― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 子供の約半分,成人の約3分の2が肥満という統計もあるアメリカ。どの家庭にもPCやゲーム機があるような現在では,ゲームをいつまでも敵視しておらず,いかに健康的に利用できるかを考えるのも重要だ。今回は,健康をテーマにアメリカで売り出された,ちょっと気になるソフトとハードを一つずつ紹介する。



 ゲームには,なぜか「不健康」というイメージが付きまとう。さすがに20年ほど前の"店の奥の暗がりで延々とインベーダーを遊び続ける不良"といったイメージはなくなったが,日本では"ゲーム脳"などの言葉を使ってゲームをやり玉に挙げる人が少なからずいるし,アメリカでも青年犯罪はすぐさまゲームの遊びすぎによる"精神的影響"へと結び付けられる。
 ここ数年,バイオレンス重視の傾向が目立った欧米のゲーム市場と比較して,日本では以前から,言うなれば"非ゲーム的なゲーム"がはやっていた。例えば,コナミの「ダンスダンスレボリューション」,セガの「サンバDEアミーゴ」,ナムコの「太鼓の達人」などのゲームは,プレイヤーが指先以外の部分を使う必要があり,音楽性に運動要素を加えた新しいエンターテイメントとして活用された。
 ナムコといえば,「バリアフリーのエンターテイメント」や「リハビリテイメント」を標語にしたエルダー事業部を持っていることで知られ,車椅子に乗ったお年寄りや障害者でも使えるように,太鼓の達人や「ワニワニパニック」などの改造機種RTシリーズを製造している。楽しみながら筋力や機能の回復訓練を行ってもらおうというわけである。
 実際,メンタルな部分へのゲームの影響は,遊ぶ側のパーソナリティや文化的環境に負うところが大きく,推し量ることさえ難しい。しかしフィジカル面ならば,話は簡単だ。入力デバイスをちょっと工夫するだけで,ゲーマーの運動不足を解消できるのである。

responDesign社の「Yourself! Fitness」は,プレイヤーの生年月日や身長,体重などの情報を入力すれば,その人に合ったフィットネスカリキュラムを組んでくれる
 実は,この流れはアメリカでも始まっており,PCやプレイステーション2,Xboxで発売されたばかりの「Yourself! Fitness」は,ちょっとしたヒット作になっている。
 立ち上げてみると,まず画面に現れるのが,フィットネスウェアに身を包んだ"マヤ"という名の女性キャラクター。この女性がプレイヤーのパーソナルトレーナーとなって,プレイヤーが望むカリキュラムに沿って個人指導してくれるのである。
 その内容は非常に豊富で,運動のパターンは500種類におよぶ。また,プッシュアップボールやステッパー,縄跳びのような基本的な用具に対応しており,さらには部分的な引き締めから筋力強化,柔軟性の向上やヨガにまで対応している。しかも,4500種類のレシピがインプットされており,毎日の食事のアドバイスまでしてくれるという親切さだ。プレイヤーに毎日ゲームを起動させて,健康管理をしてもらおうというコンセプトらしく,プレイヤーを飽きさせないように南海の島やアルペン,アジア風の道場など,舞台の変更も可能となっている。
 以前,ダンスダンスレボリューションのアメリカ大会の入賞者が,練習で8kg痩せたというようなコメントをしていたが,Yourself! Fitnessには同時に購入すべきダンスマットのような専用入力装置はなく,ゲームというよりはインタラクティブなフィットネスビデオという感じだ。
 もともと女性向けのゲームソフトとして制作されたらしく,コンセプトアイデアは開発元のresponDesign社の創業者であるテッド・スプーナー(Ted Spooner)社長と,フィン・バーンズ(Phin Barnes)マーケティング担当オフィサーの二人によって生み出されたものとのことである。


Powergrid Fitness社の新作コントローラ「Kilowatt」。でもこれに800ドルも使うなら,毎日30分ずつでもジョギングしたほうがよい気も……
 ところで,アメリカといえば,"お笑い系"ともいえる奇妙なハードウェアを開発する国でもある。昔からフィットネスバイクをゲームコントローラに見立てたハードウェアは多かったが,2005年1月のCES(Consumer Electronic Show)でBest of Innovation賞を獲得したPowergrid Fitness社の「Kilowatt」は,中でも一般常識から逸脱した凄まじい製品だ。
 このKilowattは,クロスカントリー風に足をスライドさせるエクササイズ機器の一種であり,かつ,PCや各コンシューマ機に接続して使用する,立派なコントローラでもある。開発費は数億円に上るという本格的なもので,合金製のフレームに,F-16のコクピットを模したというハンドル/HUD部分からなる。
 基本的にはソフトウェア側で対応させる必要はないらしく,レーシングゲームやスポーツゲームだけでなく,「ICO」のようなアドベンチャーゲームや,FPSの人気作「Halo」でも十分に遊べると公式サイトでは説明する。お値段のほうは800ドル(約8万6000円)となっており,一般家庭で利用するにはそれなりの投資を覚悟しなければならないものの,プレイ終了時には走った距離の合計や消費したカロリーまでもはじき出してくれる。
 Yourself! Fitnessのマーケティング戦略は女性向けだったが,こちらは筋肉男を前面に押し出した,マッチョな広告戦略となっている。「DOOM III」の火星基地を自分の足で走り回ってみたい,という願望のあるプレイヤーがいれば,なんとしてでも導入し,ぜひプレイレポートを送っていただきたい。




次回は「RTSはどこへ行く!?」と題して,RTSの現在と未来とを考えます。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。友人が遊びに来たので,家の近くのバーに飲みに行った奥谷氏。そこで話しかけてきた20代後半くらいの半ズボン姿の男の脛には,なんとヤンキー風の当て字で「美志得瑠」(ミッシェル?)と書かれていたそうだ。すかさず奥谷氏が突っ込むと,どうやら彼は日本の入れ墨に相当な関心を持っているらしく,首にも漢字が,両腕には昇り龍も彫られているなんて話に。そして「俺の自慢のものを見せてやる」とばかりに片肌脱いで見せられた肩胛骨の肖像は……,なんとラムちゃんだったらしい。奥谷氏は,「まだ鬼パンツが彫りかけだったのが印象的」と話している。



連載記事一覧