PCゲームの代表的なジャンルの一つであるリアルタイムストラテジー(RTS)に,転換期が訪れているようだ。今回は,1992年の「Dune II」によるジャンルの勃興から,現時点までの代表作を足早にたどりつつ,これから数か月のうちにリリースされるソフト群から,このジャンルの行く末を占ってみよう。
「リアルタイム・ストラテジー」のジャンルを生み出したのは,今から13年前にリリースされたWestwood Studios社の「Dune II」だった |
"戦略シミュレーションゲーム"の基本といえば,よくまとめて"4X"と呼ばれる,4種のゲーム性である。つまり,マップを探索(eXplore)しては勢力の拡大(eXpand)に努め,資源やスキルを開発(eXploit)しながら,敵軍を壊滅(eXterminate)するのが主な内容となる。RTSは,プレイヤーvs.プレイヤー,プレイヤーvs.コンピュータのいずれにおいても,これら作業がプレイヤーごとに交替で行われるのではなく,同時に進行するゲームを指す。
RTSの登場は1992年のことだ。フランク・ハルバートの名著「デューン」の後日談としてWestwood Studios社が開発した「Dune II」は,最初にリアルタイム性を取り入れたストラテジーゲームで,このときからRTSというジャンル名が利用され始めた。リアルタイムになることで緊張感やスピード感を生み出したDune IIは,ゲームメディアでの当初の評価はそこそこながらもファンの間ではウケが良く,1993年度で最も遊ばれたストラテジーゲームとなった。
賞金目当てもあるとはいえ,今なお韓国や東欧でプレイされている1998年リリースの「StarCraft」。その寿命の長さは驚異的と言ってよい |
さらに1997年になって,毎週のようにユニットやマップを追加していくサービスが多くのファンの心を揺すぶったクリス・テイラー(Chris Taylor)氏の「Total Annihilation」や,歴史を扱って大成功を収めた「Age of Empires」が登場する。これらは"RTSの四天王"と呼ばれるほどの人気を獲得した。
どの作品もオンライン対戦モードをフィーチャーしており,時代の波に乗ってRTSは一気にメジャーなゲームジャンルへと成長していった。決定的だったのは,じゃんけんの要素を見事に昇華させた絶妙なゲームバランスで金字塔を打ち立てた「StarCraft」の登場だろう。
StarCraftがリリースされた1998年には,「Commandos」のように数人のキャラクターユニットだけを率いてマップを進んでいくプレイスタイルの作品や,完全3Dの宇宙世界で縦横無尽に飛び回る「Homeworld」のような作品も登場し,多様化し始める。その後は,多いときで月に数十本ものRTSがリリースされるといったちょっと異常な状況が続き,E3などのゲームショウでも,安易に制作されたような作品の出展数が増加した。その一方で,Command & Conquer,Warcraft,そしてAge of Empires/Mythologyが定番化して人気が集中し,ほかにヒット作と呼べるほどの作品が登場しにくくなっていった。
さて,RTSの今後はどうなっていくのだろうか。
最近の傾向といえば,高性能になったグラフィックスアクセラレータの恩恵により,インゲームでのムービーを見せるような作風が増えたことだ。「Age of Mythology」はもちろん,「Command & Conquer:Generals」や「The Lord of the Rings:Battle for Middle-Earth」などElectronic Arts社のロサンゼルス支部の作品に代表されるように,スクリプティングを多用したドラマチックな演出をよく見るようになった。ゲームプレイに変化はないものの,RTSについて回る"地味さ"を払拭しているといえるだろう。
常にジャンルのリーダーであり続けるCommand & Conquerシリーズは,2004年の「Command & Conquer:Generals」で新たな境地にたどり着いた |
もともとCommand & Conquerシリーズ本編は,近未来を舞台にしたfuturisticな世界観で,一方のRed Alertシリーズは実在の国家を扱うという住み分けがなされていた。ところが本編であるはずのCommand & Conquer:Generalsは,やはり近未来が舞台&架空の設定ではあるものの,アメリカ,中国,イスラム連合が争うという多少現実的な設定になっていたので,Red Alert 3がどのように味付けされているのか,興味津々という人も多いだろう。
Red Alert 3を開発するのはElectronic Arts社のロサンゼルススタジオだが,ここに来て同スタジオの開発者が次々と離脱しており,もともとWestwood Studios社があったラスベガスの地にあるPetrogryph社に集結中だ。
このPetrogryph社は,現社長のマイケル・レッグ(Michael Legg)氏らCommand & Conquerのオリジナルメンバー達が2003年秋に設立したもので,現在はLucasArts Entertainment社からリリースされる「Star Wars:Empire at War」を制作している。
このことで,ファン達の間からRed Alert 3の先行きを心配する声が聞こえるのももっともだが,発表前からすでにロシアやオランダでもファンサイトができており,その注目度の高さには変わりがないことがうかがえる。
2005年秋発売予定の「Age of Empires III」は,Havokによる物理効果ばかりでなく,シェーダ効果を多用した美しくも緻密なグラフィックスが魅力的 |
本作は,アメリカ大陸に進出したヨーロッパ列国が,産業革命期から帝国主義時代までの覇権を争うという内容。時代のスパンは200年程度と従来作に比べこぢんまりとした印象を受けるかもしれないが,現在配布されている発表用のプレスリリースによれば「3時代にわたってじっくりとプレイ」していくようなスタイルになるとのこと。
Havokの利用により,砲撃距離によるキャノンの威力の変化や,建物崩壊時の近くの敵軍へのダメージといった要素が,戦術/戦略に影響を与えてくるかもしれない。ただ,FPSとは違い,ゲーム性に大きな影響を与えることはないはずだ。
またHavokエンジンは使用していないが,Pyro Studios社の新作「Imperial Glory」でも,建物の倒壊による二次的被害を狙った連鎖攻撃などの要素が取り入れられている。これらは,コンピュータの描画能力が向上するにしたがい,一つ一つのユニットをより詳細に描いていく傾向の,延長線上にあると考えられる。
インゲームのシネマティクスや,より詳細なグラフィックスによるキャラクター(ユニット)描写は,ほかのジャンルで数年前から起こっていることであり,ここに来てRTSでもようやく実現されてきた。
この流れが続くと,ミリタリーシューティングゲームで追及されているような"現代戦における臨場感"のあるRTSが,今年あたりから登場してきてもおかしくないだろう(広義のRTSでは,すでに「Full Spectrum Warrior」という秀逸な作品も存在している)。
「Rome:Total War」でRTSファンのハートをがっちりと鷲づかみにしたCreative Assemblyは,「Spartan:Total War」でコンシューマ進出の口火を切る |
ところが,Xboxで,FPSの"Haloシリーズ"がジャンル的な移植の難しさを克服して超ヒット作品になったのは,RTS開発者を勇気づける結果になったようだ。ここに来て,従来のゲーム性の見直しを図る開発チームが増えている。とくにPCゲームのスピード感を失わず,それでいて簡単な操作で楽しめるような開発努力が行われているようである。
Sega of Europe社のようなメーカーもRTSにはポテンシャルを感じているのか,「Rome:Total War」で名を上げたCreative Assembly社を買収しており,すでにプレイステーション2,Xbox,GAMECUBE用に「Spartan:Total War」なる「三国無双」風にアレンジされた新作を開発していることが公表されている。
また先のGDC 2005では,「Rise of Nations」でお馴染みのBig Huge Games社が,コンシューマ機向けのRTSを開発していることを認めている。
PCゲームの開発者達がコンシューマ機用ゲームの開発に移っていくのは悲しいが,XboxのHaloでFPSが評価されたように,次の世代のゲームマシンでRTSが花開く可能性は大いにあるし,巨大市場での成功を夢見るゲーム開発者を責める気にはならない。RTSがより多くのファン層を獲得できるように改良され,ポジティブな形でフィードバックされることを願うばかりだ。
次回は,オンライントレーディングの市場開放がもたらすMMORPGへの影響を考えます。