「EverQuest II」という大作MMORPGの発売日も決まり,EverQuestファンはもちろん,多くのゲーマーが楽しみにしているはずだ。ゲームで盛り上がるのは楽しいが,ここ数年はMMOゲームの分野も試行錯誤を繰り返している。そんな現状をレポートしよう。
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「EverQuest II」は,先陣を切ってリリースされる新世代MMORPG。要求するスペックは高めだが,それも未来を見据えてのこと。"EverCrack"とも呼ばれた中毒症状を,再びファンの間に引き起こすだろうか |
ひと頃,MMO(Massively Multi-player Online/大規模オンライン専用)ゲームは,「金の成る木」として知られていた。2001年度のE3(Electronic
Entertainment Expo)では30本近いMMO作品が出展され,独立系のプロジェクトも含めれば100作品は作られていた時代。実際に稼動していたタイトルは数えるほどしかなかったが,業界の新たな救世主として期待されていたのは確かだろう。
そもそも,MMOゲームは個人プロジェクトとして発展した経緯がある。「Ultima Online」は,開発当初はリチャード・ギャリオット(Richard
Garriott)氏が実験的に作っていたもので,初期には300人程度のプレイヤーしか想定されていなかったという。また,Ultima
Onlineの情報をヒントに制作が開始された「Meridian 59」「EverQuest」「Asheron's Call」のような作品も,すべては元々独立系開発者の手によって温められていたものであり,その後大きな販売元が版権を取得するという経緯を辿った。
このような伝統も,「Anarchy Online」や「Dark Age of Camerot」「ファイナルファンタジー
XI」などで盛り立てられてきたが,2003年あたりから,急激に失速してしまったようだ。
もっとも,この兆候は以前からあった。その構図は,Electronic Arts社とSony Online Entertainment社の熾烈な市場争いと一致する。Ultima
Onlineの成功を継続させたいElectronic Artsは,その後カーレーシングの要素を含めた「Motor City
Online」やスペースコンバットの「Earth & Beyond Online」などRPG以外のジャンルのMMOゲームを制作したが,どれも新しいファン層を獲得できずに短期間でサービスを終了させている。Sony
Online Entertainment社さえ,初のMMORTSという「Sovereign」の開発を中止させ,同じくFPSを大型化させた「PlanetSide」にしても,現在もサービスが行われているものの成功とは言い難い状況である。
この2社が,2003年に鳴り物入りでリリースさせたのが,「The Sims Online」と「Star Wars
Galaxies」だった。一方は現在ヒット記録を更新中のゲームシリーズ,もう一方は誰もが知っている映画のライセンスものとして,どちらも「新しいファン層を開拓して100万アカウントは獲得できる」と期待されていたが,ふたを開けてみれば100万という数字にはほど遠い"小成功゛に過ぎなかった。これにより,業界関係者は「MMOゲームのパイは,実は小さい」ことを実感させられたのである。
以前から,MMOゲームではプレイヤーが重なっている(かぶっている)ことが多いのは指摘されていたが,この結果に驚いた人は少なくなかった。しかしStar
Wars Galaxiesにしても,ファンの要望に応えていった結果,徐々に既存のゲーム達に似てきてしまったなど,パイの小ささは明らかだ。
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はかなくも開発が中止された「Ultima X:Odyssey」は,日本のEA Japanも深く連携していただけに,制作に携わっていた人はさぞかし無念の思いだろう。このガラス細工は,その苦楽を記録しておくために有志によって作成されたオブジェ |
これを受けて,2003年末頃からMMOゲームの雲行きが怪しく始める。まず,ここまでAsheron's Callシリーズでノウハウを蓄積していたMicrosoftは,開発元のTurbine
Entertainment社との契約を打ち切って,自社で「Mythica」の制作を決定。しかし,のちに採算性の問題からこのプロジェクトを破棄しており,今は元EverQuestの開発者による「Vanguard:Saga
of Heroes」に一本化した。
Electronic Arts社も,期待されていた「Ultima X:Odyssey」の開発を中止しており,今のところはUltima
Onlineの拡張パック以外目立ったMMO作品がなくなっている。NC Soft社はアメリカの支社を基盤にLineageのほか「Guild
Wars」や「Tabula Rasa」のようなゲームに全力を注いではいるが,攻撃的な韓国式のゲームシステムはアメリカで受け入れられているとは言い難い。
大きく出たのはSony Online Entertainment社だ。「Star Wars Galaxies:Jump
to Lightspeed」の前評判が上々なのに加え,EverQuest IIでは現在のところ40億円弱という開発費を投じており,高性能のグラフィックスやNPCのセリフなど,他社の作品と差別化を図っている。同社の広報関係者も,「とにかくバーを引き上げている(Raising
the Bar)」という高跳び競技に見立てたコメントを何度も使用しており,小さなパイの中でのシェア争いで抜け出す構えだ。
こういう話は開発者同士では伝達も早いのか,E3の直後には「Warhammer Online」のプロデューサーが,「30〜40億という巨大プロジェクトがある中で,小さな会社がインフラなど一から始めるのは金銭的に困難である」として,開発は断念してしまった。Warhammer
Onlineの例を出すまでもなく,さらに小さな独立系開発チームのMMOゲームは,次々と頓挫している。ここに来て,MMOを制作できるだけの資金と技術のある開発会社は,決定的に絞られてきたようだ。
現在次世代MMORPGとして期待されているのは,EverQuest IIのほかには「World of Warcraft」が挙げられる。日本からの接続は遮断されると伝えられるなど,日本からはまだしばらく遊べそうにないものの,EverQuest
IIに対抗できるだけの世界観やゲームシステム,技術力を持っているのは確かだ。また,実力は未知数ながらも「Matrix
Online」や「Dungeons & Dragons Online」のような作品が残っており,MMOゲームが再び活性化な気運は十分に残されている。
市場の拡大も,今後の大きな焦点だろう。機能やアイコンの多さは初心者には馴染みにくい一方で,行き過ぎた簡略化はゲームを引っ張っていくコアゲーマー層に受け入れられないだろうというジレンマもある。手軽に数十分だけ遊べるのも重要だが,プレイ時間を注ぎ込むだけゲーム内での報酬が得られるというのも,ゲームとしては避けては通れない部分であるような気もする。未成年層には手が出しにくい課金方式や保護者の理解も,まだ改善の余地があるかもしれない。
本格的なMMOゲームが登場してからまだ8年も経っておらず,今は混乱のただ中にあるといえる。EverQuest IIとそれに続く次世代MMOゲーム群が,そのバリアを打ち砕いてくれることに期待しよう。
◆◆現在プレイできる欧米産のマイナー3D MMORPG◆◆
次回は,「政治とゲーム」についてのレポート予定。政治は,エンターテインメントになり得るのだろうか?
■■奥谷海人(ライター)■■
本誌専属特派員。アメリカではハロウィーンが近づいてきたため,奥谷氏は子供のためにオレンジ色の巨大カボチャに彫り物をしたという。玄関先に置く,ハロウィーンの儀式のようなものだ。悪戦苦闘の結果,奥谷氏は子供の下書きから"ジャック・オブ・ランタン"を完成させたものの,折りからの雨と霧で緑のカビが生えてしまい,カボチャは悪臭を漂わせるようになったらしい。ここ数日は腐って崩れだしているとかで,祝日前から処分に困惑している様子だ。
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