連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年3月14日掲載

 ついにゴールド版が完成し,アメリカ時間で3月28日に発売されることが決定したシリーズ最新作「Command & Conquer 3: Tiberium Wars」。今回は,足掛け12年を超える,Command & Conquerブランドの一連の作品群にせまり,その歴史を振り返ろう。

 

Command&Conquer歴史探訪

 

シリーズ累計2300万本の大ヒットPCゲーム

 

 1990年代末,IT系のビジネスマンとおぼしき若い二人が,空港の待ち時間を使って2台のノートPCをケーブルでつなぎ,即席の対戦ゲームに興じている姿を目撃したことがある。なにをプレイしているのかと覗き込んでみれば,「Command & Conquer: Red Alert」だった。
 当時は,「やがてみんなノートPCをつなぎ合わせて外で遊んだりするのかな」などと考えた記憶があるが,残念ながら最近でも,そんな様子はまったくない。バッテリの持続時間も,ノートPCでの屋外プレイには,昔から大きな障害となったままだ。それゆえに,ビジネスマンが真剣な面持ちで対戦していたことを考えると,いかにアメリカで“コマコン熱”が,高かったのかが分かるのではないだろうか。

 

12年の歴史を誇るCommand & Conquerシリーズ。1995年発売の第1作,通称「Tiberian Dawn」は,RTSの定番スタイルを作り上げたといえるだろう

 「Command & Conquer」を語るには,まず“リアルタイムストラテジー”(RTS)というジャンルを知る必要があるのだが,このジャンルの歴史については,「第31回:RTSの過去と未来」を参照してもらいたい。
 Command & Conquerの開発元であるWestwood Studiosは,1985年にBrett Sperry(ブレット・スペリー)と,Louis Castle(ルイス・キャッスル)の二人が自分達のガレージで始めた会社だ。しばらく下請けなどをした後,ターンベースのロールプレイングゲーム「Battletech: The Crescent Hawk's Inception」(1989年)で注目を集めるようになった。
 1992年に,イギリスに母体を置くVirgin Interactiveに買収され,直後にリリースしたのが「Dune II: The Building of a Dynasty」(欧州ではDune II: Battle for Arrakis)だった。敵がプレイヤーと同じように,施設の設置から戦闘までを行うという“リアルタイム”と名付けられたゲーム方式と,今では当たり前となったユニットをマウスでコントロールするインタフェースが見事にマッチしており,RTSというジャンルを確立した作品の一つとして知られている。
 その後同社が1995年に発売したのが,「Command & Conquer」。現在までに6作品と7本の拡張パックで,累計2300万本という売り上げを誇る,PCゲームの代表的なブランドが産声を上げた。

 

 

人気シリーズの表と裏

 

 Command & Conquerは,近未来の地球において,“タイベリウム”(チベリウム/ティベリウム)といわれる資源をめぐって,国連的な存在のGDI(Global Defense Initiative)と,古代宗教を信奉するテロリスト組織NOD(Brotherhood of Nod)の2大勢力がぶつかり合うというストーリーである。また,実在する国の名称を使う,外伝としての特色が強い「Command & Conquer: Red Alert」(Red Alertシリーズ)と区別するため,本編のほうは“Tiberianシリーズ”とも呼ばれ,第1作は「Tiberian Dawn」という通称でも知られている。
 このタイベリウムというのは,1995年に起きた隕石の落下でもたらされたというクリスタルの一種で,土壌の鉱物を吸い取りながら植物のように繁殖していく。ゲーム世界では資源として取引される一方,人体には有害で,地球の30%が定住不可能になってしまっているという設定だ。

 

Red Alert 2の拡張パック「Command & Conquer: Red Alert 2 - Yuri's Revenge」の画像。シリーズとしては,それなりの進化も見られたが,当時としてもかなり時代遅れなグラフィックスと言わざるを得なかった

 これに対してCommand & Conquer: Red Alertは,「アインシュタインが第二次世界大戦の勃発を阻止するために,タイムマシンで過去に戻ってヒトラーの暗殺を狙う」という,仮想の歴史をモチーフにしたもので,テスラ砲や洗脳された兵士などが登場する。こちらは,Tiberianシリーズ以上の人気を獲得し,インターネットやLAN対戦で爆発的な人気を引き起こした。

 本編の2作目となった「Command & Conquer: Tiberian Sun」は,鳴り物入りでリリースされたが,評価は真っ二つに割れたといえる。人気作品の続編としてヒット作にはなったものの,開発に5年近くもかけているうちに,技術の進歩でグラフィックスが古めかしくなってしまっていたうえに,パフォーマンスが安定しておらず,何度もパッチで修正する必要があった。安定性の欠如は,オンライン対戦では致命的ともいえる欠点で,1998年に発売されたBlizzard Entertainmentの「StarCraft」に奪われてしまったコアゲーマー層を,取り返すまでに至らなかったようだ。
 その後Westwood Studiosは,2000年に「Red Alert 2」,そして2002年に「Command & Conquer: Renegade」を開発し,2003年にはロサンゼルス近郊に設立されたばかりのElectronic Artsロサンゼルス支部(EALA)に吸収され,Westwood Studiosという看板は消滅した。

 

 

ついに発売されるシリーズ本編第3弾

 

 そんな経緯で登場したのが「Command & Conquer: Generals」(2003年)である。Tiberianシリーズ,Red Alertシリーズに続く“Command & Conquer第3の核”となるべく投入され, 新たに開発されたSAGEエンジンによって,これまでにないシネマティックな演出や,最新鋭の3Dグラフィックスを誇る作品となった。それぞれ特性の違うヒーローユニット,“ジェネラル”(将軍)を選んでプレイするのもGeneralsシリーズの大きな特徴だ。資源のマネージメントなどもほかのシリーズとは違った感覚で,RTSというジャンルを一歩前に進めた作品となったのは間違いない。
 2004年には,「Red Alert 3」を開発中であると,プロデューサーのMark Skaggs(マーク・スカッグス)氏がファンに宛てたメールで公表している。しかし,スカッグス氏は直後に自分のゲーム会社を設立するためにElectronic Artsを退社しており,そのほかの旧Westwood Studiosメンバーも散り散りになっていたこともあり,Command & Conquerの名を冠したゲームは,もう発売されないと思われていた。しかし2006年に,突然「Command & Conquer 3: Tiberium Wars」が発表されたのである。

 

拡張されたSAGEエンジンで,驚くほど緻密なグラフィックスになったCommand & Conquer 3: Tiberium Wars。Generalsではカットされていた要素が復活するなど,ボリュームが大幅にアップ

 そして,ついにアメリカ時間の3月12日,Tiberianシリーズの第3弾として,Command & Conquer 3: Tiberium Warsが完成した。SAGEエンジンを大幅に改造したものを使い,シリーズの伝統に則って,役者が登場するビデオ映像がふんだんに使われている。
 本作は,「第三次タイベリウム戦争」と呼ばれる2047年を舞台にしており,GDIとNODの勢力に, Scrinというエイリアン種族が加わっての三つ巴の戦いとなる。Scrinは前作でも存在が匂わされていた,そもそもタイベリウムを地球に打ち込んだとされる知的生命体で,その鉱物に対するノウハウから,GDIやNODに比べて生産力が高い。
 ビデオ映像が多いためか,ハードディスクの必要容量が8GBと相当なものになっているものの,焦土化して生気を失った感じがヒシヒシと伝わってくるグラフィックスは素晴らしく,美術的に見てもクオリティの高さを誇る。すでにデモ版がリリースされており,正式発売はアメリカ時間で3月28日になる予定。RTSの過去と未来をつなぎ合わせる,ファン待望の作品がもうすぐ遊べるのだ。

 

 

Command & Conquerブランド作品一覧

オレンジ色のタイトルは拡張パック

Tiberianシリーズ

1995年8月Command & Conquer (Tiberian Dawn)
1996年4月Command & Conquer: The Covert Operations
1997年11月Command & Conquer: Sole Survivor (対戦パック)
1999年8月Command & Conquer 2: Tiberian Sun
2000年3月Command & Conquer: Firestorm
2002年2月Command & Conquer: Renegade(スピンオフ)
2007年3月Command & Conquer 3: Tiberium Wars

 

Red Alertシリーズ

1996年10月Command & Conquer: Red Alert
1997年3月Command & Conquer: Red Alert - Counterstrike
1997年9月Command & Conquer: Red Alert - The Aftermath
2000年10月Command & Conquer: Red Alert 2
2001年10月Command & Conquer: Red Alert 2 - Yuri's Revenge

 

Generalsシリーズ

2003年2月Command & Conquer: Generals
2003年9月Command & Conquer: Generals - Zero Hour

 

 


次回は,人気MMOの近況について。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。欧米で行われるイベントでは,フル回転の活躍をするのは,掲載記事数が示す通り。だが,先週開催されたGDC 2007では体調が悪いせいか,いまいち振るわなかった。あとで体の具合を聞いてみると,出てくるのは期間中にやっていたテレビ番組の話ばかり。どうやら会場が自宅から近かったため,イベント終了後に帰宅してテレビを見ながら原稿を書いていたようだ。次回からは,どんなに取材先が家から近くても,ホテルに缶詰状態にしておこう。


連載記事一覧


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/kaito/118/kaito_118.shtml