日本でも知名度がグングン上がってきている「Second Life」だが,知名度の上昇に比例するように,問題も増えてきているようだ。最近では,開発元のLinden Labsを“政府”とみなした一団が,ゲーム内での不公平解消を要求し始めたという。いったいどんな抗議活動なのだろうか。
Second Lifeに忍び寄るテロリストの影!?
人口が多くなるほど,さまざまな問題が増える。これは,学校の教室から大都市まで同じこと。話題性の高さからアカウント数が急増し,2007年2月末には400万アカウントを突破したという「Second Life」も,そんな成長の苦しみを味わっているようだ。
Second Lifeのグリッド内でも超一等地といえる場所にあるLinden Village。ここにあるLinden Labsは開発者達が集う本拠で,「ゲーム内勤務時間」というのがあるらしい
Second Lifeとは,2003年に登場したサービスで,ゲームというよりは“バーチャルワールド”という表現が近い。プレイヤーは自分で作ったアバターを使って,世界(グリッド)を散策するだけでなく,仲間とチャットしたり,オブジェクトを制作して売買したり,建物や街を造ったりと自由に活動できるのだ。最近では,実在する大学がSecond Life内で講義を開いたり,歌手のコンサート(関連記事)や俳優によるチャリティ活動などが行われたりと,その自由度の高さを生かし,さまざまな形で利用されている。
しかし自由とはいっても,グリッドのほとんどの物件はすでに古参のメンバーや大きな資金を持ったプレイヤー(企業)で占められており,新しく参入したプレイヤーは下働きや土地の間借りをしなければならない状態で,「サービスに不公平が生まれている」という指摘が増えてきた。そんな中,SLLA(Second Life Liberation Army)という団体が発足し,核爆発を連想させる,大きな火の玉とキノコ雲を模したアートなどを制作し,名所や施設にそれらを置いて爆破しているように見せるという,抗議活動を始めて話題になっているのだ。
SLLAは,現状に嘆くばかりでなく,実際に行動することによってSecond Lifeの世界やプレイヤーの意識を変えて,より良い世界にしたいという“有志”が集まって結成されたグループの一つ。Linden Labsに多額の広告料を払って一等地にバーチャル支店を展開する,ReebokやAmerican Apparelの建物を“爆破”して,次々と襲撃しているのである。
バーチャル世界で増える抗議活動や社会運動
Second Lifeでは,プレイヤー数の増加に従って,こういった開発者が想定していなかった事件が続発するようになってきた。数か月前には,Second Life内の不動産王として知られる,Anshe Chung(アンシー・チュン)氏の公開インタビュー中に,男性器型のオブジェが大量に投げつけられるという嫌がらせ事件が起きた。また,Grey Gooというアメーバ(プログラム)が増殖し,サーバーをクラッシュさせるという事件が数回起こったのも,「第105回: オンラインワールドの奇々怪々」でお伝えしたとおりである。
少しずつエロさ(?)も増していくように思えるSecond Life。キャラクタースキンやオブジェクトなど,プレイヤー達の制作したアダルト系コンテンツは,全体の30%にも及ぶという。もっとも,18歳以下の人でも安全に楽しめるよう「Teen Second Life」というバージョンも存在する
SLLAの抗議活動は,Second Lifeの世界や,ほかのプレイヤーに実害を及ぼしていないということもあり,Linden Labsでは今のところ対応策を講じる予定はないようだ。ただ,SLLAは,その公式サイトで「Linden Labsは,Second Lifeで絶対的な権力を持つ政府とみなすことができ,それに対抗するにはこういった活動しかない。ただちに株式を公開し,すべてのプレイヤーに定額で株を購入できる権利を与えるべき」と訴えており,納得がいくまでは,テロリストを模した抗議活動を止める気配はなさそうだ。
おりしも,SLLAが活動を始めた2006年末から年始にかけて,経済アナリストによるSecond Lifeの“ピラミッド・スキーム”(ネズミ講)説が提唱されたばかり。このアナリストはLinden Labsが頂点となり,資産や商業面でピラミッドのような階層が形成されており,Linden Labsが必ず儲かるシステムが完成していると分析した。その正確性はともかく,バーチャル世界での不公平さに対する不満が,SLLAのような活動が始まる土台となっているのは,疑いのない事実だろう。
これまでにも,「World of Warcraft」で同性愛好者専用のギルドが締め出しにあったために抗議デモが起こったことがある。このほかにも,反戦デモや災害被災者に対するチャリティ運動など,ゲームとは直接関係のない現実世界の出来事が,ゲーム内にもたらされることがある。
自分達の想定するバーチャル世界を維持したい開発者側と,自分達の理想とする世界の創造を夢見るプレイヤー側……,両者の溝を埋める解決策が,いずれ講じられることになるだろうか。