傾向が気になる可能性もある。どうしても気になる場合は,デジタル出力を利用するといいかもしれない。
EAXを取るか,汎用的なマルチチャネル出力機能を取るか
コストパフォーマンス的には“アリ”
|
製品ボックス |
Xonar D2の予想実売価格は2万円強。Dolby Pro Logic IIxによる,2chサウンド(など)の7.1chアップミックスに加え,Dolby Virtual SpeakerやDolby Headphoneよるバーチャルサラウンドに対応するため,DirectSound 3Dのハードウェアアクセラレーションを行えないWindows Vista環境でもゲームサウンドのサラウンド化を簡単に図れるのは,大きなメリットだ。
EAX ADVANCED HD 3.0以降をサポートしていなかったり,パフォーマンス的に改善の余地があったりするという,ゲームプレイにおいては気になる部分もあるため,フレームレート第一主義のプレイヤーに,Sound Blaster X-Fiを差し置いて勧めるほどのものではない。この点は十分に気をつけてほしいが,2007年夏の時点におけるミドルクラス以上のPCであれば,CPUによるソフトウェア処理がゲームのフレームレートに与える影響がそれほど大きくないのも確か。OSやゲームジャンルを問わず,広く3Dゲームのサラウンドサウンドやバーチャルサラウンドサウンドを楽しみたいという人には十分に意味がある。
CMI 8788ベースのカードは,それこそAC-1など,存在しなかったわけではないのだが,いかんせん流通量が乏しく,「国内で買える」と言い切れる状態ではなかった。また,AC-1のレビューを行ったとき,筆者は「せめて2万円を切れば」と書いたが,Xonar D2がそれに近い価格で,“普通に流通する”だろうことは,素直に歓迎したい。