― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted
2006年2月22日掲載

 2月18日,カリフォルニア州サンフランシスコでWIGIと呼ばれる会合が催された。このWIGIとは,Women In Games Interanationalの略で,ゲーム業界への女性参加の促進と,ゲーム業界で働く女性達のキャリアをプロモートするために行われているものだ。カジュアルゲームの分野ではすでに大きな勢力となっている女性ゲーマーだが,ゲーム開発の中核への本格的参入は時間の問題だろう。

 

女性のゲーム業界進出

 

■It's a Man's world

 

 もう何十年もの間,ゲーマーといえばゲームセンターに入りびたっていたり,部屋に閉じこもって遊んでいたりする若者という印象しかなかった。
 1990年代後半,オンラインゲームの台頭によって賞金付きのゲーム大会も開かれ始めたが,参加する女性はまだ珍しく,いてもしばしば奇人として色眼鏡で見られていた(ごくまれに即刻ゲーム業界に無条件で雇用されるケースもあったが)。ホンの2,3回前のGDC(Game Developers Conference)では,カジュアルゲームの需要を見込んだMicrosoftが「Women in Gaming」というセミナーを開催するとともに,それを宣伝するためのポスターをアチコチに貼っていたが,そこに写るのは働く女性の姿ではなく,肩を露出させたセクシーなモデルという有様で,来場者達から失笑を買ったほど……。 PCゲームというものはこれまで,まさに男性のためにあったといってもいい。

200人ほどの参加者で賑わっていた第2回WIGIカンファレンス。筆者のようなプレスかマーケティング関係者と思われる男性の顔も見られたが,ゲーム業界に興味ある女子学生も多いようだ

 毎年5月恒例のE3(Electronic Entertainment Expo)において,主催者側は「セクシーなコスチュームや水着など,露出度の高い衣装を着た女性を,ゲームのプロモーションのためにショーフロアなどで使ってはいけない」という事項を出展者用のハンドブックに新たに書き加えた。最大で5000ドル(約60万円)の罰金という,かなりシリアスな規制である。その理由は明らかにされていないが,「Grand Theft Auto」の過激描写の件で行政側が訴訟を起こしたロサンゼルスという土地柄と無関係でないのかもしれない。
 数年前,筆者と話していたとある中堅アメリカ企業の女性広報担当者が,自社のブースにいたセクシーな姿のモデル達を横目に見ながら,「(ゲーム業界も)結局,男だけの世界なのよね」(It's a Man's world)と漏らしていたのを,今頃になって思い出している。

■カジュアルゲームではすでに多数派勢力に成長

 

 先週末,サンフランシスコのウォーターフロントで開催されていたWIGI(Women in Games International)カンファレンスという会合は,まさに女性による女性のためのイベントだ。WIGIはゲーム業界で働く女性によって組織されたNPOで,昨年8月にワシントン州シアトルに近いMicrosoft本社で一回目の無料イベントが開催されている。今回も,Microsoft Game Studiosがメインスポンサーとなっており,参加費50ドルながらも総勢200人ほどの規模へと膨らんでいた。
 このカンファレンスは,女性のプレイヤー数が多いというMMOゲーム「Second Life」を開発したLinden Labsのコミュニティサポート担当副社長Robin Harper(ロビン・ハーパー)氏のキーノートから始まり,半日のスケジュールながら「女性のためのゲーム」(Games for Women),「女性によるゲーム」(Games by Women),そして「ゲームをする女性」(Women Who Play)という三つの議題でセミナーが進められた。

参加者が,キャラクター用のアクセサリやゲーム内ゲーム,資料館といったコンテンツを作成できるのがウリの「Second Life」は,女性や教育関係者などを取り込んで今や10万アカウントのヒット作に。開発元のLinden Labsは25人ほどの小規模なチームながら,女性スタッフも多い

 このWIGIの組織委員会の中枢の一人として活躍するのが,Microsoft Game Studiosでエクゼクティブ・プロデューサーという高い地位にあるLaura Fryer(ローラ・フライヤー)氏。第一回がMicrosoft本社キャンパスで開催されたことや,同社がスポンサーになっていることは,彼女の奮闘の結果と考えていいだろう。セクシーなポスターを貼り付けていただけの数年前に比べると,かなり女性に優しい広報活動といえる。
 それもそのはず,今回「女性のためのゲーム」のパネラーの一人だったMicrosoftのカジュアルゲーム部門広報室長のLisa Sicola(リサ・シコラ)氏によると,同社がXbox向けに行っているオンラインサービスMicrosoft Live Arcadeでは,Xbox 360導入前は69%のユーザーが女性だったとのこと。コンシューマ機の話ではあるが,その割合の高さには驚くばかりだ。「子供が寝静まった後での“ストレス解消”でプレイする母親が多い」という分析だが,そもそものきっかけとして,夫の付き合いとしてプレイし始める女性がとくに多いというのも面白い。

 ESA (Electronic Software Association)では,女性のプレイヤー人口は39%にのぼると試算しており,IGDA(Independent Game Developers Association)になると46%という高い数字をはじき出している。これまでは,ソフトウェアのパッケージを購入した人がメールアンケートに答えるという受け身の方法でしかプレイヤー層の男女比率を把握できなかったが,現在ではインターネットを通じて実際のプレイヤーから直接情報を得られるようになったわけで,これによって,とくにカジュアルゲームでの女性の貢献は,無視できないほど大きいことが分かってきたのである。

■まだまだ足りない,女性によるゲーム/女性のためのゲーム

 

パネラーの一人としてJohn Romero(ジョン・ロメロ)氏が出席(向かって右端)。セッション後の筆者の質問には「(新プロジェクトのMMORPGは)スーパーシークレットだよ」としか答えてくれず,名札には社名も書かれていなかった。それにしても,彼はかなり場違いな気がするが……

 しかし,女性ゲーマー数が急速に伸びているのとは裏腹に,女性のゲーム業界進出は5%以下に留まっているのが現状だ。しかも,ほとんどはアートやコミュニティサポート部門に限られており,ゲームデザインやプログラムなどの中核で活躍する女性はほんの一握りしかいない。WIGIの組織委員会も,広報やマーケティングに関わる女性を含めてようやく成り立っているという状況のようだ。
 スケジュール調整やチームをまとめるプロデュース業では,例えば映画産業などでは女性の進出も目立っているが,このあたりの人材の少なさはゲーム業界の若さを物語っているのかもしれない。
 今回のセッションの「女性によるゲーム」でも,この状況をいかに改善すべきか具体的な処置が論じられていたわけではない。200人ほどの参加者のうち,現在仕事のない人や学生の割合は3分の1ほどだが,そのほとんどはアーティストやライター志望だった。カジュアルゲームというジャンルには,パズルやカードゲームのような誰でもルールを知っているものが多く,この方面で“女性であること”を生かすのにも限界がある。パネラーとして出席していたSkunk StudiosのCEO,Margaret Wallace(マーガレット・ウォレス)氏は,「まずカジュアルゲームという概念が捨て去られなくては,我々女性開発者の存在価値も真剣に考えてもらえない」と語っていた。

 ほとんどのMMORPGは,キャラクター同士で戦ったりモンスター狩りに出かけたりという男性よりなテーマを扱っているのに,ゲームによっては20%から30%ほどの比率で女性がプレイしているらしい。これは,コミュニケーションを楽しむのが好きな女性が,シングルプレイ用のRPGよりもMMORPGに惹かれていることが理由だと考えられる。しかも,「Ultima Online」や「World of Warcraft」など,女性が多いMMORPGに共通しているのがクラフティング(生産)を重視していることで,戦わなくても街で生活できるといった要素が好まれることが,今回のセッションで発言されていた。
 開発現場への女性参加で知られているデベロッパとしては,「The Sims」の旧Maxisや,「Myst」シリーズの旧Cyan Worldsなどがある。Maxisの場合は意図的に男女の比率を50対50くらいにしているのだそうだが,会場にいた関係者が,「(The Simsの成功は)女性目当てのゲーム作りをしたからではなく,女性開発者達の意見をWill Wright(ウィル・ライト)がよく採り入れたからではないか」と語っていたのが印象的だ。
 女性のゲーム業界への進出は,市場の幅を広げるためにも不可欠なことであるように思える。今後,より多くの女性開発者が台頭してくることだろう。

 

 


次回は「テレビ番組化するゲーム」について紹介する。さて,これはどういう意味なのか? 次回をお楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。バレンタインデーは「家族の日」の意味合いが強いアメリカに住む奥谷氏は,締め切りにかまけてプレゼントを用意するのをサボっていた。ところが,帰宅した二人の子供を待っていたのは,巨大なハート型の風船の束。おりしも強風の日だったためか,ヒモの先端につけた重石をものともせずに持ち主を離れて飛来し,たまたま奥谷氏の玄関先に引っかかっていたらしい。「これ,お父さんが買ってくれたの?」「……そうだよ。ママの分とちょうど三つあるだろう?」。こうやって,奥谷氏はなんとか父親,そして夫としての面目を保ったとのことだ。ついているなあ,もう。


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