― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted
2006年9月20日掲載

 9月13日,カナダのモントリオールにあるドーソン・カレッジのキャンパス内で発生した銃乱射事件は,死者1名,重軽傷者19名を出す大惨事となった。地元のテレビや新聞では連日の報道が続いているが,現場で自殺した25歳の犯人の動機については警察からも明確な発表はされておらず,さまざまな憶測を呼んでいる。ただ,犯人がWeb日記をつけていたことが明らかになっており,その内容からあれこれと取り沙汰されているのが,またしても「ゲームと犯罪」の関係なのである。

 

銃乱射事件とPCゲーム

 

動機の見当たらない,不可解な銃乱射事件

 

 モントリオールの中心部にあるドーソン・カレッジで最初の銃声が鳴り響いたのは,9月13日の午後12時41分のことだった。学生達が昼食をとるために集まっていたカフェテリアでの出来事である。事件後,Kimveer Gill(キンビア・ギル)と特定された犯人は25歳で,カフェテリアに乱入してカービン銃などを乱射。逃げまどったり床に伏せたりした学生達を無差別に撃ちまくったのだ。だが,たまたまキャンパス内にいた警官2名の銃撃を受け,逃げられないと悟ったか,あるいは覚悟の上だったのか,自ら命を絶った。この間,たったの7分だった。
 被害者20人のうち,9月に大学生活のスタートを切ったばかりだった18歳の女子学生が現場で死亡を確認され,今も5人が重傷者として病院に収容されている。学校はすでに今週から再開されているが,たとえ肉体的には無事でも精神的な傷を負った学生達は少なくないだろう。

 

「仕事はつまらない。人生もつまらない。何もかもを憎悪しているのだ」,社会に適応できないことへの被害者意識を綴った日記には,また,残酷なゲームの話題が頻繁に書き込まれていた。写真は残酷ゲームが話題になるたび,よく引き合いに出される「Postal 2」

 多くの人にとって謎なのは,犯人の動機だ。こうした乱射事件の犯人はほとんど白人で,攻撃対象になにがしかの恨みを抱いているケースが多い。だが,この事件の犯人はモントリオール生まれのインド系移民とされており,このドーソン・カレッジに通っていたわけでもない。犯人は両親と共に郊外の自宅で生活していたが,特定の人物を狙ったとか,この学校に問題があったというような直接的な動機が浮かび上がってこないのだ。
 ただし,犯人はゴス・ファンが集まる無料の会員制ソーシャル・ネットワークサイト「Vampirefreaks」に“fatality666”というログイン名で出入りしており,事件の起こる2時間前にも日記を書き込んでいた。彼のページはすぐに削除されたが,ミラーサイトに日記の内容や画像が保存されており,今や,各メディアとも,この内容から犯人の人間像や動機を探ろうとする動きで一色になっている。

 ギル容疑者は,自身のページに事件当日の10時41分にログインしており,「朝からウイスキー。んー,うまいな」と手短に書き残している。また,そんな本文よりも長く,人種差別用語を日記で使っていたことの釈明とも取れる追記を記しているが,事件を起こす前に,これを人種問題と関連させないように考慮していたという見方もできる。
 モントリオール市警も,犯人がシーク教徒の少数民族であり,宗教や人種が原因とは考えにくいことから,今のところ「反社会性のある人格障害者」という犯人像だけを発表している。ギル容疑者は,その日の気分について,ノームード(気分なし)とだけ書き入れている。
 この日記から各メディアが動機を解明するうえで,頻繁に登場するのがゲームである。日記にはゲームに関する記述がかなり多いようで,1999年にアメリカのコロラド州で起きた“コロンバイン高校銃撃事件”以来の広範なゲームバッシングが再燃しそうな気配さえある。しかも,この二つの事件には,あるつながりがあるというから厄介だ。

 

一般メディアはゲームと犯人の関係に注目

 

 ギル容疑者は,日記の中に相当な数の“好きなゲーム”を書き連ねており,それが一般メディアによって大きく報道されているのが気になる。そのリストには,「DOOM 3」「Quake 4」「Call of Duty 2」「F.E.A.R.」といったFPSが列挙され,さらには「Postal」や「Manhunt」,「25 to Life」,そして「Grand Theft Auto」シリーズなど,残酷さをウリにしたソフトの名もある。もっとも,20代中頃の男性がこれらのソフトを遊んでいたとしても別に珍しいことではないだろう。実際,それ以外にも「Command & Conquer: Generals」「Need for Speed Underground」「Warcraft III」のようなあまりバイオレンスと関係のない作品もあり,ゲーマーの視点から見れば「いろんなソフトで遊んでいるなあ」くらいにしか感じられないというのが筆者の正直な意見である。
 しかし,まだ詳しい動機が解明されていないだけに,これらの“過激な”ゲームは一般メディアにとってちょうどいい「やり玉」らしく,モントリオールの6大紙すべてが,ゲームと事件の関連を重要視する記事を掲載したようだ。全米で放映されている「ABC World News」は,「最近の学術的な調査では,Grand Theft Autoのような暴力やセックス描写の溢れるゲームが,攻撃的な人格の形成を助長させるという報告もある。だがゲーム業界は“表現の自由”の論理を使って,何度も批判をかわしてきた」と手厳しい。

 

制作者のルドン氏が,24歳のときに制作したという「Super Columbine Massacre RPG」は,乱射事件の犯人の視点でゲームを進めるRPG。本人は「メディアとしての可能性を広げるための実験」としているが,悲惨な事件を利用した売名行為と批判されることも多い

 今回の事件で最も注目されているのは,ギル容疑者が無料ゲームとしてネットで配布されている「Super Columbine Massacre RPG」をプレイしていたという点だ。12人の死者を出したコロンバイン高校銃撃事件を描いたこのゲームは,ASCII/エンターブレインが開発してアメリカでも発売されている「RPGツクール」を使って制作されたもので,事件を犯人二人の視点から描いている。実際,ギル容疑者は,コロンバイン高校事件の犯人と同じく黒のトレンチコートに黒のブーツ,そして頭髪をモヒカン刈りにするといういでたちで犯行に及び,最後に銃で自殺するなど,偶然とは言えない共通点も多く見られる。
 作者のDanny Ledonne(ダニー・ルドン)氏は,公式サイトに掲載した声明文の中で同作を「ビデオゲームで何ができるのかを考えるための文化的大砲」であると定義し,エンターテイメントとしてではなく,メディア的な観点から捉えたプロジェクトであるとしている。言っている意味があまりよく分からないが,ABC World Newsの記者に「今回の事件に罪を感じるか」と高圧的に質問された同氏は,「僕も犯人らと似た人生でしたが,ゲームやビデオ映画の制作に不満のはけ口を見つけ出した。ギルやコロンバインの犯人達には,そのような機会がなかったのでしょう」と答えている。

 ゲームは,インタラクティビティという点で,音楽や映像,絵画などよりはるかに直接的に受け手の情動を動かすことが可能である。しかし,犯人のページには映画「スカーフェイス」や「バイオハザード」などのポスターや写真もあれば,Megadethなどのバンドやサタン信仰などの記述もあり,ゲームだけをスケープゴートにした報道には,毎度のことながら閉口する。まったく無害だとは思わないが,ゲームだけに原因を求めるメディアの姿勢は,結局,誰にとっても得るものはないだろう。いち早い動機の解明が待たれる。

 

 


来週は,「ゲームとメインストリーム」について。

■■奥谷海人(ライター)■■
奥谷氏の娘が通うサンフランシスコの公立小学校では,教育費削減のあおりを受けてか,好みの楽器を購入して各自が持参するという割とせちがらいシステムが採用されているらしい。氏の娘はギターに興味を示したというが,奥谷氏自身,中学校の文化祭で全校生徒の前で演奏するほどギターにのめり込んでいたことを思い出し,「血はあらそえない」と感慨無量になったとか。そのときのバンド仲間には,CMソングをバリバリ作るほどのプロミュージシャンになった人もいるらしく,奥谷氏も「もう少しがんばっていれば,今とは違うカッコいい人生を生きていたのかもしれない」としみじみ語る。いや,今でも十分カッコいいですよ。ええ。もう。マジで。


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