前回のコラム「ARGという,新ジャンル」において,「Survivor」なるソフトを制作するドイツの新鋭Replay Studiosについて触れた。前回の記事には間に合わなかったものの,同社の創始者の一人でありSurvivorのプロデューサーでもあるClaus Wohlgemuth(クラウス・ヴォールゲムート)氏に,本作についてかなり詳しく話を聞けたので,紹介しよう。
■3作のソフトを開発中の,ドイツの新興チーム
Replay Studiosは,2003年に数人の仲間達が集まり,深い歴史のある商業都市ハンブルグで設立された。しかし,大きく動き始めたのは2005年に入ってからだ。2005年1月にカプコンのヨーロッパオフィスにほど近い運河沿いのオフィスに移ってからは,カーアクションゲーム「Crashday」をAtariからリリースすることを発表したのに続き,現在はドイツ国内のみの販売予定ながら,ドイツでは珍しい第二次世界大戦を扱ったシューティングゲーム「Sabotage 1943」の制作にも着手している。
恥ずかしながら筆者がReplay Studiosについて知ったのは,2005年8月にドイツのライプチヒで開催された「Game Convention」(GC)というヨーロッパ最大のゲームショウの後のことだった。
同社の新作「Survivor」について初めて知ったとき,同作がGCにも出展されていたことをReplayの公式サイトで読み,非常に残念に思った。「Far Cry」のCrytekを先頭に,最近のドイツ開発会社の台頭には目覚ましいものがある。Replayも,Survivorがまだほとんど企画段階の状態ながら,その「リアリティ・ゲーム」というジャンルが業界内外で反響を呼び始めており,今注目の開発会社の一つといえるのだ。
発売予定日:2006年2月
販売元:Atari Europe
映画のスタントマンのような派手な事故を演出して楽しむ「Stunts」と,車や町中を破壊して楽しむ「Carmageddon」のゲームプレイをミックスし,さらにBurnoutシリーズのような雰囲気も持っているというカーアクションゲーム。同じくドイツを拠点とするMoon Byte Studiosとの共同で制作されている。
グラフィックスのレベルの高さもさることながら,すでに公開されている映像などを見る限り,クラッシュ時の車体パーツやガラスの飛散などのシミュレーションも素晴らしい。また2〜6人の対戦モードが用意されており,レーストラックを自作して仲間達と楽しむことも簡単にできそうだ。
発売予定日:2006年10月
販売元:Digital Taiment Pool(独)
(ドイツで制作されているが)第二次世界大戦の連合軍側の諜報員を主人公とするタクティカルなシューティングゲーム。プレイヤーはバイオレット・サマーという女性諜報員を操り,イギリス,フランス,ロシア,ノルウェー,そしてドイツなどヨーロッパ各地の前線に単独で潜入する。
この主人公は,イギリス人の父とフランス人の母を持つ実在の人物バイオレット・サボーをモデルにしていると言われており,要人の暗殺や捕虜の救助,重要施設の爆破といったミッションが用意されるようだ。また,マシンガンや手榴弾による銃撃戦よりも,スニーク系のゲームプレイが基本になるという。
「DOOM 3」を連想させる陰影の濃い屋内マップだけでなく,屋外のシーンも用意されており,ヨーロッパ北部らしい重い空気や木漏れ日の様子が見事に表現されている。
PC版だけでなくXbox 360でもリリースされる予定。
■ヴォールゲムート氏インタビュー
Survivorは,Replayが「リアリティ・ゲーム」と呼ぶ新しいジャンルのゲームであり,現実の出来事とゲームプレイの絶妙なバランスがなければ成り立たない。
1912年のタイタニック号事件,1999年のハリケーン「アンドリュー」の災害,2004年にパラグアイで起きたショッピングセンター大火災,1985年のメキシコシティ大地震,さらには2001年にニューヨークで起きた同時多発テロ事件や1945年の広島原爆と,それぞれのシナリオはどれも,相当インパクトのあるテーマになっている。そのとき現場にいた一人となり,ほかの人々を助けたり,決死の脱出を試みたりするのが本作の目的だ。
PC,Xbox 360はもちろん,Replayのゲームとしては初の全プラットフォーム対象のゲームとなる予定で,場合によっては,ゲームの範ちゅうを超えてのブレイクスルーとなることも予感させる。今回は,このSurvivorを中心に,プロデューサーであるクラウス・ヴォールゲムート氏に話を聞いた。
では,ヴォールゲムート氏に対して行ったメールでのインタビューを翻訳し,ほぼそのままの形で掲載しよう。メールで出した質問への返信という形なので,会話のキャッチボールのない,Q&A形式のインタビューになっているが,ご了承を。
Q:
まず,ヴォールゲムートさんとReplay Studiosの紹介をお願いします。
A:
私はClaus Wohlgemuth(クラウス・ヴォールゲムート)といいます。Replay Studiosの創設メンバーの一人で,「Survivor」の共同プロデューサーを務めています。
Replayはハンブルグで2003年に設立したばかりの若い会社ですが,クオリティの高い,国際的にも評価を得られるようなソフトを開発しようという志をスタッフ全員が持っています。
開発スタッフには昔からゲーム制作に携わってきたものも少なくなく,「Jagged Aliance」「Diggles」「Gothic」「Realms of Arcadia」といった人気シリーズや,「Leisure Suit Larry: Magna Cum Laude」「Hitman: Bloodmoney」など,我々が作ってきたゲームは,枚挙にいとまがありません。中には,「The Oath」や「Rags」のような,Amiga時代のゲーム開発を手がけたスタッフもいますよ。
Q:
リアリティ・ゲーム,もしくはARGと呼ばれるジャンルを,ヴォールゲムートさんなりに解釈すると?
A:
リアリティ・ゲームとは,物理シミュレーションやオーディオ/映像体験をさらに高めた段階にあるものではありません。ゲームであるからには,リアルなだけではダメなんです。
ゲームは,かなり自由で芸術的に表現できるメディアであるため,例えば災害映画と同様に,ドラマチックテーマや,シリアスなテーマを扱うことが十分に可能です。災害映画との違いは,インタラクティブになっているということだけです。
リアリティ・ゲームであるSurvivorは,現実的なシミュレーションの中にプレイヤーを置き,自分自身の考え/行動で窮地を打開してもらおうとするものです。
Q:
自由度の高いゲームといえば,「Grand Theft Auto」(以下,GTA)のようなタイプのゲームを思い出しますが,Survivorは,それらとどこが異なりますか?
A:
本作は,確かにGTAと同じように,ゲーム世界で何でもできるという自由をプレイヤーに与えます。ゲームとしての大きな違いは,プレイヤーが人々を助けることができ,それに対しての報酬も得られるということです。またSurvivorでは,NPC達も,現実の事故/事件で人々がとった行動を忠実になぞっているという点も大きく違います。
Q:
Survivorの企画は,どのように始まったのですか?
A:
もともとは,嵐に関するゲームを作るつもりでした。ところが,スタッフの一人があるとき,「実際の災害をベースにしたい」と言い出したことから想像が広がり,既成概念を取り払ってアイデアを出していった結果,その日のうちに,現在の企画の根本となる部分ができあがったのです。
Q:
本作では,物理シミュレーションが重要な鍵になりそうですね。どういったことを考えられていますか?
A:
ハードウェアを使った物理演算は,かなり魅力のあるものだと思います。しかし現在は,さまざまなテストを繰り返している段階ですし,まだ“余地”を残しておきたいので,「我々の物理シミュレーションで何ができるか」を,決定事項としてはお話しできません。
Q:
「アドレナリン・ショック」というモードが用意されるとのことですが,これはどういったものですか?
A:
いわゆる「火事場の馬鹿力」ですね。危機に直面したときにパラメータのバーが増え,それが満タンになれば「アドレナリン・ショック」という状態になって,一定期間,遠くまでジャンプできたり,速く走れたり,重いものを持ち上げられたりするようになるのです。
Q:
ゲームには実在の人物も登場するのですか?
A:
タイタニック号のシナリオでは,スミス艦長やアストー氏など実在の人物を登場させる予定です。しかしほかのシナリオでは,歴史的人物や,被災者の名前を使うことはありません。
本作は現実に起きた出来事をベースにしていますが,ただ忠実にコピーしているわけではありません。ドキュメンタリーでは事実の操作は不可能ですが,映画やゲームには,ドラマ性をもたせる力があるのです。Survivorでは,タイタニック号の沈没を防ぐことはできませんが,被害を最小限に留めるというミッションをプレイヤーに課すことで,ゲームプレイとしています。
Q:
現実世界を取り込むリアリティ・ゲームにとって,当事者や被災者,被害者に対するプライバシーの侵害などの問題が発生することも今後考えられます。意見を聞かせてください。
A:
まず言いたいのは,我々は,被災者や被害者,そして遺族達の無念さを十分理解して,本作の開発にあたっているということです。また,災害や事件で心に傷を負っている人は,なるべくSurvivorで遊ばないでいただけたらと思っています。
広島平和記念資料館の関係者が,過去に「世界のすべての人々に,広島で何が起こっていたかを知ってもらうために,ありのままの出来事を記録してほしい」と話していたことがあります。我々は,彼の考えに賛同しています。
また,ニューヨークの同時多発テロ事件の被害者の遺族から手紙をいただいたことがあります。そこには,「あの飛行機を止められるゲームがあったなら」と書かれており,Survivorのコンセプトに好感をもっていただいているようでした。ハリケーン「イヴァン」の被災者から,ハリケーン「アンドリュー」のシナリオで遊ぶのが待ちきれないというメールが送られてきたこともあります。
我々は,Survivorのようなゲームによって,実際に多くの人が体験した“現実”を,直接関わりのなかったより多くの人々に深く知ってもらえるのではと考えています。とある慈善団体の方から,心に傷を負ってしまった人のリハビリに利用できるのではないかというお話しもいただいていますが,なんにせよゲームというものは,誰もが自由に選択/プレイできなければ意味がないとも思っています。
映画「タイタニック」の監督であるジェームス・キャメロン氏は,被害者の心情に配慮しながらも,事件を芸術的に描くことはできると語ったことがあるようですが,それはまさに,我々のやろうとしていることでもあります。メディアの範囲を広げてみたいという欲望もありますが,それぞれのシナリオには,さまざまなデリケートな問題に気を配る必要があるでしょう。
以上。ちょうど今ごろはCrashdayとSabotage 1943の制作に追われているようで,なかなか忙しいというヴォールゲムート氏。まだ開発チームが次回作Survivorに集中できる段階には至っていないとのことだが,可能な範囲でゲームに関して話してもらっただけでなく,リアリティ・ゲームというジャンルのソフトを開発するうえでの姿勢まで聞くことができた。
実際に本作がどのような形でリリースされ,どのような反響を得るのか。実に楽しみだ。